「それで、話したいことってなんだ?」
四聖勇者であり、攻撃できない盾の勇者である尚文は今、初めて会う相手と会談に臨んでいた。
戦えない彼はけれどこの世界で最高レベルの防御力を誇るため、攻撃できなくても彼を倒すことは困難だ。
しかし、人に害を与える方法は暴力だけではない。
女王と取引をして、国の紐付きになったからこそ、尚文は前以上に人の目を気にしているし、多少の損より風評を取るようになっていた。この国には盾の勇者を悪く見る傾向があるが、それでも徐々に評判が上がりだしている。
薬を主に売り歩いたことで神鳥の聖人として評価を上げることができたし、その延長として盾の勇者は悪い人ではないというイメージが作られだしている。
女王が評判を上げることに積極的であること、悪影響を与えているのはあくまで前の盾の評価であり、今の勇者である尚文の評価ではないおかげだろうか。
そんな中、一人の人間が声をかけてきた。
「初めまして。僕は投擲具の勇者だ。君と同盟を組みたい」
ローブで顔を隠すそいつはリファナやフィーロと別れて街を散策しているときを狙って声をかけてきた。
あと一歩踏み込めば近接戦の距離になる。
そんな近いとも遠いとも言えない距離でそいつは足を止める。
「投擲具の勇者だと? 証拠を見せろ。それに、顔も見せずに同盟なんて組めるか」
「これでいいか?」
手に持った武器がナイフに、円月輪に、クナイに変わる。
確かに勇者であり投擲具である証拠だった。
「そもそも、なんの同盟だ」
「もちろん……勇者らしく世界平和のための同盟さ」
マントを退けると、そいつの顔が見える。勇者の中では樹が近いだろうか。
髪は短く切りそろえており、多少は鍛えられた体つきをしているが、どことなく小さくひょろいように見える。
年下なのだろうが、それでも年齢より小柄だ。ちらりと見えた首筋には戦い以外でついたなにかの跡がある。
だが、最大の特徴はその濁った瞳だろうか。
この瞬間尚文はこいつは信用ならないと感じた。
「なら、王城に行くことだな。女王に話が通ればうまく協力しあえるだろう」
「ダメだ。僕は勇者みんなと協力し合いたいわけじゃない。君と協力し合いたいんだ」
「話にならないな」
「そうかい? 僕はそう思わないな。利害が一致するのは、話ができるのは君だけだと思っている。善性の人間であり、勇者を演じられる程度には世慣れしている人間の君ならね。ユウが何者か、裏にいるのはどんな存在か知りたくないかい?」
……信頼する気はない。気はないが……話を聞かなければいけないだろう。
なにせ、それこそが尚文を不安に駆らせる事実だからだ。
ユウ、そしてその背後にいる存在。
そうして、尚文は目の前の相手と会談の約束をした。
思えばここが分岐点であった。
今までいくつもあった中の、最後のものだった。
「よろしく、岩谷尚文。僕は
**
「女神ね」
「信じられないかい?」
「いや……」
聞かされた話は頭が痛くなりそうな話だった。
世界を食べる女神に、世界を育てる神か。
「聞いた話じゃ、育てる女神のほうがマシじゃないか?」
「比較すればそうだろうけどね。けど、あの女神にとりつかれた世界がどうなるかわかっているかい? 破壊と再生。そして停滞さ。彼女はユウの中にいる魔王の魂を使って一つになった世界でも魔王と勇者のシステムを構築するだろう。彼女の定番の運営方法だから確実さ。世界は百年に一度魔王に破壊され尽くして、勇者に救われる。人々は勇者を遣わしてくれた女神に感謝を捧げる。文明は発展することなく壊され続ける。人間は積み重ねることが許されなくなる。世界を生きるすべての人間が神の羊になるのさ。世界が枯れるまで永遠に」
「滅びるよりはマシだろ」
「そうだね。でも、家畜の人生に意味なんてある? 君は自分の子供の未来はより良いものにしたいとは思わないかな?」
「お前!?」
「リファナちゃんだったかな。君のことを熱い目で見る彼女。君を深く愛しているんだろうね。まだお腹は目立たないようだけど、気を探れば一発さ。オメデトウ」
子供……そう言われれば、このところ体調を悪そうにすることが増えたように思う。
嬉しそうだったり、悩ましげであったり。
いずれ話してもらえると思っていたが、そういうことか。
彼女の口から聞けば歓喜して涙を流したかもしれないが、目の前の人間にその事実を握られているという状況に素直に喜べなかった。
