「ようやくだ」
くふふ。投擲具の勇者であるツムギは彼が開けるであろう大きな扉を見つめる。
その先にいるであろう憎い男との戦いを思い浮かべながら。
ツムギとユウは同じ世界で生きてきた人間同士である。
そしてその住まいの生活域もまた非常に近い者同士であった。
年が近かろうが、住まいが近かろうがユウがただの中学生をしていれば二人の運命は重なり合うことはなかっただろう。
しかし、ユウは勇者として異世界に召喚され、女狂いになって戻ってきた。
手当たり次第に女を口説いて、同い年だろうが年上だろうが構わず食べてしまう彼の生活は非常に近い年月で簡単に重なり合うことになった。
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ツムギは素敵な家庭に生まれて14年間今まで生きてきた。
それなりに大きな会社の社長である父、美人の母、評判の姉。
母親は口うるさかったが、昔野球で甲子園に行ったこともあるという父は細身でこそあれしっかりとした体つきをしており、一度社会見学として会社に行ったときはそれはもうかっこよく部下に指示を飛ばしており尊敬している。
3つ上の姉は常に自分の先を歩いていて目標と言ってもいい相手だった。
いつでも誰にでも自慢のできる人たちだった。
勝ち組、と言っていい環境。恵まれた生活。
そのはずだ。
……なのに、一人の人間に壊された。
海道勇。あいつの仕業だ。
深く深く思い出せばそういえば小学生年少の頃に同じクラスだったこともあった……きがする。
なにせ母が小学生のアルバムを引っ張り出して姉と騒いでいるところを聞いたことがあるから。
多分あいつはただのガキだった。サッカーをすれば全力でボールだけを追って走ったし、宿題こそしっかりやってくるものの、教師にさされるとわからないときは情けなく周りに視線で助けを求めた。
落ち込んでる子にちょっと声をかけたりといいところもないでもない、普通の男だった。
生活圏が同じである以上、中学も多分一緒だった。
だが全く記憶に無いのできっと同じクラスになったことは一度もないのだろう。
口を利いた覚えもない、全く無関係の相手。
幼なじみともいえない、ただの他人。
ただ、いつなんてわからないけど、あいつは変わったらしい。
テストは満点、体育では周りを突き放したプレー。
ひと目で分かる輝いた雰囲気と、比例するように瞳の奥には影がさしており、放っておけない雰囲気がある、らしかった。
そのせいかクラスどころか学校中から人気になっていた。
正直なところ同い年の何がいいのだろうかと全く共感もできずに流していた。
遠い世界でアイドルが何人いようと生活に関係ないようにあいつはその程度の相手だった。
他人が学校の人気者になろうが毎日違う女と歩いてようがどうでも良かった。
……相手が、僕の母と姉でなければ。
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家族はあっけなく壊れた。
母が、姉が男と歩いていたと、ホテルへ行ったようだと僕がそう父に告げたせいだ。
僕は止めてほしかったのだ。
取り返しはつくと思っていた。子供と同じ年の男にハマってしまったなんてみっともないし裏切りだ。
母と姉で同じ男を取り合うなんてなんて悪夢だ。
だから、元に戻してほしかったのだ。
母に対していつも笑顔で怒鳴ったこともない穏やかな父は母を問い詰め真実ですと返した瞬間に火山が噴火したように怒り狂った。
血走った目を母に向けた。
嘘をつくな、ふざけるなと問いただすと母はなんてことないように離婚届を差し出した。
記入済みのそれは最初からそのつもりだと語っていた。
父は真っ青になると崩れ落ちてしまった。
だから僕は父にかけより、励ますように崩れ落ち小さくなってしまった父の肩を抱いて母を睨んだ。
「裏切り者! 売女!! 子供と同じ年の男なんて恥ずかしくないの!!」
「言い訳はしないわ。今からあの頃に戻れてもきっと同じように誘いに乗るもの」
「お父さんの何が不満なんだ!!」
