全員で揃って上を見ているけど、現在のところルフィの姿は確認出来ていない。でも、あの場所に居る筈なのよね。
「見える?ルフィ」
私の問い掛けに3人は見えないと答える。戦っていた相手を私は確認出来なかったけど、2人はツノ男だと言う。
……今なら何か分からないかな。そう思って記憶を探ろうとすれば案の定頭痛に襲われて、グラりと視界が歪む。
即座にチョッパーが支えてくれて、その瞬間飛んできた鉄球は蛙が抑えてくれた。抑えてもらっても、その衝撃は風となりその風圧にさえ今は対応しきれない自分がいる。
その風を受けながら、私は頭痛と戦いつつ皆の様子を確認する。その頃、ロビン達は……2人仲良く壁に繋がれていた。
そこでフランキーはブツブツと言葉を口にする。それをロビンは無表情で聞いていた。
それは傍から見ると聞き流しているようにしか見えないが、ロビンとしては1応聞いてはいるのだった。ただ、繋がれる前にルフィが、麦藁の1味がここに来たと言う真実を知り、気持ちが深く落ち込んでいるだけで。
「普通……来ねェよ。助けになんて……。お前恵まれてるよ本当に」
恵まれてる……?
何処が、恵まれてるのよ。そう言いそうになって言葉を飲み込んだロビンは、震えそうになる体を必死で抑え込むと祈るように願う。
来ないで、ルフィ、ナミ……!
「別に子分達が誰も来ねェからっていじけてるとか、僻んでるって訳じゃねェのよ?俺は」
フランキーの言葉を聞いて、先程の悲しみとも怒りとも言えない感情が霧散するのをロビンは感じていた。だからこそ、無言でフランキーを眺めてしまうのだけれど。
……嗚呼、この人は寂しいのね。そうなると本当に、皮肉な話ね。
迎えに来て欲しいと素直に思えるこの人は、誰も助けには来なくて……。助けなんていらないから、ただ生きていて欲しいと願う私の元へは皆が来てしまうなんて。
その時階段を駆け上がり、スパンダムの元へ飛び込む兵の姿が見えた。慌ただしい様子に、何かあったらしいと分かるけれどどうでもいい。
ルフィ、早くナミを連れて帰って。貴方達2人が無事ならば、きっとどこまでだって行けるから。
向日葵を抱いて、麦藁帽子を被る姿の似合いそうなナミの笑顔を思い出す。太陽の様な楽しそうな笑顔のルフィを思い出す。
幸せでいて。……私の為に、ナミは傷ついてしまったけれど、きっとルフィならそれも癒せるのでしょうから。
生きていて……この暖かな思い出があれば、私はそれだけでもう、充分なのよ。笑って逝けると、心から思える。
脳裏でナミが優しく笑う、ロビンと呼びながら。明るく楽しそうにルフィが笑う、何読んでんだと言いながら。
他の皆も楽しそうに過ごしているのが、目の前に見えるような気がした。賑やかに、明るく、温かく……。
そんな彼等の重荷にはなりたくないのよ。いつか捨てられるくらいならば、温かなこの記憶だけを抱いて私は……死にたい。
「ルフィ……ナミ……お願い……」
母が、泣きながら私に生きてと叫んだ声が、自分の願いと重なるようにして脳裏に響いた気がした。その瞬間、目の前に立つ人に気付いて視線を上げると、そこにはニタニタと笑うスパンダムの姿がある。
「おい……ニコ・ロビン。エニエス・ロビー本島より、緊急の連絡があるらしい……」
嘲るように、予想はつくだろうと言い出すそれに、体が震えそうになる。どうして……来てしまったの。
どうしたら、彼らを逃がせるの。捕まったのならば、ここに運ばれた時に、どうやってでも貴方達全員を逃がしてみせる。
私の決意を知らず、スパンダムは語り続けフランキーはいきり立つ。そして、電伝虫から入る情報を聞こうと意識をそれに向けると、予想外の言葉が聞こえてくる。
「〝侵入して来た海賊約60名に、現在エニエス・ロビー『本島』内最終地点。『裁判所』前広場まで攻め込まれました!!〟」
待って……海賊60人って、何?
