人形のようだと言う言葉は彼女のためにある言葉のようだ。
美しく精巧でいて、表情がない。
ゆらぎの見えない表情はけれど、その瞳の奥に強い使命感を感じた。
グラスと言う名前から、日本の召喚者ではないかもしれない。
黒髪に着物はそれっぽいが、逆に今どき日本人でも着物は早々着ていない。着物は着付けができないのに脱がせると外で相当困る。ああでも、着物の女性が乱れる姿は特別感があってちょっといい。
「扇の勇者? 俺は刀の勇者、海道 勇」
刀を納め、近づこうとする俺をラフタリアが引き止め、剣を向ける。
「勇者様は四聖勇者に七星勇者、投擲具、杖、小手、斧、爪、鞭、槌……そして新しく呼ばれた刀の十二人です。扇の勇者なんて聞いたことがありません! 勇者を騙るのは重罪ですよ!」
なるほど、勇者を騙っているかもしれないということか。
けれど、グラスは小さくため息をついてから扇を広げ、ブロンズ、アイアン、ゴールドと明らかに見た目が異なる扇に変化させてゆく。この変化は勇者武器以外ないだろう。
「これでも疑いますか?」
「いえ……でも、新たな勇者様が呼ばれているなんて知りませんでした」
確かに、城や教会、商人の情報網からもそれらしい話は聞いていない。もっとも、勇者の話自体各国が抑えているのか、明らかに伝わってくるのは他国の王子らしい鞭の勇者くらいなのだが。
「疑ってごめん。波に加勢に来てくれたのか? 正直この程度の強さだとさほど困ってないけど」
見たところ、グラスもかなりレベルが高いようだ。1対パーティー込み勇者だと同等レベルに感じる。
もしかしたら元康たちのようにこのボスが稼げると知っていて混ざりに来たのかもしれない。
「ボス戦に参加する? 四聖はみんなあっちに行っているから紹介するよ?」
「いいえ。私はあなたに会いに来たのです。私の世界の眷属器である刀の勇者のあなたに」
「どういう意味?」
「語るなら勇者らしく武器を交えて行いましょう!」
一発の黒い弾丸のように飛んでくるグラス。扇の断ち切るような一撃を、刀の鞘で弾く。その反動のまま舞うようにくるりと反転しそのまま追撃を仕掛けてくる。
すべてを見抜いたような動きは華麗であり、ただ力を得ただけの勇者と違う、れっきとした修練の積み重ねと、対人戦の経験を感じる。
「輪舞・連撃ノ型!」
鋭い突きは雨あられと飛んでくる。
そのままであれば体中に穴が相手もおかしくない。そんな必殺の一撃であった。
「陽炎」
体が瞬間霞み、実体のある攻撃が体を透き通っていく。
魔力がこもっていると逆に大ダメージを受ける見極めが必要な技だが、能力差のせいで見てから発動余裕です感がある。
「烈風剣」
威力を抑えた横薙ぎの一撃が攻撃後の無防備なグラスの腹部にあたり弾き飛ばされる。
立ち上がろうとしてガクガクと足を揺らして崩れ落ちる。
「ぐっふっ、これが刀の勇者のちからッ」
……着物を着る際に、下着をつけない人がいる。
現代社会のような薄い下着ではないとか、肌襦袢や裾よけがソレに当たるとかあるかもしれない。けれど、そこにファンタジーが絡めばどうなるか。
十二単のような何枚も重ねたようなものではなく、軽躁なはずなのに防御力は高く……ようは無防備だったため、扇を振るう際の袖口からはきれいな脇と胸が少しだけ見えた。
ほんの一瞬であるし、影になっていたが、それでも超人的な能力の前には隠せないのだ。
──下着、つけてない!
