※この作品はR-18です。

性勇者様のやり直し   作:もこもこ@

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094 孤独な箱庭に指した一条の光

 

(うーみーはひろい~な、おおきーな~)

 

歌を歌いながら海向かってルアーを強めに投げる。

向かい風が優しく体を撫でる。潮の匂いは心を落ち着ける。

ここいらの魚はなんというか、擦れていない。

釣り人がいないせいで警戒心がないのだ。だから結構いれぐいである。

ポイントもちょくちょく変えているせいで、そこまで学習もされていない。

難易度を楽しみたいときもあるが、今は行為に没頭したい気分だったから、無心で糸を垂らす。

 

朝の早い時間の少しだけ体を冷やす陽気は時間経過とともにポカポカと暖かくなっていく。

 

(ああ、気持ちがいいなあ……あとで昼寝でもしようかな)

 

どうせ、誰もオレのだらしないところを指摘するやつはいないんだしーー

 

ああ。

 

やってしまった。

 

誰かの存在を意識してしまった。釣りのときは釣りに没頭できる。

魚との、海との対話が孤独を慰めてくれる。

一日の中で釣りをしているときだけが唯一の救いなのに、やってしまった。

しかし、一度行った連想は止まらない。

 

グラス、ラルク、テリス……自分の仲間の顔を思い出して心が千切れそうな寂しさに襲われる。

 

風山絆は異世界に召喚された四聖勇者の一人、狩猟具の勇者だった。

日本でVRヒーリングMMOである「ディメンションウェーブ」を姉妹と一緒にプレイしようとしてーー気づけばこの世界にいたのだ。

最初は単純にゲームの延長で楽しみ、世界を生きる人々にふれあい、仲間と絆を深め合い、勇者として世界を脅かす魔竜討伐の使命を果たしーー船旅の中遭難した先が敵国である鏡の眷属機の国ミカカゲであり、無限迷宮に幽閉されてしまったのだった。

出口のないこの空間はどう駆け回ってもどこにもいけない。

何年も何年も探索を続けたがそれでも出口を見つけられなかった。

 

孤独は少しずつ、少しずつ絆の心を蝕んだ。

天井から落ちる水滴が石を削るように少しずつ。

当初は絆はあらがっていた。助けを求めていた。

グラス、ラルク、テリスの名を呼んだ。

姉に、妹に、母に、父に助けを求めた。

けど、無情にもなんの答えもなかった。

 

いつまで立っても助けは来なかった。変化はなかった。

けれども風山絆の心根は確かに勇者だった。

助けに来ない仲間を、家族を責めることは例え誰もいない場所であろうとできなかった。

だからこそ、彼女にできるのは口に出さないこと、助けを求めないこと、思い出さないことだけだった。

 

出口を探すことはやめなかった。助けが来ない以上やめた瞬間、永遠ここに閉じ込められることが確定してしまう。

だから可能性はなくても、探している、だからいつか出れるという希望だけは絶やすことができなかった。

 

「寂しい、さみしいよ……」

 

数年の孤独。それでも発狂していないのは絆の心が強かったせいである。

しかし、だからこそより苦しむ結果になっていた。

 

諦められればどれだけ楽だったか。きっと一人心の凪いだ世界で生きて死ぬことができただろう。

 

だが、その未来は変わることになる。

なぜなら彼女の心と同じように、彼女の仲間たちは絆のことを諦めていなかったから。

 

絆は空を見上げた。美しく青い空に祈りを捧げた。

だれか、ここから出して、助けてと祈った。

 

ーーそうして、彼は空から落ちてきた。

 

 

**

 

 

異世界に渡ったと思ったら空中で、呪文を唱えるまもなく海の中に突っ込むとは誰が思っただろうか。

 

「むぼぶぼおお?」

 

短距離テレポート攻撃を受け、土の中にいたことはあるが、いきなり海の中は体が動く分逆に驚く。

 

「《こっぼきゅう》」

 

言葉にはならなかったが、呪文は有効である。水中呼吸の魔法が効果をなし、呼吸ができるようになる。

とはいえ、エラ呼吸をしているようなもので、地上ほど自由に呼吸ができるわけではなく、息苦しさがある。

今は明るく太陽が出ているのか、海面の方向がわかったので、そちらに泳いでゆく。

 

「ぷっはあ!」

 

海から顔を出しブルブルと顔を振って水を弾いて目を開けるとーーこちらを目を見開き見てくる同じくらいかひとつ下くらいの少女がいた。

ファンタジー世界らしい海をなめているのかなロリータ服に性能で装備してそうな服に合わない羽織をしている。

 

「お、おーい、大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫」

 

敵意はないようである。外見の特徴から、風山絆で間違いはなさそうだ。

ただ、年齢は18歳だったはずだが、彼女は中学生あるいは小学生に見える。

もしかしたらここは時の流れが外と違うのかもしれない。

だとすると、下手に長い時間滞在してしまうと、外で何年も立っているという状態になりかねない。

海から上がって、魔法で乾燥させる。できた塩の結晶をぱっぱと手で払った。

 

「俺は海道勇。刀の勇者だ」

「刀の! 俺は風山絆!! 狩猟具の勇者だ」

 

わあとペカーと幼い満面の笑みを浮かべる絆。

 

「ええと、その、四聖勇者の絆は今は18歳って聞いてるんだけど」

「うん? オレは日数数えてなかったから正確なところはわかんないけど、そのくらいなんじゃないか?」

 

見た目でわかるだろ? とその場でくるりと回転されるが、ロリータ服のせいもあるのか、ないのか、年齢どうりには見えなかった。

まあ、大人だけども子供料金余裕ですという女性はいないわけではない。

合法ロリというやつなのだろう。

 

ユウこそ酒もセックスもする違法ショタなのだが、自分のことを棚にあげて勝手に納得する。

時間にずれはなかったようだ。

彼女自身何年とここに閉じ込められていた割には健康状態も良さそうである。

時間はかけないに越したことはないが、一分一秒を争う程ではないというのは助かった。

それに、探すところからじゃなくて手間が省けた。

あとはただここから脱出すればよいだけである。

 

「さて、それじゃあ出口を探しに行くかな」

 

脱出不可能系にはいくつかパターンがあるが、はいるときの感覚からして、この無限迷宮は空間をつなげて閉じることで出口のない作りにしているようである。要するに、いくつか限りのある空間をつなげることでいつの間にか元に空間に戻ってくるような作りになっており、内側からは外につながっていない作りになっているのだろう。

すでに入ったときの穴は塞がれているようである。

 

この手のものは探索しても出口はない。

であれば、どこが出口を作りやすいかを探すべきである。

閉じた空間なら壁を破って穴を開ければ出口ができる。

あとは壊しやすい、崩れにくい場所を探せば良い。

 

 




原作の「数年孤独の世界に閉じ込められてたけど釣りがなかったら致命傷だったZE!」な絆は精神も超人ですよね。

実際は自分以外に音を立てるものがない世界に意味もなく叫びたくなったり助けに来てくれない仲間を呪ったりすると思うんですけどねー。
そんな取り繕った心のバランスが不意に崩れたときにちょうどやってきたと言う感じです。

脱出を諦めていないことを免罪符に希望を捨てないでいることで心を保っている少女絆さんです。

絆パーティで好きなのは?

  • 風山絆
  • グラス
  • テリス
  • ラルク
  • 全員さほど好きではない
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