「親父、こいつらに装備を用意してやってくれ」
「あんちゃん……いや、いい。いくらくらい用意できる?」
「俺はこのくらいだ」
武器屋に顔を出すとハゲの親父さんがリファナとたぬき少女を連れた俺たちを見て絶句しながら声を絞り出す。
尚文は銀貨を十枚ほど親父さんに差し出す。
じゃあ、と同じくらいでと銀貨を俺も出した。
「国が悪いのか、それともアンタが汚れちまったのか……まあいいや、銀貨10枚だな。必要なもんは揃えてやる。獣人連れじゃ手間もかかるだろうからな」
「後は在庫処分の服とマント、まだ残ってるか?」
「……ああ、つけてやる。武器は、獣人は成長が早いが、今は軽いナイフがせいぜいだろうな」
レベルも低い彼女達が巨大な棍棒や槍を持てるとは思えない。
確かに軽い短剣がせいぜいだろう。
それでも、硬い革の服など、モンスターと戦うための装備を用意してもらい、防御力のかけらもなさそうな衣服から、冒険者見習い臭のすごい衣服に変る。
ナイフも鉄でできた切れ味の良さそうなものだ。
「まあ、ひとまずはコレでいいか……ではこれを刺して割れ」
尚文はマントの下で食いついているオレンジバルーンを二人の前に見せ付けて取り出す。
防御力のおかげで痛くはないらしいが、常に食いつかれて気分悪くならないのだろうか。
攻撃力のない尚文の考えた脅しの手段だが、雑魚なので訓練にはちょうどよい相手でもある。
ナイフを持たされて顔面蒼白のラフタリアと、どこか覚悟を決めたリファナ。
「さあ、リファナからだ」
「はい!」
短い柄を両手で握り、体当りするように突き刺す。
パンッ。
バルーンは弾け、床に皮が落ちる。
「よし。じゃあ、次はラフタリアだ」
「え……い……いや」
だが、たぬき少女のラフタリアは血の気のない真っ青な顔になって、震えている。
ナイフを手放したいと、少しでも遠ざけたいと手をひんと伸ばす。
刺すのではなく、突くように嫌がりながらバルーンに触れて……ぐあっと大きく口を開けたバルーンに飛び退く。
「おい、ユウ」
ため息を付いた尚文に使えと催促をうけた。
はあ。尚文の方と比べて不出来な相手にため息をつく。
「ラフタリア。命令だ。やれ」
胸元がひかり、苦痛の声を漏らす。
リファナが自分が受けているみたいに目をぎゅっとつむり、親父さんは深い溜め息を吐いたのが聞こえた。
「い、……いや」
ブンブンと首を振るラフタリア。
しかしラフタリアには命令を拒むと苦しむ魔法が掛けられている。
「ほら、刺さないと痛くなるのはお前だぞ。モンスターを倒すだけ。刺せば死ぬ雑魚だから大丈夫だ」
ポロポロと涙をこぼしながら、ラフタリアは強く短剣を切りつけ、バルーンを倒した。
「よし、良くやった」
尚文がリファナの頭を撫でる。
嬉しそうに笑うリファナに俺も撫でるべきかと手を上げると、ラフタリアは警戒するように飛び退いた。
……可愛くない。
「よし、どうやら戦えるようだな、行くとしよう」
満足そうにうなずく尚文とは逆に、顔をしかめている親父さん。
「……あんちゃんより、坊主のが心配だなぁ」
「別に、問題ないよ」
面倒なら誰かに預けてしまえばいい。
奴隷なんてそんなものだ。リファナのため、そもそも尚文のため、連れているに過ぎない。
やる気がない奴隷なんて連れても意味ない。
いずれ、リファナあたりからたぬき少女を安全なところに置いてってほしいと言われるに違いない。
生意気なペットになんて思われたところで知るものか。
**
「さて、大体は揃ったか」
店を出た俺たちはその足で草原の方へ向う為、露店街を進む。
ラフタリアは町並みをキョロキョロとしながらリファナの後ろを歩いている。
ん? 食い物屋の屋台の匂いが鼻を刺激する。
そういえばお腹が空いてきたなぁ……。
ぐう……。
ラフタリアの方からそんな音が聞こえてくる。
顔を向けると、ブンブンと首を振る。
「ち、ちがい……ます」
そんなに恥ずかしがらなくても……そう思ってじっと見てみれば体を震えさせている。
ああ、何かしら反応すると叩かれるような生活をしていたことからの反射だろうか。
空腹を主張して、主の手を煩わせると殴られる、みたいな。
「まあ、これからモンスターと戦うんだ。空腹じゃ力も入らないだろ。飯食うぞ」
一度こちらを嫌そうに見たものの、尚文を見て、盾の勇者とつぶやいてから案内をしてくれる。
「異世界ってメニューがわかりにくいよね」
ブーウ定食とあっても何それと頭に入ってこない。ロース肉とあるから響き的には豚?
イラストありのメニューじゃないなら、店員に丸投げがベストである。
「一番美味しい定食ください」
「会計は別だぞ。俺はこの店で一番低いランチね。こいつには、あそこの席にいる子供が食べてるメニューで」
「私は尚文様といっしょのがいいです」
「そうか? じゃあ、同じやつをふたつ」
ラフタリアは子供がおいしそうに食べているお子様ランチのようなメニューを羨ましそうに指を銜えている。みんなで話しているんだから言えよと言いたいが、奴隷に自分の希望を出させるというのは大変なのかもしれない。
「じゃあ、こいつはアレで」
「え! でも……」
「飯くらい好きにすればいいじゃん。俺は、尚文よりは金銭に困ってないし」
「おい」
睨まれるが、一番低いランチ注文はないと思う。
ネズミ肉とかでてきても俺は知らない。
「なん、で?」
ラフタリアの声が聞こえたので視線を下げる。
するとラフタリアは不思議そうな顔で俺を見つめていた。
「そりゃ、あんなに羨ましそうに見てればね。やりたくないことさせるんだし、飯くらい好きなの食べさせてやるよ」
その言葉に納得がいったのかじっとこちらの顔を見続けてくるので、顔をそむけて、料理を待った。
尚文とリファナはベーコンがメインの定食、ラフタリアは品目の多い彩り豊かなお子様ランチ。
俺のはビーフシチューだろうか。
ごろりと大きな肉は味わい深く美味しい。
「はあ」
ベーコン定食は外れだったようで尚文は不味そうな顔をしながら食事をしている。
リファナは行儀よく美味しそうに食べている。
ラフタリアといえば、少しでも取られてたまるものかとばかりに抱え込んで手づかみで食べている。
目は輝いており、微笑ましくはあるが、リファナの態度との対比がひどい。
育ちの悪いのはしょうがないかな……。
お腹が膨らんだラフタリアは、ライスに刺さった、旗を大事そうに握っている。
お子様ランチの旗を集めたくなるのはどこでもいっしょか。
俺も集めてた気がする。そういえば引き出しに集めておいた気がするのに、いつの間にかなくなってしまった気がする。いつ、捨ててしまったんだろう。
まったく、思い出せなかった。
尚文「割り勘は俺が損するからな」