風が髪を揺らす。七武海の2人って事は、ミホークとドフラミンゴねと思えば溜息も出ようと言うもの。
その時胸元からココロさんの声が聞こえて来て、少し時間稼いどきなと言われた私はルフィに視線を向ける。ルフィは真っ直ぐにロビンを見ているけど、聞こえてるかな。
「ルフィ」
「ナミ、海列車の中で歌ったやつな」
……確かに、私が〝宝玉〟である証明と時間稼ぎ、そして……ロビンに伝えたい想いを伝えると言う事を全て1気に出来るわね。そう思って私は言われるままに歌おうと、題名を口にする。
それによりCP9の面々は押し黙り、サンジ君とウソップが小さく歌ってたんだとか呟く。そう言えば、2人は歌った時居なかったわね。
世界を敵に回しても、私は構わない。ロビンが必要なのよ。
スパンコールだかなんだか忘れたけど、ソイツの作ったシナリオなんて、ぶち壊してやるわ!
そう思って歌った私のそれに、カリファがじっと私を見てから、長官と言ってスパンコールに声を掛けた。
「今の歌は、明日発売の宝玉の新曲です」
「ちょっと待てカリファ、なんで発売前のを知ってるんだ?」
「……私〝宝玉〟のファンですので」
……ちょっと待ては私の台詞よ。……冗談よね?
そう思ってカリファを見たけど、どうやら本気らしい。だから、私を殺そうとするのを止めてくれてたのかと思えば納得してしまう。
「発売の数日前に私は、いつも購入してます。ファンレターも何度か〝美人秘書〟で出してます」
……あったわ、美人秘書さんからのファンレター。あれ、カリファからだったんだ。
文字も綺麗だし、女性なのはわかってたけど……カリファだとは思わなかったわ。てか、暗殺組織の人そんな事してて許されるの?
そんな事を考えながら視線を向けて居たけど、ロビンには今の歌で色々伝わったらしくて瞳が大きく見開かれている。……忘れてるのかな、ロビンは。
私はロビンの過去を知ってる事を。忘れてるのかな、ロビンは……私がロビンをどれだけ好きなのかを。
「私は、ロビンの過去も、バスターコールの事も分かっててここに居るのよ!ロビン!」
「ナミッ!でも、私は……!」
わかるよ、ロビン。私も、きっとロビンの立場なら同じ事をしたから。
でもね、だからこそ迎えに来たの。貴女を、喪いたくないから。
そう思ってロビンを見詰めていたら、邪魔な声が響く。スパンコールが、騒ぎ出したのだ。
「なら、女2人は生け捕りで連れて行くぞ!分かったな、CP9!」
「……少し、厄介ね。あの子逃げ足だけは速いみたいだから」
スパンコールの言葉にカリファが続くように言葉を発した直後、スパンコールは私達を嘲笑うかのようにゴチャゴチャと言葉を連ね始める。そして、それにロビンが反応すると、悪ガキが他人の大切な物を奪って高笑いしているかのような様子で、ロビンを追い詰めるように目の前でバスターコールのスイッチをひけらかす。
嗚呼、雷落としていいかな。あの馬鹿に。
ん?待って……ロビンの顔に痣があるわ……まさか……あのスパンコール、私のロビンを傷付けたの!?
クリマタクトからゆっくりと雷雲を生み出し始めた私にルフィ達は気付いたようだけど、今は何も言わずにいる。分かってる、まだ、落とさないわ。
だけどサンジ君も同じ気持ちなのか、蹴りたいと言ってるのが聞こえる。ロビンに関してのみ、私とサンジ君は意見が合いそうな気がするわ。
ロビンの悲痛な声が響く。それを卑怯にも知ってる私にも、今は何も言う権利はない。
ロビンの悲痛なそれをただ、聞いている事が、必要な事なのだと分かるから。声に出して、言葉にする。
それだけで変わる事もある。過去を過去に変えられる事があるから。
だから、吐き出して、ロビン。その心の内を私達に見せて。
ロビンの助けを拒む気持ちが、私にも分かる。あの時の私もそうだったから。
何故、信じる事が出来なかったのかと問われたらきっとこう答える。怖かったからと。
素直に真実を話して助けを求めたら、変わっていた事もあったかもしれない。それでも、失うくらいなら思い出だけでも美しいままで、変わらずにいて欲しいと願ってしまう位には、汚い所を見て、生き抜いてきたのよ。
結果だけ見れば、私は助けられた。でも、皆を必要以上に苦しめてしまったのも事実。
「地図の上から人間が確認出来る?貴方達が、世界をそんな目で見てるから、あんな非道な事が出来るのよ……!!」
ロビンが崩れ落ちる。今すぐ傍に行って抱き締めたいけど、それが出来ない。
命懸けでロビンを生かした人達の声が、砲弾の降り注ぐ音が、燃え盛る島が……見えた気がする程。私は過去を変えられたけれど、普通はそんな事出来やしない。
どれ程の苦痛だっただろう。どれ程の絶望だっただろう。
「20年前……私から全てを奪い、大勢の人達の人生を狂わせた…………たった1度の攻撃が〝バスターコール〟」
言葉と共に立ち上がるとロビンは私達を順番に見た。ゆっくりと、まるで別れを惜しむように。
……泣くな、私。今泣くべきは私じゃない。
「その攻撃が……やっと出会えた、気を許せる仲間達に向けられた」
誰も、何も言わない。ロビンの顔が苦痛に歪んでいる。
「私が貴方達と1緒にいたいと望めば望む程、私の運命が貴方達に牙を向く!!」
ロビン……貴方は優しい。でもね、忘れてるわ。
この船には私がいる。人の人生を奪って、運命を捻じ曲げてしまった私がいる。
その私は、その分の責めとして世界から狙われ始めてるのは分かってるの。ロビンが居なくても、同じ事なのに、賢い貴方が気付かない筈はないのに。
心に余裕が無くて、気付けなくなってるのかな。それとも、自分が犠牲になっても助からない可能性を認めたくないのかな。
「私には海を何処迄進んでも、振り払えない巨大な敵がいる!!」
でも、ロビンには休める場所が無かったんだよね。私にはあったベルメールさんやノジコと言う休める場所が、ロビンにはなかった。
ただ、世界の全てを敵として、誰にも心許せずに……私なら、きっと諦めていた。生きる事を、諦めたくなるのは、よく分かる。
でも、私は我儘だから!強欲で罪深いから!
