過去編終了時に内容をまとめて記載するので絶対見たくない! という方は過去編を飛ばしていただくのもありだと思います。
ただ、その光景に目を奪われていた。
勇者の隠された力を発揮しかけていた尚文は、けれどリファナに抱きしめられ、その力を急速に失いつつあった。
自分以外の勇者にその隠された力を発揮してもらい備えることは当初から考えていた地雷を避けるための大切なことであったが、そんなことは、今となってはどうでもいいことだった。
尚文は、リファナにそっと抱かれていた。
抱きしめられ、流していた涙を止めた尚文。
呼び出された世界全てに裏切られているような気持ちになっていただろう。世界に怒りを抱いて、憤怒に身を焦がしただろう。
けれど、救いはあった。
真に自分を信じてくれる、愛情を注いでくれる相手がいたのだから。
尚文を抱きしめるその光景は、聖女が勇者を許す宗教的な一枚の絵だった。
美しく、誰もが静謐な神聖さを感じるだろう、ワンシーン。
目をそらすことができなかった。魅入っていた。
そして、心のそこから嫉妬が湧くのがわかった。
なぜ。
なぜ。
なぜ、俺のほうが強いのに、
なぜ、俺のほうがうまくやっているのに
どうして、お前の仲間は愛してくれるんだ……?
そう思ってしまった瞬間に、その意識は過去の──以前勇者だった瞬間を回想する。
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「勇者様。準備はいいですか」
「もちろんだよ、アリシア」
それまでの俺は一般的な範囲で収まる程度の中学生だった。母親似で少し女顔であることを悩みつつも、特段格闘技を習ったりと体を鍛えるようなことはしなかった。
そのうち成長して男らしくなるだろうと思ったし、ピロっと一本だけ生えた薄いヒゲを撫でて悦に浸る程度だった。
高校生になれば自然と背も伸びて彼女もできるんだろうな~などと気軽に考えていた、そんなある日、なんの前触れもなく、勇は勇者として召喚された。
魔王に襲われ、あとはこの国一つを残すのみなのだと大量の難民に囲まれた国に呼び出され、目をパチクリさせた。
世界を救ってくださいと頭を下げる王様に、事態が理解できないまま、わ、わかりましたと答えて、城の兵士から地獄のような特訓をつけられた。
死ぬほど辛いと思ったが、それでもこなすことができたのは、訓練を行うごとに簡単に、楽にこなせるようになっていく身体能力と、事あるごとに顔を出してくれるこの国の王女の存在だった。
彼女はそれこそ絶世の美女と言ってよく、見た瞬間、かわいい! かおちっちゃい! こしのいちたかい! ふつくしい! かみきれい! と馬鹿になった感想しか出てこなかった。
応援していたアイドルと握手してでへでへした頃の数段上の衝撃だった。
大丈夫ですかと訓練のあとに冷たい濡れた手ぬぐいを渡されるだけで天国だったのだ。
そんな彼女は王族でありながら聖女と言われるほどの回復魔法の使い手で、冒険も苦にならないほどの力量があるらしく、冒険についてくるらしい。
正直、無理じゃないかと、お城にいたほうがいいんじゃないかと思ったが、手はこんなんなんです、と差し出されたその手は、スラリとしてきれいであったが潰れつつけた豆に固くなっていた。
二週間も訓練を続けると、それだけで十年以上剣技を嗜んでました、と言わんばかりの腕前になり、その力もあり、城のものでは一人では相手にならなくなっていた。
「それでは冒険にでかけましょう」
パーティーは勇者、姫(聖女)、武道家、魔法使い。
RPGのテンプレかな? と正直思ってしまった。
初めて殺した生き物は狼だったが、仲の良かったわんこを思い出してげえげえ吐いてしまった。
姫は背中を擦りながら嫌な顔ひとつせずに優しくしてくれたが、他の仲間は狼の皮を剥いで火で炙っていた。
狼肉を食べることに、犬を食べるような嫌な気持ちになったが、今後も狩った獲物が食事になると諭されて食べることになった。
お腹の減った中食べる肉は美味しくて、なんだか悲しかったのを覚えている。
どことなく、勇者なんだからもっと強くしっかりしてほしいという気持ちが見える二人より、親身に接してくれる姫のチョコに気持ちが強くなるのは当然の流れで、勇者なんだから彼女と結ばれる可能性もあるのかな、なんて思ってにやにやして幸せな気分になったりした。
正直、生き物の命を奪うことも、自分が襲われるかもしれないと考える時間も何もしないでいると辛いからそんなふうに考えていた気がする。
けれど人はなれる生き物で、村や街をいくつか開放した頃には国家最高クラスであった仲間の皆を軽く超える強さになっていた。
武道家も魔法使いも自分を超えるその技量に惚れ込んでくれていて、だいぶ態度が優しくなっていた。
そして、ついに隣国を落とした強力な魔物と戦い、怪我をしながらも打倒した。
数多の整復された国の一つを開放したことで、国は湧き上がり、誰もが勇者を褒め称えた。
嬉しくなり、調子に乗り、きっと、死の恐怖の反動に性欲が強くなったこともあって、アリシアの部屋を訪ねた。
「アリシアが好きだ。君を抱きたい」
胸が弾けそうなほどドキドキしながら、なんと言えばOKしてくれるだろうか、そんなふうに悩んで出たのがこれだった。本当は相手を褒め称えて口説くんだと20パターンは考えていたはずなのに、最初から間違っていた。
なのに、アリシアは少し考えたあと、いつもの笑顔を浮かべて答えてくれた。
「もちろんです。勇者様。私を抱いてください。嬉しいです」
恋した相手に受け入れられる幸せに、勇者として立藩になろう、世界を救おうと決心した。
**
その世界では、魔物の一切を排除し、国や街にある教会で魔道具を設置することで魔物が国や街を襲えなくなる。
開放された街へは転移の魔法が使えることもあり、
開放すると王国から援護の兵士や避難民が配置され、僅かな間で復興が進む。
たくましいなあ、なんて思いながら時々王都に戻っては開放した地域の物資をもとに強化や休憩を行っていた。
「どうしたの? 勇者様」
「あ~、アリシアが誰かといた気がして」
何度目かの王都での休暇に武道家と街を回りながらそういった。
彼女も成長した今の勇者の力に認めてくれており、関係を持つようになっていた。
それでも一番はアリシアでまず最初に彼女を抱き、疲れてくてりと寝始めたら他の二人を抱くようになった。
「うーん? トレイ侯爵かな? 幼馴染で今は王都にいるって聞いたから。それより、甘いもの食べに行こうよ!」
「あ、うん」
どことなく、今からでもアリシアを探しに行きたくなったが、腕を引かれてそうすることができなくなった。
(顔のいいやつだったな)
頭の良さそうな、長い髪の男。細身で魔術師系の装いだったが腕も悪くなさそうだった。
それこそ勇者パーティーに入っても見劣りしなかっただろう。
(そう言えばなんで女の子ばっかりなんだろ。嬉しいけど)
訓練をつけてくれた騎士団長など、今となりにいる武道家より腕は良かったし経験もある。
どことなく釈然としない気持ちを抱きながらも、悪い予感を振り払うように遊びに繰り出した。
勇者と王女の純愛! きゃっ!
リアルが忙しくてなかなか。でも今月から緩和する予定!