「これで……本当に良かったのでしょうか、尚文様」
「ああ。悪いな、女王のあんたの助けが得られたおかげで露払いができる」
尚文は大きくため息をついた。
もはやあとには引けない。
メルロマルク国王が座っていた王座にドサリと腰を下ろす。
女王は悲しそうにその様子を見ている。
その隣に寄り添った国王はどこかいまいましそうに、けれどしっかりと口を閉じていた。
「神ですか……」
「神だ。ユウですら相手にならない存在だと俺は確信した。これしかない。それよりあんたは良かったのか?」
「この身は生まれた時から王として国家、世界に捧げられています。全人口の2/3の命を捧げて世界を守るなどとても許容できません」
この世界ははるか昔から女神に目をつけられていて、波による世界融合現象の段階を進めることで、女神本人がこの世界に降臨でき、その瞬間世界を食われてしまう。
それを防ぐために世界に用意された防衛機能こそが霊亀を含めた四霊であり、この四霊に全人口の2/3の命を捧げることで世界にはバリアが張られ、この世界は守られる。
大きな犠牲だ。
そこに女神は提案をしてきた。
勇を殺し、その魂で代用ができると。
女神本人もそうなれば世界を諦めるといっていた。
たった一人の犠牲で世界は救われるのだ。
「たった一人の犠牲だ……」
女神の力に尚文は勝てないと思ってしまった。
勝負の次元にないのだと理解してしまった。
そしてなにより、尚文には守らないといけないものがすでに多くなりすぎていた。
愛する妻、生まれてくる子供。自分を慕ってくれる領民。
信頼してくれる仲間、交流して情を覚えた兵士たち。
運営にあれやこれやと手を貸してくれた裏のパートナーのような女王。
尚文はすべてを守るのだと勇者でいることができなかった。
命より大切なものができてしまった。
「女神は糞だ。信頼できない」
世界を食らう女神メディアも信仰心を得るためにあえて世界を荒廃させる女神も。
だから尚文は立ち上がることにしたのだ。
勇は恐ろしく強い。しかし、女神ほど絶対的な差ではない。
「本当にこの盾は有効なんだな?」
「女神が言うにはそうだね」
王座に向かって歩いてくる二人に語りかける。
投擲具の勇者とフィロリアルクイーンであるフィトリアだ。
茅野上紬は戦いの始まりが待ち遠しいとばかりに嬉しそうに、フィトリアはどことなく冷たい表情をこちらに向けている。
紬の嬉しそうな表情に尚文は吐き気を感じた。
こいつの策略により尚文はこうせざるを得ななったのだから。
女神の尖兵らしく糞のような存在だったがそれでも今は利用するしかないのが現状だった。
「その聖杯は勇者たちが力を合わせて女神に立ち向かうためのもの」
「そうかもね。でも、一人二人の四聖が向けたところで女神様相手にはおそらく有効打にすらならない。ちょっと痛いなって程度さ。すべての四聖勇者と八星勇者が揃い、全員が強化法を共有し、龍帝の援助を受けて限界を突破、それを二世界分。そうしたら命の危険をほんの僅かでも女神様に感じさせれたかも……しれない」
「だからフィトリアは勇者は仲良くしなきゃいけないって言っていた」
もしかしたら全員が協力して女神と戦う未来もあったかもしれない。
だが、だとしたら誰も彼もが最悪だった。
情報は女神の端末によって失われ、現地に配置された分体や転生者によって各組織は絡め取られ荒らされつくされている。
勇者は真に一つになることができない。
「……今更だ。その勇者の殆どが女神の手のものなんだからな。俺が来る前から負けてたんだ。引き分けに持ち込めるだけだいぶマシだ」
0の盾を掲げる。
神を打ち倒す0シリーズ。
盾のステータスを確認する。
0の盾(覚醒) 0/0 -
能力未解放……装備ボーナス、スキル『0の盾』
専用効果 理の審判者 世界の守り手
熟練度 78
もっとわかりやすく書けと盾の精霊に言ってやりたい。
しかし、世界の守り手として神に対する対抗手段は勇にも効くらしい。
有効打のなかった勇への対抗手段ができたということだ。
投擲具の勇者は私怨で、馬車の勇者のフィトリアは俺の選択を尊重して共に来ている。
女王とそして杖の勇者の国王は王としての責務と俺が勝者になったときの娘の助命を条件に共に戦うことを誓った。
「かならず勝つ。未来を愛するものへ」
リファナは領地のものに言い含めて隠れ家においてきている。
妊婦が戦いに参加すべきではない。
領民も……無駄に抵抗するなとしている。
戦力は限定的だ。
けれど、勝つ。かならず勝つ。
勇は悪いやつじゃなかった。
女にはだらしがなかったが、唯一尚文を助けてくれる勇者だった。
作った食事を毎回美味しそうに食べてくれるやつだった。
弟より年下の少年だった。
「それでも、死ねない……誰にも俺の大切なものを奪わせない」
この国に来て差別をされていたとき以上にどす黒くなってしまった瞳。
その奥に憤怒の炎を燃やす。
戦いは不可避だった。
なかなか更新できずすみません・・・。