チョッパーの去ったそれを見つめていたら、カリファが背後から攻撃を仕掛けて来た。それが卑怯だなんて言うつもりは無い。
ここは戦場。今は戦闘中なのだから。
相手はただ任務の為に。私はただ、大切な人を奪い返す為に。
それぞれの想いを抱えて戦っているのだから、敵から視線を外した私に、相手を責める権利はない。戦場で気を抜いた時点で、負けたのと同じ事。
攻撃されたのは私では無いから、そんな事が言えるのかもしれないけど、そんな事を考えながら私は幻をまた新たに生み出して行く。漸くこの部屋の天候を私のものに出来たわ。
こんな所で立ち止まって居られない。チョッパーとロビンを、私は助けなきゃいけないのだから……!
ミラージュテンポに加えて、ファタ・モルガナを使えば幻なんてとカリファは言うけれど……ね。私本人が姿を見せてるなんて1度も口にしてないし、今のところ見せるつもりは無いわ。
私が怪我をすれば泣く人がいる。守れなかったと嘆く人がいる。
ならば私は、泣かせない事に全力を注ぐ為に、傷付かずに戦えるなら極力その道を選ぶ。私はずっと……ナミちゃんの肉体だから、傷付けるのが申し訳なかった。
でも、違うのよね。今この体は私が生きて、成長した姿であり、ナミちゃんの立場を奪った事に変わりはなくてもナミちゃんの肉体では無くて私の肉体。
そう思った最初は、ならこの肉体がどうなっても構わないって思ってたのに……ルフィが、髪の毛が短くなる事さえ嫌がるから……。だから私は、悲しませない為にもこの体を無駄に傷付けるような事は出来ないと、そう思うようになったの。
幻が大量発生する状態で雷を放てば、全体の80%が偽物となる。その中から本物を見極めて、総てを躱すなんて無理があるんじゃないの?
見聞色の覇気を使えても、躱すのが難しいレベルのそれを容赦無く叩き込む。カリファに恨みはないけど、あの夜助けても貰ったのかも知れないけど、私は……ここで立ち止まれない。
「サンダーボルトテンポ!」
ここまでやっても、倒れないとは思わなかった。これでカリファは雷を3回受けてるのよ!?
頑丈ね……。私も、もっと鍛えなきゃ……ルフィの足手纏いには、なりたくない。
「天候を私は既に支配した。次の技で貴女は倒れる」
「何の、予言かしら?」
カリファは黒く煤けた姿で嘲笑う。だから私も見下すように笑い返す。
気持ちや態度で負ける訳にはいかない。天候を支配したこの場所で、負ける事は許されない。
「予言じゃないわ。航海士としての、予報よ」
不敵に笑ってから、私は予報を伝える。カリファは声の方角から私を見つけようとするけど、反響を利用してそれでは分からなくしてあるのだから無駄な事よ。
「……今日の空は安定した気圧の中、激しい気流を含む小さな黒雲が停滞しつつ、やがて雷鳴と共に貴女の胸を撃ち抜くでしょう」
私の言葉に合わせてカリファは攻撃を仕掛けてくるけど、見えている全てが私の偽物。その中で消されれば新たに幻を生み出す私に、カリファは苛立っている様子を見せる。
けれどもその時カリファが突然見えない私を蹴り飛ばした。どうして分かったのか……そう思ってる私にカリファは言う。
「貴女、いい香りがするのね。食欲をそそるような……」
その言葉で思い出す。ルフィの言っていた匂いで分かるって言うそれ。
……蜜柑の、匂いが!?
でも、私の予報は外れない。全ての準備は、整っているのよ!
「これでもう、貴女を逃がさないわ。見えなくても、何処にいるかが分かるなんて……随分と自己主張の激しい雌猫ね」
嘲るように言葉を口にするカリファに、私はゆっくりと上半身を起こしながら笑う。だってね、ここは私が既に支配した後の空間なのよ。
「ふふっ……もう、忘れてるのね。航海士の天気予報は……ちゃんと聞くものよ!」
「え!?」
カリファは驚いて振り向くけど、逃がすつもりは無いわ。ここで逃がしたら、勝てるチャンスはそんなに多くない。
「黒雲からクリマタクトへ。迸る雷」
クリマタクトがバチバチと音を立てる。……来い!
