「秘密の特訓をしましょう!」
元康は目をパチクリさせる。
樹のやつに声をかけられて、錬と王都に集まったのだが、最初の一言がこれだった。
正直あんまり特訓というものには興味がない。
部員が足りないと困っていた女子マネの子に付き合って夏の特訓とやらに参加したことがあるが、なんというか、成長速度が合わないのだ。最初から能力に差があるのに、密度の濃い練習をすればそれはそうだろうが、(これなら彼らだけ特訓して俺は遊んでたほうがまだバランスいいんじゃないか?)と思ってしまうのだ。
応援してくれた女子マネの笑顔は可愛かったけど。
とはいえ、今回の相手は樹と錬。
肌感覚で言ってもこれだけ長い間時間が立っているのに、大きく実力に差が出たと感じない相手は初めてだ。
女の子たちの視線を奪い合う仲だが、乗ってやってもいいかと思っている。
「で、相手は誰だ。俺もそんなに暇じゃないぞ」
「ええ、もちろんです。ですが、カルミラ島の活性化イベントでも大きく彼らに差がつかなかった以上、特訓は必要」
「彼らって勇達?」
「それと尚文さんです。彼、盾なのにうまいじゃないですか」
「たしかにな……」
勇は圧倒的に強さが高く、正直であったときから差が縮んだ気がしない。正直開いたとすら感じてしまう相手だ。
最近はどこか別世界に言っているらしい。
可愛い女の子はいるのだろうか。ちょっと興味ある。
「尚文のやつ、神鳥の聖人とか言われてるんだっけ? 聖人って。キャラじゃないよなあ。ウケる」
薬やら何やら売りまわっているらしい。
正直あんまり怪我をすることもないし、勇者なら生産系鍛えるにしても武器とかのほうがいいんじゃないか?
盾なら怪我なんてそれこそ縁がないだろうに。
知識がないせいかな。今度アドバイスしてやろうか。
「ええ。勇者と並ぶ人気の人物なんて言われていました。正体を隠して薬を配り歩いているなんて人気取りです!」
「それで死傷者が減るならいいんじゃないか? 尚文は盾向きの性格なんだろうな。放っておけばいい」
「ええ、僕らの活動に影響は小さいことはわかっています。でも、遊んでいても僕らと実力ではそんなに差がないんですよ? 強化法も共有し合ったのに、です。これはきっと何か隠してることがあるんです。僕らは彼らに追いつくためにも努力しなければならない。そうでしょう?」
「それはそうだが」
「素材は最近取り合いになってるしなー」
強化法に必要な素材はそれぞれのつてによるところが大きい。
うちのパーティーは王女のマインや貴族、商人と手が広い。
鉱石関係も比較的集まりやすい。
錬も魔物退治して作った村や町の人間との縁をつないでうまく集めてるらしいし、樹は他国から物資を取り寄せてるなんて噂を聞く。
「まあ、お互い手広くなってきましたからね。でもその御蔭で時々トレード会をして強化に貢献できているでしょう?」
「確かに」
「別に集まりに文句はいっていないだろ? そろそろ本題に入らないか?」
「ええ。実はですね、霊亀封印の場所を特定しまして」
ザワッと驚きの声が響く。
霊亀。亀型のボスで一番の特徴は……
「大規模戦闘か」
「それに、大して強くない割には装備は優秀」
「やるしかないな」
霊亀は山のように大きなボスだ。
とはいえ、攻撃パターンは単純で遅いし、大して強くもない相手だ。
ここを弾みに、四霊を俺たち三人で独占したい。
朱雀なんかは飛び回るし、撃ち落とすのに樹の協力は必要だ。
「よし、やってやろうぜ」
きっと、内心ではいつまでも追いつけない奴らに焦りがあったんだ。
周りの評価も、残りの三人みたいな、悪いとは言わないけれどそこまで飛び抜けない評価。
でも、勇は勇者としての名声やラブロマンスが噂として流れ、尚文は聖人としての評価や領主として領地を治めていると噂が出ていて。このまま何事もなく簡単に波を終えたとして、その後俺たちはどうしようかなんて不安がよぎっていた。
だがらアドバンテージであるゲーム知識に疑うことなく飛びついた。
この判断が未来を狂わすと知らずに。
**
「くそっ!! 元康フォローしてくれっ!」
