オレは感動していた。
久方ぶりの人の声はどこまでも耳に心地よく響く。世界に色がついたように鮮やかに映る。
目の前にいるのは自分より年下の男の子だが、いかつくないその容姿はむしろ警戒心なく素直に二人になったことを受け入れることができた。
一瞬だけここに来てくれたのがグラスだったらと思った。
けれど一瞬だけだ。
来てくれたら嬉しい。でも、こんな出られない世界に来てほしくないとも思ったのだ。
だから、背景も知らない、彼がいなくなったとして悲しむ人がいたとして、でもそれが私にとって深い付き合いのある人間ではないということは、勇者にあるまじき考えであるにしても……都合のいいことだった。
そう、オレはもう本当は諦めていた。くじけていた。
この世界からは抜け出ることができない。そのことを。
出る道を探し続けていたのも、出られないことを確定しないための抵抗でしかなかった。
宝くじが当たれば今の生活が変わるよね。これをどこまで本気で信じて宝くじを買っているだろうか。
それと同じかそれ以上にオレは出ることを信じていなかった。
だから、二人になってそれが、孤独でなくなったことがどんなに嬉しかったか。
「俺は海道勇。刀の勇者だ」
「刀の! 俺は風山絆!! 狩猟具の勇者だ」
手を差し出し、相手の顔をまっすぐ見れば、相手も手を差し出してくれる。
両手でギュッと掴む。
ああ、自分以外の体温がなんて暖かく優しいものか。
幸せな気持ちが胸をふわわっと巡っていくのがわかる。
かいどうゆう。漢字を聞けば海道勇。海に風、道に山。勇気と絆。
とてもいい組み合わせじゃないだろうか。
それに、日本人であるということも高得点だ。
異世界で行きてみて思うのはやはり感覚に差があるということだ。
努力して埋められない差ではないが努力は必要とする。
これから一生を友にする仲なのだから仲良くなれるに越したことはないのだ。
まずは家に連れてゆき、料理でも振る舞うべきだろう。
そんな風に考えていたのにーー
「さて、それじゃあ出口を探しに行くかな」
はあ!? 声を漏らさなかった自分を褒めたい。
無限迷宮は出口のない迷宮だ。空間がねじ曲がっており、入れるのに出れない。
しかし広大な空間であり、それこそ迷えば元の場所に出るまでものすごく時間がかかる。
彼一人行かせてしまった日にはまた会うのにどのくらい時間がかかるかわからない。
それ以上に……
(もし彼だけ出れたとしたら。死んでしまったら)
いつか会えるかもしれない、会えないかもしれない。
下手に一度人に会ってしまった分、もはや今までのように孤独に耐えられないだろう。
いずれ帰ってこない彼を待つのではなく探しに出かけ、会いたい気持ちを元に……会えないなら死んだほうがマシと死ぬまで探し続けるに違いない。
「ま、待って! その、まず拠点を案内するよ。それにオレはここで長いから、ここのことよく知ってるし」
「そう? まあ、たしかに性急だったかな」
セーフ。ほっと一息つく。
彼もいずれはここから出ることを諦めるだろう。
だが、その時まで何があっても食らいついて一緒に行動しなきゃ。
こちらの表情を見て気遣ってくれる優しい彼だ。それにこちらを見ても性的な目で見てこなかった。
肌の露出がない服であるせいもあるだろうが、それでもわかるものはわかる。
彼は紳士な勇者らしい勇者なのだろう。中学生くらいだからまだ付き合うとかの意識がないだけかもしれない。
こっちだよと案内するふりをしながら手を握る。
指と指を絡める。人肌恋しすぎて飢えて死ぬところだったのだからしょうがない。
飢えて死ぬ前の人間が焼かれたステーキを見ればだらだらと湧き上がるよだれを飲み込むのと同じように、この極限状態で人肌に触れたことで、絆の本能は喚起された。
死を前にした人間がそうなるように、絆の体もまた子孫を残したい気持ちに揺さぶられたのである。
(手を握っただけでこんなになるなんて!!)
自分のことを”オレ”と言ってしまうように、絆はゴスロリの似合う可愛らしさを持っていながらも心は少年っぽいところがある。
性に目覚める中学生になっても付き合う自分が想像できなくて、むしろ姉たちがこぼす男の悪い面のせいでそんな気にならないでいた。
勇者になってからは恋なんてするどころじゃなかったし、親友であるグラスと旅することの楽しさや、ラルクたちの恋を応援することでその欲が完全に消費されていたのだ。
けれど、どこかに行かせたくない、引き止めたいという気持ちや性欲の目覚めで無意識だが完全に火がついていた。
そして、今まで一度もそんな気持ちを抱いていない人間が急に個人にそんな思いを抱いたとしたら。
初な少女の結論は一つだけだった。
(この子はオレの運命の相手に違いない!)
勇者らしい勇者である絆。そもそもの性根が善人である影響は強かったが、彼女本人状況に載せられやすいたちであることも理由の一つだった。
勇者らしくあれという無言の期待が絆をより勇者らしくしていたのである。
だからこそ、本能の訴えにもまた、素直だった。
手をつないだ年下の相手に愛欲をいだきながら、キュンキュンする子宮に導かれ、彼を家に誘った。
**
「じゃ、……じゃ~ん。ここがオレの住まいだ」
「へー、しっかり生活してたんだ」
彼は軒先の干した魚を見てそうつぶやいた。
まあ、数年と暮らしていたのだから、地に足のついた生活にもなる。
元々の釣り好きとしての経験もあるし、そもそも狩猟具の特性もあり、肉にも魚にも食べるものには困らなかった。
無限迷宮のなかがすべて土と石しかない迷宮だったら飢え死んでいただろうが、自然あふれる環境が多いので生きることは難しいことではなかった。
だが褒めてもらうのはそれだけで嬉しい。
ダイエット中の甘いもののように脳に染み込む甘さである。
ニヘラと自然と笑顔が浮かぶ。
こっちもこっちもとさほど広くない家の中を案内して、海の幸をたっぷりごちそうして、『海の魚はいいよね。地球と違って簡単には食べれないもんなあ』とパクパク食べる彼に
(男の子なんだなあ……!)
と感じいったりしながら一緒の時間を過ごした。
**
「しょ、しょうがないからね! ベッドがあいにく一つしかないし!! 海に落ちて疲れてるだろうしっ! お客様を地べたで寝かせるわけにも行かないしねっ!!!」
ベッドをバンバン叩いてから毛布の中に潜り込んでしまった。
顔を隠しながらも目はうるみながら早くと誘っていた。
ーー何もしていないのに出来上がってて困惑するが、
うーん。
経験が彼女は初めてだといっている。誘い文句も下手くそで、処女で間違いないだろう。
助けに来ただけなのになぜここまでと思わないでもなかったが、誘ってるのに無下にはできない。
窓の向こうから光る月明かりだけの部屋で、誘われるがまま毛布の中に入った。
自分から惚れていくスタイル。
絆パーティで好きなのは?
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風山絆
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グラス
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テリス
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ラルク
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全員さほど好きではない