チョッパーと合流して手紙の事を伝えれば、チョッパーは安心したように笑って喜ぶ。とりあえずサンジ君がロビンとウソップの所に居てくれるからと伝えたら、チョッパーは明らかにホッとした様子を見せた。
その様子から、恐らくはウソップの事が気掛かりだったのだろうとわかる。チョッパーは優しい子だし、ウソップの事が大好きだから。
私はそんなチョッパーに少し微笑んでから、残る問題2人を探す事に専念する。チョッパーもまたやる気を出してくれたし、船大工達も全力でサポートしてくれる。
それでも2人は見つからない。絶望の声が、諦めに近い声が聞こえ始めた頃、ココロさんとチムニーを見掛けて私は足を止めた。
チムニーが騒ぐ中、海を見れば完全に干上がっていて……これは、不味いと寒気がする程。チムニーはそんな中で、海ではない何かを見て騒ぎ続けている。
だからなんだろうと思って、チムニーの示す先を見ればそれは……明らかにルフィ。私はその姿を見て、何も考えずに屋根から屋根へと移動しながらルフィの元へ向かう為に移動していた。
「ルフィ!!」
背後から何か叫ばれてるけど、今は気にならない。私の思考はルフィにのみ向けられている。
完全に干上がった海は、海底であるべき大地が見えている。即ちその危険性だって分かってる。
伊達に長い事日本で生きてた訳じゃない。干上がる程に引いた後の津波の威力は分かってる。
だからこそ急がないと……!悪魔の実の能力者だとか、そんなの関係無いレベルのものが来る……!
剃と月歩を用いて近付ける限り近付きながら、ルフィの名を呼び続ける。お願い、ルフィ気が付いて!
途中で屋根が途切れてしまい、月歩で近付いてもその状態では私にルフィを壁から引きずり出す力はない。それが分かるから、だから、私は全力で叫ぶ。
「ルフィー!!」
その瞬間、ルフィが反応した。だから、私は必死で言葉を紡ぐ。
「あんた!!そこて何やってんのよ!!」
ルフィはモゴモゴと何か言ってる。波の音が雨の音に混ざって聞こえる。
色々な意味で時間が無い。ロビンの笑顔がチラついて、ルフィの死が目の前に迫っているのを感じるのに私は何も出来なくて……涙が溢れる。
この涙は雨に紛れて気付かれないといい、私の事で心配かけてなんかいられない。今は早く出て来て、ルフィ。
「私達がグズグズしてる間に、ロビンはついて行っちゃったのよ!私達を守る為に!そんな事したら、死ぬんだって分かってて……!私達が、生きていてくれたらそれだけでいいって……!」
ルフィの視線が私に向けられている。でも、私は涙を止められない。
私は誰も……喪いたくないの。なのに、私1人じゃ何も出来ない。
泣く事しか出来ない自分が悔しくて、情けなくて、声が震える。自分に対する怒りが、抑えられなくなりそう。
「自分1人犠牲になって、ロビンは!私達を政府の攻撃から、守ってくれてたのよ!!」
「じゃァやっぱりロビンは……。……ウソ、ついてたのか……!!」
「うんっ!!」
「良かった……!!」
ルフィはその瞬間力を入れ始めた。波が迫ってるのが見えるのに……どうしてかな、ルフィが動き出した瞬間に、恐怖心が全てなくなってしまったの。
「安心しろナミ!ロビンは俺が死なせねェ!」
言いながら建物を破壊するルフィの真上を、想像していた何倍もの高さの波が襲い掛かる。陸地から数えたら10階以上ある建物の更に上を行く波に、私の脳内はフル活動する。
怖くはないけど、どうしたら良いのか分からない。思わず何これと呟いてしまう程の高波。
ルフィは元々泳げないけど、私もこんな波の中では流石に泳げない。私の筋力では、ルフィを抱えて泳ぐには無理がある。
サーフィンできるような規模でもない。思考が鈍っているのが自分で分かる。
どうしたらいい?どうしたら、ルフィを守れるの?
