※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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パッシングトム

 ……なんだろう、少し視界がボヤける。あ、これ貧血だ。

 そう思った時に、フランキー1家がドタバタと盛大な足音をたてながら姿を見せた。それに対して私は思わず胡乱な視線を向けてしまう。

 こんな時に何だよとルフィでさえ言う程で、私はそれに内心で同意する。それにしても、チョッパー増血剤とか持ってるかしら?

 

 「頼む!!俺達も連れてってくれェ!!エニエス・ロビーへ行くってガレーラの奴らに聞いた!!アニキが、政府に連行されちまったんだ!追いかけてェけど……アクアラグナを越えられねェ!!」

 

 それに対してココロさんは呆れたように言葉を返し、アイスバーグさんは項垂れた。アイスバーグさんも本当ならば、可愛い弟弟子のフランキーを共にと思っているのだろうと分かる。

 そこでフランキー1家の面々は、口々に命も惜しくないから連れて行って欲しいと泣いて頼む。その必死な様子にルフィがピクリと反応したけど、私が先に口を開く。

 理由も何もかもわかった上で、あえて言わせてもらおうじゃないの。よくもうちの長鼻をボコボコにして、ルフィと大喧嘩させてくれたじゃない!!

 

 「冗談じゃないわ!!あんた達が今まで私達に何をしたか分かってんの!?」

 

 その瞬間、最初に叫んだ男がその場で膝をつき頭を下げた。所謂土下座である。

 滂沱の如く涙を流しながら、声を震わせて言葉を紡ぐその姿は、大切な人を取り戻したいのだという想いが伝わって来る。それに後は、ルフィがどう応えるかだわ。

 ……私は、反対だけど。でも、ルフィが決める事に逆らう気は無いから、任せようと思う。

 

 「恥を忍んで頼んでる!!アニキを、助けてェんだ!!」

 「乗れ!!急げ!!」

 

 ルフィの言葉にフランキー1家が麦藁と言いながら嗚咽を抑えられずにいる姿に、少しだけ頬が緩みそうになる。でも、1応言っておかないとねと思って名を呼ぶ。

 

 「ルフィ……?」

 「にししっ!ま、いいよ!」

 「……ルフィが決めたなら、良いわ。後悔は、しないんでしょ?」

 「おぅ!!」

 

 肉を食べたからか、ルフィは少し心に余裕を取り戻してる。良かったと思った時、後ろからついて行くからと言ってフランキー1家は姿を消した。

 私はルフィとゾロに中に残りの食料達を運び込ませて、チョッパーが石炭を入れているのを確認しつつ、残るアイスバーグさんに視線を向ける。その表情が心配そうに歪んでいるから、そっと笑いかける。

 

 「数名の船大工を、お借りして行きます。どうやら〝隠れて〟1緒に乗ってるようなので」

 「……気付いてて、連れて行くのか」

 「ルフィは気付いていませんし、私としてはルフィが良いならばなんでもいいので。……必ず、帰ります」

 「……あァ、馬鹿共が迷惑かけるだろうから、好きに使ってくれ。その命を背負う事は無い。何があっても、全員自己責任だ」

 

 その言葉は聞こえているのだろうか。どちらにしても、心配で気が狂いそうなのを耐えるその姿が何処か、泣くのを我慢している少年みたいに見えてしまい、頭でも撫でたくなる自分に笑ってしまう。

 さて、行こう。ロビンが待ってる。

 他の誰を待たなくても、私の事は待ってるから。ロビンは絶対に連れ戻してみせる。

 車両に乗り込むとココロさんが言う。振り落とされるなと。

 それを聞いたルフィは楽しげに笑い、声を出す。

 

 「よし!出航!!行くぞォ!!全部奪い返しに!!」

 

 ルフィ以外は中にいる状態で、ロケットマンは海へと飛び出した。ポッポー!と何となく聞き馴染みのあるような音をたてながら。

 ルフィは大喜びして、ゾロも楽しそうにしている。チョッパーは驚いた様子を見せているけど、今のうちにとチョッパーに増血剤の持ち合わせが無いか聞いてみるとキャミソールを突然持ち上げられてしまい、とりあえず脱がされないように前を押さえるとチョッパーの悲鳴が上がった。

 

