皆が着替えているのを眺めながら、私も服を脱ごうとするけどそれがなかなかに難しい。上着は良いんだけど、キャミソールが肌に貼り付いて少し脱ぎにくい。
濡れてるからよね。先に治療の為にと包帯巻いてもらったりしてなかったら、脱げなかったんじゃないから?
着替えは出来るけど、本当ならシャワー浴びたいわ。海水ってベタつくのよね。
髪の毛も傷むから早くお風呂で洗い流したいわ。って今はそんな我儘言えないのは、分かってるんだけどね。
着替えを終えた私は髪の毛から雫が落ちないように、ササッと纏めあげる。絞るとか拭くとか、もう無駄だろうから纏めちゃえばいいのよ!
こうすれば髪の毛も邪魔にならないし、戦闘準備はバッチリね。あ、パウリーに上着返さなきゃ。
「てめェ何堂々とここで着替えてんだ!!ハレンチ女!」
あ、破廉恥娘から女に進化してる!と、少し感動しつつ、血のついてしまった上着をどうしたものかと考える。洗って返す余裕は今無いし。
「仕方ないじゃない。1両しかないんだもん」
「着替え終わってもハレンチじゃねェか!」
「いつもより露出少な目よ?」
パウリーはギャーギャーと騒ぐけど、顔も赤いけどこっちを普通に見てる。そう考えると免疫が無いってより、単純に照れ屋さんなのかな?
それに対して他の船大工とかフランキー1家の面々は、鼻血吹きながら倒れて行く。……まさか、パウリーがムッツリでこっちが普通なのかな?
「「「ナイス……ハレンチ……」」」
まぁ……どっちでもいいか。ナミちゃんの肉体だし、気持ちはわかるもの。
そう思いながら上着を騒ぎ続けるパウリーに差し出す。今は洗えないし、帰ってからとか言ってどちらかが死んだら返せなくなるもの。
「上着ありがとう。本当は洗って返したいんだけど、今洗えないから……返せなくなっても困るし、だから1度返すわね」
「……ハレンチ女、痛みはねェのか」
「ん?慣れてるから平気よ。海賊だもの」
「……麦藁!てめェの女に怪我させてんじゃねェ!守れ!」
パウリーの突然の怒号に慌てたのは私だ。なんでルフィに責めるのよ!
「ホントになー。俺もそう思う。悪いな、ナミ」
「ルフィは悪くないから!止めて!」
ルフィを責めないでよ。私が勝手に怪我してんだから。
そう思ってルフィを庇うように抱き締めれば、ゾロが私の腰にあるクリマタクトに視線を向けて反応する。ルフィは何故か私の胸元で呻いてるけど、そこまで強く抱きしめてはいないわよ?
「おい、ナミ。お前武器変えたのか?」
「変えてないわよ。ウソップが空島のダイアル使って改良を加えてくれたの!だからこれは……ウソップの……」
「暗くなるな!」
ゾロのツッコミに少し笑った後、ゾロが突然腰を撫でるから何事かと思ったら流星錘が気になってるらしいとわかる。……驚くから本当にやめて欲しい。
「これ、飾り紐じゃねェんだよな?」
「えぇ、これも武器よ。でも……どちらかと言うと捕縛用だけどね」
それから鉄扇と鉄笛も含めて簡単に説明すると、ルフィが私の胸元で頷いた。それが擽ったい。
「……ナミ、とりあえず離せよ。喋りにくい」
「あ、ごめん」
それで呻いていたのかと理解して手を離すと、昔からこういう所変わんねェなと困ったみたいに笑う。それから私と初めて会った時には、そっちは持ってたとルフィが言い出した瞬間、ゾロは何故か嬉しそうに笑った。
いや、普通なら5~6歳の子供が武器持ってたらおかしいだろとか言うんじゃないの?
え?私がおかしいの?