その時、ルフィの腕が私にぐるぐると巻き付く。次いで聞こえるルフィの声。
「行くぞナミ!」
言葉に驚き思わず腕を上げていたので、その腕を下ろしてルフィの腕を掴むと、ルフィが飛んだ。着地したところで後ろを振り向けば、まだ波は頭上にいるのが見える。
逃げられないと思った瞬間、腰に絡みついた何かに思いっ切り引っ張られて、私は再び水の無いところに着地した。ただし、胴体でだけど。
それでもまだ波は襲ってきて、助かってなんかいないと知るけど、体が上手く動かない。着地の時に覇気を纏うだけの余裕も体力も無くて、その上受身まで失敗した私は、剃で走る事さえも出来ないでいる。
ここ迄かな……?そう思った次の瞬間には、ルフィに担がれていた。
必死に波から逃げるようにルフィは走る。私を抱えて。
まるでそうする事が当然であるかのように、ルフィは走る。私と言う荷物を抱えて……。
やっと波から逃げきれたのは造船島で、それより下は完全に波に飲まれている。ルフィがパウリーにお礼を言ってるけど、私はまだ体の震えが止まらない。
チョッパーに引き続き、ルフィにまた助けられた。助けに行った筈なのに、私はまた、助けられてしまった……。
情けなくて泣きたくなるけど、それは今じゃない。今考えるべきは、ロビンをどうやって助けに行くか。
この波を超えられる船は、最低でも鉄で造られている必要がある。そして、ある程度の速度が出せる物である必要があるわ。
新幹線のように前が細い方が望ましく、それに該当する物は先程出発した海列車だ。でもアイスバーグさんの言い方では、海列車はアレしか存在しないだろうと思われる。
「無茶、しやがって……!」
パウリーの言葉は誰に向けられたものなのか。けれどもそれにはルフィが答える。
大の字に広がった状態で、ルフィは力を抜きつつお礼を言うのだ。そんなルフィを見てから、海に視線を戻す。
「認識が……甘かったわ。あれがアクアラグナ……!!……まだ、震えが止まらない……!!」
情けない!私は、本当に……!
「……これが毎年来てたら、この島はとっくに無くなってるよ。今年のは特別だ!」
パウリーの言葉に驚いて視線を向ければ、いつの間にか葉巻を咥えている。いや、もしかしたらずっと……?
あの波の中を、この雨の中を、ずっと……?だとしたらもう、その葉巻ダメになってるんじゃないかなと思った直後に、ルフィの宝物でありシャンクスが大切にしていた謎の麦藁帽子に視線を向けてしまう。
……この世界に常識を求めちゃダメよ、私。ルフィの帽子、パウリーの葉巻。
それからルフィとゾロとチョッパーが仲良く戯れつつココロさんと会話しているのを横目に、私は呼吸と思考を落ち着かせる。心や感情を乱されている場合じゃないわ。
ルフィはゾロを馬鹿にして笑い、ゾロは真実を告げたチョッパーの首を締めていたので、2人を殴って止める。それからチョッパーを回収して、頭を撫でながら2人を睨み付けた。
そんな私にチョッパーはナミー!と言って抱き着いてくれたので、本気で守らねばと思う。そんな中で私は、これ迄に得た情報を纏めて伝える。
するとルフィもゾロも臨戦態勢に即座に入ってくれて、本質しか見ないルフィはパウリーに船を……海列車を貸してほしいと言い出した。それをパウリーは止める。
そして、その中で明日の朝船を出すと言ってくれるけど、それでは間に合わない。その流れで皆を解散させようとする辺りは、パウリーは狡い大人だと思う。
「エニエス・ロビーに明日の朝向かって、間に合うの?私達の目的は達成されるの?エニエス・ロビーって、正義の門がある所よね」
まだ、経験値も実力も足りない。今ロビンに正義の門を抜けられたら、今の私達では助けられない。
ロビンをインペルダウンに幽閉するとは思えない。ならばロビンが連れて行かれるのは〝海軍本部〟と考えるのが正しいだろうと分かる。
バスターコールなら中将で済む……だから、キツいけどまだ可能性は残されてる。でも、ロビンは恐らく海軍本部へ行く。
そうなったら……大将3人と、センゴク元帥、ルフィのお爺さんを相手にしなきゃならない。勿論他にも沢山いるけど。
それは、まだ不可能。2年の修行を終えていても、この人数では不安が残るレベル。
ならば、正義の門を通られたらもうロビンを救う手立てはない。ロビンを永遠に喪ってしまう……!
