歌の余韻が落ち着いた頃、表に飛び出したルフィが突然叫んだ。それにより、皆が慌ててしまうのも無理は無いだろう。
「かえるー!」
「ルフィ!?どうして、ここ迄来て帰るなんて言うの!?」
私の言葉に便乗するように皆んなも騒ぐ。そんな中でゾロだけが寝ているけど、まぁそれはいいわ。
「違ーーーーう!!」
ルフィの声にん?と思って窓から顔を出してみる。濡れるから嫌なんだけどね。
「線路の上に〝あの〟蛙が飛び出して来た!」
見えた蛙はこのウォーターセブンに来た時に見掛けた大きな蛙で、あの時食べてしまえば良かったかと1瞬考える程度には邪魔だわ。何故素直に前へと進ませては貰えないのか。
ロビンを助ける邪魔をするものは、全て敵として看做すわよ?
苛立ちを込めて睨む私だけど、それでは何の意味も無い。その影響で案の定、蛙により線路を外れた列車は海をひたすらに暴走する。
船内はおかげで大騒ぎだ。本当にいい迷惑だわ……この蛙。
でも、ココロさんに確認したら島の方角は分かるという。ならば問題はない。
「海は私が見るから、ココロさん操縦お願い」
ココロさんは不思議そうにするけど、私が航海士だと言えば楽しそうに笑ってから、蛙を回収して仲間に引き込んでいる。流石は人魚ねと思った直後に、でもこれ記憶違いだったんだっけ?と、皆に否定された事を思い出して少し不安になる。
そんな事を考えていたら、良い海流を見付けた。これで線路に戻れるわ。
「ココロさん、8時の方角にいい潮流を見つけた!」
声を掛ければココロさんが請け負ってくれる。操舵者がいるのは心強い。そう思っていたら、フランキー1家が家族を拾っていって欲しいと言う。必ず役に立つと。
役立つならばとそれを請け負い、私達は1路エニエス・ロビーを目指す。全てを、奪い返す為に!
エニエス・ロビーが見えて来そうな頃、フランキー1家を見付けて、その中にサンジ君とウソップの姿も確認出来た。全員が同じ場所を目指している今、仲間が増えるのは心強い。
「世界政府の玄関へ、乗り込む気満々みたいね」
私の言葉にルフィは頷いて、全員を鼓舞する。流石は覇王色の持ち主と微笑ましく思いながら私は静かにそれを見守る。
泣きながら私の後ろをついて回っていた少年は、もう何処にも居ない。今ここに居るのは、周りを巻き込み曲がる事無く突き進むこの海の未来の王者だ。
「エニエス・ロビーも視界に捉えた!全員決戦の準備を!!」
そうして合流した私達は、ルフィとチョッパー以外はウソップとサンジ君の合流に安心した。2人はほら、ウソップだと気付いてないから……とりあえず他は皆、気を引き締める事に成功している。
途中ウソップにチョッパーが狙撃の島の場所を聞くから、そんな島あるの?と記憶にない名前だったのもあり何となく耳を傾けた。けれども答えが〝君達の、心の中さ〟とか言われて思わず「何処だ」と突っ込んでいたけど、そこはご愛嬌だろう。
流石に心の中、即ち妄想の島までは世界地図に出来ないわよねと笑ってから、私はサンジ君に視線を向ける。サンジ君はバスターコールの事をあちらでも聞いたらしく、ルフィ達に説明してるけど、ルフィは何故かロビンにまで怒り始めてしまう。
宥めても落ち着かないルフィに困っていたら、ゾロに止めとけと言われる。無駄なのは分かるけど、頑張ってくれてるロビンまでってのは、ちょっとどうなのって思うのは、ごく自然な事だと思う。
「それと、ロビンちゃんからナミさんに伝言だ」
サンジ君の言葉に全員がなんだと視線を向けると、煙を吐き出してからサンジ君が言う。真剣な顔で。
「〝貴女には特に会いたくない。自分の価値を知りなさい〟だとよ」
「ロビン……」
私は俯き、震える自らの体を抱き締める。それに気遣わしげな視線を向けられるけど、震えてる理由は、悲しみとか絶望ではなく、感動でもなくて……単純に怒りである。
「ふっ……ざけんじゃないわ!ロビンが居なきゃ、ルフィは海賊王になれないのよ!?」
「待てナミ、そりゃどー言う事だよ!?」
ルフィが即座に反応するのに対して、私はつい睨み付ける。どう考えても、ロビンとナミちゃん……即ち私が居ないとラフテルに到着出来ないのは分かり切ってる。
という事は、ルフィは海賊王になれない。それに、ロビンは私の価値っ言うけど、私に価値なんて無いわ!
