ロビンの名を叫ぶように呼びながら、パウリー達に来る攻撃を受けていたら突然その攻撃していた動きが収まる。ルフィはその間に、ロビンを追いかけようとして阻まれ続けていたが、その時その様子を黙って見ていたゾロが叫んだ。
「お前ら伏せろ!」
言われるままに伏せれば頭上を鎌鼬が飛んで行く。否……これは鎌鼬じゃないわね、嵐脚ってこんなに威力あるんだ。
壁が切れているそれに、私はどうしてこの技が使えないんだろうと少し首を傾げる。その間にゾロがカクに斬りかかり、そして、ルフィが吹き飛ばされて戻って来た。
「ルフィ!」
「大丈夫だ!ロビンを捕まえる!」
思わず名前を呼んだ私にルフィはそう言って駆け出す。けれどもルフィはルッチに抑えられて、ロビンはその隙に2度と会う事は無いわと言って姿を消してしまった。
そして、ゾロはゾロでカクと会話をしているのが聞こえてくる。船の査定も嘘なんじゃないかと問い掛けて居るゾロの声に、自然と意識はそちらに向く。
「船の査定は、残念ながら真面目にやった」
その言葉に、私の体はビクリと揺れる。メリー……ウソップ……。
そんな事を考えている間に、ルフィはルッチに壁に投げ捨てられるとその衝撃で壁が崩落して瓦礫に埋まる。同じタイミングで、ゾロはカクに指銃で攻撃されて膝をつく。
チョッパーは私の横で驚愕にその瞳を見開いている。そんな状態の私達を隣で、パウリーとアイスバーグさんが見ている。
ルフィとゾロが体を起こして残ったメンバーを睨み付けると、ルッチは言う。自分達がどう育ったのかを。
……それは、本当に正義なのかな。物心着く以前の頃から、人を人としてでは無く戦闘員として育てるような機関が正義なんて言えるのか……って、待ってよ?だとしたら、あの時ベルメールさんが私達の〝母親〟になってくれなければ、私とノジコもそうなってた可能性があるって事よね。
政府は子供を集めている。その子供達をCPとして育てたり、兵として育てているのならば私やノジコだって例外じゃなかった筈。
……思わぬ現実に、泣きそうになる。私達姉妹はあの時既に、返し切れない程の恩を受けていてベルメールさんに救われていたんだと気付いたから。
海軍に所属して、将校として生きていた期間のあるベルメールさんなら、知っていた可能性もある。だからって、ベルメールさんが私とノジコの母親になるって決めたのは、まだ21歳の時。
私なら、そんな決断下せるかな。1歳と3歳……どちらも違う意味で手のかかる年齢の子供を、仕事だってこれからが楽しくなるって時期に……。
「ナミ……?」
カクの声が聞こえて視線を向けると、弱ったような顔をされる。そして、1瞬で近付いて来たと思ったら何故か抱き締められてしまう。
「ちょっ!何す「そんな顔をされたのははじめてじゃ。それ程悲しそうな顔をされるとは、思ってもみなかった」」
「カク、離れろ。それとも……連れて行くか?ニコ・ロビンは騒ぐだろうが、それも悪くは無い選択だ」
私の抵抗の声はカクに阻まれ、カクの行動でルッチがそんな事を言う。それによりカクが私を抱き締める腕に力を加えて来て、少し苦しい。
「離して!」
私が叫ぶのと同時に、爆発が起きる。下からは火が上がったのだと、船大工達の騒ぐ声が聞こえて来る事で分かった。
その時カクがそっと耳元で囁いた。何処か、苦しそうな声で。
「ナミ、頼むから……来ると言ってくれ。そうすれば守ってやれるんじゃ」
「あんた達に守って貰いたくないわ。それにね、そもそも私が、皆を守ると決めてるのよ!」
「後悔しても、助けられんぞ」
そう言った直後にカクは私の唇を塞ぐ。そのキスからは悲哀を感じてしまうけど、そんな事どうでもいい!
「いやっ……!」
必死でクリマタクトを振り回せばカクはそっと私から離れて、悲しげに笑った。そして、直後に表情を消すとルッチに拒まれたようじゃと言った。
それを受けてルッチはその姿をあの夜の、獣の姿に変える。それを見て、私の体は自然と震えはじめる。
嫌だ……あの姿は……。
横でチョッパーも震える。肉食系のゾオン系は凶暴性を増すのだと言って。
私はそれを、身をもって知っている。でも今は、あの夜とは違い、ルフィもいるしゾロもいる。
なのに……怖い。体が小刻みに震えて、ルッチが壁や天井を破壊したのに対して身動きを取る事が出来ない。
「ナミ!!」
私を呼ぶ声に緩慢に反応した瞬間、チョッパーに突き飛ばされて床に転がる私。そして、私を庇ったためにチョッパーが瓦礫に埋まってしまう。
「チョッパー……?チョッパー!」
嫌だ!私のせいだ!
