メルさんをギュッと抱きしめ、メルさんも抱きしめ返してくれる。そのことに幸せを感じていたが、メルさんからの力がやや弱くなり見返す。
魔法で体力こそ回復しているはずだが、それでも今まで囚われてきたことへの負担は大きかったのだろう、精神的な疲れが溜まっているようだった。
「ごめんね、早く休ませてあげたいんだけど」
そうしてまわりを見渡せば、居心地悪そうに視線をさまよわせていた兵士たちが投降すると武器を手放す。
「申し訳ありません、勇者様を疑うなんてなんてことを」
「ですが、私達はあなたがその少女を害していると聞いて」
「俺たちは騙されたんだ! あの悪徳貴族に!」
「教徒のくせに勇者同士を闘わせようなんて万死に値する!」
ザワザワとわめき声が大きくなる。
「だったら! だったらなぜ勇を信じなかったんだ! 真相を確かめもせずに勇者を害するなんて最低だ!」
「そうですね。もし自分がこうなっていたと思うとゾッとします」
皆に向かってクワッと大きな声で声を上げる元康と樹。
なるほど、彼らもまた、尚文と同じようにぶつかり合いを演じてここにいるようだった。
尚文に視線を向けると、フルフルと顔を横にふる。
え、ではどの口で?
イドルの領兵からは殺意が、三勇教の僧兵からは怒りを感じていた。勇者からは特に害するというよりは挑む、と言った顔で悲壮感はなく、むしろ面白そうに思うような表情を戦いの前には浮かべていたーーような気がする。
これは事態を軽く見ていたのか、信じてくれていたのか。
言われるままに頼まれたから手を貸した、悪いことだったなら企んでいたほうが悪い、と言ったところか。
ゲーム感覚がどうにも抜けないみたいで、勇者への相談をクエストと見なすタイプらしく、受けたらどうなるかまであまり意識がないようだ。
まあ、大抵のゲームでクエストの成否ならともかく、クエストを受けることで状況が悪くなる展開はそうそうないし、教会や貴族からのものとなれば大抵お金かアイテムが得られるものだし、そんなものだろうか。
いずれ痛い目をみそうだが……忠告する気にはなれなかった。
「まあ、そういうことだから……とはいえ、行ったことはおこなったこと。王国と教会からは皆には適切な処罰が下ると思うよ」
「そうだなっ!」
そうだなではないが。
俺とメルさんを見て嬉しそうにウンウンと笑みを浮かべるものだから何かをいう気はなくなりため息を吐いた。
「じゃあーー」
戻ろう、そう言葉を出そうとしてーー
「グオオオオーーーン!!」
巨大な咆哮が響く。ビリビリとした音が体に響いた。
あたりを見ればガクガクと震えだすものや恐慌に陥り混乱するもの、叫び声を上げるものなどいろいろだ。
そうして、屋敷の影からそいつは顔を出した。
「ティラノサウルス?」
少年がだれもが大好きになってしまうカブトムシと並ぶ人気者の恐竜がいた。
メルさんを背にかばう。
「安心して、あのくらーー」
「よしっ! 迷惑かけたし、俺たちで倒してやろうぜ!」
おー! と走り出す槍と弓の勇者。遅れるようにして剣の勇者パーティーも走りだし、大きくため息を吐いてから盾の勇者も走っていく。
戦いは接戦に見えた。
自力自体はおそらく敵のほうが遥かに大きいものの、その攻撃をなんとか盾の勇者がそらし、錬が連携を意識するように動き始めたおかげで攻撃も決まるようになってきている。
とはいえ、やや浅く、倒せるだろうが時間がかかりそうだった。何より彼らにとって辛いのはあたりに霧が出てきたことだ。適当にしっぽを振るだけでもダメージ必須な敵と違い、連携が崩されるのは致命的である。
やつが現れてから急に出始めたことからやつの能力かもしれない。
「仕方がないか」
あれが竜帝ならその欠片の所有権を主張したいのもある。
ガエリオンに準備しろ、と声をかける。
「いくなのいくなの!」
ぐぐっと力を貯めるガエリオン。そしてこちらの様子に気づいたのか走り出す敵。
「《凍れ》」
その一言で竜が凍りついていく。地面より凍りだし、足、胴体と氷が生き物のように登っていくようだった。
冬に霜柱ができる様子を数倍の速さで映したかのようにパキパキと音を立てて凍りついてゆく。
「ちょりあああ、なの!」
ドラゴンの姿のまま勢いをつけ頭から飛び込んでゆき……凍りついたその体を粉砕した。
「竜帝の欠片ゲットなの! ウマウマ」
ガッガッと体に食らいつき、紫に光る塊をごくりと飲み干し、嬉しそうだ。
「ドラゴンちゃんそんなに強いのかー。やるなあ。うちのは変身する気配がないんだよなー」
なんでだろ? と元康は首をかしげている。
従魔の成長は戦闘に参加しているかも影響しそうだ。
尚文のフィーロは変化したし、樹のフィロリアルも同じように巨大化していた。変化も時間の問題に違いない。
逆に元康はドラゴンを騎龍として足にしか使っていないし、錬はどちらかといえば勇者の仲間パーティーに所属していたような感じだから。
「けど、霧がやまないな」
それに、霧はティラノサウルスではなく、森の方から来ていたようだった。であればもう一匹?
森の方を睨むと、騒ぎにフィロリアルがたくさん集まっていたようだったが、殺気に気づいて散っていった。
ドタタタタと大きく土埃を上げる勢いであり、それに合わせてか霧もやんでゆく。
その中には巨大なフィロリアルもいたような気がした。
なんだったんだろうか。
フィトリア「怖すぎる。ぴえん」
エロにいつまでもたどり着かないので次回は自体収集を巻いてアレコレしたいですね!
いずれはフィトリアも、と思ったのに顔合わせできなかったでござる。
タイミングが悪いね。だって下手に顔だしたら殺されそうだもんね、しょうがないね。