 「……そうだ、ナミあの戦いの後治療しないで動き回ってたよ!ナミ……すぐ治療しに来るから待っててくれ!」

 

 そう言って渡された薬を素直に飲み、私は戻っていくチョッパーを見送る。その間にルフィはキングブルに喜んで居るから、とりあえず良いかと思う。

 ふと見ればゾロは自分の横に酒を並べ、両手に1本ずつ酒を持ち呑んでいる。……ゾロには安酒で充分な気がするのはこんな時よね。

 その瞬間ココロさんから通信が入る。

 

 「運転室より緊急連絡!!これから線路を掴むと急激に速度が上がるよ!軽傷で済むようにしっかりしがみついてな!!」

 「……とりあえず、怪我はするんだ……?」

 

 私の言葉にゾロは小さく笑うと突然手招くから、どうしたのかしらと思いながら近付いた瞬間、腕を掴まれて椅子に座らされてしまう。驚いてゾロを見上げたら捕まってろなんて言いながら酒の瓶を持って向かいに移動した。

 私が怪我をしないようにって考えてくれたらしいそれにありがとうと笑いながら言えば、ゾロはその状態で酒を口にしつつ笑った。恐らく私が転がりそうになったら助けるつもりなのだろうと、何も言われなくても分かるから……それが少し気恥しい。

 直後に訪れた加速のそれに、絶叫マシンの急加速を思い出す。アレを数倍酷くした感じのそれにより、ルフィでさえ中に戻って来てチョッパーはいつもの姿で車両内部で気を失っている。

 とりあえず中に必死で避難して来た人達が、腰を打ったとか言いながら呼吸を整えているのを見て、ロビンの元に向かい始めたのだと実感する。同じ椅子にルフィも座り、特等席じゃ無かったなんて文句言ってるけど、そんなレベルの話じゃないからね……?

 とりあえずはルフィに肉を差し出して、それにルフィが噛み付くから餌付けでもしてる気分になる。続きは自分で適当に食べてねと言えば、ルフィは頷いて器用に肉だけを拾って食べ始めた。

 そんなルフィの口の周りに油が着いているのを見れば、全くと思ってつい拭いてしまう。そんな私達の目の前ではゾロに突っ込まれた後でシリアス路線をひた走りながら、状況説明等を行うパウリーが居る。

 

 「ナミ、この肉味がねェ……」

 「え?……1口いい?」

 「ん」

 

 差し出された肉を齧ってみると、確かに味が薄い。何かあったかな。

 荷物を漁ると塩ならあると気付いて、それを掛けてからもう1口食べてみる。……これなら、何とか行けそうね。

 味噌玉持ってきてないのが悔やまれるわ。人の居る島だからと、調味料セット置いてきちゃったのよね。

 塩をとりあえず全体に掛けてからルフィに返せば、ルフィは嬉しそうに続きを食べ始めるからその頭を撫でる。そこで何故か視線が突き刺さるのを感じて見ると、船大工達とフランキー1家の面々が呆れたような恥ずかしそうな顔をしている。

 ……どうしたのかしら?

 

 「あァ、こいつらはこういう生き物だ。気にしてると持たねェぞ」

 

 ゾロの言葉に私が首を傾げると、ルフィがシッケーだなと言い出す。でも……何か、変な事したかな?

 そんな中でルフィは肉を少し食べて満足したのか、話の区切りが着いたからなのか、1瞬で纏う空気を変えると全員のそれを纏めあげる。……これが、王となる男の素質なのかな。

 その時アクアラグナが目の前に迫っている事に気付いて、その上ココロさんが運転室に居ない事に不安が募る。話を聞けばもう〝暴走〟しているこのロケットマンは止まる事は出来ず、進むしか出来ないと言われる。

 歩兵君かと思ってたら香ちゃんだったって訳ね。……あ、将棋のコマの動きで例えてるだけよ。

 それにしても、この波だといくら突進するとは言っても危険ね。逃げたり横からだったりするのと違うから、抜けられる可能性は残されてるけど……。

 

 「ルフィ!列車が大波に……」

 

 見ればルフィはガレーラ、フランキー1家と拳を合わせていて、私の言葉はその場で止められてしまう。事態は緊急を要するけど、今は邪魔を出来ない。

 正確には拳を合わせているのではなく、それぞれがそれぞれの手首を握る事で繋がるそれだけれど。そんな細かい所はどうでもいい。

 