「さっきの……!!」
「サンダーランステンポ!」
カリファを雷の槍が貫き、悪魔の実の能力の関係でカリファが口から泡を吐き出す。倒れ行くカリファに、私は言葉を紡ぐ。
「アンタがどれだけ強くても、私の予報は外れない!!」
仲間が、いいえ、仲間達が待ってるのよ。鍵は、もらって行くわ。
そう思って1歩カリファに近付いた時に、フランキーの声が聞こえた。どうやら壁をよじ登ってきたらしい。
「シカゴリラァー!!どこだァー!!」
……凄いわね。詳しくは知らないけど、アメリカの漫画か何かのスパイダーナンタラって言う蜘蛛男みたいだわ。
フランキーから話を聞けばチョッパーに攻撃されたのだと言うし、更にはカリファの鍵が必要だと言うから、カリファの服を破りながら鍵を探す。大体隠せる場所なんてそんなに多くないのよ。
見つけ出した鍵を手に、無残な姿をしているカリファは放置してフランキーの元へと走る。走りながら、フランキーにチョッパーの対処方法を伝えて対応して貰う事にして、私はゾロ達のサポートに向かう。
フランキーには、カリファ以外の2つの鍵を持ってチョッパーの対処をしつつ先に行って貰う事になった。ことロビンに関しては、フランキーが1番頼りになると思ってる。
これでロビンが助かる可能性が高まるし、チョッパーも生きていてくれるだろう。良かったと、内心で息を吐き出せば目的地が見えて来た。
到着した先では、チョッパーが大暴れしていて、サンジ君も含めて全員が避けるのに必死な様子を見せている。そんな中で、私は阿呆な状態に陥っているゾロ達に鍵を使い2人を解放する事に成功した。
チョッパーがフランキーに落とされて姿を消せば、そこに残ったのはゾロとサンジ君、麒麟と狼、そして、私とウソップだ。私はそこで3人に分かってる情報を伝えて、フランキーは私の指示でチョッパーの対応をしたのだと教える。
そんな中でゾロとサンジ君が戦えるようになれば、何も出来ないとウソップがその場で落ち込むけど、そんな事は無いとサンジ君がウソップに告げる。ウソップにしか出来ない事があるのだと。
それにより何かを思いついたらしいウソップは、やれる事があると喜びを見せた。そうしてゾロとサンジ君を残して、部屋を飛び出そうとするウソップに私は電伝虫を託す。
「フランキーにはカリファの持ってた子電伝虫を渡してあるから、連絡はそれで取れる筈よ。そげっプ、気を付けてね!」
「そげっプって誰じゃァー!!」
怒るウソップを横目に、私は遅ればせながらゾロとウソップを繋いでいた海楼石の手錠と、まだ壁にかかったままになっている海楼石の手錠を手にする。とりあえずウソップは無視だ。
その足で私は、フランキーを追いかける事にする。この場にいては、実力の違い過ぎる私では邪魔になるのは分かってるから。
「サンジ君、ゾロ!私もロビンを追うわ!必ず倒して、鍵を手に入れてロビンを助けてよね!」
「「おう!」」
2人の心強い声を背に、私もフランキーの元へ行こうと飛び降りようとした所に声がかかる。それは、カクのもので……。
「……怪我は、大丈夫なのかのォ?」
「お陰様で」
「気高過ぎて、手が出せんな」
「……私は、誰に何をされても、死んでもルフィのものよ。気軽に手を出そうとしないで」
キッと睨めば悲しそうに私を見ているカクが居て、そのやり取りの中で狼が何かを呟き、それから笑い出した。狼男は、確かCP9では3番目の実力者の筈よね。
「カク……貴方があの日助けてくれた事には、感謝してる。ありがとう」
「身内のした悪行じゃからの」
「……二度と、会う事は無いと思うから、お礼だけ伝えたかったの。サヨナラ」
