襲われる村人をすぐにでも助けなければいけない。
しかし、村という人と魔物が入り混じった状態で正確に対象を指定するのは恐ろしく困難である。
人と見れば敵意を抱く魔物とは逆に、人間は勇者だからといって同じ気持ちを抱いたりはしないので、以前に草原で敵意を持って魔物のみを選んだような方法は行えない。
「《範囲指定》」
手をかざすと薄緑の光の膜が村を包む形で展開される
範囲内に数多の赤いアイコンが現れる。
四方八方から敵意が満ち溢れている。
「《生体感知》《ターゲット:敵意》《ターゲット:反転》」
すべての赤いアイコンにロックアイコンが表示されてから、すぐにそれ以外のアイコンがロックされる。一度敵のみを指定してから、それ以外の生命体を指定することで、敵意のない生命体、すなわち村人を指定できる。
恐ろしくまどろっこしい。
対象がパーティーであれば一発だけど。
「《プロテクション》」
一定ダメージを完全に防ぐ盾が村人たちを守る。
ダメージ減少量は小。
雑魚とはいえ永遠と防ぐ事ができるほどではない。
だが、ある程度の間は十分に防ぐことができる。
現に子供を抱いて守っている女性をゴブリンみたいな魔物が曲刀で切りつけているが、その刃は体に触れることなくするりと滑っている。
「これは……」
村人を襲う魔物と村人の間に割入って殴りつけた尚文のそばに降りる。
「とりあえず盾をつけたから、今のうちになんとかしよう」
範囲を指定して敵を焼き尽くすことはできるが、天から増援が出続ける今、一度退けたところであまり意味はない。
それに、そもそも、波の魔物を一人で倒してしまっていいのかという問題もある。
時間内は村人も勇者もけが人が出ない状況なのだから、できる限りでレベルは上げておいてほしいものである。
「尚文! 尚文はどんどん村人を襲う魔物を倒して」
「っ! 盾に無茶言うなっ!」
そう言いながらも、リファナをフォローすることで、魔物の動きを止め、リファナが一撃で魔物を倒し続けていく。
ダンスを踊っているようだ、といえばいいのだろうか。
リファナは全く足を止めず、魔物を屠り続けている。
自分が一番にいいように支えてくれると信じ切った動きだ。
はあー。いつの間にここまで合わせることができるようになったんだろう。
リファナはまるで尚文の剣のように忠実に、そして主の意思のまま、魔物を倒し続けている。
「《シールド》」
あたりに火の雨が降り注ぐ。
プロテクションを破るほどではないが、量が減る。
自分中心という性質があるが、魔力の盾を構えて尚文を守る。
どうやらようやく騎士団が到着したようだが、魔物であふれる状況に魔法を使える者たちがぶっぱなしたようだ。
守っているのを知っているのだろうか。知っていても知らなくてもその行為にはため息がつく。
「おい! こっちには味方がいるんだぞ!」
騎士団の隊長らしきものは不快感をあらわにしながらぺっとつばを吐くと、こちらに頭を下げてくる。
「刀の勇者様もこの場にいたとは申し訳ありません。なによりこの素晴らしい盾。私達にもつかってはいただけないでしょうか」
ふてぶてしいとはこのことだ、といえばいいのだろうか。盾の勇者をまるで存在しないかのように扱う。尚文がめちゃくちゃ怖い顔をしている。
しかし、こう言われたら使わないわけにはいかない。
「《プロテクション》」
視認範囲で対象しかいないのであれば問題なく複数にかけられる。
強力な盾が騎士たちを守る。
一方的に攻撃される村人と違い、戦える彼らなら今回の波では傷ひとつ負わないかもしれない。
「ナオフミ様に何をするんですか!」
突撃してくるのはさっきまで村人を守って魔物と戦っていたリファナだった。
「盾の勇者の仲間か?」
「はい、私はナオフミ様の剣! ナオフミ様を守ります」
「……亜人風情が騎士団に逆らうとでも言うつもりか?」
ぎりぎりと鍔迫り合いをしているが、実際はお互い切り合ってもどちらも怪我一つしないので、微妙なところだが、リファナは真剣に尚文のために怒っているようだ。
怒りを顕にしながら尚文の前に立つ彼女の表情が美しくてぼうっと見つめてしまっていた。
「おい、やめろ! 敵は波から這いずる化け物だろう。履き違えるな!」
その言葉に、隊長はともかく、周りの騎士団員たちはバツの悪そうに顔をそらす。
隊長もまた、その空気に苛立ちながらも、一歩離れる。
「いくぞ、お前たち!」
そう言って村の魔物へと向かっていくが、すれ違いざまに「犯罪者の勇者が……」と吐き捨てていった。
盾の勇者への悪感情は根深いなぁ……。全員が全員でないのが救いだろうか。
「……さあ、俺たちも行動を再開するぞ。勇、お前も魔法一つで仕事を終えた気になるなよ」
とはいえ、被害がでないのなら、全勇者パーティーを強化できるこの機会は皆に譲るべきではないだろうか。
燃える建物から空気をなくして鎮火したり、避難を手伝ったりと村の中を何をスべきか迷いながらそのばその場で思いつきのように助けながら歩く。
「ユウさま……」
そこには涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったラフタリアがいた。
村を対象にしてしまったため、騎士と同じくラフタリアにもプロテクションの守りはなかった。
だからだろうか。
いくつかの傷を負い血を流していた。
けれど、戦ったのだろう。短刀には魔物の血で染まっている。
「来たの?」
正直、付き合いで買った奴隷だった。
しばらく一緒に過ごして、情は湧き出していた。
だからこそ、戦えないならそれでもいいかと思った。
なにせ、俺は強いから。
一人で戦えてしまうから、仲間なんて本当は必要ないのだ。
戦わないならそれでいいし、死なないならいい。
かつての仲間たちも、戦線の途中で何度も別れてきた。
それは大半が怪我ではなく妊娠したからであったけど、神の使徒である勇者の子を孕んだことで彼女はみんな笑顔で去っていった。
ありがとうございます! そう言って満足して去っていった。
俺は戦い続けるのに。
「私は、戦います。最後まで一緒に、戦います!」
みっともない姿だった。
ぼろぼろで、出会った頃のように薄汚れて。
「勝手にしたら」
ああ、そういえば
カメラのないところで震えながらも戦ったラフタリア。
ちょっと距離が縮んだ様子。
そして三勇者は強くなっているのでボス戦はそんなに時間はかからなかった模様。