※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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アイスバーグ

 アイスバーグさんの目の前にて正座すれば、いつも人の上に立っているからなのか、そんな私の様子に少しだけ笑った。それから話の続きを口にする。

 

 「優先順位だ。まずはそれの先頭に自分を持って行け。……人を大切にしたいなら、まずは自分を大切にしろ。特に、男ばかりの船だろう?女に守られてたんじゃ立つ瀬がねェ。分かってやれ」

 「でも、私は皆を……!」

 「分かってる。護りたいんだろう。だからこそだ。体の傷は癒せても、心の傷は何時までも遺る。大切な仲間の傷にならねェように、まずは自分を大切にしろ」

 「はい……」

 

 言ってる事はもっともで、でも、私は……。そう思っても反論出来そうもなくて俯きながら返事をしたら、頭を撫でられてしまう。

 それにより、何だか子供になったような気がする。無駄に人生経験だけは豊富な筈なのに……。

 

 「男ってもんは、いつまでも見栄っ張りなガキだったりするもんでな。女の前ではいい格好したいんだ。それを庇われて怪我をされたり死なれたりしたら、立ち直れねェ……。わかってやれ」

 

 この人の言い分は、わかる。多分言ってる事は正しい。

 だけど私はただ、この島を守る為に頑張ってるアイスバーグさんは必要な人だと知っていたのよ。なら……生きていてもらわなきゃって思ったのに、守ったのは結局パウリーだった。

 私、本当に役に立たない。その上今も、なんか慰められてるし。

 

 「話は変わるが、まずは……ンマー……申し訳無かった。お前達に妙な濡れ衣を着せた。誤解は後で解いておく」

 

 海賊に、謝罪?

 そう思って顔を上げれば、直後にアイスバーグさんは本題に入ってくれた。ロビンについて、アイスバーグさんは話し始める。

 私はアイスバーグさんからの質問に答えたりしながら、アイスバーグさんの話を聞く。その中で世界を滅ぼす術をアイスバーグさんとロビンが持っていると話すから、つい素直に頷きつつ答えてしまった。

 

 「そうですね。知ってます。だからロビンも貴方も狙われたのでしょう」

 「お前……!そうか、何処かで聞いたと思った名だったが〝宝玉〟とはあの本の……!」

 「そう、だから私の事も政府は殺せないんです。でも、私もロビンもそんな事するつもりも無いし、それは世界政府が歴史を暴かれたくなくて公言してるだけの事。ロビンは、何も悪くない。そして同時に……貴方も間違ってはいない」

 

 きっと誰も間違ってなくて、それぞれの正義がある。それがぶつかり合うから、戦いは起きる。

 私の言葉を受けて、アイスバーグさんは怒鳴るように、叫ぶように問い掛けてくる。その気持ちはまぁ、分からなくも無い。

 

 「宝玉とニコ・ロビンを抱えて、麦藁は何をするつもりなんだ!?」

 「……海賊王に、なるつもりなだけよ。私はルフィの幼馴染でしか無かった筈なんだけど……」

 

 今は、その……ルフィは大切な人で。いや、皆も大切よ!?

 でもほら、種類が違うって言うか。うー……。

 明らかに茹だっている私に、アイスバーグさんは冷静な言葉を口にする。それが余計に恥ずかしい。

 

 「……恋人だな。言われなくても分かる。ニコ・ロビンも……お前は特に可愛いらしい」

 「女はこの船に2人だもの、身を寄せ合ってるに決まってるじゃない」

 

 私の言葉に成程天然でその上鈍いのかと呟かれたけど……人間だから、全員天然だと思う。人工って人の手で作り出される……あ、サイボーグとかは人工か。

 だとしたらフランキーは、天然じゃなくて既に人工よね。うん。

 

 「ニコ・ロビンの話を伝える前に、言わなきゃならねェ事があったのを思い出した」

 

 なんだろうと思って首を傾げたら、アイスバーグさんが頭を下げた。それには流石にギョッとしてしまう。

 

