ユウは今更になって体が震えているのに気づいた。
今までは正直、尚文は馬鹿なことをしたなあ、とそのくらいでしかなかった。
けれど尚文は知っているのだ。いや、ビッチ女神の使いが四聖勇者の欠けを理由に尚文を惑わせたのかもしれない。
絆の世界の四聖勇者はかけた。
すなわち、この世界の四聖も減らさないとバランスが取れない。
誰かを殺さなければならない。
ユウには決められなかった。
けれど、世界は勇にこそ決断を求めるだろう。
『誰を殺すか』
ユウが味方をすればその相手には勝てないのだから、結局のところ、ユウが選んだものが死ぬことになるのだ。
尚文はわかっていて反乱を起こしたのだろうか。
殺される理由を作るために。
ユウは勇者ではあったが、それでも人を殺す一線を超えられないままだった。
魔王を殺したことはその一線を超えたことにもなるが、だからこそそれ以上に超えることができなかった。
世界中の誰もが殺してもいいという盗賊だって殺せなかった。
友人でもあった尚文を自分は殺せるのだろうか。
殺さないでいたときの天秤は世界だった。
あまりにも重すぎた。
どう考えても尚文を殺さない理由がなかった。
「うっ、うっ、ぐ、うう……」
尚文は善性の人だった。
人に優しくできる人だった。
やさぐれていても、ユウに優しくしてくれる人だった。
料理は美味しく、気遣いは心地よかった。
一生懸命で自分より生きている人だった。
尚文を殺したくはない。
ーーじゃあ誰を変わりに殺す?
ユウは八星勇者で四聖ではないのだ。だから自分が代わりになることはできない。
元康も錬も樹も、誰もがさほど悪い人間ではなかった。
調子に乗っていても、空回りしていたとしても、善性の人間に間違いなかった。
正直、女に溺れていた自分より遥かに立派だった。
殺すほどの死ななければいけない人間ではなかった。
あらゆる状況は【革命を起こし国を乗っ取った悪い勇者尚文】を殺せと告げていた。
ユウは誰よりも強かった。
だからこそ自分が殺すことになるとわかっていた。
気分が悪い。夢に逃げたい。
けれども吐き気がして眠れなかった。
それに眠れば戦わなければいけない。
それまでになんとか納得しなければいけないのだ。
でも、ーーけど……
脳内での自分たちの口論は永遠に終わらなかった。
「ユウ様、入ります」
テントに入ってきたのはラフタリアだった。
ユウのうめき声以外何も聞こえないテントの中、その声は静かに凛と響いた。
ラフタリアは返事も聞かずに入ってくる。
「ユウ様」
どうしたの。そんな言葉も返せず、テントの中で一人ミノムシのように丸まっているユウに、ラフタリアはそっと寄り添う。
「リファナちゃんに恨まれようと……尚文様は私が倒します」
そう告げる。驚き毛布から跳ねるように体を起こし、ラフタリアを見つめる。
「盾の勇者は私が殺します。ユウ様は手を出さないでください。私がやります」
リファナは尚文の恋人で妻であった。
そしてラフタリアの親友だった。
誰より、どこか自分より幸せになって欲しいと願っているようだった親友の大切な人を奪うというのだ。
「リファナちゃんには恨まれると思います。嫌われると思います。友達じゃないって言われるかもしれません。でもーー」
ラフタリアはユウの手を取った。
「ユウ様は人を殺したくないって思っているのは知っています。だから……私が、盾の勇者様を……」
言ってはいけない言いたくない言葉を絞り出すように、けれどはっきり覚悟の言葉を口にする。
「ナオフミ様を殺します」
ラフタリアは笑って答えた。
その気持ちにすがりたくなった。
けれど気付いてしまった。
どこか歪なその笑顔に。
盾の勇者は亜人の味方の勇者で、親友の旦那で、一緒に旅をした仲間で。
自分と同等かそれ以上に殺したいだなんて思っていないのに、自分を愛してくれる相手に押し付けるのか。
殺しは、ユウにとって超えたくない一線だった。
人であった魔王を殺してしまったからこそやりたくなかった。
「ラフタリアに、愛する女にそんなことをさせられないよ」
毛布を剥ぎ取ってラフタリアの目を見て答えます。
ラフタリアの手をそっと握るが、その手はプルプルと震えており、顔色は悪いままで冷や汗がだらだらと流れている。
腰は引け、どこか情けなさが見えていただろう。それでもユウは答えた。
「でも、いっしょにいてもらっていい……?」
プルプル震える手を包むようにラフタリアの手が重なりました。
「私はユウ様の剣。あなたのいるところが私のいるところです」
**
口にした瞬間に嘔吐してしまいそうだった。
盾の勇者様は私達の村の、亜人たちにとっていっそ信仰対象に近い存在だった。
なにかあっても、きっと盾の勇者様が助けに来てくれますよ。
夜を怖がる子どもたちの心を慰める定番だった。
だからこそ、ラフタリアにとってはどこかおとぎ話の英雄だったが、親友のリファナに取っては実在する偶像だった。
その思いはどこまでも貫かれ、本物の盾の勇者であるナオフミ様にもしっかり向けられ、惚れ込んだ、あるいは惚れ直した、という感じであっという間に恋仲になってしまったようだ。
だから子供ができたかもしれないというリファナに素直に喜んだ。
(良かったね、リファナちゃん)
同じく勇者の子をお腹に宿したメルさんは羨ましい存在だったが、私はユウ様の隣に立って戦いたいと思っていた。
子供ができたらそれが果たせなくなる。
それでもいつかきっと、そう思っていた。
ナオフミ様が敵になったと知ってもユウ様は軽かった。
ユウ様は強い。四聖勇者であってもの簡単に倒せてしまうことは証明済みだった。
けれど、殺さないといけないとなった瞬間に、顔色が一気に悪くなった。
周りの、それこそ勇者以外の者にとっては反乱を起こしたナオフミ様を止めることも、殺して四聖勇者様の数を合わせることも対して違いがないようだった。
国家に対する反逆なのだから、それはそうだろう。
けど、ユウ様には違うようだった。
今にも死にそうな顔でふらふらとテントに戻ってゆくユウ様。
「なにか病気でしょうか?」
そう不思議がるリーシアさん。
それはそうだ、クーデターを止めるという話にはなんともなかったのだから。
けれど、一緒に盗賊を退治したりと一緒にいた私にはわかっていた。
ユウ様にとっては違ったのだと。
だからこそ、私がやろうと決めたのだった。
誰よりも強いユウ様の心を守ろうと。
忙しかったりテンションが上がらなかったりしているうちに数ヶ月が!
エタらないつもりなので気長に応援お願いします……
盾の勇者リライズアプリが盛り下がっており、あとは運営費下回るまで適当に延命するかーってなっててテンション下がったりとか色々……。