「んで、会った時は無かったのに、いつの間にか増えてたのがクリマタクトで、別れた時は持ってなかったのに、再会したら持ってたのが短剣だ」
「クリマタクトはお留守番してたご褒美に欲しい物ってシャンクスに言われて、ダメ元で頼んだら本当にくれたのよ。だから、私も驚いたわ」
「シャンクスはナミを可愛がってたもんな」
懐かしそうに、けれど何処か嫌そうにルフィは言うから、ルフィも可愛がられてたと思うわよと笑えばルフィはそっと帽子に触れて、笑った。少年の顔して笑うルフィに、やっぱり憧れてるんだなと思う。
「んで、その短剣は?姉ちゃんからか?」
他の武器がベルメールさんからだと話したからか、そんな事を言われたので私は素直に首を横に振る。嘘はいけないからと、正直に。
「ううん、ベックがくれたの。別れ際に護身用にって」
「副船長が……?」
「うん」
その瞬間ルフィは少し考える様子を見せて、それから小さく何かを呟いたけど聞き取れなかった。その後ルフィは表に飛び出して行き、私はその間だけでもチョッパーに言われるまま少しだけ休む事にした。
1人で椅子を使わせて貰って休んでる私の頭のところでゾロが1人酒を呑んでいるのがわかり、酒呑んでも呑まれないから放置して良いのか少し悩む。乗り物に乗ってるし、少し心配だったりするのよね。
「色々考えずに、寝とけ。俺かルフィがいれば、とりあえず寝れるだろ」
「……なんで、皆に筒抜けなのよ」
「そんだけ皆ナミを必要だと思ってるって事だ。頼むぜ、航海士」
「……ホンットに、調子いいんだから」
そんな会話の途中で少し意識が落ちて、その後ゾロが動いた気配で目を覚ます。すると悪いなとひとこと言ってゾロまで表に出て行くから、何かあったらしいと分かる。
そんな時にチョッパーが寄ってきて、私の顔に触れた。チョッパーは、残ってくれたのね。
「……うん、顔色戻ったな。戦えそうか?」
「戦うわよ。その為に来たんだもの」
「ん。俺も頑張るよ!……本当は渡したくねェけど、薬の予備と、この後の事を考えてさっき作ったから飲んどいてくれ」
そう言って手渡された物を飲めば、チョッパーが少し嬉しそうに笑った。信頼してもらえて、嬉しいと言って。
そんなチョッパーを抱き締めて、少しチョッパーに甘える。本当にチョッパーって癒しだわ。
「ナミ、痛むのか?」
「大丈夫よ。チョッパーに甘えてみただけだから」
「ナミは頑張りすぎだから、甘えてくれていいぞ!俺、ちゃんと戦うしナミの事も守るからな!それで、ロビンを1緒に助けような!」
「えぇ、そうね……!」
私の事は守らなくていいとか言えなくて頷けば、チョッパーが任せとけなんて胸をはるからつい笑ってしまった。その時表から2人が帰ってきたので、中は大盛り上がりになる。
……ゾロが、列車を斬ったのかと朧気な記憶の中で思う。その時追い付くまで暇なんだと言うフランキー1家の言葉にルフィが反応して、私に視線が向けられる。
え?なに?
嫌な、予感がするんだけど……?
「ナミ、何か歌えよ」
来たー!ルフィからの意味のわかんない無茶振りー!
でもでも、楽器が笛しかないから無理だもん。音が無かったら無理よ!
「無理!楽器が無いもの!」
「海賊ねーちゃん歌ってー!」
「楽しみらねェ!」
「チムニー!ココロさんまで!」
その時肩に手を置いたゾロが静かに首を横に振った。そして、言う。
「諦めろ」
「私に味方はいないの!?」
「ナミ、この間書いてたのじゃダメなのか?」
「アレは、ドラムが欲しいのよ……」
チョッパーの質問に答えたらルフィが笑った。ならそれな!と。
……お願いします、私の話を聞いてください。ドラムが必要系の曲をアカペラで歌うのー?