「ワンピースのある場所は〝ラフテル〟その島へは普通では行けないように、ポーネグリフに古代文字で海図のそれを記してあるのよ」
「……ん?」
「それも1つでは意味が無い。四皇のカイドウ、ビッグマムがそれの1つずつを有していると聞いてるわ。他にも数枚必要らしいけど、とりあえず私が所在地として知ってるのは、この2枚」
まずはポーネグリフを解読できなきゃ、なんにもならない。そこに加えて文字から海図に起こせる能力を持つ人間が必要だけど、こっちはまぁ、覇気使いと同じ位は世界にいると思う。
「だからこそ、ロビンが解読して、私がそれを海図に直さなければラフテルには行けないのよ」
「んんー?」
「どうしたの?」
「よくわかんねェけど、ロビンとナミがいねェとワンピースが手に入らないのか?」
「……そうよ」
ロビンだけが、古代文字を解読できる。航海士はこの世に腐るほど居るから、最悪の時は私じゃなくてもなんとでもなるけど、ロビンだけが世界で唯1古代文字を読める人。
ロジャー海賊団の人達ならば読める人も居るかもしれないけど、それを仲間にするのは難しいだろうと思う。楔形文字とも違うこの世界の古代文字は、私にはまだまだ難解過ぎて解読なんて出来やしない。
せめてルーン文字辺りなら読めたかも知れないのに。本当によく分からないのよね。
草書とも違うし、難し過ぎるわ。ふぅと溜息が落ちる。
そんな私達を見ていたパウリーがエニエス・ロビーの地図を広げてくれる。うろ覚えだと言いながらも、説明してくれるおかげで大体把握出来た。
「わかりやすくて助かるわ。これなら、迷う事も出来ないわね」
その説明の中で、主力のメンバーであるルフィ達が先行しては無駄に体力を使うと言われる。それは確かに正しいと思うから、5分待って突入して欲しいと言われたそれにルフィも分かったと頷いた。
ルフィ達にフランキー1家と船大工達がサポートは任せろと言ってくれた時、そちら側にウソップが居た。なんかその位置イイナと思って、さり気無く私もウソップに並んで拳を握ればゾロが冷静に突っ込んできた。
「オイ、そこ2人はこっちじゃねェのか」
ゾロの声が微かに震えているのが少し楽しいとか言ったら、怒られちゃうかな?
気持ち的には私もサポートに回りたいけど、ルフィと共に行くと決めたのだから逃げる訳にはいかない。まぁ、飛び出すルフィ捕まえて1緒に行くのは、無理があるからしないけどね。
「ルフィ」
「ナミどうした?」
呼び掛ければ振り向いてくれる。まだ、大丈夫。ルフィに変な力は入ってない。
「……もう1つ、食べてく?」
何の理由もなく呼んだと思われるのが嫌で肉を差し出せば頷いて食べ始めるから、その間に大きな肉をルフィに背負わせておく。多分銃弾受けて食べられなくなるけど、お弁当も多い方が良いと思うから。
何よりも、少しでも怪我のリスクを減らしたい。肉の分、怪我もしないかも知れないもの。
そして作戦会議に戻ると、何故か生暖かい視線に出迎えられた。……私がいったい何をしたと言うのか。
窓から見える巨大な門。それが正義の門だと言われて、私は思わず正義の門を睨み付ける。
今回は正義の門まで。今度は、正義の門の内側まで行って……助けなきゃ、ルフィの心を。
今回はロビンを皆で。今度は、エースを多くの人と。
でも、気を付けないといけない事は理解してる。もしもエースを助ける為に私があの場に潜り込んだら、間違いなく死ぬ。
そうなれば確実にルフィはそれも傷付く。ルフィはそんなに強い訳じゃない、普通の少年だから……だからきっと、こんなにも愛しいのよね。
そう思ってルフィに視線を向けたら、やっぱりいない。分かってたけどね……。
それでも……なんか、少し寂しい。……ルフィのばぁかと、脳内で悪態ついてみる。
「ねぇ、ルフィは?」
1応周りに聞いてみると、周りも皆であれ?となり騒ぎになるけど、冷静に考えたらルフィが5分待ってとか無理だよねと身内は声を揃える。
ルフィは先に行ってしまったけど、いよいよ乗り込む時が来る。寂しいなんて甘えた事、言ってらんないわ。
今はエースの事は置いておく。そもそも戦争が起きないようにマルコさんと共に帰ってもらってるんだもの、今はロビン救出に意識を全て向けるべきだわ。
クリマタクトの最終チェックを行い、短剣の様子を確認する。……シャンクス、ベック、私に戦う力をくれてありがとう。
武器を胸に抱きしめて、心中で呟いてから武器を所定の位置に戻す。そんな私にサンジ君は、不思議そうな顔を向けて来る。
「ナミさん、それたまにやるけど何か意味が?」
「武器を抱きしめる事?」
「えェ……まァ……」
「これをくれた人達が、私に戦い方を教えてくれたの。だから、戦いの前にたまに感謝して、そして……武器にも宜しくねって言ってるのよ。特に、意味は無いと分かってるんだけど」
「……ナミさんには、必要かも知れませんね。貴女は、優し過ぎるから」
「サンジ君?」
それからサンジ君が言葉を口にする事は無かった。ただ、その代わりにココロさんからの通信が入った。
そんな中でゾロがウソップに怪我の具合を聞いても、強がるウソップの言葉にチョッパーの瞳は輝く。その様子にサンジ君は不機嫌そうに足を鳴らしてるから、ウソップの事が心配でならないのだろうとわかり微笑ましくなる。
私はクリマタクトを手に前を見据えた。突撃する事に対する心構えは、出来ている。
ロビン……会いたくないなんて、どの口が言ってるのかしらね。私は、ロビンを諦めるつもりなんて無いのよ。
必ず、取り戻してみせる。不安なんてものは、この時このメンバーの誰にも存在していなかった。
世界が敵でも構いはしない。元々私達に味方なんてそんなに多くは無いのだから。
変わらないのよ、どちらにしても戦わなければ全て失うだけ。ロビンの優しさと愚かさは、本当に愛しいけど……認めてはあげない。
私の気持ちに呼応するように、短剣がキュインと鳴って、クリマタクトがバチッと電撃を纏った。さぁ……世界に奪われそうな全てを、奪い返しに行こう。
嘆いていても失えば返らないから、大切なものはこの空の両手に抱きしめると決めているの。私は、ロビンを抱き締めて、伝えたい。
私は貴女を〝愛している〟のだと。そして〝世界よりも貴女が必要〟なのだと。
ウォーターセブン編ー完
ここ迄でW7編完結です。続きましてエニエス・ロビー編に入らせて頂きますので、お時間のご都合がつき、興味を持って頂けるようでしたら、お楽しみ頂けたら幸いです。