(恨みはないけど、悪く思うなよ)
俺は目の前にいる憤怒に顔を赤く染めるタクトに刀を向ける。
開発物から考え、自分たちと同じ日本の知識がある相手。
バンダナ結んだアメリカンロック? な風情で見た目はいいが日本人からすれば王子らしさはなく、所作こそきれいだが、チンピラである。
生まれたときからタクトがタクトなのは調べてわかっている。
オレTUEE転生者といえばいいだろうか。
だが、動機が何であれ国のために開発や尽くしているし、女癖が悪いのも責任が取れる王族なら何をいわんや。
むしろ責任が取れないのに種を巻き続けたユウより100倍増しである。
世界中の波には参加していないが、フォーブレイの波には参加していると言うならメルロマルク一国に5人で対応していたユウたちには何も言えない。
だから、悪いのは他の八星勇者から勇者武器を奪ったこと、波のある中クーデターなんて企んだこと、そして何より──政治の都合である。
この国の国王に先に助けを求められ、メルロマルクからしても王子ではなく国王に音を売るべきと判断されたのが悪い。
であれば可哀そうだが、格の違いをしっかりとわからせてやる必要がある。
「格の違いを教えてやる」
「ガキがナニ生言ってんだっ! 俺が勇者何人分の強さか教えてやるっ!」
鞭という武器の恐ろしさは剣より長い射程と、変則的な動き、そして殺さずに戦闘不能にできる点である。
振るわれた鞭は肉を削いだり、大きな傷みを与えて戦闘不能にする。
刑として『鞭たたき百回』なんてものがあることを考えればわかるだろうが、叩かれれば大きな傷みを受けるだろう。
タクトの振るった鞭がたったままのユウの顔を叩いた。
「ハアッハッッハ──! 俺の鞭はドラゴンさえ絶命させる威力が──威力……が……」
しかし、鞭で叩かれてもほぼダメージはなかった。
「そうだね、俺の顔にホコリをつけた。そんな事ができたのはそう多くないよ」
ユウのステータスは前の世界と今の世界で二重に上がっており、様々な強化法の恩寵もあり、ステータスは恐ろしいほどに高い。強化法を共有した勇者であればともかく、LVが高いだけのタクトの力では打ち破ることができない壁であった。
「ふっ、ふざけるなっ! バインドウィップ! しびれ打ち! らせん打ち! デスウィップ! 地這い大蛇!」
タクトは苛立ち、技を放ち続ける。
しかしそのどれもが効果がなく、土埃を巻き上げるだけだった。
すべての技をうち終わったあとはタクトは鞭を収める。
「最強の勇者である俺が……絶対に殺してやる! 鞭なんて武器じゃあ、お前を倒せないみたいだが、俺には七星武器があるっ!!」
爪の勇者武器に切り替え──
「エアストスラッシュ! ヴァーンズィンクロー」
斧に切り替え──
「シューティングスラッシャー!!」
その後、複数の勇者武器に切り替える。
勇者武器には人間ほど明確に表現しないが意思を持っていて、他の武器を拒絶したりする。
当然勇者武器の同時もちなんてできない。
だが、投擲具の勇者のように、奪うものなら別なのだろう。
タクトのレベルは300を超えていると聞く。
複数の勇者武器に選ばれ、この数の勇者武器の強化法を持っていたのならこの程度の強さではいられない。
ユウは刀を鞘に収め、バットか何かを振るうようにしてタクトの顔を殴り飛ばした。
「ぐがああああっ!?」
「みんな、見ただろうか。目の前の男がいくつもの勇者武器を行使したところを。勇者と勇者武器は強いつながりがある。それこそ、他の武器が持てなくなるほどに。けれど、武器の簒奪者は違う! 勇者から武器を奪っただけの、不正行使者は勇者の力を引き出せない。だからこいつはこんなにも弱い。みろ、軽く殴られただけで大怪我だ!」
「て、テ゛メ゛エっ!」
顔を殴られたときに前歯を含めいくつか飛んでおり、口からだくだくと血を流しながらタクトが唸る。
世界の守護者である勇者を奪っていたのである。
そしてそれは証明された。
「見ろ、こいつは何人もいた勇者を襲って武器を奪った罪人だ! 勇者を語る偽物だ! 勇者の国、フォーブレイの王子にふさわしくない男だ!」
周りに集まっている女性たちに視線を向ける。
「そ、そうよ! なにが勇者よ! 良くも騙したわねっ!」
「私っ、わたしこの男に無理矢理っ」
「ひどい、勇者様を手に掛けたというの!?」
彼らの集めた半分以上の女性によってタクトに罵詈雑言の嵐である。
残された半分のうち半分が困惑の中徐々に周りに引っ張られ、残った僅かな人間が今後のためにどう動くべきかと頭を回しているようだった。
「くっ、うるさい! 勇者武器を持っている俺が勇者だ! そしてお前はこれから勇者じゃなくなるんだっ!!」
タクトはユウの持つ刀を奪おうとし……それが最後の証明となった。
「《イージスの盾》!」
すべての魔法的干渉を行使の倍の消費と引き換えに打ち消す最強の盾が干渉を阻んだ。
干渉を阻んだが、刀がタクトの元へ引っ張られていたのは誰の目にも明らかだった。
決定的な、勇者を害する者であるという証明が周りを揺らす。
空気はできた。
あとは勇者武器を取り上げれば終わりだ。
そんな中、一人の乱入者が現れる。
「待ちなさいっ!」
タクト周りの女性はダメになった時の罵声派とテロ殉死派が激しい……!