ロビンを助ける為に、今は進むしかない。ロビン、今行くから!
そんな時にサンジ君の怒号が耳に飛び込んで来た。本当にサンジ君とゾロはいつも喧嘩してるわね。
「てめェ何ナミさんを責めてんだ!クソマリモ!」
「はっ!この程度でどうこうなるたまかよ!いちいち騒いでんじゃねェよ、このダーツが!」
仲良く喧嘩を続ける2人は既に人間ではない気がする。だって、そんな状態でも飛んでくる砲弾を蹴り返したり、弾き返したりしてるんだもの。
その頃、パウリー率いるガレーラ三人衆は窮地に追い込まれていた。それでも、ここで諦めようと言う者はいない。
血塗れになろうとも、もう駄目だと思っても、体の1部でも動く限りは戦うと決めてこの場に来たのだ。尊敬する大切な人を傷付けたのは、友だと、仲間だと信じていた大切な人。
だからこそ彼等に1矢報いる為に、ここへ来ると決めたのだ。その瞬間から、逃げ出すなんて選択肢は三人衆の中には存在していなかった。
あの時……勝てると判断して挑み簡単に負けた俺と共に捕まっていた麦藁は、どう考えてもアイツらに勝てる筈がねェと心折られ諦めていた俺に、勝てると断言した。勝ちたいと言った俺を、騙されてたとはいえ攻撃をした俺を麦藁は庇い、戦ってくれた。
それでもせめて1矢報いようとした俺が、何も出来ずに返り討ちに合おうとしたその時には、ハレンチ女が奴らとの間に飛び込んで助けてくれた。2人は……似ていると、その時は思った。
だが……違う。根本的に本質しか見ずに〝大切なもの〟と〝それ以外〟を篩にかけて居る麦藁と、目に入った全てを守ろうとする甘いハレンチ女は、似てなんか居ない。
今ならばそれが分かる。それでも、互いに信用して、守り合うその姿が本当に羨ましいと思った。
……羨ましいって、なんだよ?
俺には大恩人で師匠で憧れのアイスバーグさんがいる。麦藁に対してどうこうなんて考える余裕は……。
その瞬間、ハレンチ女が強気に笑う声と顔を思い出した。それに魅せられていたなんて、そんな事あってたまるか。
〝迷えば誰でも弱くなるもの!〟
仲間を信頼しているとその声と表情が伝えて来た。ルッチに蔑まれた時は、凛とした声と姿で麦藁の女だと言い切ったその声と姿が脳裏に焼き付いて離れねェ。
……適わねェよな、麦藁には。だがな、だからと言ってここで俺が倒れていいなんて事にはならねェ。
「アイツなら必ず……」
俺も、信じられる。あのハレンチ女が惚れて、愛して、信じた男。
そして、確かにその強さを示し、何処までも突き進むその姿。……期待するなってのが、無理な話だろう。
パウリーは全力で戦い抜く事を決意し、ロープ技で敵に攻撃を仕掛ける。大切なものを奪われずに済む為に。
失ってからいくら嘆いてみても、何も戻りゃしねェんだよ……!
所戻ってナミ達は、キングブルの上で話をしつつ前へと突き進んでいた。その中でチョッパーは決意を込めて言葉を口にする。
「ナミ、大丈夫だぞ。俺も戦えるから、ちゃんとナミを守るから!」
言われてから、気付く。私も戦ってる所を見た事ないけど、逆を言えばチョッパーもまた、私が戦ってる所を知らないのだという事に。
……互いに実力を知らないから、必要以上に庇い合ってるのかもしれない。それが無くても、チョッパーが可愛いから庇いたくなるんだけど。
それについてこれ迄は誰も何も言わなかったから、それを当然として私は甘えてたんだわ。私がチョッパーの成長を止めてるなら、チョッパーが危険になるとしたらそれは、私の責任となる。
「ありがとう、チョッパー。私も頑張るからね」
笑顔が引き攣らなかった事を祈りながら、チョッパーに笑いかける。これ以上、情けない姿を見せる訳にはいかないものね。
「ナミ、心配するな。あいつはあいつで何とかやるさ」
「でも、衛兵だらけなのよ、ここは!ルフィじゃないんだから1人でいたら……あの怪我だし……!」
今、ロビンに集中すると決めたばかりなのに、私は揺れる。戻れる筈ないと分かってるのに……ウソップの事がどうしても心配になる。
でも、ゾロはブレる事無く前を見ている。その視線の先には敵が居るのだと伝わるそれに、私は言葉を飲み込むしかできない。
「ひとつ島を超える度、俺達は全員知らず知らず力を上げている。〝あいつ〟も行く島々で死線を超えてきたんだ」
「ゾロ、待てよ。そげキングはウソップの親友ってだけだから、島をいくつ超えたかなんて……」
チョッパーが不安そうに言うのをゾロは無視して言葉を続ける。だから明らかにこれは、私に向けられた言葉。
「ちょっとやそっとで死ぬ様なタマはウチにゃいねェよ!!見ろ、裁判所へもう1息だ」
その時キングブルが大きく揺れた。何事かと思うより早く、砲弾がキングブルに直撃したのだと分かる。
それを目の当たりにして、サンジ君が顔色を変える。守れなかった事を、気にしているのだろう。
チョッパーが治療しようと動こうとした時、辛そうな声で名を呼んだ直後に気持ちを切り替えたらしいフランキー1家が叫ぶ。頑張れ、ふんばれと。
それにより治療の時間を稼げば良いのかとクリマタクトを強く握った時、思わぬ言葉が耳に飛び込んできた。その時になって、私は漸く彼らの覚悟が本物だったのだと思い知らされる事となる。