言葉だけを残して、振り向く事なく空いている壁から飛び降りれば、後方からは戦いの音が響き始めた。皆優しいわね、私がいる間は巻き込まない為に戦いを中断してくれたのだから。
下に着地すると、フランキーがチョッパーを引き上げたところだった。私も当初とは予定が変わったけど、フランキーと共にチムニーから教えられた道を走って行く。
その直前にチムニー達にこの後の行動についてフランキーが指示を出せば、素直に頷いてくれた。そんな姿を見て私は、素直でいい子だなと思った為か自然と笑みが浮かぶ。
チムニー達には他の皆の道案内と、チョッパーを任せておいた。チョッパーは自力では動けないし、連れて行っても、私では守りきれないから。
長い道を走っていたら、突然フランキーが声を掛けてきた。暇なのかなと思いながら、それに耳を傾ける。
「……お前ェ、その……ルッチの奴にヤられたのか」
「それがどうかしたの?」
「麦藁は、それを知ってるのか」
「知ってるわ。それに、女海賊なんだからこんな事珍しくもないでしょ。……どうしたのよ、突然」
フランキーの言葉に首を傾げれば、フランキーは1瞬痛みに堪えるような顔で私を見てから小さく謝った。
「長鼻の件、悪かった。シカゴリラに言った暴言も含めて、本当に悪かったと思ってる」
「……ウソップは、もう許してると思うし、チョッパーの件も結局ちゃんと対応してくれた。だから、私はもう貴方を責められない」
「……ニコ・ロビンが、お前ェと麦藁を特別視してるのが、なんかわかった気がするぜ」
そう言ってから先、フランキーは何も言う事は無くて、ただ……2人で長い廊下を走っていた。ルフィとルッチは恐らくこの先にいる。
その更に先に、ロビンが私達を信じて待っていてくれる。早く、行かなきゃ。
壊された扉を抜けると、ルフィとルッチが戦っていた。ルフィが壁にぶち当たり、フランキーを見て嫌っている発言をするけど、今は味方だとフランキーが言えば冷静な顔になった。
ルフィのこういう顔好きだわ。まぁ……笑ってると幸せな気持ちになるし、寝てるのは可愛いなって思うんだけど……。
「ナミ、皆は?」
「チョッパーがCP9を1人倒して重傷。現在移動中。サンジ君とゾロは交戦中。フランキーと私も1人ずつ倒して、その鍵を持ってここに来たの。ウ……そげキングは何か思いついたみたいで、ゾロ達の側に居るわ」
「ルッチに手古摺ってんのか。手ェ貸すか!?」
私に続いたフランキーの言葉に、ルフィはルッチへと視線を定めたままで言葉を口にする。その声は戦いの最中だからか、いつもより少し低い。
「ナミ、震えは無いか」
「えぇ、大丈夫よ。私も戦えるわ」
「いや、2人はロビンを止めてくれ!頼む!!ハトの奴の後ろにある扉から、正義の門へ行けるんだ!ロビンはもう、連れて行かれた!!」
ロビンは、きっと私達を信じてこの先で前に進まない努力をしてくれてる。そう分かるから、私は深呼吸して冷静さを取り戻す。
確かに私がこの場に残っても、ルフィは私を庇おうとして戦いにならなくなる。元々勝てるかは微妙な力関係。
いいえ、寧ろ普通なら勝てない筈の相手だもの。それでも、ルフィが負けるなんて思わないけど。
頭だけは常に動かし続けないと。私には力が足りないのだから、他で補わなければどうにもならないただのお荷物になる。
私ではカクや狼男にもかなわない。その更に倍近い実力のルッチを相手にする事は現実的じゃ無いわ。
そっと息を吐き出して、ルフィの指示に従おうと決めた私は、静かにクリマタクトを片付けた。鍵を届けて、ロビンを守らなきゃ。