「来たな。ついに、ついにこのときが。待っていた、待っていたぞ……!」
転移初日に王の前に並んだことを思い出す。
王座の前には盾の勇者である尚文、フィトリア、そしてもうひとり……
あいてはこちらに憎悪の目を向ける。
そういう目を向けられるのはだいぶ久しぶりに感じる。
不特定多数に手をだしていたため、好きだった女を取られた男から多数頂いたものだった。
だが相手から向けられたものは比較してみると彼らとは一致しないものだった。
「恨まれているみたいだけど誰?」
「ふっ、はは、知りもしないと。そうだろうな、僕にとっては唯一の家族であっても、お前にとっては複数の女の一人二人だもんな。知るがいい。茅野上紬の名を! お前に母と姉を奪われた人間だ! お前に人生を壊された人間だ! 地獄に落ちろっ!」
ぎりりと奥歯を噛み砕きそうな音が静かな王座の間に広がる。
全く覚えがなかったが、名前を聞いて、目の前の相手の顔を見て思い出す。
「ああ、あの人の娘であの子の妹ちゃんか。俺と小学校同じなんだっけ? 久しぶり」
「うるさい、死ねっ!」
眼の前の彼女は聞く耳を持たない用だ。
そう、彼女。
ボーイッシュな格好をしておりどうにも男の子に見えるように衣装を選んでいるようだったが、彼女だ。
だいぶ恨まれているらしい。
「お前がいなければ!」
「そんなことないよ」
戦いは合図もなく始まる。
しかし彼女だけにまずは相手をさせるつもりなのか、尚文はこちらをクズを見るような冷たい目で見るだけで何も口を開かなかった。
一方的に言われるままだがこちらも言い分はある。
「お母さん悩んでたよ? 朝の挨拶をろくに返さない、作ったお弁当は食べられてない、連絡だってつながらない。うるさいババアとか言われ続けて、自分の居場所がわからないって」
子供にとって親は何しても愛してくれる相手だったとしても、親も人間なのだ。
虐げられ続けて何も思わないわけではない。
「それは、それは」
「でも女として見られて自信がついたって。娘と愛を競い合ううちに誰よりも仲良くなれたって。まあ、勝手に前向きになって俺がいなくても大丈夫になって元気で二人……もしかしたらもうちょっと多いかもしれないけど頑張るわって言われちゃったけど」
「それはっ、でも家族を、僕を捨てていい理由になんてならないっ!」
「もう一人の娘は父親にしか懐いていないから任せることにするって聞いたけど」
「父はお前に頭ぶち壊されて、ぶち壊されているんだよおおォ。娘を
怒りに任せた連撃。投擲具の勇者らしく苦無が流星のように降り注ぐ。
ステータス任せの攻撃は逸らすにたやすく、けれども腕に鈍く衝撃を残した。
(こちらに十分迫ってる)
絆の世界を荒らすに荒らした成果だろう。
盾の勇者と意思をともにしており、勇者武器に認められ、強化法をフルに利用できていることも大きいだろう。
魔王の生み出す魔物の軍勢を相手にしていたユウは多種多様の相手を対処するのに長けているが、逆に味方である人間を相手にする経験に浅く、尚文を殺さねばと思っていても、人を殺したくない気持ちが出ており、連撃を打ち払っての一撃はやや浅く軽く対処されてしまった。
だがこれで確信する。
絆の世界を荒らし、四聖を殺したのはこいつで間違いない。
尚文と並ぶ倒さねばならない相手だ。
深く息を吐いた。
彼女の家庭はユウがいなくてもいずれ崩れてしまっていただろう。
だがそれは崩した本人が言っていいことではないかもしれない。いやないだろう。
だが、日本に戻り法廷の場にでろ、罪を償えとそう言うならともかく、彼女は復讐のためと言いながら多くの人を殺し、世界の危機をまねこうとしている。
ユウにはすでに守りたいものがあるのだ。
どんなに自分勝手であると言われたとしてもそのために戦わなければいけない。
覚悟を決めた。
「しねっ。必殺技だっ!」
これまでを遥かに超える力が彼女の手に収束していく。
強力な一撃が来る。
「《イージスの盾》!」
「それを待ってたぞっ」
彼女の手からは飴玉サイズに細分化された炎が放たれる。
展開されたイージスの盾は雨あられと降り注ぐその攻撃を防ぎ……
