「尚文っ」
多くの感情がユウの胸をよぎった。
仲間で友人で勇者仲間で。
料理が上手でサバイバル関係まとめてさっぱりだったユウにとっては生活を支えてくれた年上の……兄貴分でもあった。
決して殺したい相手ではない。
けれど、他にないのだ。
ユウは絆の生きる世界も含めて救うことを選んだのだ。
人間の命を多く捧げてこの世界だけ助かる道も、すべてを守ると女神相手に戦いを挑む道も選ばなかった。
故にユウは両世界を救うために四聖勇者の数を合わせなければいけない。
ツムギによって殺された分この世界の四聖勇者の誰かを捧げなければいけない。
そしてその役に尚文は自分から名を挙げた。
クーデターを行うという形で皆に敵対をすることで。
ユウは苦しい選択を果たした真の勇者尚文に答えなければいけないのだ。
そう、わかっていても彼に向けた目に写る感情は違ったようだ。
「そんな顔をされる覚えはないな。……人を殺すのが嫌いなお前の肩代わりをしてやったんだぞ。浮気も家族崩壊も悪いことかもしれないが、人を沢山殺して許されることじゃない……なんて説教はこいつにも聞き入れられないだろうな」
暗に責任を問い詰められている。
ここが日本であれば土下座をして、いくらでも賠償のお金を積んで、牢にでも入ることができたかもしれない。
あのままこの世界に呼ばれず日本にいたら自分はどうしただろうか。
彼女がいきなり会いに来て俺の顔を殴ったかもしれない。
たいへん痛かっただろう。
けれど、今のユウはただの市民じゃなかった。
世界の存亡をかける一人の勇者だった。
「覚悟は決めている」
これから行うことも含め、裁かれぬ罪を背負う覚悟はしたのだ。
全ては助けたい、生きていて欲しい人達のために。
取捨選択のときはすでに終わっている。
「そうか、残念だな。ためらってもらうためにも俺が手を下したんだが」
「尚文は……なんでこんなことを……」
四聖勇者の中でも尚文の好感度は高かった。
争いになりこそすれ、最終的に選ばれるのは尚文ではなかったはずだ。
「こんなこと? 世界を救うためだ。
俺は女神を見てわかった。勝てない。でも信じられないってな。
お前がついた方の女神だって同じだ。
世界や勇者に対する扱いを考えればろくなものじゃないのは変わらない。
だったら俺はこの世界を守るため、世界を守護の防壁で囲うことを選ぶ。
本来なら世界に生きる人間2/3の生命が必要であるという縛りもお前一人の魂ですむというなら俺は飲み込む。世界に神は必要ない。大切な人たちのために、これからこの世界に生まれてくるもののために、お前が死んでくれ」
最後まで泣き言を言わず、ババを引いた、引いてくれた尚文を見る。
彼の覚悟に応えるために、せめて迷うところを見せずにいなければいけない。
「……できない!」
「ああ、だから勝負だ。お前は四聖勇者を殺して2つの世界の未来のため、俺はこの世界だけの未来のため」
ユウは静かに刀を引き抜く。
尚文の防御を超えるための攻撃力重視の武器。
子供の背丈程もありそうな、勇者の武器でもなければ引き抜けない龍鱗の大太刀を構えた。
勇者の怪力の前には重さすらしっくり来る最高の一刀であった。
苦しめない。
その気持がこの刀を選んだ。
「フィトリア。俺は選んだぞ」
「フィトリアは選択をした勇者を支える!」
フィトリアが突撃してくる。
古くからいたという勇者である彼女はステータスからして段違いである。
世界を食い荒らしても短期間であるツムギ以上の怪力が襲いかかってくく。
だがそれでも。
「《マイティーガード》」
前世の補助魔法とここの補助魔法を同時に発動させる魔法を打つ。
倍以上に伸ばす強化魔法が二重にかかる。
フィトリアもまた尚文からリベレイション・オーラをかけているだろうし、フィトリアもリベレイション・クイックをその身にかけているだろう。
だがそれもこちらの身体能力を凌駕するものではなかった。
迎え撃とうとした瞬間、エアストシールドが足元に現れる。
蹴り砕くことは可能だったろうが反射的に飛び越えると、そこを空間が覆う。
「シールドプリズン」
「メテオドライヴ!!」
コケないように飛び上がると閉じ込められる。
ユウを閉じ込めた空間ごとフィトリアに持ち上げられ、地面に叩きつけられる。
普通であれば体ごと弾けてもおかしくない衝撃だったが、さほどの痛みはない。
刀身半ばで取り込まれてしまっており、刀を振ることができないが……体は十分動く。
拳に力を込め、殴り飛ばすことでガラスを壊すようにユウを閉じ込めていた空間は割れた。
「ふつうじゃ、勝ち目はない……か」
「アレ、使おう」
「そうだな」
このときまで結局ユウにとっては戦いではなかった。
殺し合いではなく、尚文を殺すだけの儀式の舞台だった。
必死の抵抗も、だから戦いの上殺したんだとやりやすくしてくれているのだと、傲慢にも考えていたのだった。
だから彼らの抵抗は受け止める必要がある、なんて考えていたのである。
「神の盾!」
しかし、尚文にはたしかにユウを殺す手段があり……
今は戦いの場であった。