こっそりと潜入することになった私達。裏手から引き離すようにリファナちゃんとフィーロは戦闘を行いながらゆっくりと後退している。追撃するようにワラワラと人が出てきて、人の出入りがなくなった。チャンスだ。
「力の根源たる我が命ずる。理を今一度読み解き、陽炎を起こして私達を隠せ。ハイドミラージュ!」
陽炎が私達を隠す。ガエリオンに乗った私は姿を隠し、幻が消えてしまわない程度に急いで走る。
すでに軍勢は前進を始め、勇者達はユウ様とぶつかり始めた。
勇者たちの集中攻撃が雨あられと降り注ぎ──けれど土埃の先には無傷のままあるき続けるユウ様。
ほっと一安心する。
けれど、足を止めている場合じゃない。
この作戦を成功させ、メイドさんを助けるのが仕事なのだ。
どこか見覚えのあるようなお城を横回りして、裏口へと足をすすめる。
正々堂々と真正面からの戦いになっているだけあり、裏口にはほとんど人がいない。ハイドミラージュで姿を隠していることを生かして、感づかれそうになった瞬間に不意をついて一撃で気絶させて奥へと進む。
……なんだろう。見覚えがある気がする。一歩一歩歩くたびに既視感を覚える。
私はどこでここの光景を見たんだろう。
頭の奥底に刺さった棘のようにジクジクと違和感が頭を痛める。なのに、見なかったことにしたいような不快感を覚え続けている。
「どうしたなの? お願いされたことなんだから失敗できないなの。見事こなしてお礼に抱きしめてもらっちゃうつもりなの。チューもねだっちゃうつもりなの。これは最高ランクのミッションなの」
「あ、うん」
ふんすと荒く鼻を鳴らすガエリオン。侵入にあたり、さほど人間が残っていないことからすでに竜の姿から女の子の姿に変わっている。
真っ赤な赤毛の頭の頂点にピコンとたった一房の髪の毛が竜の尻尾のようにゆらゆらと揺れる。
どこにいるんだろう? そう相談すると、
「ムムッ多分地下なの。他の生き物はウロウロ外を気にしてるけど、地下の人間は身動きしてないの。怪しいなの」
「確かに、普通なら勇者との戦いを見て慌てたり気になるのが当然だもんね」
もとよりメイドは一番堅牢な城主の間か地下にいるはずと予想は立っていた。上にそれらしい人間がいないようである以上、地下しかない。
ガエリオンはふんすふんすと匂いをかぎ、地下への道を見つけ出す。
地下は薄暗く、音が響く。
そのせいで姿を隠すハイドミラージュは意味をなさず、ここに来て直接的な戦闘への変わるが、ユウ様と一緒に戦ってきた私達とただの兵士の間には大きな差があったみたいだ。
ほとんど大した抵抗も許さずに意識を奪うことができた。
──ぜえ、ぜえ、はあ、はあ。
何故か道を進めば進むほど息が詰まる。
ほとんど戦闘になっていないからダメージも疲れもないはずなのに。
──思い出さなきゃ。──おもいだしちゃダメ
2つの異なる言葉が頭に響いている気がするのだ。
「大丈夫なの? ここは空気が悪いなの。さっさと見つけてさっさと出るの」
「うん」
「女性の気配はこっちなの」
コツコツと響く足音。通路の角を曲がると他よりやや広く場所をとっている牢がある。
中には一人の女性がおり、部屋の角でお腹を抱えるように縮こまり丸まっている。
「あ、あの」
「ひっ──え? あなたは、だれ?」
すんとかぎなれた匂いがしてくる。奴隷として売られることを待っていた奴隷商の店にいた頃。ろくに体を洗うこともできず、自分からも周りからも出る臭い。
目の前の彼女は王都でメイドをしていて貴族に嫁いだとは思えないカッコをしていた。
ボサボサの髪、薄汚れた衣服の上には縄状のなにかの跡が多く残っており、両手足には深くその後が残っている。
檻の先にいるその彼女の様子は──
奴隷。
そんな言葉が浮かんできた。
体がいつの間にか震えだす。
あれは鞭のあとだ。私にはわかる。
あいつがどんなふうに叩いてどんな跡がつくのかをよく知っている。自分が叩かれ、リファナちゃんもそうされたのを目の前で見せられたのだから。
「うあ、う……」
うめいて動けなくなってしまった私を怪訝そうにしながらもガエリオンが一歩前に進む。
「あなたがメルなの? 刀の勇者様と助けにきたパーティーなの。えいっ☆」
人にとっては頑丈な鉄の檻もドラゴンにはそうではない。
針金でできていたかのようにぐっと曲がって人が通れる間があく。
「だ、ダメです! ここから出るわけにはいきませんっ」
「えー? なんでなの? 趣味なの? ひっどい趣味なの。神経疑うなの」
「しゅ、趣味じゃありません! ユウさまに迷惑はかけられないっていってるんです!」
ああ。
馬鹿な人だな、と思った。今何よりもユウ様を困らせているというのに。
でも、ラフタリアはいつだってあの奴隷として鞭に叩かれている日々で思っていたのだ。
勇者様助けに来て。私とリファナちゃんを助けて。
いつかきっと、助けが来る。そう思っていて……。
この人はラフタリアと同じように普通に生きてきて、突然こんな状態になったというのに、助けの手が来たというのに。
モヤモヤとした気持ちが胸を渦巻く。
「いま、外ではあなたにひどいことをしたとイドル=レイビアが嘯き、悪い勇者ユウ様と他の四聖勇者の戦いが繰り広げられています。もしユウさまを助けたいと言うなら、一緒に来てユウ様の無実を証明してください」
今どういった状況なのかを語るとつらそうに表情を歪め、こぼれてしまったと言わんばかりに涙が流れ落ち、それを隠すように拭った。
「迷惑をかけまいと思ったのに、逆に迷惑をかけてしまったんですね。わかりまし──」
ベッドの端に立ち上がろうとそて、崩れ落ちそうになる。
駆け寄り体を支える。
長い監禁生活で力がなくなっているようだった。
けれど、命に別条はない。
それは良かった。あとはここを出てしまえばいいのだから。
「おっと、ここから出られては困るな」
Q.メルさんはエロエロ的な意味では無事だったんでしょうか!?
A.原作でもラフタリアが処女っぽいので鞭で叩くだけで満足しちゃう人なんじゃないでしょうか。SMには挿入は不要って人もいるそうですよ!
というか、妊婦ですしね。
鞭で叩かれ、泣き叫ぶ中、唯一の希望はこの世界に来てもいない勇者様の助け。
自分にはこなかった。
この人には来てる。
みたいな。