私が後少しでロビンの元へ到着すると言う時に、スパンダは高笑いをした。船長は死んだと言って。自分がバスターコールを発動した事を誇らしげに宣言しながら。
「これが正義だ!カティ・フラム!!さァ、ニコ・ロビンをこっちへ引き渡せ!そうすればお前の罪を消してやってもいいぞ!!」
「……欲しいのは、ニコ・ロビンだけじゃねェだろうが。スパンダ、俺はてめェにどっちも渡すつもりはねェ!」
フランキーの言葉に私は息を呑む。そんな台詞、私は知らない。
震えるロビンを背に庇い、私が近くに来ている事を知らない筈のフランキーは何故か私の事まで渡さないと言う。……どうして?
私の疑問に重なるようにスパンダが言う。スパンダと同じ疑問を持っているのは嫌だけど、私も知りたい。
「だいたい何故、お前がその女共を守ってやる必要がある!!海賊でもあるめェし!!」
フランキーは何も答えない。ただ静かにスパンダの方へ数歩足を進める。
スパンダは言葉を口にし続ける。フランキーの歩みは、止まらない。
「そのオハラの血を引く物騒な女と、謎のベールに隠れてる作家を信用するって言うのか!?我々に逆らえばお前も〝トム〟と同じように死ナバス!!」
フランキーがスパンダの言葉の途中で拳を飛ばしたので、それにより言葉は途中で遮られる。既に腫れる事さえ出来ない状態になっているスパンダの顔は、恐ろしい状態になっているけど、そんなのはどうでもいい。
スパンダはその状態で剣を抜き、まさかのロビンを狙った。動けないロビンを狙ったそれを、いち早く気付いたフランキーが庇う。
「何処までも……救えねェ野郎だ……」
フランキーはそう言ってロビンを襲った剣を元の象の姿に戻させると、ロビンに問い掛ける。ルフィ達がここへ来るのかと。
それにロビンは力強く頷いた。太陽は何度沈もうとも、また登るのだと、冬は必ず春となるのだとでも言うように。
「全員……必ず!!」
それを受けてフランキーはロビンに優しく笑い、それからスパンダに視線を向けた。それは静かなる怒りを讃えていて、これから大波が来ると嫌でも分かる。
……フランキー、そんな優しい顔できたんだ。そう思うくらい優しい顔で、ロビンに笑いかけていたのが印象的だった。
「俺はあいつらに、全てを賭けたと言った筈だぞスパンダ!!」
「何をォ!?」
「まさかこんな日が来るとは思わなかった。〝あの日〟の俺に力があったなら……何がなんでもトムさんを奪い返したかった……!」
海列車に1人挑む少年が、見えた気がした。その言葉を聞きながら私は呼吸を調える。
ここから戦いになる。私も……参戦するつもりなんだから、意識を保つ為にも……落ち着かなくちゃ。
もう既に何処が痛みの発信源なのかさえ分からない。分からないけど……痛いって事は生きてるって事なのだから、私は大丈夫。
でも、その痛みで動けなくなったら死んでしまうから、早く効いてと薬に祈るように思う。足を前に出そうと思うのに、気持ちばかりが前に行くから、上半身だけが前のめりになり、そのまま転びそうになる。
〝鎮痛剤ってのは痛みを麻痺させるだけで治す訳じゃねェんだぞ!〟
チョッパーの声が、聞こえた気がした。いる訳ないのに、叱られすぎなのかな、私って。
ううん、違うわ。チョッパーが怒りんぼ過ぎるのよ。
そんな事を考えてる間にも、フランキーは言葉を続ける。真面目な事を言ってる時は、大人なのに……いいえ、大人だからなのかしらね。
「エニエス・ロビー不落の神話を知る者達の……世界政府の強大さを知る者達の!!その常識を麦藁達は尽く覆し進む!!」
フランキーの言葉に海兵達も動けなくなる。ロビンは、静かに瞳を揺らしながらその言葉を聞いている。
何も知らない無謀な少年達だから出来た事なのかも知れない。そう思わされる位にハチャメチャな事をしてるのは自覚してる。
だからこそ、その〝常識〟を知ってる大人である2人には、これは信じられないような奇跡なのだろうと言う事も理解出来る。フランキーの言葉が、この場の空気を支配していた。
「仲間1人の為に、誰1人躊躇無く世界を敵に回す!!その為に自分が世界から狙われる事になるのだと理解している女でさえも、それ迄はただの野生動物でしか無かった筈の子供でさえも、躊躇う事がねェ!!……胸のすく思いだ……!!」
フランキーは言葉の途中で象の鼻を掴むと、ゆっくりとその腕を動かし始めた。ロビンは真っ直ぐにフランキーを見ている。
「今日まで俺はトムさんの死を忘れた事はねェ!!〝あの役人〟のバカ顔が頭を過ぎる度に……!!いつか奴を、捻り潰してやりてェと願ってた!!」
フランキーは象を軽々と持ち上げるから、まるで象が軽いのではないかなんて有りもしない事を考える。それに対して慌てるスパンダに向けて、それを叩き付けながらフランキーは言う。
「こんな風にな!!」
象は血を吐き、スパンダは潰れた。それを見下ろして、フランキーは言葉を続ける。
「あいつらのお陰で……俺は、思いを遂げた!!」
その言葉の直後にフランキーは暴れ出す。銃弾が無くなる事は無いのかと思う程の勢いで撃ちまくる。
1度死んだのだから、命を擲つ事も厭わないと叫び、護送船を空け渡せと叫ぶ。逃げ道を作るのは自分だと。
それを見聞きしていたロビンは、体の震えを抑え込み立ち上がった。その姿は、凛として美しい。
「私もやるわ!もう、大丈夫」
「ん!?」
「オハラとは……あの時とは違うもの……!!怖がる事なんて何も無い!!私はもう……1人じゃないから!!」
そこに私は歩み寄りつつ雷雲を生み出していく。私も、負けてられないわ。
「お待たせ、ロビン!」
「ナミ!……貴女、地雷踏んだでしょう!?大丈夫なの!?」
「大丈夫よ。全く問題ないわ!さぁ、護送船を奪いましょう」
言って笑いながら雷を落とせばフランキーもお姉ちゃん!?と私に反応して、私の足元に1瞬視線を向けてから息を静かに吐き出した。
「2人共、戦力として数えて構わねェのか!?」
「「勿論!!」」
私は途中にあった海楼石の手錠とその鍵を全て回収して、海兵達に視線を向ける。ロビンを奪う為の、連れ去る為の船を私達が逃げる為の足とさせてもらう!