 「折角同じ方向むいてるもんが、バラバラに戦っちゃ意味がねェ。いいか、俺達は……同士だ!!」

 

 ルフィの言葉に緊張感が走る。空気が変わり、全員が臨戦態勢に入るのが分かる。

 

 「先に出た〝海列車〟には俺達の仲間も乗り込んでる!!戦力はまだ上がる!!」

 

 後方にいるキングブルまでもが、それに応えるように鳴く。誰1人、言葉を挟む事は無い。

 

 「大波なんかにやられんな!!全員目的を果たすんだ!!行くぞォ~!!」

 

 ルフィのそれに声が揃う。雄叫びが響き、それをかき消すようにココロさんが大波をなんとかして見せろと言う。

 フランキー1家、船大工が先に飛び出して大砲等の準備に取り掛かる。その瞬間、チョッパーが寄ってきて今の内に治療すると言うので背を向けて座った途端に、子電伝虫が鳴った。

 出れば当然サンジ君で、私は治療をチョッパーに任せて会話に集中する事にした。大砲なんか撃てない私は、この先の戦いに備える他は情報交換しか出来る事が無いのだから。

 

 「【ナミさん、ナミさん、聞こえるか!?】」

 「うん!!サンジ君ね!?」

 

 その時ウソップっぽい情けない声が聞こえたと思ったら、呆れた様子のサンジ君の声が続いて聞こえてきた。サンジ君の方も大変そうである。

 

 「【こちら、ちょっと、アホ2人のせいで不味い事になって来た】」

 

 それから簡潔に状況を説明してくれるサンジ君に、私もまた情報を伝える。でも、此方の賑やかな状態の説明ではなく、今必要なのは、ロビンの行動理由。

 それの説明が終わってから此方の情報を伝えようと決めて、順序だてて話をすれば顔真似をする電伝虫の顔が怒りに燃えていくのが分かる。そう、でもこの場合はサンジ君の反応が正しいだろう。

 ロビンの過去……バスターコールについて説明すれば、サンジ君は1瞬言葉を失った。ここでサンジ君に1部とはいえ、詳細ではないとは言えども説明した私をロビンは怒るかな。

 

 「【ナミさん、落ち込んでる?】」

 「勝手に、ロビンの過去を話したから、嫌われちゃうかなって……思って」

 「【ロビンちゃんは、ナミさんだけは嫌わないから大丈夫ですよ。ルフィはまだ戻らないかい?】」

 「今、ゾロと1緒に大波相手に戦ってるわ」

 

 そんな会話の途中で、チョッパーが治療終わったぞと言うので、チョッパーに視線を向けたらサンジ君がその単語に反応した。電光石火とは、サンジ君の為にある単語なのか。

 

 「【ナミさん、治療って……?】」

 「ナミな、ロビンを連れてった奴の攻撃から船大工庇ったりしてて、船の近くに倒れてた時の傷が開いたんだよ。今治療終わったけど、またこれから戦いだから俺は少し心配だ……」

 

 その時ルフィとゾロが帰ってきたので、これ幸いとルフィにサンジ君だと言って子電伝虫を託してしまう。これで叱られなくて済むわ。

 というか、、皆私に対して過保護だと思うのよ。私も普通に麦藁の1味なんだから、怪我くらいするわよ!

 そんな事を考えている間にルフィはサンジ君と会話を終えて、最後に好きに暴れる許可を与えた。ゾロとルフィは仲良く少し言い争いしてたけど、この男と定めてついてきたゾロがルフィに勝てる筈もなく、通話も終わった今更何を言ってももう無駄である。

 ロビン……もう少しだけ待ってて、今行くから。皆でロビンを、迎えに行くから。

 眠った子電伝虫を引き取り、それから食料と共に入れて置いた仲間の分の着替えを取り出す。それぞれに投げ渡してやれば無言で着替え始めたので、流石に濡れてるのは嫌だったらしいと分かり少し安心した。

 ルフィには少し大きめのポケット付きの物を渡したので、肉を詰め込む時に入らない事は無いだろうと思う。衛生面を考えたら、少しじゃなくて嫌だけど相手はルフィだものと思えば諦めもつく。

 外は嵐。それでも私達に、進む以外の選択肢は無い。

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