「待てよっ、錬より俺のほうが範囲が広い! 前には俺が出るから使い魔に対処を……」
「数なら樹がやるべきだろっ!」
「僕が弓を撃ち続けているのがわからないんですか! 早く有効打を与えてくださいっ!!」
「何度も首を落としてるだろっ!! 見てわからないのかっ!」
元康は怒鳴りつけるように大声を出すが、全く状況は変わらない。
霊亀は山より大きかった。
その一歩が体全身に響く重さを持っていた。
けれど、集まった仲間たちなら問題なくやれる。
直接相対してわかった。勝てるって。
なのに、そうならなかった。どれだけ殴っても切っても撃っても倒れない。
首を切り落とし、心臓を撃ち抜いてもだ。
それどころか、段々と消耗が激しくなる。体力に限りが見えだし、あふれる使い魔たちの攻撃が仲間に影響を与え始めた。
素材をかき集めることで簡単に強化される勇者と仲間の差だ。
俺の仲間たちは遠距離からの支援だったし、今は離れてくれているようで近くにはいないようだが、錬と一緒に近接攻撃を繰り返していた錬のパーティーの消耗率が高い。
樹が自分の周りに仲間を集めて守りに入ったこともあり、一気に負担が増えている。
「レン様っ!」
「お、おい!! くそっ、俺なんてかばうな!」
「危ないっ!」
戦士が錬をかばい、その様子に動揺した錬を襲う攻撃を更に別の仲間がかばって……。
引くべきだろうか。だが、巨大すぎて錯覚するが霊亀は足が早い。引けば向かう先の国家に忠告する時間もなく、好きに暴れるだろう。
霊亀はさほど強くないが、勇者からすればだ。国一つ壊滅しかねない強さがある。
「おまえええええっ!! 俺のモノに、手を出すなあああ……!! ……! 元康! 樹! 出た! 俺にも出たぞ! 傲慢の剣が! 尚文と同じチートの剣が! 感情を高めるんだ! 使うぞ、俺はっ!」
仲間を傷つけられた痛みか、錬は怒り狂い、力に目覚めたようだ。
そうだよ、勇者が負けるはずない。俺が女の子にみっともない姿を見せるわけ無いだろ。
今こそ真の力に目覚めるはずだ。俺だって力が目覚めるはずだ。
いや、もう目覚めている。
ああ、錬。俺も使える。
恐ろしい。闇色の沼に足を踏み込むような怖さがある。
でも、背中を見てくれる女の子がいるんだ。俺がかっこ悪いところ見せられるわけない!
「色欲のォ! やりいいいいィ!!!」
めにゅーがはんてんしていく。ああ、目の前の色が、見えていたものが見えなくなっていく感覚が……!
怖い。こわい。なんでだ? ゲームに恐怖なんて抱くはずがない。
そうだ、ここが現実だからこんなに怖い。
腹を刺されて、血が抜けていく。この世界に来る直前の記憶。
死の恐怖が、悲しみが、怪我が消えたことで現実感を失わせて、感覚を狂わせて。
ゲームの世界に来たみたいな気持ちになって。
でも、今の俺にはこんな危険なところまで一緒に来てくれる女の子がいる。
きっと前の世界でここまでついてきてくれる子なんてごく一握りだっただろう。
もしかしたらゼロかもしれない。
本当に俺を思っていたらあんな事するはずない。
真の絆が、本当の愛があれば……。
俺が、ちゃんと好きになれれば。
錬の一撃が前より遥かに深く切り裂き首が飛ぶ。
でも死んでいない。だって、あんなに大きく心臓が鼓動してるんだから死ぬはずない。
見える、体の中身まで。体を修復しようとする力の流れも。
その中心が心臓であるとわかる。
「色欲のォ! 槍っ!!」
槍を投げる。
吸い込まれるようにして心臓を粉々に砕く。
頭と心臓を砕かれた霊亀は今度こそ崩れてゆく。
嬉しそうに笑いながら仲間を宝物のように抱きしめる錬。
ああ、俺もはやくみんなと抱きしめ合いたいですぞ……。
「つ、つよい。これがチートの力。でも、僕は、ぼくは……」
その言葉は誰の耳に入ることなく流れてゆく。
尚文「ふんふん。四霊か。こいつで世界が守れるのは確かのようだな。しかし、世界中の人の命が必要なんて絶対ダメだ。封印させたままにーー」
影「三勇者が霊亀と戦ったようです」
尚文「あいつらあああア!!」
チートの盾、チートの盾と言いつつも樹は他の二人の様子に使うことをためらいそうだなと思いましたw