「寝たか」
戦闘を継続できるようになり、レベルが上がるにつれ、バルーンなら楽勝になった。
とはいえ、王都の近くに強い魔物はいない。
そのまま、野宿をして魔物の多い場所まで移動することになった。
かつてはパーティーの皆がアレヤコレヤと世話をしてくれていて、自分がしたのは火をつけたり水を出したり、そんなことばかりだったので、助けのない初めてのキャンプだったが、尚文は経験があるのかサクサクと準備を進めていった。
俺はといえば食べれそうな動物を狩ってきて、石を炎で焼いたくらいだ。
調味料が大してない中、お店で出してもお金が取れそうな美味しい野宿飯だった。
尚文は平凡な日本出身だと言っていたが、加工済みの肉ではなく、生き物をさばけるのは相当なスキルだと思う。
今は戦闘の合間に拾い集めた薬草で薬を作っている。
回復なら俺がするよ? と言ったら、薬なら渡せば誰でも回復できるし、売り物にもなる。
それに回復手段はあればあるほどいいとのこと。
戦えない盾だけあって、見てるところが違う。
今頃他の勇者達はどうしているのだろうか。
苦労してるんじゃないだろうか。
自分の分だけさっさと手際よく用意してしまう錬、仲間にやらせる樹と、おだてられ、全部自分でやる元康の姿を幻視する。
「結界を張ってるから見張りなんてなくてもいいんだけどね」
「お前抜きで行動することも増えてくるはずだ。その時、警戒もできないんじゃ話にならん」
と、このとおりである。
自分たちのちからをつけようと尚文は真剣だ。
「で、お前は何読んでるんだ?」
「魔導書。こっちの魔法が覚えられるみたいだから買ってみたんだ」
「へえ。どうだ?」
金はかかった。特に勇者が残したという翻訳付きの魔導書はレア度もあり、結構な費用になった。
『力の根源たる刀の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者の力を上げよ』
「ファスト・パワー!」
体がぼんやりとひかり、透明な膜が張る。
力がやや張っているのがわかる。初級だけあって、ほんのちょっとと言う感じだが、増強されているのははっきりわかる。
そして、これからするのが、今後を大きく変える実験だ。
「《力強化》」
ぐうんっと魔力に体が光り、力が増す。いつもどおりの感覚。そして、普段より少しだけ強く感じる力。
「重ねがけは効くのか……」
コレは大きい。ただでさえ、刀の勇者の力は加算だったのに、強化が二重に効くとなれば、この世界の補助呪文の強化率にもよるが、向こうと同じくらいなら、1×2×2で4倍以上のパワーを発揮できるかもしれない。
……勉強必須!
はあ、とため息をつく。
実験結果を話すと、俺も覚えてみるかと手渡した魔法書を読み始めた。話しかけても「う~ん? うん、ああ」と返してくれないやつである。
「いや……助けて……」
うん? 振り返ると、ラフタリアが変な声を上げている。
うんうんと、体をよじりながら、眠っているラフタリアがうなされていた。
「いやぁあああああああああああああああああああああ!」
キーンと耳が遠くなるのを感じた。
静かな夜だけあって、音が大きく響く
「おい、ユウ。静かにさせろ」
「あ、あ、うん。《静音》」
ラフタリアを中心に音を打ち消す空間を作った。
ノイズキャンセラーと同じく、同じ音波を返す結界のようなものである。膜の外へ全く音がもれなくなる。
「違う。慰めてこい。手を握ってやるとか背中でも擦ればおとなしくなるだろ」
うう。奴隷商人がパニック持ちとか言っていたがコレのことか。
よたよたと近づき、空間に入ると、大声が聞こえてくる。
こんな声をあげて自分で起きないのだろうか。
仕方がないと、抱きかかえてあやす。
正面からギュッと握りしめ、頭をなで、背中をゆっくりとなでると、声が収まってきたので、結界を解除する。
不安が消えるようにと優しく背中をなでてやる。
肉付きの薄い背中はなでがいがないが、文句を言わずに続けてやると、ラフタリアから抱きしめ返される。
子供だからなのか、獣人だからなのか、とても体温が高い。
「なんだ、うまくやるじゃない……か?」
野宿のせいで少し肌寒くて。だから、ギュッと抱きしめて目を閉じ感じ入るようにしながらなで続けた。
「あ、うんっ、ふっ、……くぅん……」
声から不安が消えていることに安心してなで続ける。
「あっ、あっう……」
ただ優しくなで続けた。
**
「なんであいつ背中なでているだけで、あんな声出させてるんだよ……」
子供同士が抱きしめあっている微笑ましいシーンなのに、声がめっちゃエロい。
しかも、ラフタリアの顔はこちらを向いていたため、様子がはっきりわかってしまう。
目を閉じながらも体をほてらせ、吐息が漏れるさまが見えており、妙に淫靡な気がする。
子供にそんな気持ちを抱いてしまったことに嫌悪を抱いて目をそむけた。
けれど静かな空間の中、余計に声が耳に響くのだ。ちくしょう。
「な、なんだかもぞもぞしますね、尚文さま……」
「あ、ああ……ってリファナ!? 起きてたのか……!」
ちょっと離れて毛布にくるまって寝ていたはずのリファナが起きてすぐそばにいた。
ぴとっと俺の肩に手をおいて寄りかかるようにしており、距離が近い。
「ラフタリアちゃん、夜、うなされちゃうから、私、心配で……」
「そうか。まあ、ユウがいるから大丈夫だろ。いや、だいじょうぶなのか?」
止めるべきなのか? 止めないべきなのか?
うなされなくなったからいいのか、年齢的にNGを告げたほうがいいのか。
「う、うわあ、ラフタリアちゃんなんかえっちぃ……。体擦り付けてマーキングしてるう。恋人同士にやるやつですよ! お、おとなだ……!」
うわあ、うわあと両手で口を覆いながらも興奮するリファナ。しっぽはなんの感情を示しているのか、地面をグシグシと弄り回している。
そおっとラフタリアの様子を伺えば、くしくしとおでこのあたりを肩にこすりつけているような動きをしている。
そのせいか声は聞こえなくなったが、それでも小さく聞こえる「んっ」だの「ふっぅ」だの甘く響く声が体の一部に悪い。非常に。
「……結界が張ってあるらしいから、俺は寝る」
リファナを剥がし、距離を取って毛布に包まる。
寝てしまおう。もやもやを頭から追い出すようにして。
そう誓って目を閉じた。
けれど。
安眠は……できなかった。
尚文はムラムラしてる。
非常にムラムラしている。
でも、尚文にはお店で抜いてもらうという考えがないのである。
だって怖そうだもの。しょうがないね。
追記
ちょっとリアルが忙しく一週間お休みです。次回2話載せれるよう頑張ります涙