記憶と言うか、知識と言うか、そんな感じの物……情報の濁流に飲まれかけながら私は呻き声を出さないように耐える。その姿が周りからどう見えてるかなんて、考える余裕も今は無い。
「おい!ナミに何すんだ!」
「巻き込まんように避難させとるだけじゃ。こんな弱った女を連れ回すとは、それでも船長と言えるのかのォ?」
聞こえてくる会話に、私は思わず口を開く。だってこれは、私の問題だもの。
ルフィは何も悪くない。これは、防ぎようのないものだもの。
「うちの、船長を……悪く言わないで。私が、勝手についてきたのよ」
「ナミ……」
「私が、勝手に、いつもついてまわってるの。ルフィは、何も……悪くっ!」
「この状態でも庇うか。本当にお人好しじゃな」
その直後、ルフィは船大工達と再び戦い始めたようで、何故かそれに参戦しないカクさんが私を抱いたまま移動する。それにより戦いに参加しないカクさんに怒号が向けられるけど、怪我人と病人には優しくするもんじゃと答えているのが、遠い意識の向こうで聞こえた気がした。
実際戦い始めてからも、最終目的としてはフランキーが暴れてるのを止めに来たんだと思っていたのに、船大工達はルフィだけを狙って攻撃して来る。今回手にした知識からその理由は分かったけど……納得いかない。
それに、なんでこの人が私を抱えて移動してるのよ。カクさんは……敵でしょう?
「離して……触らないで……」
「……自力で立っても居られん癖に良く言うのォ」
「
私の声に重なるように、パウリーがルフィを責める。ルフィは意味が分からないって顔してて、どんどん追い詰められて行く。
戦う理由のないルフィと、殺意を隠そうともしない男達では差があり過ぎる。そうして追い詰められたルフィの元で爆発するように火花が飛び散った。
「ルフィー!」
私は、なんの為についてきたの?
足手纏いになって、敵に庇われる為に来た訳じゃない!私は、少しでも役立ちたくて着いてきたのよ!
決意を込めてクリマタクトを握り、カクさんに殴り掛かる。それにより距離を置いたカクさんに、不敵に笑って見せれば小さく強がりがと吐き捨てるように言われてしまったけど、気にならない。
「本日は落雷降り注ぐ荒れた天気となるでしょう。ご注意ください!」
それから船大工達の上に雷雲を発生させれば、私も戦いに参加出来る。鉄の刃物を持ってるからには、いくら人間離れしていても多少効くでしょ!
騒ぐ人々に、油断してる人達に、私は宣言する。このやり方ならゴムであるルフィは巻き込まないで済むし、フランキーとのそれを邪魔してるのは私じゃないもの。
「私の予報は外れない!」
雷は私の想定通りに降り注ぎ、大騒ぎになる。この雷に例えばフランキーが巻き込まれたとしても、それは偶然による事故だと言い張ってやるわ。
えぇ、そう、これは事故よ。フランキーを殴りたいなんて、少ししか思ってないわ!
その時私の元へ飛んできたのはハットリで、危ないと思って攻撃の手を緩めた瞬間に、背後から腰に回された腕。いつもとは違う感覚でありながら、妙に覚えのあるその感覚に全身が総毛立つ。
見なくてもわかる。ルッチさんの腕に無駄と分かっていてその腕を叩いたり、身を捩ったりしてみるけど隙間を僅かに作る事さえ出来ない。
「やっ……!離して!」
「カクの次はルッチかよ!何してんだお前らは!」
パウリーの怒鳴る声が聞こえて、思わず1瞬縋るような視線を向けてしまえばパウリーが動きを止めた。それから無言で息を吐き出して、困ったような顔を向けて来る。
それは少し労わるような色を含んでいて、本当にこの人は善人なんだと思わされる。……お金に縁遠いけどね。
「クルッポー!1人でも多く捕まえておかないと手配書のない奴には逃げられるっポー!」
ハットリを用いた腹話術。その声もルッチさんが出しているのだと思えば、何だか不思議な気がした。
そんな私とルッチさんを見て、パウリーは言葉を放つ。苛立ちを含んだ声で。
「それだけ弱ってんだ!動けねェだろ!解放してやれ!……女子供を人質に取るようなやり方は、男として見逃せねェ!」
パウリーの言葉に驚いている間に、ルッチさんは私を腕1本で抱き上げたままその体を移動して行く。それにより、自由にならない状態での浮遊感に叫びたいほどの恐怖を感じて、いつもなら大丈夫なのに何故と思う。
そして、気付く。いつもは、こんな時私を抱いてるのはルフィだと言う事に。
その状態でもルフィと船大工、そしてフランキーもいる状態での戦いは続いている。それにより崩れ落ちる建物や機材のおかげで噴煙が起きて、視界は1瞬にして遮られてしまう。
その状況下でも、私はルフィを見付けてしまう。ルッチさんに囚われている事に対する恐怖もあり、負担になりたくないと思っていた筈なのに、思わず縋るように手を伸ばしていた。
「ルフィー!」
「ナミ!」
ルフィは私の声に反応してルッチさんに飛び掛る。ルフィがルッチさんに殴れば、ルッチさんの腕から力が抜けて私は空中に投げ出される形となった。
けれどもルフィはそんな中で迷う事無く私の体を抱き締めてくれて、だから私も思わずその体に両腕を回す。……怖かった、本当に、ルフィじゃなきゃ嫌だと思ったの。
