ウチに帰ったような。
あるいはこここそがウチと言っていいのかもしれない。
異世界からここに帰ってきた。
出迎えてくれるメルさん、ラフタリア、ガエリオンにリーシア。
ふっくらとし始めたお腹の存在が不思議と愛おしさを感じさせた。
今までは妊娠の事実を知りつつも、日々大きくなるお腹の存在など感じたことがなかったから。
愛おしさが深まって行くのを感じた。
「ただいま」
感極まってというか、自然にというか。
メルさんに、ラフタリアの唇に口づけする。
人の姿になってぴょんぴょんと自己主張するガエリオンの額に口づけを落とす。
そして、目を閉じ頬を赤く染めながらもこちらを待つリーシア。
少しずつ体がこちらに傾いては遠慮するように引かれてゆくその様子に微笑む。
その意味が理解できないわけがなかった。
けれど本当にと思ってしまって、けれどそれを逃すのがたまらなく惜しくて、体をひこうとするリーシアの腰を抱きながらゆっくりと唇を重ねる。
「お、おかえりなさい……」
そう言ってこちらを見るリーシアはどこか垢抜けていた。
何も知らない何もできない子供から、一人の大人になっていた。
いっそ年下のような彼女は見た目以上に背が伸びたように見える。
今まではどこか怖がるように背を丸めなくなったからだろう。
どこか伏せられていた目はまっすぐこちらを見ていた。
あまりにもキラリと輝く瞳はきれいに自分を映していた。
嬉しそうに笑っている自分に笑ってしまう。
「ただいま」
何度言っても胸にじんわりと暖かさを感じる。
**
勇者の身体は疲れ知らずである。
秒速で体が癒され、魔法一つで欠損した体が治り、なおかつすぐさま戦いに飛び込めるバイタリティを持っている。
けれど精神的に疲れないわけではない。
むしろその大きな許容量にじわじわと疲れは溜まってゆくのだ。
しかし、いま自宅と思えるようになった屋敷に帰り、暖かなお茶とお菓子を口にしながら一緒にいない間の皆の話を聞いているだけで心は癒えてくる。
「そうか。リーシアはすごかったんだ」
「いえ、それほどでも」
「いえいえ! リーシアさんの機転はすごいものでしたよ! 私あんなことできるなんて想像もしていなかったです」
「よくある爆薬だったからできただけでそんな……」
何でも封印された竜帝が復活してしまい、暴れだしたらしい。
古城に封印されていた巨大なその敵の姿にPTは攻めあぐねていたものの、リーシアの機転で城に残っていた火薬を爆発させた。計算された連鎖爆破で城は埋まり、竜は大きなダメージに加え、また城の残骸から頭だけを出して暴れることになり……無事にガエリオンに竜帝の欠片を喰われたらしい。
聞けば彼女はバフ・デバフの使い手であり、その場にあるものを最大限に生かしたトラップを駆使するスタイルになったらしく、環境を200%活用する彼女の力は強力な短期だけではなく軍勢相手にも発揮したらしい。
ゴブリンの巨大な軍勢を地震が飲み込むところなど伝説に残るに違いないとラフタリアは自慢気に語っていた。
「そりゃすごい……」
それにどうやら彼女は気功の類を操る技術に目覚めだしているようだ。
周囲の龍脈の力を己の力として行使する技は魔力を使わない上に規模が大きいことができる。
PTの穴を埋める形で強化しているようだ。
尚文あたりのPTで育てば対勇者用の格闘術としての技になっていたかもしれないが、PTの違いかウチではサポートと対軍勢に合わせて強化されているようだった。
「そそれでっ! 色々面倒を見てもらって今更ですが……私、あなたのPTとしてやっていきたいんです!」
「いいよ」
「だ、ダメだと言われてもだめ──ふえええぇっ!?」
「断るわけないよ」
キュッと彼女の手をにぎる。
手はかつてと異なりだいぶ硬い戦うものの手に変わっている。
緊張していたのかやや汗の香りがするが、それもまたリーシアの匂いを強くしていた。
「これからよろしく」
「はいっ!」
自分を支えてくれる、自分とともにいてくれる愛しい人たちがこんなにいるのだと思うと、この世界を守りたいと心から思い出し始めた。
そして、だからこそ世界を守れる勇者で良かったと思った。
守るものが増え、彼女たちを守りたいから、彼女たちを含む周りすべてを守りたいになって、だからこそ彼女たちがいる世界を守りたいになっていく勇者たち。