外が危険に溢れているこの世界では、なんだかんだで村の中で生まれて村の中で死ぬ人間が大半である。
商人や村長であればともかく、農夫であれば畑の世話を毎日しなければいけないのだからなおさらだ。
そんな状況下で手紙を送るものは少ない。それこそ、別の村に嫁いだ妻が子供が生まれたことを親に知らせたり、仕事のあれこれで手紙を商人に託すくらいである。
そんな中で高い識字率と手紙の頻度を誇るのが教会である。
彼らには本部への日々の報告義務があり、また、長い間本部から離れることにより教えが変革してしまわないよう若い間は何年かに一度は本部や支部に戻り教えの理解を深めるのだ。
宗教の教えは長い間語っているうちに変わってしまいがちだ。
例えば『人を害するな』と言う教えがあったとして、では亜人はどうか、罪人はどうなのか、盗賊を殺しただけで罪なのかと解釈が分かれてしまいがちだ。
それ故に、聖書の解釈を統一する必要があるのだ。
それもあって、司祭には同期などの仲のいい人間ができやすく、そういったものとは度々手紙でやり取りすることもある。横のつながりが強いのだ。
そんな中、メイドとして王城に奉公にでていたメルの領地にある教会の司教は手紙を読み──怒りで机を叩いた。
「何ということだ!! 刀の勇者がメルに無理やり関係を迫ったばかりか、子供を孕ませた上に捨てるとは!」
司教のジムソンが読んだ手紙にはさらに彼女がこの領とも関係深いイドル=レイビア殿と婚姻したこと、その中で涙ながらに告白してくれたこと、彼はそれを受け入れた上で、関係を解消せず娶ること、刀の勇者を決して許さないと言っていると書いてあった。
司教のジムソンにとって、メルは令嬢であるが、同時に教徒であり、生徒であった。学ぶことに熱心な彼女は彼にとって娘の一人のようなものだった。
刀の勇者の評判は悪くなかったが、裏でこんなことをしていたなんて。
ジムゾンは自分もできる限りをしようと善意で思った。
まずは仲の良い司教に手紙をかかなくては。
そして、噂がねじ曲がりつつもあっという間に国中に広まったのだった。
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「……なるほど?」
「これ、ほんとなんでしょうか? ラフタリアちゃんから聞いた話からすると、その、無理やりするような人とは思えませんが」
「刀の人はお盛んなんだね! すご~い」
「そう、だな……?」
尚文は頭痛を感じて頭を抑えた。
『刀の勇者がメイドを襲って孕ませた。強要された行為だ。刑に処すべきだ』
流れてくる噂をまとめるとこんな感じである。
頭を抱えるしかない。自分がされた疑惑と同じようなものであり、その事自体には怒りを覚える、またかと。
しかし、問題は孕ませたことと、強要されたという告白だ。
なんでも聞けばこの世界では誰の子供なのか判定することは可能らしい。
そして、勇は度々ラフタリアをリファナに押し付け、一人で行動することがあった。
それも含めて考えれば──やってるのは間違いない。
自分のマインのときは冤罪だったが、これは……本当に冤罪か? 嫌がっていなかった、最後は感じていたと言われたとしても、尚文には性犯罪者の抗弁にしか聞こえない。
正直勇に会ったとして信じてると言える自信はなかった。
「そりゃ、俺のことなんて信じないか……」
世界の違う、信頼関係もない勇者仲間が自分を信じないのはしょうがないという気がしてきた。
はめられたことには未だ怒りを覚えるが、信じてくれなかった事自体は仕方がなかったのだと思うようになった。
しかし、実際勇を信じられない。
やることはやってるだろう事実に判決メーターは黒に振り切れそうである。
しかし同時に悪いやつではない、という一点と、勇者らしく人を守っていた事実の2点がかろうじて支えている。
このままだとどうなる。
あいつが愁傷にも刑に服すかと言われれば否であろう。
そも、この国で強姦の罪は死刑である。
これがきっかけで国家の敵となった場合──再度グラスに誘われたらどうなるか。
敵になるに決まっている。
国中から敵とされてまでこの世界の味方であるなどと信じられない。嘘から出た真。敵対が真実になってしまう。
「クソっ、余計なことしやがって……」
一刻も早く女王とつなぎを取らなければいけない。
これは、世界の危機だぞ……。
憤怒を開放した勇が敵になるなど悪夢である。
バカバカしいなと思いながらも、冷や汗が流れた。
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「あ、あの、ユウ様……元気だしてください。でも、子供を作ったら責任取らなきゃいけないんですよ……?」
「えー? 優秀なオスがメスを孕ませるのは当然のことなの。私も孕ませてほしいなの!」
スリスリと体をこすらせてくるガエリオンの頭を無心で撫でる。一体どうしてこうなった。
そんなに嫌われていただろうか。確かに強要した関係ではあったが、日本を含めて今まで嫌われたことはなかった。
(夫や彼氏などには殺意を持たれていたが)
つい、ではあったが避妊をせずに関係を持ち続けたのは自分なりに彼女のことを好きになっていたからだろう。
勇者目当てであったと、また子供目的だったかと嘆いた。
自分を助けてくれたのに、あんなに柔らかく笑ってくれたのに。
なのに、本当は嫌われていた。
勇者だからではなく、勇だから嫌いなのだ。
勇者の子なら受け入れてしまえるはずなのに、嫌いだから受け入れないのだ。
勇者ではなく自分を見てくれていたであることを感じてほんの少しだけ嬉しいしくて、それ以上に悲しい。
リファナやリーシアのような勇者を愛する人を知ったからこそ、余計に。
……せめて、本人に嫌いであると言われたかった。
何かをしようとする気力がわかず、進むことも戻ることもできずにいた。
盾の勇者世界恒例の勇者陥れ。
しかし、やることはやっているという点が事態を凄まじく複雑にしているのだった!
前向きに世界に向き合うことを誓った尚文は同僚のできちゃった問題に駆け回らなくてはいけないのだった……(不憫)
原作では旅して助けて回っていた尚文は王城以外からの民衆の支持を得ていましたが、勇はサポート気味だったので、王城人気は高いものの、王城外での人気はそれほどでもなく、あの優等生が実は裏では……!? 状態に。