そう思って思わず顔を上げたけど、直後にフランキーの方を向く。そして、笑いそうになるのを耐える。
……良かったわね、貴方の望んだ迎えが来てるわよ。きっとルフィ達に着いてきたのね、貴方を助ける為に。
望み、望まれて……きっと彼もそれならば帰れる。見知らぬこの人を巻き込むなんて、私は考えもしてなかった。
……貴方が何を抱えて、どう考えて私にあの言葉をくれたのかは分からないけれど、嬉しかったのよ。〝存在する事は罪にならねェ〟その言葉に、私の心がどれ程救われたか……きっと分からないでしょうね。
私が欲しかったものは全て貰った。もう、充分だから……貴方も、ルフィ達と共に帰って。
ナミから愛情を、ルフィから信頼を、仲間から温もりを……貴方からは救いを……。もう、他に望むものは無い。
居場所をくれた人達。安心して眠れる環境と、穏やかな時間。
僅かな時間だったのかも知れないけど、私にはそれだけで生きてきた意味がある。貴方達が生きてくれると言うのならば、それだけで充分だと思わされる程に私は満ち足りたの。
「〝エニエス・ロビー本島全部隊へ!!海賊達が『裁判所』前広場へ到達した!!全兵直ちに『裁判所』前広場へ!!〟」
「は?」
スパンダムが声を失い、フランキーと私は電伝虫を呆然と見詰める。だって、エニエス・ロビー始まって以来有り得なかった、暴挙である事は間違いないのだから。
そして、ルフィ達は捕まっていない事が分かったから。なら……まだ、皆を無事に逃せるかも知れない。
「〝次いでは『本島前門』の巨人の門番、オイモとカーシーも海賊側に寝返り、只今『本島』中央付近を逆走中!!此方の衛兵の被害総数はおよそ二千人強!!……その内千人以上を1人で薙ぎ倒した〟」
「……5人じゃ……」
「〝船長『麦藁のルフィ』は忽然と姿を消した為、目下捜索中であります!!〟」
その瞬間スパンダムは電伝虫を投げ捨て窓に駆け寄る。その間も電伝虫は語り続ける。
ルフィ達が何をしたのかを。皆が無事である事を。
「〝恐らくこれは……エニエス・ロビーの歴史始まって以来、他に例をみない、最悪の事態かと思われます!!〟」
フランキーはロビンの横で大爆笑して、ロビンはその表情を曇らせる。スパンダムは窓の所で叫ぶ。
その同じ時、ナミ達の方は蛙が押さえた鉄球を扱う敵をサンジが倒し、ゾロが分厚い石の扉を破壊していた。
……頭痛も落ち着いたし、ロビンが待ってるし、ルフィは戦ってる。行かなきゃ、ロビンを奪い返しに。
その時ゾロが私とチョッパーに視線を向けて言う。それにチョッパーが即座に反応した為、私は対応が遅れた。
「チョッパー、ナミを抱いて連れて来い。道は俺が切り開く」
「分かった」
「分かったじゃないわよ!チョッパー下ろして!自分で歩けるから!」
「動くと、傷が開くぞ。本戦はここからだ。戦わなくていい所は休んでろ」
チョッパーは人型で私を抱えて歩き出すし、ゾロはそう言って譲らない。私、これじゃただの荷物じゃない……!
そんなのは、嫌……!
私は、ロビンを奪い返す為に、皆を守る為にここに来たのに……!
フランキー1家は3つのチームに別れて進む。雄叫びを上げながら。
チョッパーに運ばれて、ゾロに守られながら進む私の脳内には、今回の敵が鮮明に映し出されている。そうか……CP9のうち2人を除いて全員能力者なのね。
脳内で彼等の情報を整理する。今回の敵は、ハットリの飼い主であるロブ・ルッチを筆頭にしたCP9とその長官。
強さ順に考えるならば、ロブ・ルッチは豹人間で、カクは麒麟人間、ジャブラは狼人間と別格に強い3人は動物系の能力者。……今の私には、勝てる可能性の低過ぎる相手。
そこから1気に戦える可能性のある相手になる。その1人が、さっきルフィが戦ってるとゾロとサンジ君が言っていたツノ男……ブルーノ。
確か彼はドア人間だった筈。そして、悪魔の実の能力者では無いクマドリとフクロウ。
最後が美人秘書カリファ。彼女は泡人間。
伝えておかなきゃ。皆に。
「ナミ、大丈夫か?」
「ありがとうチョッパー。とりあえず話しておきたい事もあるから、降ろしてくれる?CP9についてよ」
ゾロか戦うのを見ながら、チョッパーが私を下ろしてくれた。それにお礼を言ってから、私はサンジ君を探して視線を動かす。
そこに帰って来るのと同時に暴れ出したサンジ君とゾロに向けて、聞いて!と叫ぶ。
ゾロが遠くへ行こうとするのを止めたりしながら、情報を伝えれば3人は頷いてくれて先へ進む事となった。私やチョッパーを狙ったケルベロスの様な姿をしている3人は、フランキー1家が請け負ってくれたので問題無く進めている。
突き進む私達の前には幾人もの雑魚が犇めき合う。いくら雑魚でも、これだけいるとそれなりに面倒ね。
チョッパーと力を合わせて敵を倒しつつ進む。いつの間にか混戦の中で、ゾロとサンジ君の姿を見失ってしまう。
刃物を持つ敵には、私の雷がそれなりに効くから率先して倒して行き、チョッパーは銃等を扱う敵を率先して倒して行く。狭いこの場所で爆発は酸素を失うばかりだからと使ってないけど、このまま電撃だけでどうにかなるのかと言われたらやはり不安にもなる。
でも、立ち止まれない。待っている大切な人が居るから。
ルフィ、直ぐに行くわ。ロビン、もう少しだけ待っていて……!