ロビンを、喪いたくないの。ロビンに、傍にいて欲しいのよ!
「私の敵は……〝世界〟とその〝闇〟だから!!」
知ってるわ。だから歌ったの。
ロビンの敵は世界だと知っていたから、あの歌を歌ったのよ。帰ってきて、ロビン。
「青雉の時も!今回の事も……!もう、2度も貴方達を巻き込んだ……!!これが永遠に続けば、どんなに気のいい貴方達だって……!!」
ロビンの苦しい想いが伝わって来る。泣く事さえ出来ない程に、自分の価値をそれにしか見いだせない程に追い詰められているのが伝わって来る。
「いつか重荷に思う!!いつか私を裏切って、捨てるに決まってる!!それが、1番怖いの!!……だから、助けに来て欲しくもなかった!!」
皆が呟くように、納得の声を出す。理解出来たのだろう、優しい彼等だから。
ロビンはその間も言葉を続ける。絶望をその身に宿して、声を震わせて。
「いつか落とす命ならっ……私は今、ここで死にたい!!」
肩で息をするロビンの傍で、スパンコールが追い詰めるように、ロビンを馬鹿にするように、私達を挑発する。高笑いを響かせて居るのを聞いていたルフィが、ウソップに声をかける。
「ロビンの敵は良くわかった!……そげキング」
「ん」
「あの旗ァ、撃ち抜け」
「了解」
ウソップの攻撃で、旗は燃え上がる。それの意味を、ルフィが知っていても知らなくても同じ事。
ロビンの敵ならば、私達にとっても敵なのだから。ロビンはルフィが仲間だと決めたのだから、その瞬間から仲間なのよ。
ロビンが声を詰まらせる。その傍でスパンコールが、ご丁寧に説明してくれながら騒ぐ。
「正気か貴様らァ!!全世界を敵に回して、生きてられると思うなよォ!!」
「望むところだァーーーーっ!!!!」
ロビンの瞳から、涙が零れ落ちた。ロビンが漸く、泣いてくれた。
ルフィの声に、スパンコールは腰を抜かして、情けない悲鳴をあげてる。その中でルフィはロビンに言葉を向ける。
「ロビン!!」
ビクリとロビンの体が揺れた。さぁ、聞かせて……本心を。
「まだ、お前の口から聞いてねェ」
さぁ、確証をちょうだい。ロビンを私達が〝全力で助ける〟為の確証を、その口から音にして聞かせて。
「〝生きたい〟と言えェ!!」
「「ロビン」」
「ロビンちゃん」
私とチョッパーとサンジ君の声が重なるようにロビンを呼ぶ。私達は全員今、同じ想いを抱いてこの場にいる。
今までは孤独だったと思うけど、これからは違う。ロビン、私達が傍に居る!
ロビンの涙は流れ続ける。塞き止められていた川の水が溢れるように、止めどなく流れ落ちる。
「生ぎたい!私も1緒に、海へ連れてって!!」
ロビンの言葉を受けて、ルフィは満足そうにニッと笑った。ゾロは戦いたい欲望を抑えずに悪い顔で笑う。
サンジ君はにんまりと笑い、ウソップは震える。ウソップが1番大それた事をしたと言うのに。
私は深呼吸してから全力でロビンの名を呼ぶ。しゃがめとの意味で。
「ロビン!」
その瞬間ロビンは通じた様子で、サッとスパンコールから離れてしゃがんだ。それを受けて私は、用意していた雷でスパンコールを攻撃する。
電撃で黒く焦げるそれを見て、私はフッと笑う。だってそうでしょう。
寧ろ今までよく耐えたと褒めて欲しいわ。よくも、私のロビンに……!
「よくも、ウチの美人考古学者の顔に傷付けてくれたじゃない!私のロビンに手を上げた罪、万死に値する!」
「ナミ!!」
「ロビン!」
私とロビンが見つめ合っていると、誰かがボソリとナミの恋人ってロビンだったか?なんて言ってたけど、無視だ無視!
「行くぞ!」
ルフィの声に、私達は揃って頷いた。だって、大切な人が泣いているのだから……!
「ロビン!必ず助ける!」
全員が揃ってCP9を睨めば、CP9もそれに笑って応える。まるで下級生からの挑戦を受けて、余裕で笑う上級生のように。
まぁ、こちらは全員ピチピチの十代だもの。相手から見たら弱々しくも思えるかと少し思う。
もう、ルッチを見ても体は震えない。妙に冷静な自分を感じる。
それに、恐らくはもうルッチと顔を合わせる事は無いだろうと何故か思えたから、私はハットリに笑いかける。だって、ハットリは可愛い。
「ハットリ……1緒に来ない?」
「クルッポー!」
行かないとハットリは羽根でバツを作るから、残念と少し項垂れるけど、それに対して皆からおいっと突っ込まれた。だけど、誘うだけなら自由でしょ?
だって……ルッチはいらないけど、ハットリは居てもいい。寧ろいて欲しいと思ったんだもん。
一応ですが、百合じゃないですよ。友情ですよ。