尚文のマイバルーンがなくなるまで、特訓は続けられた。
目をつむった突撃は、ナイフをしっかりと握った力ある攻撃に変わっていって、次第に慣れを感じさせた。
俺達は店の外に出て、草原に出る。
魔物に慣れたせいか、街を歩くリファナとラフタリアは鼻歌を歌いながら歩いていた。
だが、城門を抜け、草原でようしと腕をまくりふんすと気合を入れるリファナとは真逆に、ラフタリアは怯えた目をして震えだした。
「大丈夫だ。絶対に魔物からは守ってやるから」
盾の勇者の本領とも言える。
だが、敵は最弱のバルーン。弱いとはいえ、低レベルには十分に危険はある。それに街の人が着るような衣服では噛まれれば怪我をするだろう。
しかし、彼女たちは十分な防具をつけている。手足には硬い革の装備をしており、噛まれても指や手足を食いちぎられることはないはずだ。
まあ、そうなっても治せるのだし、怯える必要なんてまったくない。
尚文は補充とばかりに体にバルーンを食いつかせていく。
バルーンも何に惹かれているのか、ガブガブと草原から飛び出しては尚文にかぶりついてゆく。なにがバルーンたちをそうさせるのだろうか。身近に弱い少女たちがいても我関せずなのだから筋金入りだ。
尚文は何匹も食いつかせると満足したようにマントで覆い隠す。フッと笑う尚文。コレが俺の愛用装備だと言わんばかりである。
「痛くないんですか? 尚文様」
「全然だ」
「すご、い……」
レベルと引き継いだ力のおかげか、俺もバルーンの攻撃でダメージは受けないが、痛みも何も感じないわけではないので、尚文みたいにできる気はしない。
できても誰もかっこいいと言ってくれなさそうなので、やりたくないが。
「尚文様かっこいいです!」
まじで。バルーン時代来てる?
キラキラと目を輝かせるリファナにラフタリアはぎょっとして一歩後ずさっているので、獣人少女界の流行ではないらしい。
うん、ないよね。ないない。
**
尚文がバルーンを己に食いつかせたり、盾で突撃を防ぎ、そこをリファナやラフタリアがナイフで刺す。
この繰り返しである。
正直、戦闘のせの字も知らない少女AとBだったので、ヒヤヒヤすることも多いが、子供だからか、獣人だからか、1つ2つとアドバイスを重ねるごとに少しずつ動きが改善されていく。
数時間後にはバルーン相手なら尚文が抑える必要すらなくなった。
しかし、このあたりから大きく違いが出始めた。
「よし、たくさんのバルーンがいるが、冷静に倒すぞ」
「ハイ!」
「……はい」
尚文の命令にリファナは尚文に襲いかかろうとするバルーンを一閃。ぱあんと大きな音を立てて一撃で倒してしまう。
そこで止まることなく、全体を確認しながら、攻撃してくるバルーンを素早く処理していく。
対してラフタリアは自分に襲いかかろうと近づいてくるバルーンを避けてから切り返す形で倒しており、倒すたびに安堵の息を吐き、戦闘速度が非常に遅い。
次どうしようかとキョロキョロして次の相手を探しているうちにリファナが倒したりするシーンが多い。
全体的におどおどしている印象がある。
身体能力ははっきり言えばそう違いはない。
力こそリファナの方が高いようだが、ラフタリアのほうが素早く、平均的に高そうなくらいだ。
だが、多くとどめを刺し続けていたせいか、レベルに差が出始めてきた。そしてそれがより差を大きくしている。
別にレベル差は大したことない。
ちょっと強いところに同行させればいい。
けど、そうしたところで、態度については変わらないような気がする。怪我をセず、簡単に倒せるようになるだけだ。
どうしてリファナとラフタリアは違うのか。
……外れ、というやつだろうか。
「よし、よくやった、リファナ」
「ハイ! 尚文様!」
わしゃわしゃと頭を撫でる尚文に、抱きつくよな距離のリファナ。
ラフタリアといえば……尚文と俺の間で羨ましそうに二人を見ていた。
……うーん、褒めなかったのが悪かったのだろうか。
まあ、犬でも猫でも、褒めるから棒を取ってくるし、獲物(ネズミとか)をしとめるのだろう。
何も言わず、お腹いっぱいご飯を上げるだけの状態で獲物なんて狩ってくるはずはない……と言う感じなのだろうか。
けど、今まで何も言わなかったのに、急に言い出すってなんか、言いにくい。
関係を持った女達にはなんだって簡単に言えるのに。
「ら、ラフタリア。その、飴あげる」
「……はい」
手渡されたアメを不思議そうに眺めてから、太陽にかざしてみたり、匂いを嗅いだりしてから、アメを口に入れてた。
わあと頬を緩めてラフタリアが笑った。
……必要なのはアメ。
**
バルーンを倒すたびにアメをあげていたら3回目くらいからもうアメは大丈夫ですと言われて断られた。
アメ以外をくださいということだろうか? ほかはもっていないんだけど……。
戦闘後、こちらをちらっと見るようになったラフタリアに、どうすればいいのかわからないならがも、コクンとと頷きだけ返すようになった。
何が良かったのかはわからないが、少し戦闘に積極的になったようだった。
>……外れ、というやつだろうか。
まあ、読者はみんなラフタリアの凄さを知っているので、ダメダメなのは主人公なんですけどね!