「勇者様、城に同行お願いします」
「ふああい」
朝早く宿のドアをノックする音に、のそのそ起き上がる。
高い身体能力が眠るとすぐ回復させてしまうので二日酔いで頭を痛くすることはないのだが、眠りは浅くなるのか寝起きはしゃっきりしない。
回復魔法を使えばスッキリするが、スッキリするためにわざわざ回復魔法を使うのは冬の洗面所に顔を洗いに行くような気の進まさがある。
だるいときは何もせずにだるっとしたいのだ。
寝起きの俺に何かをさせたいのならまずは頭より先に立ち上がっている息子に奉仕してほしい。
だが目の前にいるのは鎧を着たおっさん兵士なので、それを理解した瞬間にするると萎えてゆく。
のそのそ着替えていると、ドアの向こうでトントンと苛立ちに合わせてかかとで鳴らす音が聞こえる。
なんかこう、急かされるのってイラッとするよね。
ムッとして反射的に男を見ると興奮する魔法でもかけてやろうと思ったが、その時最初に見る男は自分だと気づいてやめる。
ああ、だるいだるい。
王がお待ちですよ! と急き立てる兵士に半ば背中を押されるように馬車に詰め込まれ、馬車は城へとかけてゆく。
マインと尚文は? と聞いても彼らは別々に城に向かってますとのこと。
じゃあ、樹と元康はといえば彼らはすぐに起きて支度をしてくださったのでもうお城についていますよと嫌味を言われる。なんかこの兵士性格悪いのでは。
一緒についてきている若い兵士は平謝りモードだが、こっちはなんだか妙に偉そうである。
四聖ではないから真の勇者ではない派かもしれない。
実際、七星、俺を含めて八星になった勇者は異世界の人間でなくてもなれるらしく、神の如しな四聖と比べると英雄の証と格が落ちるらしい。
更に新しく実績がないので、評価様子見や子供だし期待できないだろと低く見ている奴らも多いらしい。
城に着くと、あとは一人で行けますなとふんっと鼻息荒く吹いてから答えたその兵士に、鳥が寄ってくる魔法をかける。
一旦寄ってくるだけなので好かれるわけではない。空にいても寄ってきたくなるので、空から落とし物をもらう率が上がるだろう。くふふ。
ささいな仕返しである。
**
「来たか」
「遅いですよ。一緒の宿にいたのに」
「全くだ」
剣、弓、槍の勇者はもうすでに揃っている。
そこはむしろ一緒の宿なんだから一緒につれてってほしかった。
どうやらすぐに用事ははじまらないらしい。
そもそも、旅に出させた初日にいきなり城に戻すのはなんのようなのか。
まあ、何でも大切なのは最初だろうから、もしかしたら様子でも伺うか情報交換させるためだろうか?
だとしても過保護な気がする。なんのための経験ある仲間だと言いたい。
「ごめんごめん。それよりなんのために集められたか知ってる? 兵士からなにも聞けなくて」
「それは……まあ、すぐに分かるさ」
「そうですね」
あまりいい話題ではなさそうで、不快そうな表情や怒りをにじませた表情を浮かべる。
「ならいいけど。そうだ、錬、これ渡しておく」
「ああ。竜素材だってな。……ドラゴンスレイは俺が最初にしたかったがな。まあ、計画が進むのは確かだ。感謝する」
「どっか行っていた錬さんを離せるところだったんですけどね」
「というか、刀は四聖の眷属って立ち位置らしいし、あんまり張り合わないで素直に助けてもらう感じで行こうぜ」
「そうだな。まあ、序盤のお助けキャラは使い倒してこそか」
ひどいことを言っている。
もしかしたら狙っていたドラゴンだったのか、錬の目は少しにらみつけるような色があったが、それもため息とともに消えていった。
「まあ、二人にも言ったけど、死なないレベルなら手伝ってもいいよ」
「ふん。そのうち手を貸してもらうぞ」
いいんだけどね。その後は錬から攻略してほしい狩場の情報などを教えてもらう。
**
そうしているうちにマイン、王様がやってきて、尚文が来た。
空気が固くなる。勇者や周りのものの雰囲気が怒りや軽蔑に歪む。
「マイン!」
尚文の声に周りが睨み返す。
マインはというと尚文が声を掛けると元康の後ろに隠れて、尚文を睨んでいた。
ふうーん?
関係を持った相手が他の男と仲良くしている姿を見ると心が少し痛む。
誰彼構わず関係を持っていた俺だったが、それでも独占欲があるらしく、目の前で他の男と仲良くされると不快になる。
知らないところで仲良くしていたと知ってもなんとも思わないのに、目の前だと胸が痛むのだ。
マインとは関係を持ったがそれもただ一夜。
好意は大きくなっているだろうがそれでも、まだ恋人を想うレベルだろう。
そして俺のように愛情や気持ちを複数の人間に同時に抱ける人間は珍しくない。
むっとしてマインを見ると、ショックを受けるように表情を変える。
不思議に思って首をかしげる。
まるで誕生日プレゼントを渡す前に知られてしまったようなバツの悪い表情だった。
なんだろう? そう思っているうちに話が進む。
「本当に身に覚えが無いのか?」
「身に覚えってなんだよ……って、あー!
お前が枕荒らしだったのか!」
「誰が枕荒らしだ! お前、まさかこんな外道だったとは思いもしなかったぞ!」
「外道? 何のことだ?」
尚文が枕あらしだなんだと言っている。そういえば尚文は肌着のみで、元康は昨日とは違い、尚文が着ていた鎖帷子を着ている。
「して、盾の勇者の罪状は?」
「罪状? 何のことだ?」
「うぐ……ひぐ……盾の勇者様はお酒に酔った勢いで突然、私の部屋に入ってきたかと思ったら無理やり押し倒してきて」
「は?」
「盾の勇者様は、『まだ夜は明けてねえぜ』と言って私に迫り、無理やり服を脱がそうとして」
すごいセンスだなあ、尚文。
2は明日更新します。
『まだ夜は明けてねえぜ』って中々マインのセンスは侮れませんな。