勇のことは複雑だ。
勇者の中では信頼できるが、その存在自体が疑わしい。
ラルクから話を聞いて、刀の勇者が向こうの勇者であることは確定している。
そうなると、なぜ異界の勇者がこちらにおり、こちらの勇者はそのことを全く知らないのに、向こうの勇者はそれを前提として動いているのか。何かしらの黒幕がいるだろうとは思っていたが、女神なんてものが出てくるとは思わなかった。
世界を融合させるつもりであるというなら向こうの世界の動きに納得がいくし、世界を食べる女神も育てる女神も理解の範囲である。
元々そのつもりではあったが、子供がいるのならなおさらこの世界を守りたい。
となればユウを派遣したであろう農耕女神……ノームというらしいが、そいつに従わざるを得ないだろう。
むしろ融合後の安定のためにユウとは手を握る必要がある。
ほっと安堵の息を漏らす。
勇者仲間であり、共に旅をした人間であり自分を心配してくれる数少ない存在……そう、友人なのだから。
その相手を疑い続けるのはなんだかんだ言って気分がいいことではなかった。
その重荷が晴れたような気持ちである。
「だが、わからないな。お前は何がしたい。協力なんてなくても黙っていれば平和な世界になりそうだが」
虐げられたままの勇者ならともかく、守るものがあると知っているのなら、世界を食べたいメディアに協力するわけがないと分かるだろう。
農耕女神ノームに管理されるのは業腹だが、死ぬほど悪いかと言われれば否だろう。
「世界を守る方法はもう一つある」
そらきた。ここからが本当の狙いになるだろう。
一字一句聞き逃すまいと意識を集中する。
「四霊を使い、世界を守ることだ。四霊は世界の4分の3の魂を使うことで世界に壁を貼ることができる。壁ができれば融合化は防げるし、女神たちもまた干渉できなくなる」
一瞬の静寂が訪れる。
発言全てを何度も頭の中で思い浮かべる。
意味が頭に届くまで何度も。
「論外だっ! 一人を守るために三人死ぬようなことを許容できるか!」
「そうだろう。僕もそう思うよ。君は優しい勇者様だね。──でも、犠牲が一人だったら?」
「は?」
「刀の勇者一人の犠牲で済むとしたら? 魔王と勇者の魂をもつ彼一人が犠牲になれば両方の世界に壁を貼ってお釣りが来るくらいだとしたら?」
「それは……」
そうして気づいた。
目の前のそいつの濁った溝のような瞳が、殺意にギラギラと燃えていることを。
かつての自分に似た、けれど自分以上にねとつく闇色の瞳。
こいつは──あいつに恨みがある人間なのだ。
そして、これまでの会話からある事実に気づく。
「……お前は、メディア側の人間だな……?」
そうでないとおかしい。この世界で知れる事実を超えている。
である以上、答えはそうなる。
こいつは女神がユウの存在を知って用意した人材だと。
「そうだよ。僕は女神に呼ばれた転生者……! でも、そんなこと僕には関係ない! 僕はあいつに罰を与えたいだけだ! 勇者であれば人を好きにしていいのか? 僕の家庭を壊しても許されるのか? いいや、許されない。僕は愛する母を、愛おしい姉を、優しかった父を失った! 僕の家庭は崩壊した。あいつは命で贖う義務があるっ!」
「そうか」
ツムギの怒りはすべてを焼き払ってしまいそうな熱量を持っていた。
同じだから尚文にも分かる。
あれは憤怒の力を開放している。
勇は女性を傷つけるようなことをするような人間ではないとまでは断言できても、行動の結果家庭が壊れることはあるだろう。母親と姉に手を出しているのであればそれがバレればそれは家庭の一つくらい壊れてしまうだろう。
同情はする。
だが、目の前の人間は人を殺したことのある人間だ。
前の世界ですでにそうなのか、この世界に来てからなのかはわからないが、ツムギは人を殺した人間だと感じていた。
勇を殺すという言葉も、安っぽい脅しではなく、本当にできるのだろう。
ただまあ強さが及ぶかは別問題だが。
尚文はツムギの因縁に関しては棚に置く。
責任を取るべきは勇で自分ではない。
評価は下がるが、だからといって、彼を犠牲にする気も世界の人々を贄にくべる気もない。
であれば勇の味方で、こいつは敵である。
盾を構えようと身構えながらもっと情報を探ってやろうと口を開こうとして──
「さて、口でなんと言おうと女神の存在感を感じないと実感がわかないだろう。尚文には女神メディアにあってもらうよ」
