「ぴいィ?」
ベッドの下から小さく鳥の鳴き声が聞こえる。
正確には鳥ではなくフィロリアルであり、俺とフィーロの間から生まれた卵のサクラである。
エリーがいなくなり一人になったのがわかって奥から出てきたのだ。
貧相な部屋なので隠れられる場所は少ない。
貴族の令息などのいい身分で潜入してきたわけではないので、特別扱いはされない。
どこぞの貴族の妾の子だが、血が濃いのか勇者の血が濃いのか強いのでフォーブレイへ、という経緯でここにいる。
勇者の血の獲得はフォーブレイの優先事項なので、若くから才覚を開花させる勇者の種はフォーブレイに招かれることがあるのだ。そして、その血の獲得を期待しているためか、貴族女性などとの距離が近い。
メルロマルクでは女性優位ではあったが、それだけに男が簡単に貴族女性に近づける環境ではなかったし、寝所に誘うことへも多少のハードルはあったのだが。
どこかかつて女神の使徒ということで、種馬扱いされていた世界を思い出す。
「ぴい!」
「おおっとごめんね、サクラ」
昔を思い出してぼうっとしてしまっていた。
こちらに羽を広げるサクラを手で抱え、抱きしめる。
「よしよし」
「ぴー」
フィーロの肌もそうだったが、鳥類である彼女の体温はアッツアツで電気毛布を強にしたような暖かさである。
けれどそれが寒々しい風に吹かれた心に染み入ってくる。
親とまっすぐ慕いこちらに向けるキラキラした瞳。
不純物のない信頼の光は心をどこまでも温めてくれていた。
「こんなところばっかりでごめんねえ。明日は休みだから散歩に行こうか」
「ぴいぴい!」
甘えるようにお腹にグシグシと体を擦り付けてくるサクラをワシャワシャと優しく撫でる。
本当なら敵地であるこの場所につれてきたくなかったが、ガエリオンに預けようとしたが泣きに泣いて離れなかったのだ。
ラフタリアやリーシアは勇者の仲間として情報が伝わっているはずだが、孵ったばかりのこの子は大丈夫だろうと連れて行くことにしたのだ。
フィーロに預かってもらえるかと聞いてみれば首を傾げて「なんで?」である。
主人のものになったんだから主人のために働けばいいのでは? という理論らしく、あまり娘であるという意識はないらしい。刷り込みして後ろをぴよぴよとついてきて初めて母性が宿るのかもしれない。
となれば置いておけないということで連れてきたのだった。
最初は連れてくるなんてと思ったが、今は良かったかもしれない。
敵地で独り言一つが任務の失敗になりかねないここは息が詰まる。
性格も悪い女ばかりで、性行為も相手を感じさせるためのもの任務のためにしてるものという感じで、愛情からの性行為とはやや離れたものであることも心労につながっていた。
「ぴいっ!」
楽しみとはしゃぐサクラを見つめる目はきっと優しいものになっていただろう。
**
「そーら、とってこーい」
「ぴいぴい」
城下町に出れば遊ぶには十分な空き地の1つや2つ見つかる。
遊具の一つもない場所だが、まだ小さいサクラには丁度いいくらいだ。
落ちてた小枝を投げる。
最初はよくわからなかったようで頭の上に?? とはてなマークが浮かんでいるのがわかる困惑っぷりだったが、よちよち、くるり、よちよちとこちらを伺いながらも棒へ向かっていき、加えて戻ったところ大げさなくらいに褒めながら体をなでてやると、ルールを理解したのか何度も何度もねだってくる。
そのたびに撫でては投げる。
ちょっと眠そうなとろりとした瞳はけれど喜びでピカピカしている。
フィロリアルは馬車を引くのが好きらしい。
あの大きさだから馬車は無理だが、成長したら大きな馬車を用意してあげよう。
喜ぶに違いない。
なんだか親が物を買い与えたくなる気持ちがわかるような気がした。
**
「ぴうぴう」
フィロリアルでも子供は同じなのだろうか。
何度も何度も全速力で木の棒をとってきていたサクラだが、突然座り込むと動かなくなってしまった。
なになになんでと一瞬で駆け寄ると……疲れたようでうつらうつらし始めていた。
電池が切れたみたいにいきなりのOFFである。
ええー。
抱きかかえれば一瞬で寝入ってしまい、すーっと静かな鼻息だけが聞こえる。
気楽なものだ。今襲われればひとたまりもないだろう。
カラスが相手だったとしてもやられてしまうに違いない。
弱くて可愛いらしい子供。
何かを食べている夢でも見ているのかモゴモゴと小さく口が動いている。
なぜこうまで安心できるのか。
「あ、あら。奇遇ね」
「え? ……あ、ナナ様」
「さ、様はいいわ! 別にここは王宮でもないし、ここには誰もいない……し」
数いる王女とはいえ、王女は王女である。
こんなところに誰も連れずに奇遇で来れる場所ではない。
視線を動かさずあたりを探れば数人の護衛らしき気配は感じる。
目の前の彼女からはやや熱っぽい期待するような感情が込められていた。
何を目的にここにいるのか、わからないわけがない。
「か、可愛がってるのね、その子」
「家族です」
「へ、へえ。家族なのね」
なるほど。自分の口から出てしっくりと来た。
サクラは家族なのだ。
どこか羨ましそうにサクラを見つめるナナ王女。
そんな自分に今気づいたとばかりにびっくりして口を出て抑えると、何かを言い訳するように日が悪いみたいだからまた来るわと行って去っていってしまった。
護衛と合流してから城へ戻っていったのでおそらく大丈夫だろう。
転勤パパは可愛い子ども件ペットなサクラちゃんを愛でているようです。
レベル上げがされていないので現在は本当に可愛毛玉のもよう。
ピイピイ♪