 「……庇ってくれた事、感謝する。もし、あれ以上の攻撃を受けていたら……俺も、パウリーも生きちゃいなかった」

 「あ、頭を上げてください!私は貴方の価値を知っているだけです!お願いします、止めて!」

 「宝玉程の価値は、俺には無い。その上犯人として陥れる側に加担した。それなのに、当然のように庇い続けた。俺が1撃でも受ければ、死んでいただろう攻撃を、受け続けてくれた。……感謝している!」

 「この島は!……貴方にしか救えないし、守れません。だから、生きて欲しかった。私はただ歌う事が好きなどこにでも居る普通の航海士です。だから、やめてください」

 「本気で……言ってるのか?」

 

 何を示してその言葉を言われたのかわからなくて、私が首を傾げるとこれは麦藁も大変だと言って笑い出す。それから真剣な顔で、ニコ・ロビンの気持ちが、少し分かったような気がすると言った。

 そうしてロビンが私達の為に、自分の命も、世界が滅ぶ事だって構わないと……そう思ってくれていた事を伝えてくれる。今この場に居ない筈のロビンが……見える気がした。

 

 「事もあろうに全世界に生きる全ての人間の命より、あの女は、お前達6人の命を選んだ」

 

 うん、知ってた。ロビンが、それを選んでくれた事を。

 そして、多分私がロビンでも、同じ事を選択して……そして、皆に叱られるんだろう事も。だから、私はロビンを叱りに行かなきゃいけない。

 苦しそうに頭を抱えてアイスバーグさんは自分も設計図を奪われそうだと言うけど……大丈夫、それは、大丈夫だから。……早く、ルフィに伝えに行かなきゃ。

 そう思って立ち上がろうとしたら、背中の傷が開いたのが自分で分かった。痛みにより草に倒れた私に、アイスバーグさんは心配して声を掛けてくれる。

 でも、私行かなきゃ。ルフィ……ロビンを〝助けていい理由〟が出来たよ。

 

 「おい!しっかりしろ!」

 

 言いながらアイスバーグさんが私の体を抱き起こして、背中に触れた瞬間に人を呼ぶ。その声に待ったを掛けても聞いてくれなくて、困る。

 

 「急いで水と薬と包帯持ってこい!それと、タオルとガーゼだ!」

 「私、大丈夫。これくらい、慣れてる……」

 「……慣れてちゃ不味かろう。少し待て、応急処置はさせてくれ」

 「乙女の柔肌に触れようって?こんなに人がいる所で、晒しながら?」

 「お前な……」

 

 大丈夫、私は慣れてる。これくらい平気よ。

 ロビンが待ってる。ルフィと、ゾロを探して、ロビンを捕まえて……サンジ君と合流して、ウソップを回収しなきゃ。

 

 「ロビン……」

 「っとに、戦ってる時とは別人だな……」

 

 その言葉の直後に何かが唇に触れて、そのまま口の中に水と共に押し込まれる。それが薬系の物だと認識して、本能的に暴れようとしたけどそれを口移しで飲ませてるのがアイスバーグさんだと分かり、抵抗出来なくなる。

 こんな怪我人、殴れる筈ない……!

 それでもどうにか抵抗する私の喉の奥に無理矢理薬を押し込み、苦しくて飲んだ私を確認するまでその舌が私の口内から抜かれる事は無かった。……て言うか、口移しで飲ませるとか、それなりにキス上手くないと出来ないんだけど、この人慣れてらっしゃる?

 

 「鎮痛剤だ。お前の荷物にあったものだから、飲めるだろう。今、傷も簡単に応急処置してやるし、人払いもしてやるから、暴れるな」

 「薬、なら、自分で……」

 「飲めなかっただろ。……子供が強がるな。たまには大人に甘えておけ」

 

 いや、口移しで飲まされるくらいなら自力で飲ませて欲しかったです。……助かったけど。

 自分の体で壁として私の背中を確認してくれるその優しさに、少しだけ力が抜けそうになる。優しい、な。

 けれども傷を見たアイスバーグさんは息を飲んで、それから溜息を落とした。それを見なくても分かるって、この人は素直なんだなと少し思考力の落ちてる脳が判断する。

 

 「強がりなんてレベルじゃねェぞ、これは……治療してる間だけでも休め。怪我人の治療は、大工仕事する上で必須だから任せてくれていい」

 