酷いと落ち込んでも多くの期待の眼差しと、にこにこと笑いながら待ってるルフィのそれに私が勝てる筈も無く……。仕方無く私は口を開いた。
「どうなっても、知らないからね!」
「ナミ、良いから早くしろよー!」
ルフィをとりあえず1発殴ってから、私は深呼吸して脳内で演奏する。落ち着け、私。
「題名は〝アイのシナリオ〟です」
これは確か、別なアニメの主題歌か何かだったんじゃないかな。私は見てなかったから、知らないんだけど……曲だけは覚えてる。
「ーーー」
正義が揺るぎないものであるのならば、この世に戦争も諍いも存在しない。違う正義がぶつかるから、争いは起きるのだから。
「ーーー」
正義なのに闇である彼等がロビンを苦しめるというのならば、海賊なのに光であるルフィと共に助けに行く。だからね、ロビンお願い……貴女の話を聞かせて。
1緒に世界の秘密とやらを解き明かしましょう。私、ロビンが歴史を語るその表情が大好きなのよ。
「ーーー」
いくら手を伸ばしてみても、ロビンが隠して逃げる限り誰にもその隠されたものを見る事は出来ないのよ。だからお願い……それを、私達に見せて。
「ーーー」
ロビンの心が揺れている事にはずっと気付いていたの。気付いていても、何も出来なかったけど。
「ーーー」
不安だと言って泣いても、何も見付けられない。真実は権力者に都合が良いように、隠されているのだから。
「ーーー」
例えばその真実が世界に都合が悪かったとしても、構いはしない。だから、私達を信じて欲しい。
何度でも手を差し出すから、大切なロビンに。だってロビンは、大切な仲間だから。
「ーーー」
逃げるつもりは無い。弱さが行動を阻害するならば、私は弱さを捨ててでも、他の何を傷付ける事も厭わないから……!
「ーーー」
幾度繰り返されても、きっと私達は同じ選択をする。それが分かる位には、私とロビンは似てると思うのよ。
私もいつか、隠している事を話せたらいい。これから長い時を共に過ごす間に、少しずつでも。
「ーーー」
ロビンの優しさを利用する奴らの本性を、ロビンは理解していない。私達が到着したその瞬間に約束は全て、反故にされるのよ。
「ーーー」
守りたいのよ、ロビンを。だから、何度だって助けると私達は揺るぎない思いを抱いて、追い掛ける。
「ーーー」
世界を敵に回す事でしかロビンを助けられないのならば、喜んで敵に回すわ。世界よりも私達を選ぶ貴女為なら、私達も世界を敵に回す覚悟は出来ているの。
他人の作ったシナリオなんて全て壊して、共に生きる未来を選んで欲しい。ロビンの事、私は大好きなのよ。
「ーーー」
世界が牙を向いても、信じてくれるのならば掴んだ手は離さない。そして、掴んでくれる迄何度だって差し出すわ。
だからお願い……ルフィを信じて。全てを諦めてしまわないで。
「ーーー」
何度だって繰り返す。それがどんなに滑稽に思えても、私はロビンを失いたくないから。
だから逃げない。だって怖くないもの……。
ロビンを喪う以上に、怖い事なんて今は無いの。だから私は、最後まで抗う。
歌い終えると1瞬場が静まっている事に気付いて、何か間違ったかなと焦る。これからロビン助けに行くし、盛り上がるかなと思ったんだけど、選曲ミスしましたか?
少し小さくなる私に、直後拍手が響きホッとする。パウリーは何故か呆然とした顔で私を見ていて、ルフィ達は何か納得した様子で頷いている。
「ナミ、隠してる事、ちゃんとホントに聞かせろよ」
「ルフィ……私は、何も隠してなんか、いないわ」
ふいっと顔を背ければ、ルフィが私を抱き締めて来る。そして、今はそれでいいなんて……そんな事を言う。
ルフィの心臓の音が聞こえて、私はそれに少し力が抜けるのを感じた。私はね……ルフィがいれば、どんな事だってできる気がしているのよ。
もう、クーラー無しでは生きられなくなった気がします。