上に続く階段を求めて駆け回る私とチョッパーの前に現れたのは、鉄球を振り回す敵で……これ、食らったら流石に不味そうねと背中を汗が流れるのを感じつつ思う。チョッパーに押さえられるのか分からないから、可能なら私が受けたいけど……。
怪我してるのが、少しばかり心配だったりする。覇気は、本当に体力消耗するから私はギリギリまで使いたくなかったけど、そうも言ってられないかなぁ。
その時、妙な音が足元から聞こえて来て同時にゾロの声が聞こえる。まさかと思った直後、地面が砕けて瓦礫ごと突き上げられた。
「きゃぁぁ!」
思わず叫んだけど、瓦礫の降らない位置を確認して体勢を整え着地すると、その近くにチョッパーが落ちて来た。頭から落ちたチョッパーが心配で振り向くと、ルフィの声が聞こえて来る。
「そしたら、その時死ね!」
そして、穴からよじ登って来たゾロを見れば呆れもする。味方を巻き込む攻撃をするなんて、ダメな奴ね。
「ゾロ、味方を巻き込む攻撃しないのよ!私とチョッパーはか弱いんだから!」
「あ?何だ。いたのか。……それよりもツッコミどころが多過ぎて、何を言えばいいか分からねェ発言止めろ」
「ツッコミどころなんか無かったでしょ。反省しなさい」
「ナミお前、何度俺に電撃落としたよ!?」
「……問題、あった?」
小首を傾げればゾロが舌打ちした。その直後にサンジ君も姿を見せて、ゾロとサンジ君は安定の仲良しさで喧嘩を始める。
こちらでギャーギャーと騒いでいると、ウソップが空を飛んで姿を見せた。まさかこの窮地により、ウソップも月歩を使えるようになったの!?
感動してる私の傍で、ゾロがボソリと着地を心配するから、空を飛べるなら着地は容易いと思うと言おうとした所で、ウソップが頭から落下した。……打たれ強さ選手権とかあったら、ウソップって上位に入れそうよね。
月歩を使えるようになったとかじゃないのねと思いながら、ルフィの方に視線を向ける。その時ルフィの背中が何だか異様に頼もしく見えたのは、痘痕も靨なのかな。
「頼むからよ!ロビン!!」
そんな騒動の中で、ルフィはロビンに声をかけ続ける。その声を、私達は全員しっかりと聞いている。
チョッパーがウソップに駆け寄り、その間に私はルフィの元へ向かい歩き出す。ロビンが、泣きそうな顔でルフィを見ているのが見える。
「そういう事はお前……俺達の側で言え!!」
考える事は同じなのか、皆が同じように登り、1列に並ぶ。奇しくもCP9がバルコニーに横並びしているのと変わらない構図だ。
ルフィに続けとばかりに、皆がロビンに声を掛ける。ロビンはそれを痛みに耐えるような顔で見ているから、私は笑う。
ロビンを1人で苦しめたりはしない、必ず助けると心中で誓いながら。ルフィはまるで、全員が並ぶのを待っていたかのようなタイミングで言う。
「後は、俺達に任せろ!」
ルフィの言葉に、全員の心が1緒に乗っていたと思う。けれどもその直後に、ゾロやサンジ君にルフィは簡単な説明をされて首を傾げてる。
ルフィが暴走したから、結果的にここに集まる事になったのだと。その時、カリファさん……カリファの声が聞こえて来た。
「長官〝麦藁の1味〟全員抹殺許可を貰いましたが、アレも始末して宜しいので?」
ルッチの声が聞こえて視線を向ければ、長官と呼ばれた男が私に視線を向けて当然だと言いかけた時、カリファが口を開いた。けれどもそれは、少しばかり私を驚かせる会話で口を閉ざして私はそれを聞く事になる。
「世界政府からの御達しでは、生け捕りのみですが宜しいのですね?」
「は?」
「アレは〝宝玉〟ですもの。七武海の2名と大将青雉からの言で、生け捕りのみとすると報告されております」
「先に言え!宝玉の情報は錯綜していて俺は今初めて宝玉が実在すると知った位なんだぞ俺は!そもそもアレが〝宝玉〟だって言う証拠はあるのか!!」
五月蝿いわね。人をアレ呼ばわりしないで欲しいわ。
でも、身分証とかの無い世界で宝玉だと言う証明って、意外と難しいわね。さて、どうしたものかしらと思わずルフィに視線を向けた時点で、随分と頼り切ってるのだと痛感させられる。
ルフィに怪我は無さそうね。良かったわ、なんてそんな事を思いながら、私は自然と浮かぶ笑みを抑えられずにいる。
ロビンちゃんに〝だけ〟いい男なフランキーが、結構好きです(笑)