「はっ!?」
ツムギに手を取られた瞬間……俺は真っ白な部屋にいた。
目の前には一人の女性が立っている。
「初めまして。盾の勇者尚文様。招待が荒っぽくなってしまって申し訳ありません」
「……あんたが女神か……世界を食べるという女神……」
女神を見て感じたのはマインににてるな、ということだった。
見た目というよりは存在感というかありようがというか。
丁寧に話しているようで、その裏には矮小な存在への侮蔑を感じた。
ただ、なにより恐ろしいのはその存在の巨大さだった。
人間大のはずなのに、星より大きいと断言できてしまう。
目の前にいるのに、遠くにある月を小さいと思うような遠近感の狂い方。
ああ、アリと地球のほうがきっとよっぽど大きさが近いに違いない。
それほどに俺と目の前の存在ではレベルが違うと感じ取れてしまった。
何をやってもこの相手には勝てない。
「ええ、そうです。でもあなたも肉を食べるでしょう? 豚を食べる時、命を奪ったなんて考えたことないはず。いただきますといっていたとしてもそれは音でしかないでしょう? 豚の人生をかんがみることなんてないはず。あえて言うなら──美味しそうなのが悪いのです」
「だとしてもっ!! ──いや、存在が違うんだ。あり様を言い合っても無駄か」
「尚文様は賢いですね。そういう方は好きですよ」
誰が好かれたいと思うか。
人間に興味を持たれた虫の末路がどうなるかという話である。
どんな思いを抱かれようが害になるに違いない。
「私はね、食事を邪魔されるのが本当に嫌いなんです。それなのに美味しそうだと赤くなるのを待っていたトマトに馬糞を投げつけるような真似をされたら……どう思うと思いますか?」
「それは……」
「普通は神同士の殺し合いは厳禁ですけど、嫌がらせの一つくらいはやっておかなければ、なめられます。……尚文さん。結界を張ったらあなたの世界を諦めてあげますよ。お互い何も手に入らない。それで2つの世界については手打ちにします」
「はっ! 結界が解けるのを待つんじゃないのか?」
「汚れた野菜から手で汚れを払ったとして、かぶりつきますか? 食べれる世界なんて他にもあります。女神として誓いましょう。”結界が作動したらあなたのいる世界を一生諦めます”」
「それを信じろと?」
あらまあ、とクスクスおかしそうに笑う。
「食べれないということと、壊せないということはイコールではない。私のいいたいこと、わかってくれますよね?」
女神による威圧を受け……俺は走馬灯を見た。
今までの人生を、家族を、愛するリファナを。
そうして、俺は──
「わかった。結界を作動させる」
「ええ。約束よ。あなたが約束を守るなら私も約束を守るから」
どの口が言っている。
そう思っても、抗うすべがない
少なくとも、今は。
そして、女神という存在を肌で感じてわかった。
脅されなくても神なんて存在を世界に寄せ付けたくない。
自分の大切な人のためにも、そう胸に刻む。
世界に女神など不要だ。
**
「女神とは話ができたかい?」
ツムギに声をかけられて初めて我に返る。
ほんの短い間の対話だったのに、汗だくになっている。
目の前のこいつも信頼できない相手なのに、自分で相手になるだろう程度の相手だ、と体が勝手に安心してしまう。
「ああ。胡散臭い女神だったが、──どうにかできる相手じゃないというのはわかった」
「なら?」
「同盟、組ませてもらう。勇には悪いが、世界のためだ」
勇は強い。恐ろしく。
だが、それでも女神ほどではない。
自分ができる最善を尽くさなければいけない。
尚文は頭の中にやらなければいけないことをいくつも考え始めていた。
ユウがのじゃ女神ことノームさんと話している裏で、尚文もメガヴィッチと対面。
真の勇者として心が育つ前の邂逅はどのような影響を与えるのか……!
原作と違い尚文はメルロマルク女王と早々和解しておりラフタリアとリファナの故郷を領土としてもらい領主としても活動中。
そして娘枠でなかなか手を出さなかったラフタリアと違い、好きな人は盾の勇者様です! と公言する積極的なリファナと恋仲になっており、この世界で生きていく決心を決めている模様。
絆パーティで好きなのは?
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全員さほど好きではない