「こちらですよ勇者様方」
ウキウキするように先を歩く奴隷商。
恰幅のいい彼は尚文を一目見ると気に入ってしまったようで、あれこれと声をかけている。
正直、職人というか、仕事に牛耳をもつ男性に好かれたことがないので、そこは羨ましい。
「あなたは良いお客になる資質をお持ちだ。良い意味でも悪い意味でも」
この手の文句で悪い意味を含むのを見たことがない。
尚文は中年に好かれることに煩わしそうにしているが。
奴隷商に案内されたのはサーカスのような巨大なテントの中だった。人の匂いと獣の匂いが鼻につく。
店内の照明は薄暗く、仄かに腐敗臭すら臭う。
鼻をつまむが、尚文は我関せずとばかりにずんずんと先を進んでゆく。
「さて、こちらが当店でオススメの奴隷です」
見せられたのは人形の狼。グウウと唸り、目には怒りが見える。
鋭い爪や牙が見えている。
「ドラゴンとも戦えそうなくらい? 足と腕が悪そうかな?」
バリバリの獣という感じで、レベルの面では前線に立てるだろうが、まともに指示を聞くのだろうか?
「下がりなさい」
奴隷商が命じると同時に檻の中に居る狼男の胸に刻まれている魔法陣が光り輝いた。
「ガアアア! キャインキャイン!」
狼男は胸を押さえて苦しみだしたかと思うと悶絶して転げまわる。
もう一度、奴隷商がパチンと鳴らすと狼男の胸に輝く魔法陣は輝きを弱めて消えた。
なるほど。レベルがどうであれ、相応に痛みが走るのであれば、十分使える。特にルールに違反すると主がいなくても痛むのであればなおさらだ。
「中々便利な魔法のようだな」
金を積んで彼を買おうか、と尚文に告げるが、俺の金で買う。権利は俺だけだと断られてしまう。
シェアする気はなかったので、金は貸すのに、と思ったが、自分の財産とすることも、彼の気持ちを守るものなのだろう。
裏切らない、自分だけのなにか。
家族とも、世界とも離れて周りから虐げられる中、尚文は縋るものを求めているようだった。
「さて、一番の商品は見てもらいました。お客様はどのような奴隷がお好みで?」
「安い奴でまだ壊れていないのが良いな」
「となると戦闘向きや肉体労働向きではなくなりますが? 噂では……」
「俺はやっていない!」
怒りの声。ほんとにやってないんだろうな。
けれど、奴隷商は意に介した様子もない。
「ふふふ、私としてはどちらでも良いのです、ではどのような奴隷がお好みです?」
「変に家庭向きも困る。性奴隷なんて以ての外だ」
「ふむ……噂とは異なる様子ですね勇者様」
「……俺はやってない」
「今の手持ちは少ない様子。LVが低く、些か愛玩用にも劣りますがよろしいですか?」
「戦力が欲しいなら育てる」
「……面白い返答ですな。人を信じておりませんのに」
「奴隷は人じゃないんだろ? 物を育てるなら盾と変わらない。裏切らないのなら育てるさ」
「これはしてやられましたな」
実際、レベル上げなら俺がいる。それを考えればレベルが高い身体障害持ちよりはレベルが低くて安い奴隷のほうが現状では良いだろう。
しかし。ちらりと周りを見ればいろんな獣人がいるが、エルフのような絶世の美少女はいない。
色んな耳や尻尾、獣そのままの人間が多い。
ケモミミ、ケモ尻尾くらいはともかく、完全な獣は抱く気にならない。それにやはり、着飾ってない奴隷たちは美人に見えない。
だんだんやる気が無くなってきて、匂いもあって、早く買っちゃわないかなーと思ってきた。
そのまま、檻がずっと続く小屋の中を歩かされること数分。
ギャーギャーと騒がしい区域を抜けると、今度はビービーとうるさくなってきた。
不意に視線を向けると小汚い子供や老人の亜人が檻で暗い顔をしている。泣いているものもいるようだった。
そしてしばらく歩いた先で奴隷商は足を止めた。
「ここが勇者様に提供できる最低ラインの奴隷ですな」
案内された先には四人の奴隷がいた。うさぎの耳の男。丸みを帯びた耳と太いしっぽを持つ10歳くらいの少女。同じ年くらいの薄茶の髪色に猫みたいな細長い尻尾を持つ少女。最後に妙に殺気を放つ、目が逝っているリザードマン。
「左から遺伝病のラビット種、パニックと病を患ったラクーン種、ンテ・ジムナ種、雑種のリザードマンです」
反応はそれぞれだった。ラビットは微塵も動かず、ラクーン種は絶望に染まった顔をしてヒッと一歩下がり、リザードマンは怒りに鉄格子を掴んだ。
そして、ンテ・ジムナ種……イタチ? の少女は尚文の何かを見て、迷いながら一歩前に出た。