小刻みに震える私の体を1度だけルフィは強く抱きしめて、それから着地と同時に小さく立てるか?と問い掛けてくる。その問い掛けに頷けば、そっと地に私を降ろしてからルフィは船大工達を見据えた状態で言った。
「ナミ!走れ!」
「何処に?というかルフィ大丈夫なの?」
私を庇うようにしながらも、敵を見据えて両手は戦えるように自由にしているルフィ。そんなルフィに心配で声をかければ、少し苛立ちを秘めた声が返される。
「俺があれくらいでやられるか!」
ルフィが近くに居るという安心感に、少し笑いそうになりながら……同時に強くなったなと思う。私がルフィを守るなんて、きっともう出来ないだろうって思える程に、ルフィは強くなった。
戦い、躱し、逃げ回る。そうして息を切らせながらルフィは苛立ちを発散したらしく、いつもの調子で言葉を紡ぐ。
「意味が分からねェから、取り敢えずアイスのおっさん所に行こう!」
ルフィの言葉に頷いてルフィへと腕を伸ばすのと同時に、ルフィも私に腕を伸ばしてくれて支えてくれる。振り落とされないように抱き着けば、町の人達が襲ってくるのが視界の隅に入ったけど、ルフィがそれに捕まる筈も無い。
「しっかり掴まってろ!」
言葉と同時に飛び上がるルフィにより運ばれたのは屋根の上で、そこから更にルフィは加速して移動を続ける。喧騒を抜けた辺りで、けれどもやはり屋根の上にいる状態で、私は現在絶賛ルフィに叱られている所です。
「どうしてナミは雷落としたりしたんだ!俺が助けに行くのが遅れたら、どうするつもりだったんだ!」
「だって……」
「だってじゃねェよ!ここの船大工達は強ェんだぞ。あれだけ殺気立ってたら、今みたいに弱ってるナミなら殺されてた可能性だって充分にある!それどころか高ェくらいだってのに、何考えてんだ!!」
「……だってぇー……」
つい、口を開けばいつもとは逆に私がルフィに叱られ続けるという謎な現象が起きている。おかしい、立場が逆転してるわ。
「ナミは普段なら逃げ足とかだけは折り紙付きだけど、今は俺に抱かれた直後で足腰立たねェんだから無理すんなって言ってんだよ!」
「それは、私が……」
「今はそう言う話してるんじゃねェんだよ!俺はナミが大事なんだよ!……心配かけんな!」
そう言ってからルフィはハッとしたように体を硬直させて、その表情を困惑に彩り……赤くなった。……どうしよう、可愛い。
ルフィが可愛いとか言ったらまた怒られそうだし、話が脱線するのは目に見えてるので、私は少し俯いて言い訳する。まぁ、言い訳だって自覚してる時点で、私の行動に間違いがあったのは認めてもいるんだけどね。
「足手纏いになりたく無かったのよ。着いてきたのは私の勝手だし、それに、雷ならルフィには効かないじゃない」
「攻撃手段の話をしてるんじゃねェよ!ナミが攻撃した事で船大工達に狙われたら、1溜りもねェって話だ!!」
……ルフィが怖いです。そして、確かに捕まった私には他に言える言葉はない。
「ごめんなさい」
「分かればいいんだよ分かれば」
何だろう。この理不尽さ。
でもルフィが心配してくれてたのは分かるし、溜息つきながらも頭を撫でてくれてるその手が優しいから、不満さえ持続しない。ルフィの手が気持ちいい……って、これは……!
その時私はどうにも嫌な風を感じて立ち上がる。それにルフィは視線でどうしたと問い掛けてくるから、素直に言葉を口にした。
「嫌な……風なの。少し調べてみないとだけど……これは多分、普通じゃないわ」
「なら、それ調べたりとかは任せる。ナミ……」
呼び掛けに何と返そうとした所で、ルフィに抱き寄せられて唇が重なった。そのキスが熱くて……そして、多少じゃない苛立ちと悲しみを伝えて来る。
心配をかけたのだとそのキスで伝えられて、ごめんなさいと言葉の代わりにキスに思いを込めれば、ルフィのそれが次第に落ち着いて来る。そのキスの間に多くの葛藤がルフィの中にあるのだと、気付かされてしまう。
思った事の大半を素直に口に出すルフィだと知っているから、今の状態がなんとも不思議に思えてしまう。でも、ルフィの成長にはこの瞬間も大切なんだと分かってる。
唇が離れた瞬間にルフィを呼べば、ルフィもまた私の名を呼んでくれる。それは当たり前なんかじゃない、奇跡のような幸福なのだと思い知る。
「ルフィ……」
「……ナミは、狡ィ。いつもそうやって、怒らせてもくれねェんだから」
「鎮痛剤飲んだし、大丈夫だと思ってたのよ……」
「……チョッパーから、許可もらってから飲んだのか?」
私がそれに首を横に振ると、ルフィに泣かれても知らねェからなと言われる。それに言葉を詰まらせた私を見て、ルフィは何だか久しぶりにいつもの太陽みたいな笑顔を見せてくれた。
それが何だか嬉しくて、愛しくて私も自然に笑えば、ルフィは少し照れたような顔をしてから、熱い視線を私に向けて来る。そんなルフィの首にそっと腕を回せば、ルフィと私の唇は再び自然と重なり合っていた。
お盆なんてなーいさ、お盆なんてうーそさ、ねーぼけーたひーとが、見間ちがーえたーのさー。(お化けの歌のリズムでどうぞ)