ざわざわと広間は喧騒が止まらない。
フォーブレイの王子として、タクトは顔だった。
先進的な試みと、何より勇者としての強さは何物にも代えがたい輝きとなっていた。
しかし、それがメッキだとしたらどうだろうか。
「見るなっ! そんな目で、俺を!」
視線を振り払うようにタクトは手を振り回すが、そんなことで止まるはずがない。
ユウに抱かれて堕ちたものはもちろん、そうでないものも、勇者であるからと抱かれていたのにとその好意を反転させてなじり始めた。
「待ちなさいっ!」
メイド服が空を舞う。
人垣を超えてやってきたのはエリーであった。
タクトはその姿を見ると一瞬喜びの笑顔を浮かべた後苦いものでも口にしたかのように顔をゆがめる。
「タクト様。助けに来ました。いったんここは退きましょう」
「ひけだと!? 俺に言っているのか? 俺は女神が認めた勇者だぞっ!」
「タクト様ならきっと再起できます」
エリーはタクトの手を引こうとするがその手をタクトは払いのけた。
「うるさいっ! 裏切者が俺に触るなっ!」
「裏切ってなどっ……」
「あのガキとやっておいてよくそんなことが言えるなっ!」
「え、っそ、それはその」
「見ろっ! 図星を突かれたってところだろ!」
「し、信じてください! あくまであれば性欲の解消のための遊びで……!」
「遊びっ! 遊びでお前は俺を裏切ったのかっ!」
空気の読めない痴話げんかみたいなものが始まってしまった。
しかし、これだけ囲まれている中での逃げの一手は頭の中になかった。
ひっそりと魔力でバリアのように包み、囲い込む。
鉄壁とは言えないが、それでも破ろうとしなければ破れず、その時間があれば追い込めるだろう。
エリーの差し伸べた手を取ってかければ未来は変わったかもしれないが、その可能性はなくなったのだった。
口げんかの果て、タクトはエリーを殴り倒そうと手をあげ……エリーを包む壁に阻まれる。
「そこまでだ。決着は俺から先につけてもらおうか」
「やっぱりそいつとつながっていたんだなっ! よくも俺の女たちに手を出したなっ! この下種野郎があああ」
「否定はできない。せめてお前より皆に認められるようがんばるよ」
「ふざけるなっ!」
タクトは湧き上がる怒りで自分の心がバラバラになりそうになるのを感じた。
その衝動は憤怒。
怒りの勇者武器が発動され──
「流星一閃!」
星空を切り裂く流星がすべてを切りさいたのだった。
**
「ぐふふふふっ。感謝しますぞ、刀の勇者様。すべては儂がうまくやっておきましょう。……思ったより得られる女が少ないのは残念ですが」
ぐふりと笑いながら周りにいる女性たちをねめつける。ねっとりとした視線は夢に見そうだった。
勇者としての一撃はすべてを切り裂いた。
その瞬間、タクトが勇者器を縛っていた契約も切れたのか、鞭を含めて武器はどこかへと飛んで行った。
残ったのは”勇者に成りすましていた者”という現実だけだ。
「くそっ、こんな、こんなはずがっ!」
取り押さえられたタクトは、すぐさまレベルダウンの儀式をもって力も奪われている。
もはや勇者として鍛えていた力すらない。
勇者器さえあればその分の降り直しと、一日もレベル上げをする時間があれば城の兵士など相手にならない強さを得られるだろうが、レベル1は1なのである。
ユウにとってはか細い手錠や足かせであっても、タクトにとっては逃れられない拘束になるのだ。
「な、なぜ私たちまで! おのれっ!」
シルトフリーデンの代表、アオタツ種族長のネリシェンなどの、ごく一部のタクト自体にほれ込んでいた面々はタクトを救い出そうと動いたことで、一緒に取り押さえられていた。
ユウは彼らと同じように拘束されているエリーに声をかける。
「……なんのようですか」
「タクトを裏切る気は?」
一部背中から裏切るっ、裏切るから私を助けろ! という声が聞こえるがユウは無視する。
エリーはその言葉にふんと鼻を鳴らす。
「信じてもらえなくても、私にとって勇者はタクト様だけ」
その言葉にユウは彼女を寝返らせることができないことを悟った。
そしてその言葉に感じ入る男が一人いた。
「エリー……! お前は、本当に……!」
「ええ、死ぬまで、いえ、死んでもお慕いしてます……タクトさま……!」
真に思う心を向けられているところを見るとただでさえ恋しかったが、ラフタリアたちの顔が見たくなってくる。
だがそこには水を差す男がいた。
「ぐふふふふ。美しい愛だな」
「……じゃあっ!?」
ニマニマという言葉がこの世で一番似合っている豚王の笑みに、一縷の望みを抱くタクト。
しかし、この男がそういう人間ではないだろうことは感じていた。
「ああ。こんな女に子供を産ませたらさぞ気持ちいいだろう。タクト。おまえにも存分に見せてやろう」
絶望に崩れ落ちるタクト。大切なものを見つけたからこそなおさらなのだろう。
「ああ、気持ちはわかるぞ。今初めてお前に共感している。儂も先代に好きな女、あこがれた女を取られたものだ。もっとも奪い返して目の前で抱き殺してやったものだが。なに、悲しみもまたいいスパイスになる。お前と儂のな」
長く楽しませてくれとぐっふっふと笑いながら王は兵士に指示をする。彼らはタクトやエリーを運んでゆく。
抵抗できる力のない彼らにとってはこれから抜け出ることのできない地獄が始まるのだろう。
だが、それすらも戦争によって舞い散る血や悲しみを思えば軽いものなのかもしれない。
「ぴいぴい」
気分が落ち込みそうになる中、部屋に置いてきたはずのサクラがやってきていた。
どうやら心配してきてくれたらしい。抱え上げると体をほほにこすりつけてくる。
ふわふわの感触はささくれた心をいやすようだった。
……しかし、目を離したすきにだいぶ重くなったような……?
たくと「しんじつの あいを てにいれた!」
ぶたおう「もらって ゆくぞ! グフフ」
はたして豚王さんは奴隷商人みたいに仲間にしていい人材なのだろうか……。
マインをビッチ、王様をクズ! となずけていた処刑に悩むかわいい尚文は
このころにはもういなくなってましたねー。
まあ、仲間を殺しているのでしょうがないですけども。