私が、弱いから、チョッパーが!チョッパー!
瓦礫に向かってチョッパーの名を叫びながら、死に物狂いでチョッパーを掘り起こそうと努力する。けれど、その間にパウリーはアイスバーグさんを逃がそうとして、殺されかけていた。
それを庇ったルフィが外へと投げ捨てられてしまう事で、私は漸く他にも意識を向けられるようになった。けど、既に詰んでるのは嫌という程分かってしまうし、その現実にルフィの名を呼ぶしか出来ない自分がいる。
「ルフィー!」
叫ぶ事しか、出来ない自分がいる。ルッチのその姿に、痛みと恐怖が蘇る。
ゾロはそんな私を見て、何かを悟った様子でルッチに斬り掛かる。けれどもそれを軽く受け止めたルッチは、そのままの勢いでゾロを蹴り飛ばす。
壁を突き破り飛び出して行くゾロに、身動きの取れない私は震えながら名を叫ぶ事しか出来ない。私は、また、何も出来ないの?
「ゾロー!」
「最後の誘いだ。選択肢を2つやろう。ナミとして、俺のモノとして共に来る。もしくは宝玉として、CP9に属する。好きな方を選べ」
「……もし、どちらも断ったら?」
「勧誘失敗の直後に、不幸な事故が起きて宝玉が死ぬだけの事だ」
今の私では、戦いにならない。でもついて行って、どうなるの?
私としてついて行く場合、ロビンは私を人質にされて、私もロビンを人質にされて、結局この間みたいに扱われて遠くない未来に死ぬとしか思えない。
宝玉の方だって、価値を考えても結局はちょっと名の売れた作家でしかないから、資金源にと考えられているのだろうと思う。そして、結局ていのいい性欲処理に使われるのだろうと……それくらいはわかる。
こいつらの側にいても、ロビンを助ける以前に体力を奪われて助ける事なんて出来なくなる。ううん、それどころか足手纏いにすらなりかねない。
今だってチョッパーに守られて、瓦礫の下にいる筈のチョッパーを掘り返す事さえ出来ない私なのだから。ならば、私の答えは決まってる。
だって私はルフィの航海士だから。そして、皆が揃っていたら負ける筈なんてないと分かってるから。
「断るわ。私の男は1人だけ、私の能力も体も、命も心も全て……ルフィの為だけにある!」
「俺に抱かれて、腰を振っていた女が何を言うかと思えば……」
「あれは暴力よ。強姦」
「そうか?お前の体は悦んでいた様子だったが?」
嘲るようなそれに、私は逆に冷静になる。クリマタクトに縋る形で立ち上がると、パウリーの声が聞こえて来た。
「ルッチ……てめェ……こんな小娘に手を出したのか!あれ程にわかりやすい恋人が居るってのに!」
「守れない男が悪いだろう。それに、この女も悦んでいたと今言っただろう」
「お黙り!私はルフィの女で、麦藁の1味の航海士!それは例え、私が死んでも変わる事の無い真実よ!」
私の言葉に視線が集まるのが分かった。でも、体はもう震えてない。
勝てるとは思わないけど、勝てないとも思わない。チョッパーを傷付けたのは私で、今にも死にそうな人達が傍に居る。
ここで逃げるなんて、そんな選択肢は持ち合わせてないのよ!
