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すべての準備を整えた。
レベルもパーティーとしては十分に上げることができただろう。
……盾の勇者のパーティーレベルを上げるより、自分のレベルを上げることを優先すべきだったんじゃないだろうかという不安はある。
けれど、先のことを考えるなら一人戦えない勇者である盾のパーティーを強くするのは最優先ではある。
大丈夫。
波は段階的に強くなる。前回は勇者がいなくてもなんとかなるレベルであったのだから、問題はないはずだ。
「もう少しで、波か……」
直前に控えて落ち着かないのは自分だけではないようで、尚文は最後の準備と薬を確認している。
リファナはそれを手伝っている。
ラフタリアは手持ち無沙汰のようで、俺の周りをぷらぷらとあるきまわっている。
「落ち着きなよ」
「はい。でも」
「緊張しすぎると失敗しちゃうから」
ガクガクと小さく震えているラフタリアは、ただの小さな女の子に見えた。
隣に座らせると、手を握ってやる。
「ユウ様。実は私……最初の波が来た時の災害で奴隷になったんです」
「……そっか」
波は彼女にとって、破滅の象徴なのかもしれない。
ポツポツとラフタリアは語りだす。
裕福ではない村ではあったものの、両親が優しかったこと、友達と楽しく生きていたこと、けれど、その全てが失われてしまったこと。
遊びのように化け物たちは自分たちを痛めつけて殺し回ったこと。
「でも」
表情を消して淡々と悲劇を語ったラフタリアは、掴んだ手をギュッと握り返す。
「おかげで強くなれました。あの波に、立ち向かえます」
震えで小さくなっていた体はいつの間にか止まり、ナイフを握りしめ、しっかり目を見返してきた。
瞳の奥には小さな怯えを残しながらも、勇ましさと、強い怒りが彼女を支えているようだった。
少しずつ、彼女も成長していた。
よく見ればやせ細ったその体には柔らかい体と、その奥にはしっかりした筋肉が付きはじめていた。
「そうだね」
ラフタリアも、尚文も、リファナも強くなっている。
きっと、大丈夫。
00:00
そして、災厄の時が来た。
ビキン!
世界中に響く大きな音が木霊した。
次の瞬間、フッと景色が一瞬にして変わる。転送されたようだ。
まるで空に大きな亀裂が生まれたかのようにヒビが入り、不気味な紅に染まっている。
魔物の気配を感じて刀を抜く。
慌てる尚文たちとは別に、走ってゆく勇者たちと、走りゆく十以上の人たち。
流石に訓練を続けているだけあって、鉄火場での行動が早い。
「ナオフミ様! ここはリユート村付近です!」
リファナは周りを見渡し、焦るように言う。
波が起こること自体は街でも知られていた。
けれど。
「そうか! どこで起こるかもわからないのに避難なんてできるはずがない!」
だが、勇者たちは波の根源へ向けかけていっている。仲間も同じだ。
ウジャウジャと魔物たちは溢れている。
追うか、守るか。
「俺たちは村を守るぞ!!」
尚文とリファナは駆けていく。俺もそれを追おうとして……止まる。
──ラフタリア?
「あ、足が、動かないんです……おか、おかしいんです」
腰を抜かして、尻もちついて、プルプルと震え続けていた。
あんなに振り絞っていたはずの勇気も怒りも萎えてしぼんでしまっていた。
今は恐怖に犯されているようだった。
「あんなに、あんなに心に誓ったのに……」
「そっか」
仕方がないことだ。自分のすべてを奪った災厄に誰もが勇気をもって立ち向かえるわけじゃない。
落ち着くのを待ってやりたい気持ちもあるが、そうも言ってられない。
勇者が好き勝手が許されるのはそれだけのことを勇者がなせるからだ。
クズで女を抱かずにいられない俺が好きに生きていくためにも結果を出さなければいけない。
そして、それを別にしても、魔物にめちゃくちゃにされた町や村は悲惨だ。
悲しみの涙、癒えない痛みが胸を撃つ。
なにより、美人が死んだら損失である。
「でも、俺は助けに行くよ。一人でも。落ち着いたら、追ってきてくれると嬉しいな」
奴隷への命令にならないように言う。
走って追っても尚文にすぐには追いつけない。
戦場が村で避難がされていないなら大きな魔法を放つわけには行かない。
なら。
ラフタリアに背中を向けると、空へと飛び上がる。
「《風の加護》《飛翔》」
空へと飛び上がる俺に向けて天から降りてくる魔物が飛びかかってくるが風の加護に阻まれ、そのまま地に堕ちていく。
下を見れば魔物に襲われている村が見えた。
ラフタリア「私はやる気に満ち溢れてます! 波なんて一発ですよ!」
ラフタリア「なみこわい。もうだめ……」
事前に黒い狼モンスターと戦わなかったばっかりに心が強くなってないラフタリア。
まあ、トラウマだからね。レベル上げただけじゃね。