その態度と、マイナスの情報がなかったからだろう。尚文はイタチの少女の前に出る。しげしげと彼女を見る。
ガリガリに痩せており、顔と体にムチのあとがくっきり残っている。もとは可愛らしかったのだろうと思うが、値段を聞くとずいぶん安い。
「いはやは。生きる気力を失っており、ろくに動きません。まあ、他よりはマシですが」
じっと彼女は尚文のどこかを見つめ続けている。そこにはどこか希望の色があった。もしかしたらという希望だ。なにに? それはわからないが、周りに、街中に避難されながらも、誤解が解ければもしかしたらと思っている尚文と重なるところがあったのだろう。
尚文は彼女を選ぶことにしたようだった。
「じゃあ、この奴隷を買うとしよう」
「なんとも素敵な笑みに私も大満足でございますよ」
「あっ……」
彼女は檻を出される瞬間、ラクーン種という隣にいたたぬき少女を見て声を出す。隣同士もしかしたら仲が良かったのだろうか。
「おい、勇。お前も買え。隣のやつだ」
「ええっ!?」
正直、親子、姉妹で幼い少女を抱いたことがあるので、別にこの年でも手を出せないでもなかったが、きついだけのツルンとした膣が多いのでいうほど気持ちよくない。
柔らかい胸も体もないこの年頃は総じてつまらない相手だった。
「俺だけが奴隷を買えばそれ見たことかと責めるかもしれないだろ? それに、パーティーは最大6名まで登録できるんだ。俺たちで4人。全然問題ないはずだ」
「え、え~。わかったよ」
イタチ少女はどこか安心したように息を吐いたが、たぬき少女は怯えて震えるばかり。レベルも低いし、パニック症らしい。
近づくと、匂いもきつい。
洗ってない犬の匂い、どころではない。浮浪者とかの、近くを通っただけなのに延々と空気中に残り続ける臭いの強さだ。
こんなとき、能力が高く、鼻もいいのを呪う。
奴隷商は人を呼び、インクの入った壷を持ってこさせる。
そして小皿にインクを移したかと思うと俺に向けて差し出す。
「さあ勇者様、少量の血をお分けください。そうすれば奴隷登録は終了し、この奴隷は勇者様の物です」
「なるほどね」
2つの小皿に、俺と尚文でナイフで切って血を垂らす。
「《小回復》」
刃物でちょっぴり切っただけだが、ジンジン痛みはあるので、サクッと直す。
尚文は礼もなく、それどころか治ったことに気づいてもいないみたいだ。
まあ、奴隷証が胸の紋章にインクを塗りたくった瞬間に文様が光り、奴隷たちが悲鳴を上げたので、そちらに釣られたのだろう。しょうがない。
奴隷を獲得しました。
使役による条件設定を開示します。
奴隷は勇者のシステムにも組み込まれているらしい。
ははあ。
説明を受け、同行者設定や嘘をつけないなどの項目にチェックを入れてゆく。
「これでこの奴隷は勇者様の物です。では料金を」
「あ、さっきのインク、譲ってもらえる?」
「え、ええ」
刀に吸わせるとスー……と刀がインクを吸い込んだ。
奴隷使いの刀の条件が解放されました。
奴隷使いの刀Ⅱの条件が解放されました。
奴隷使いの刀
能力未解放……装備ボーナス、奴隷成長補正(小)
ふむ。コレは低レベル奴隷はお得かも?
尚文にも渡すと、同種の盾が開放できたようだ。
髪、爪、……血肉、骨。
もしかしたら色々取得できるかもしれない。
奴隷商に金を渡すと、掃除したあとのゴミで良かったらと思わず吐きそうな汚物入れを指さされた。
尚文は俺はいらない、と言ってたが、もし奴隷使いの刀Ⅲが出るかもしれないと考えたら。
「《嗅覚一時無効》」
奴隷使いの刀Ⅱ
能力未解放……装備ボーナス、奴隷ステータス補正(小)
奴隷使いの刀Ⅲ
能力未解放……装備ボーナス、奴隷成長補正(中)
よし、やった!
ガッツポーズを浮かべている横で、尚文はイタチ少女から髪の毛を数本抜いてⅡを開放していた。くっ、一段回上だしっ!
しかし、嗅覚が戻ってから自分からも凄まじい臭いがすることに気づいた瞬間に後悔した。
勇者に望みを持ち続けたリファナは尚文の盾を見て、もしかしてと思い前に出て、またひどい目に会うと絶望しているラフタリアは下がってしまったのでリファナが尚文に選ばれました。
まあ、リファナが選ばれるのは最初から決まってるんですけどね! でも、絶望しきってはいない希望を持っている尚文なので、絶望で動けないラフタリアではなく、進んで役に立ちそうなリファナを選んだという感じです。
積まれた折の中に入っている奴隷とか絶対臭い……。
濃厚なけものしゅう幼女ふたりをゲットした。