ムラリと性欲がわくのを感じる。もしかしたら女騎士のように敗北セックスに誘われているのかもしれない。
「まさか全くかなわないとは思いませんでした」
ふうと息をついた彼女。胸元が最初より開いており、小さく汗が流れた。近づけば甘い香りがむわりと香りそうだった。
全く力を見せれていない感じだったが、
「それじゃあ、話を聞きたいから……」
どこかでゆっくりと──。けれどスッと四聖のいる方を見た彼女はあまり時間はなさそうですね、と言い出した。
中途半端に盛り上がった気持ちをどうしてくれるのか。
「治療するね」
「あっ、はい」
近寄り、傷を撫でるように治す。どうやら彼女は実態のある幽霊のような存在のようだった。コツがいるが、魔法が効きやすい種族である。
抱きしめて打ち合った手を撫で、そのまま転んでしまったお尻をさすってあげると能面のような無表情にぱっと朱色が混じった。
「あっ、う、そ、そこは怪我していませんっ」
ドンと胸を押されてグラスは反動を利用して立ち上がって一歩離れてしまう。
グーを口元にあて、こ、コホン! と口で話すグラス。
「波はなぜ起こると思いますか? 波はだだ魔物が現れるだけの災害ではない。もっと規模が大きい悪意ある企みなのです」
「波がなぜ起こるか……?」
波は一月に一度ほど起こる災害。龍刻の砂時計が生み出され、水害にダムを作るように、災害をコントロールしようとしていた。勇者とはそんな災害に対応する措置の一つだと思っていた。記録からもそして何年も続くような災害ではなく、いずれ終わることもわかっている。
だからこそ、皆に勇者に任せたい気持ちがあるのだろう。
けれど、彼女は悪意と呼んだ。
誰の、何に向けた悪意なのか。
「だからあの人はあなたをこの世界に送った。新しい眷属器として。あなたは私達の世界の希望。私はあなたを支援しに来た。──もう主が倒されます。取り急ぎ強化法の共有だけ。扇の強化法は魔力吸収。倒した相手の魔力を吸収すると強化される。強くなってください。あなたは敵の毒になれる」
「え、は?」
いきなりゲームのプロローグで歴史が流れ始めたような、いや、知らないよ、と言いたい唐突な設定の暴露である。だがその真剣な表情は知りたいのは君の着物の中身だよとは言えないようだった。
「それではまた波で」
「ま、待ちなさいっ、一体それってどういう──」
いつでも動けるようにとグラスを倒したあとも警戒を怠らなかったラフタリアが掴みかかろうとするも、するりと手は空を掴む。
──気づけばグラスの姿はなかった。
「……言い逃げダイナミック……」
暴露するにしても、タイミングとか内容とかあるのではないだろうか??
生体感知で村の端の方にまだ生き残っていた魔物を光の弓を打って倒す。
扇の強化法──魔力吸収は行われ、強くなるのを感じた。
──やはり、真実である。
そして、それを共有したことから彼女は今の俺でも強さが足りないと判断したということだった。
「ため息が出るなぁ~」
彼女は嘘をついていない。だからもしかしたら彼女が誤認していない限り真実である。自分は本来この世界の所属ではないかもしれない。
──けど、それがなんだろう。
すでに自分はこの世界の勇者として人々を救い、女を抱いているのである。今更別の世界の勇者でしたと言われてどうして裏切れるだろうか。
不安そうにこちらを見るラフタリアの頭を撫でる。
「俺は刀の勇者。この世界の、お前の勇者」
勇者の仲間だろ、と伝えると、決心するように……
「でも、その前にユウ様の仲間ですから」
「ガエリオンもユウだからついていってるの。どこの勇者とかかんけーないなの」
二人はこの世界の勇者でなくてもついてきてくれるらしい。
それがとても嬉しい。
「でもあっちはそうはならないだろうな……」
このあと四聖勇者に何を言われるか不安に気持ちが落ち込むのを感じた。
おそろしく速い胸チラ。オレでなきゃ見逃しちゃうね
着物の袖を押さえる仕草って色っぽいですよね。
ダメージで動けない着物の女の子にセクハラする。
波の場じゃなきゃエロスに凸するのに!
エロシーンでのハートマークの使用は?
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