メルティは激怒した。
必ず、かの
とすんと机に振り落とされる拳。
王族の使う高級なものであること、メルティの力のなさから、あまり大きくは響かなかった。
「なんでよっ!」
メルティの胸の内を烈火のごとく怒りが吹き上げていた。
ユウが子供を作っていた。それ自体に少しだけ胸にずきんとした痛みを覚えたが、それ以上に嬉しいと思ったのだ。
なにせ、王族の一番の責務は王位を次に次ぐことである。
一度に何人も妊娠させられる男と異なり、女の場合一人子供を設けるのにも一年以上かかる。
その上、生まれてくる子供が女とも限らないことを考えると、二人以上は生むことを考えておかねばならない。
実際母上も会ったこともないうちに死んでしまった兄を含めて3人生んでいる。
ここで難しいのが、王配である。
女王として場合によっては複数の男を抱かねばならないとは覚悟をしているが、それでも母上と父上の仲、そして姉上の奔放な部分を見ればできれば一人の男を愛したいと思っている。
そして、メルティは愛する運命の人に出会った。
今後の人生で彼以上に愛する人はいるだろうか、いやいまい。そんなふうに思っていた。それだけに、『子供を作る能力がある』ことを証明できたのは喜びだった。
正式に王配と決まるまえにどのみち子を作れるかチェックされただろうが、あると証明された以上、メルティにはもう彼への思いを押さえるべき点が一切なくなったのだ。
なのに、この疑惑である。
死刑にする? 私の愛する人を? 私と結婚するのに?
ふざけるなと怒りに駆られ、情報収集のために人とお金をばらまき――事態を把握したが、相手がイドル=レイビアであることがわかり忌々しげにその書類を睨みつけ、机を叩いた。
「まさか、教会派の貴族なんて――」
信仰深い貴族だけに愛する婚約者を陥れた勇者を許せないのだろう、だがなんとしても助けなくては――と思いながらも手が見えない。
「どうどう」
なのに、この姉ときたら。自分の部屋のようにベッドの中央に寝転んでだらしなく報告書に目を通している。
こちらを向きもせずこれである。
「姉上はなんとも思わないんですかっ!」
「そうね。彼の所有物の分際で牙を向いたのなら怒ったでしょうけど――メルティ、ユウは刀の勇者、盾ではないのよ」
「いえ、盾だからという考え方事態よくないと思いますが、どういうことですか?」
「刀の勇者は四聖勇者と仲がよく王城とも関係がいい。村人、貴族、王族、その誰もが刀の勇者が活躍してくれる分には問題ない。異界の勇者問題はさておいてね。では、誰が刀の勇者を排除したがるかしら」
簡単なことよと姉上の視線を追えば、そこには三勇教のロザリオがあった。
「三勇教ですか? でも――三勇者より名声を得ているから?」
「それに盾の勇者とも仲がいい」
情報の広まり方を見ても、教会が支援しているのが見て取れる。勇者皆が教会とさほど親しくなく、王家ばかりが勇者を主導している状況も許せないのかもしれない。
メルロマルク王家は勇者を私物化しているというのは外国で何度となく聞いた言葉だ。
「でも、だとしてどうすればいいというのです?」
メルティは件のメイドがユウを嫌ってはいないだろうと思っているが、それを証明するのは困難だ。
「調査結果によく目を通しなさいよ。メイドの家――アディントン家の爵位は男爵。特に決まった相手のいない、婿探しも兼ねての奉公で王城に来てたわけでしょ? 城の人間の証言からもユウとの関係は悪くなくて、皆で勇者を手伝おうというメイドの声かけに合わせて彼を助けている。
メイドからの好意はあったと見ていいわ。
逆に、イドル=レイビアは元々の婚約者でも、前からそうなるかもと繋がりがあった相手でもない。ではなぜ?」
動きにしても前々から準備されたものではない。
最近起こった変化こそが原因なら――
「――子供を妊娠していると知ったから?」
「そうね」
姉上が調査結果を差し出してくる。
そこにはメルの同僚のメイド達の、妊娠しているとは知らなかった。悩んでいるようだった。でも言われてみればこのことについてだったのだろうという証言。
「目ざとい人間が気づいて情報を伝えた。場合によっては教会の告解室で聞いたのかもしれないわね。勇者の子を孕んだとイドル=レイビアは知り、メイドを確保して――刀の勇者を陥れることにした。――その狙いなら足りないものがあるわ」
「なんですか?」
「本人の証言よ。訴えはメル=アディントンの夫となったイドル=レイビアによって起こされている。本人が訴えればそれこそ何倍も効果があったはずなのに、よ? つまり――」
「本人は今の状況を望んでいない? ――なら!」
あくまで全ては『強要された』ことこそが罪なのだ。
その全ては本人の証言があれば覆る。
**
「くそっ、想定が甘かった。動くのが遅すぎた」
目の前には5千を超える兵士たち。イドル=レイビアの領軍と教会からやってきた僧兵達。
そしてその先頭に立つのは……。
「なに落ち込んでるんだよ、尚文。四人の勇者が集まったんだ。心配なんて不要だぜ」
「そうです。僕たちが力を合わせれば彼だってなんとかなりますよ!」
「……まあ、やってみないことには差はわかないか」
明るい声の元康と樹。冷静そうながらもやや焦りをにじませる錬。そして、盾の勇者である尚文。
四聖勇者とそのパーティーが集まっていた。
「さっ、対刀の勇者軍。気張っていこうぜ!」
元康の明るい号令は尚文には地獄へ進む行進の合図に聞こえた。
なんかすごい解決方法のような感じがするけど、ようはイドル=レイビアに強要されましたって証言してもらうだけ的な!
そして事態は対勇者軍との戦いへ…。
ラフタリアの初めては?
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小さいまま。勇気をください
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大きくなる。あなたのおかげです!