「朝迄なんて……待てる訳無いじゃない!」
私はルフィ達に説明するのも込めて、エニエス・ロビーを含めた三ヶ所について語る。それに対してパウリーは分かってるなら諦めろと言う。
悟り切った老人みたいな顔で、諦めを知った少年のような気配で、世界政府の中枢に喧嘩売る気かと。船大工達も止めに入るけど、少なくとも私は止まる気なんてない。
そう思った時、ルフィの気配が変わる。それにより思わずルフィの名を呼べば、ルフィは怒りを爆発させるように宣言した。
「じゃあ船は、奪って行く!!俺達は今、海へ出る!!」
船大工達は焦り、チムニーは驚く。それでもルフィのそれを受けて、私達は誰1人として戸惑いも迷いも無くルフィの〝決定〟を待つ。
「仲間が待ってんだ!!邪魔すんなァ!!!!」
「いいぜ、相手になってやる」
ルフィの言葉に対してパウリーがロープを構える。私達は全員が武器に手を掛けるなりして、戦える状態で立つ。
良くしてくれた人達だ。親しくなった人達だ。
それでもそれは、ロビンにはかえられない。大切な仲間と、1瞬触れ合った程度の船大工ならば……迷う必要なんて無い。
そこで仲裁に入ったのはココロさんで、船ではなく海列車を出してくれると言う。その迫力に……憧れた人を目の前で喪い、その喪う切っ掛けがエースの父である海賊王だった事を思い出す。
同じ人を慕い、共に過ごした大切な存在が今囚われている。また、大切な人を海列車が連れて行くことをココロさんどんな思いで、今の時を過ごして居るのだろう。
これ迄どんな思いを抱きながら、ルフィの発言を聞いていたんだろう。どんな思いで、ルフィに手を貸すと言ってくれたんだろう。
海列車は、ココロさんにとっても子供のようなものだとわかる。大切な存在が大切な人を奪って行く現実は……それを見送り諦めるしかない真実は……如何程のものか。
ルフィ達はココロさんの言葉を聞いてついて行こうとするから、私は後から行くと言って行先だけ確認しておく。泣きそうだからではなく、ルフィが勝つ為に必要なアイテムを手に入れる為だ。
頼んでおいた食料と酒を持ってる2人を探して、運んでもらう。ゴミ処理場裏、レンガ倉庫まで。
「急いで!こっち!」
何故か私が1人で町中の食べ物を食べると思われてたけど、そんな事は今はいいとは言えないけどいいから、急いでルフィの所へ向かう。パン、酒、肉、缶詰にジュース、水と果物……本当に何でも集めてくれている事に感謝しているけど、時間が無いのよ。
「ごめん遅くなった!」
「何やってんだナミ!早く乗れ馬鹿野郎ー!」
ルフィが怒ってるし、ゾロもぼうっと見てるから1人で列車の中に運んできた物を押し込む。その途中でルフィがまだ怒りの収まらない様子で言葉を口にするので、待たせたからなぁと少し思う。
「どこ行ってたんだ!時間がねェっつったの誰だよ!んで、その荷物何だ!?」
「お肉とお酒」
言いながら中身の1部を列車の前に広げれば、ルフィは謝罪しつつ食べ始めた。これでもう大丈夫だろうと、その姿を見て、私は素直に思える。
文句を言ってなかったゾロは、中から酒を取り出して嬉しそうに瞳を輝かせている。食べ物には少しも興味を示さないその様子に、とりあえずパンをその口に押し込んでやれば不機嫌そうに私を見たけど、無言でそれを咀嚼し始めた。
……お酒だけよりは、マシよね。さて、中身が減ったら中に運び込むのは2人に任せようと決めて、少し肩から力を抜いた。
まだ戦いは、始まってさえ居ない。……ロビン、必ず助けるからね。
楽しんで頂けていたら、他には何も望んでいません。