 その言葉に眠れないのは分かってるけど、体から力を抜く。覇気を使い、初めての技も使ったから思ったより消耗してたらしいと、今更知る。

 それから間もなく治療を終えてくれたアイスバーグさんにお礼を言って、動き出そうと体を起こしたら、もう1度……今度は薬なんて無いのに、その唇が私のそれと重なる。動くと傷が痛むのもあって、更には怪我人だからと抵抗出来なくて……。

 

 「ゃ……んぅ!」

 

 私は、弱い。それが悔しくて、苦しい。

 そっと離れた唇の隙間で、アイスバーグさんは言う。その瞳は何処か心配そうで、だから責める事も出来ない。

 

 「お前のその甘さは……命取りになりかねねェな。……もう少し若けりゃ、俺も本気で口説かせて貰ったんだが、今はこれだけ言っておく。……俺にできる範囲で、協力を約束する」

 「え?」

 「助けられた恩と、濡れ衣を着せた詫び、そして……お前に落ちかけてる男として、約束してやる」

 「なっ!?」

 「麦藁にも迷惑かけたからな、これ以上は手を出さねェさ。……行け、仲間を起こすんだろ?」

 

 なんと言えばいいのか、既に分からない。分からないから、私は無言でその手を振り払ってチョッパーの元へ向かう。

 落ちかけてるって、何?

 え?好きとか、そういう話!?

 そんな馬鹿な事……ある訳ないわよね。うん、私の勘違いよ。

 勘違いだと分かっても混乱している私は、チョッパーを攻撃する勢いで叩いて起こす。お願い起きて!

 

 「チョッパー!起きて!ねぇ、急いで!チョッパー!」

 

 大丈夫わかってる。これを人は八つ当たりという。

 チョッパーを起こしながら、少しルッチの事を思い出す。何故かアーロンと重なる所を感じたあの人は、結局何がしたいのか。

 ハットリは可愛いのに、どうしてあの飼い主はあれ程に凶暴なのか。……ハットリが懐くくらいには、仲間が庇うくらいには……人としてのいい所も有るのだろうと思うけれど、今の私にはその良い所が少しも分からない。

 ……私は弱い。弱過ぎる。

 このままじゃ、ダメよ。もっと、強くならなきゃ、何もかも失ってしまう。

 ルフィやゾロは遠くへ飛ばされたのに、私だけ真下に落とされたのが弱さの証。チョッパーは自力で逃げ出して来たというのに……私は……。

 そうよ、CP9はロビンと〝麦藁の1味〟を殺さないって約束をしていたから、死ぬ危険性の高い存在は助かるような位置に落とすしか無かったんだわ。だとするならば、やはり今の私では……!

 

 「へべ!」

 

 叩き続けて居たからか、チョッパーはそう言って意識を取り戻した。それに対して状況を説明すると、チョッパーはいつもの姿になったり人型になったりしながら返事をしてくれる。

 うん、安定の可愛さだわ。やはり世界の正義は海軍なんかじゃなくて、チョッパーよ。

 

 「麦藁達もやられた。今更何をするつもりだ」

 

 先程仲間を起こす事には理解してくれたのに、心配そうにそんな言葉を口にするアイスバーグさんに笑ってしまう。本当に、この人は職人気質なのね。

 

 「今更?違うわ、今からよ!これからロビンを奪い返すの!迷ってた私達は弱かった。でも、もう、助けていいとわかったの。それならアイツらは誰にも負けないわ!」

 

 自分が負けないではないところが悲しいけど、でも、私は全幅の信頼を持って、笑顔で言い切る。そんな私に溜息をついてからアイスバーグさんは、今日の海列車は30分後に出るので最後だと教えてくれる。

 

 「チョッパー、2人の飛ばされた方角を言うから、2人を探して。私はロビンを追い掛ける!」

 「うんよし、分かった!ロビンはナミに弱いからナミが行くのがいいと俺も思う!」

 

 何それ……私そんなにロビンに甘やかされてた?

 大切にしてるつもりで、大切にされてて、結局私は何も出来てなかったのかな。そう考えると、少しつらい。




皆様はそろそろお盆休みですかね。熱中症等、皆様気を付けてくださいね。
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