「たくさんあるわ。子供の前で言わなかった、出さなかっただけでね。
そんなとき、彼と出会って、彼は言ったの。
『俺とあなたは似てる気がしますね』
って。中学生の男の子とおばさんが似てるはずなんてないのにね。
なんだかふらふらとついていっちゃって、でもその日から生き返ったみたい。ちゃんと息ができるようになったの。
私死にたくないの。情けない母親でごめんなさいね。お父さんと仲良くね」
唖然とする僕と父をそのまま置いて、きれいに処理を済ませて、我に返ったときには母も姉も家に帰ってこなくなった。
いつまで待っても。
そりゃそうだ。離婚して姉は引き取られていったのだから返ってくるはずがない。
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変わった生活はけれどなれるものだ。
母がいなくなって崩れかけた生活を支えたいと僕は母の代わりをしだした。
料理を作り、掃除をして、父の服を用意し、夜な夜な涙する父を慰めた。
酒を口にしたのはその日が初めてだろうか。
暗い気持ちが少し晴れるようだった。
そうして僕は一人生活に適応したつもりだったが、父はそうではなかった。
あの瞬間、父の完璧な生活は壊れていたのだ。
そして誰が周りにいようと全く直ってないのだ。
**
父はやってしまった。
家族が去ることに恐怖して失わない方法を考えついてしまったのだろう。
それがこれだ。
ソファーに座る僕。
そんな僕の目の前には父に抱かれる髪の長い少女が見えていた。
その相手は今の僕と髪の長さくらいしか差がない相手だ。
『おとう……さん、やめ、てぇ』
少女の声は父には届かない。
壊れた父には聞き取る事ができないのだ。
父と比べれば小さな体。覆いかぶされ、体重をかけられてしまえば逃げるすべなんてない。
ずっぷりと差し込まれた肉棒は血と愛液で汚らしく汚れている。
けがわらしい。汚い。
足を広げたその姿はカエルのようだった・
『たすけてぇ……いたいの、やめて、お父さん、たすけて、おかあさん……』
「母さんが助けてなんてくれるはずないのにな。いや、戻ってくれば助けられるかもな」
「ひっ」
眼の前の惨状を見せつけてきた父は僕の隣にそっと腰を下ろすと耳元でささやく。
取り戻してこいというのだろうか。
けれども家を出た母と姉がどこにいるかも知らないのだ。
ラインも電話も母に直接するのは気恥ずかしくて登録すらしていない。
用事があっても姉を介して連絡していた。
姉が教えてくれないなら僕には知るすべがないのだ。
父はソファーから腰を上げる。
音量を上げてこういった。
『お母さんが戻るまではお前が代わりを務めるんだ』
「いつもどってくるんだろうな」
「音を上げてすぐもどってくるよ……」
夜までに戻ってくるといいなと父は部屋を出ていく。
僕は固まってしまい動けなかった。
眼の前の少女はうめき声を上げる。
たっぷりと中に出された白い液体がだくだくと流れ落ちた。
生臭い匂いがするような気がした。
「ーーあいつさえいなければ」
しっかり準備して出ていった母がすぐ戻るはずなんてないのだ。
一生戻らないかもしれないのだ。
じゃあ、このまま一生父は壊れたままなのだろうか。
家は、家族はもう戻らないのだろうか。
あの理想的な家族は。
「ーーあいつさえいなければ」
二度つぶやく。
本来誰も聞くはずのないこの言葉は届いた。
「あなたの切なる願い。聞き届けました」
美の極致にあるような汚れのないその御姿に涙が流れる。
脳がパンクしそうなほどに神々しい。
「ああ、なんて偉大なお方」
地獄に女神。
僕はそれが悪魔であっても手を取っただろうが。
「生活を壊した男を壊したい。あいつさえいなくなれば私をおいていった母も姉も戻ってくるんだから」
殺してやる。
あの素晴らしい生活、素晴らしい父、素晴らしい姉。素晴らしい母。
素晴らしい自分の生活。
なぜ裏切ったのかなんて考えず原因さえ取り除けば戻ると信じて手を取った。
更新止まってからもちょいちょい書いて書きためはあるんですけど、なんとなく更新できない症状はなんていうんでしょうかねー。