向かって来るルッチの攻撃を、先程見たばかりのそれを真似て躱す。見聞色の覇気の1段階前なのではないかと思ったら、やはりそうだったらしい。
見聞色の覇気とは違い、覇気ではない分体力の消耗が少なくて逃げるのが楽になる。そう、これは風の流れに逆らわずに揺れる柳の枝みたいな技だと思う。
もしくは、舞い散る木の葉のような、捕らえるのが難しいそれのような……。私は紙絵と呼ばれていた技で、ひょいひょいとルッチの攻撃を躱しながら反撃の隙を伺う。
「……ルッチの攻撃を、躱し続けるですって……?」
「元々〝泥棒猫〟の名を持つ女じゃ。逃げる事と躱す事は得意なんじゃろうが……」
「予想外の能力だな。だが……」
「それも、体力の消耗量を考えれば時間の問題ね」
3人の会話が聞こえてきて、五月蝿いなと本気で思う。でも、躱して行く中でルッチの動きの癖が見えて来る。
クリマタクトを強く握り、躱した勢いのまま殴りかかれば確かに1撃が入る。でも、そのクリマタクトを掴まれてクリマタクトごと振り回された私は、簡単に外へと投げ出されてしまう。
でもその瞬間に小さく、残念だとルッチが呟いたのは気の所為だろうか。どうしてだろう、ルッチとアーロンが少しだけ被って見えたのは。
ウソップ……ごめんね。彼等を止められなかった。
チョッパー……ごめんね。私が弱いから、助けようと思っていたのに……助けられてしまって。
ロビン……ごめんね。悲しい決断をさせてしまって、私はそれでも、貴女を諦めない。
ルフィ、ゾロ、何処に飛ばされたのかな。サンジ君は別行動だけど、大丈夫かな。
皆……お願い。無事でいて。
そうして私の意識は闇へと沈んだ。そこで見たのは、フランキーの過去。
頭痛がした時に拒んだからか、意識のない間にそれがまるで映画のように流れる。でも、夢だからなのか共に居るような気持ちになるのに、私の声は誰にも届かず、誰にも私の姿は見えない。
幽霊にでもなったような気分で、悲しい過去の記憶を体感させられる。でも、こんな現象は実は初めてじゃない。
ロビンの過去も、こうして見た。ロシーとローちゃんの過去であり、自分の未来の1部も。
……どうしてこんなにも、皆悲しいのだろう。何事も無ければ、海賊になんて誰も望んでなりはしない。
だからこそ、それに見合う過去があるのだと頭では分かってるのに、それがどうしても心が理解しない。フランキーの事は許せないけど、それでも……彼がどうしてああなったのかは理解出来てしまう。
……今度フランキーの話も本にして売り出す事で鬱憤晴らしてやる!と、小さく誓ったところで私の意識がゆっくりと浮上する。いつまでも寝ては居られないわね。
意識が戻るのと同時に体を起こせば視線の先には意識無く倒れているチョッパーがいて、私は慌てて近付こうとしたけど背中が恐ろしく痛む。それにより呼吸が1瞬止まりかけるけど、そんなのは気にしていられない。
「チョッパー……!」
ふらつく体でチョッパーに近付くと、呼吸はしてると分かる。でも、意識は無くて……。
「チョッパー!チョッパー、ごめんね。私が、弱かったから。守れなくて……」
「お前ら俺達から少し離れてろ。この女と2人で……話をしてェ……」
聞こえてきた声に視線を向ければアイスバーグさんで、私を真っ直ぐに見据えてくるのでチョッパーとアイスバーグさんを交互に見ていたら、仕方なさそうな顔でアイスバーグさんが近付いてきてくれた。どうやら私がチョッパーから離れられないと判断してくれたらしい。
それに感謝しつつ手持ちの物とチョッパーの荷物を使って、簡易的な処置をチョッパーにしながらアイスバーグさんにどうしたのかと声を掛ければ、呆れたような顔をされる。それが理解出来なくて首を傾げたら、上着を私にふわりと掛けてくれてから、チョッパーの処置が区切りになるのを待っていてくれた。
「ンマー……治療しながらで良い話からしようか。まずは、目に見える者全てを1人で背負おうとするな」
「え?」
「そのトナカイも、俺達も、自分の船長も……そして、ニコ・ロビンも1人で守ろうとするから、全て中途半端になる。人間が1人で守れるのは自分の他1人だと思っとけ。無理なら、優先順位を付ける事を覚えろ」
「優先順位……」
思わずオウムのように繰り返した私は、手を止めてアイスバーグさんに視線を向けてしまう。そんな私にアイスバーグさんは何処か気遣うような眼差しを向けて来る。
だから私は、チョッパーの包帯を縛ってから体の向きを変えて、お待たせしましたとばかりに笑ってみせる。今は体の痛みとか、そんなもの気にしてる場合じゃない雰囲気なのは分かってるから。
そんな私をアイスバーグさんは困った子だとでも言わんばかりに見てくるから、少しばかり居心地は悪いけれども。チョッパーの呼吸は安定しているし、今は会話に集中しても大丈夫かしらねと、私はそっとチョッパーから視線を外した。
今日、クーラーの設置をして貰えます!自分じゃ取り付けなんてできませんって……。