「お前ら!すぐにこっちへ移れ!!グズグズするな!!」
声が、出せない。だって、治療すればまだ間に合うかもしれない。
彼等に、フランキー1家にそれが分からないとは思えない。喧嘩慣れしてる彼等だからこそ、余計に。
「ソドムはもう駄目だ!迫撃砲で胸筋をやられた!倒れる前に早く!!お前らが前に進まなくて、誰が報われるんだ!!」
血を吐くような叫びは、家族を、仲間を喪う事を理解して居るのだと伝えてくる。それでも動けずにいる私達にキングブル……ソドムは振り向き、文字通り血を吐きながら鳴き声を出す。
それを受けてチョッパーが泣きながら通訳する。ただ1言〝行け〟と。
私達はそれにより全員がキングブルを乗り換えた。最後にキングブル達は小さく言葉を交わして……ゴモラは進む、ソドムをその場に残して。
ごめん、ありがとう。言葉に出来ない思いを残して、私は前を向く。
ここで立ち止まっても何も得られない。ただ、全てを失うだけだと分かっているからこそ、後髪を引かれながらも前を見据えて誓う。
ロビンを、必ず助けると。その時、胸の所に入れていた電伝虫が鳴った。
出てみればココロさんとチムニーで、橋の掛け方を教えてくれたり、ルフィの居場所を教えてくれた。それにより行き先が定まった私達は、電話を切らずに居るようにと言うココロさんの言葉に従い前に進む。
誰も、ソドムの事については触れない。迫撃砲を躱し、突き進むゴモラは……もう、チョッパーに通訳を頼む事さえしない。
泣いてる暇なんてない。先へ、進まなくちゃ……!
そう思った瞬間、ゴモラが鉄球に倒れた。建物に激突したゴモラは動きを止めていて、それにより敵が群がって来る。
ここをどう突破するか、そんな事を考えながら雷を落としていたら建物が崩れる音が聞こえた。それに視線を向ければルフィがいるのを確認出来る。
「おい!コック!!」
「ああ、見えた」
「ルフィはもう、戦い始めているわ。CP9と」
フランキー1家とチョッパーは驚きを見せるけど、直後にフランキー1家がここをどう抜ければと呟く。それに対してゾロとサンジ君が突っ切る他ねェと言って飛び降りようとした正にその瞬間、チョッパーが叫んだ。
「誰も下りるな!」
その言葉で全員が動きを止める。そして、チョッパーを見た瞬間にチョッパーが言葉を続けた。
「『しっかり捕まってろ!!』ゴモラがそう言ってる!!」
傷を負い、本来ならば動ける筈もないのにゴモラは体を起こすと動き始める。それに言葉を、声を詰まらせた後でフランキー1家はゴモラを援護する為に武器を構える。
視力を失い、前が何処かも分からないままにゴモラは突き進む。敵にも、私達にもどこへゴモラが進むのか分からない。
それでも、フランキー1家が止まるようにと叫んでもゴモラは動きを、進む事を止めようとはしない。それは……大切な相棒との〝約束〟を果たす為。
その事をチョッパーが通訳して伝える。だから、私は敵に雷を落とし続ける。
想いや願いは、力になる。だからこそ、約束は、呪いにさえなる事がある。
わかっているのよ。ここまでに私達も多くの人を傷付けて、踏み付けてここまで来たのだから、全員無傷で先へなんて進める筈はないって。
でも、痛い。でも、苦しい。
建物が目の前に迫り、それでも突進する事をゴモラは止めようとしない。フランキー1家の悲鳴が谺した時、ゾロとサンジ君はこんな時ばかり息を合わせて前に進む。
「行き止まり?そんなもん見えるか?」
「いやァ、どこにも見当たらねェな」
2人が建物を破壊して、その破壊された先へとゴモラは進む。そこで意識を失い倒れたゴモラにフランキー1家は裁判所前に到着した事を必死で伝える為に、声をかけ続けた。
歓声が上がる。彼等もまた、戦士なのだ。
家族を……仲間を、大切な人を奪われた今、その人を奪い返す為にやれる事を……。本来ならば不可能だったそれに僅かにでも繋がった可能性。
それを彼等は手繰り寄せてみせた。奇跡なんてものは、待っていても訪れない。
人の努力と根性がそれを起こさせるのだと……そんな事を思う。賭けられる総てを賭けて、失えない存在を取り戻す為に……!
「良くやったぞゴモラ!おめェら兄弟の力走、無駄にはしねェ!」
フランキー1家は声を張り上げる。鼓舞しているのは、己か、仲間か、はたまた両方か。
「攻め込むぞ野郎共!!フランキーの兄貴を救うんだ!!」
まだ、終わりじゃない。寧ろ、ここからが始まりだ。
その状態の中で、私とチョッパーは先に地へと降りていた2人の元へ向かう。私の姿を確認すると2人は当然のように私を間に挟むように立って、背後にチョッパーが立ったけど、それが庇う為だと分からない程鈍くは無いつもりなのよね。
私もそれなりには戦えるのにと思うけど、アイスバーグさんが言っていた言葉を思い出して素直に甘えておこうと思った。意地張って、前に出て、迷惑かけるよりはその方がきっと良いと……そう、思えたから。
この話、多分執筆してる中で唯一泣きながら書きました。筆者……ソドムとゴモラ、好きなんですよ。
夢なんだから、こんなシーン要らないかもって思いながら、書いたのを覚えています。