イージスの盾は魔法に対して無敵の手段である。
呪いを含めたあらゆる攻撃を防ぐことができ、転生者による眷属器の奪取にすら対抗できてしまう。
ただ、その反面デメリットがあり、消した魔法の10倍の魔力を消費すること、例えば火球を5発撃つ魔法の場合、一回の魔力ではなく、消した分魔力を要求されることである。
なので耐久には全く向いておらず基本的には初見殺しを防ぐための魔法である。
しかし、彼女はこの魔法を知っていた。
そして尚文や女神の助けをもってその性質も理解していた。
それゆえに最下級のファイヤを魔力消費量だけ上げて乱れ撃つ魔法を開発して放ったのである。
ただの火球を雨あられと打ち出すだけの術だったが10倍消費の魔法を更に雨あられと受けたことで穴の空いたバケツのように魔力が消耗されていく。ただ、イージスで受けたのはほんの短い時間だった。
盾を消してこの程度ならダメージにもならないと見きって身体能力の強化だけで突撃する。
「アドバンテージ発生だなあっ!」
彼女もまた低級魔法ではダメージにもならないことを理解し、炎の雨は止んだ。
「シャドウエッジ!」
彼女の腰の周りをくるくると黒色の刃が回る。
だがユウの歴戦の嗅覚が告げている。
力の込められた見せ刃とは別に魔力だけで感じられる真の刃があると。
襲いかかる刃。見える刃はたやすくても感じ取りづらい刃を打ち払うのには慎重にならざるを得ない。
さらに同時に本人もまたナイフを抱えてドスのように体ごと突っ込むように走ってくる。
確実にダメージを受ける状況にユウはあえて前に出た。
この世界と前の世界の二重バフを掛けたうえで、彼女の腕掴み上げる。
彼女の体を回るナイフが見えるもの見えないものでユウの体を切り刻み、少なくないダメージを与えた。
けれど固く手は握られ──
抑え込まれた形になる彼女の腹部を刀で打った。
それだけで彼女の生命力ががくんと失われたのがわかる。
のたうち回る彼女。嘔吐された血色の混ざった吐瀉物が撒き散らされる。
勝敗はついただろう。
傷は魔法で自動的に癒やされてゆく。
彼女はユウに追いすがっていた。
けれど、多重にかけられたステータスアップの魔法により、致命打を与えるには攻撃力が足りなかった。
であれば上をゆくユウには勝ち目などなかったのだ。
刃には毒一つ守られていなかった。己の手で殺したいという思いが確実に殺す手を失わせていた。
殺したい思いより恨みを晴らしたい彼女の気持ちがあと一歩を埋めることができなかった。
「ちくしょう、糞、くそ、死ねっ。くそっ! 尚文っ、いつまで突っ立ってるんだ! 助けろよっ!! 僕がいなくなれば勝率がさがるぞっ!」
「そうだな。フィトリア」
「わかった。フィトリアは自分の使命を果たす。バードサンクチュアリ!」
王城全体がなにがしかの力の領域に覆われる。
自分の体への影響を考えるに範囲強化と敵の弱体化だろうか。
「エアストシールド!」
目の前に現れた盾を手で払って砕くと──
「フィトリア!」
「悪い勇者をフィトリアは許さない」
巨大な鳥の姿のフィトリアの足爪はユウではなくツムギへと振り下ろされていた。
腹が裂け、血が撒き散らされる。
「お前っ、うらぎっ」
「悪いな。お前は俺が負けたあと世界を壊すために四聖勇者殺害に動く可能性があった。俺たちのどっちが勝つにせよ世界が救われる。そうじゃないと困るんだ。恨むなら殺されても問題ない悪行を行った自分を恨め」
「死ねっ、お前も、おまえもっ! めが──」
喚く彼女の頭の上にフィトリアがその巨体で飛びかかり──果物を砕くように彼女の頭は弾けた。
反射で目をつむってしまう。
尚文からすればそれは大きな隙だっただろうが、攻撃は来なかった。
頭のくだけた遺体に、ユウは吐き気より安堵を覚えた。
そしてそれが自分が手にかけなくていいことだと気づいて落ち込む。
手を汚さずに住んだなんて。
目の前にいる相手こそ殺す以外に方法はないというのに。
「さて、ようやく俺たちの番だな」
体についたホコリを払ったような、なんてことにない様子の尚文の目がこちらを睨んだ。
更新してほしい人がいると頑張りたい気持ちが産まれます…
なんとか完結まで行きたい