ルフィは命懸けでルッチと戦ってる。ゾロ、サンジ君、ウソップは今コッチに向かってる。
ココロさんとチムニーはチョッパーを連れて来てくれてる。それなら、今ここで私達が逃げる為に必要な船を手に入れる位の事が出来なくてどうするのよ!
海兵を3人で倒しながら突き進む。護送船にいる海兵は、倒した脇から海に落として行く。
バスターコールのお陰で門が全開にされたお陰で今海に渦はないから、落ちたからって死ぬ訳じゃない。でも、ロビンは捕まれば待つのは散々に利用された後の死だ。
そんな未来は必要ない。ロビンに手を出すなんて、絶対に許さない……!
私が感電させた兵をロビンがクラッチでへし折り、そのまま海に叩き落とす。フランキーが何故か失われる事の無い銃弾を放ち続け、倒れたそれらを集めて海に捨てる。
そうして護送船から海兵達が姿を消した時、私は幻を見た。……貧血って幻見えるんだっけ?
だって……ジュゴンが飛んでる。そのジュゴンをよくよく見てみればそれはココロさんで、なんだ私の言ってた人魚っての合ってたじゃないと少し思う。
何故か少し誇らしい。私の記憶あてになったわ!
ジュゴンことココロさんは皆を連れて来てくれたようで、気絶はしてるけど全員生きてるのが分かりホッとする。皆が目覚める迄の間に、私は海兵掃除の途中で見付けたコーラをフランキーに投げ渡す。
「おぉ!コーラじゃねェか!!」
「補充しておいた方が良いかと思ってね。それより……」
言葉を切った私は、背後でココロさんに失礼な事を言ってる男達を無視してロビンに向き直る。殴られた跡、擦り傷に切傷、美しいロビンが傷だらけになっているのを見て、泣きそうになる。
それでも、生きてる。とりあえずは近くに今敵も居ない。
「ロビン……」
「ナミ?」
「「ロビーン!!」」
私がロビンに飛び付くのと同じタイミングで、チョッパーも私に捕まる形でロビンに飛び付く。私とチョッパーの声が重なり、驚いた顔をしたロビンに無事で良かったと言えば、ロビンは小さく笑った。
「ありがとう、お陰様で」
ロビンの笑顔には、もう陰りが見えない。すぐ近くで何故かサンジ君が柱に抱きついていたけど、ジュゴンダメージの影響かしら?
「それよりも私は、ナミの怪我が気にな「ロビンを殴ったのは、引き摺ったのはあのスパンダで間違いないわよね?何発雷落としたらいい?百位で足りる?」」
「……ナミ、貴女、それで誤魔化せると「私のロビンをこんなに傷付けて……許さないわ」」
「……ナミ!いい加減にしなさい!」
「……だってぇー。ロビンが怪我してるー……。だから、海兵始末してから、話聞くわ」
「まったく……怪我してる度合いはナミの方が……いいわ、帰ったら、覚悟してなさい」
何故か怒られ始めたので誤魔化そうとしたら、余計に怒らせた模様です。おかしいな。
そうしてロビンと少し戯れた後、私は船の調整を行いこの船を戦場にしない為に躊躇い橋に戻る事を提案する。動けないチョッパーと1応人質って事になってるココロさん、チムニー、ゴンベを残して私達は戦いに向かう事がそれにより決まれば、どうしたってルフィが心配で皆の視線は1箇所に集中する。
「ルフィ……」
誰の声だったのか。それとも全員の声だったのか。
それにしても、軍艦の数が異常だわ。確か、バスターコールは中将5人と軍艦が10隻の筈。
なのに今確認出来るだけで軍艦は20を超えている。そこで気付く、私のせいだと。
ロビン1人とバスターコールでそれだったのに、そこに〝宝玉〟が加わった。それは七武海と世界政府から生け捕りにしろと言われる稀有な存在として、認識されている。
「ロビン……ごめんね、私が事態を悪化させたみたい」
「あら、ナミは悪くないわよ。大丈夫、ナミの事は私が守るわ」
そう言ってロビンは笑うと船を後にして、男達のいる橋へと私達も向かって歩き出す。動けないで1人だけ戦う事の出来なくなってるチョッパーの気持ちを考えたら、胸が痛くなるけど、今は耐えてもらうしかない。
私とロビンは伴って移動する。男達はルフィのいる場所と、火の海になっているエニエス・ロビーを見詰めて会話をしている。
フランキー1家や船大工達は無事なのかな。あの火の海に取り残されてるのよね。
「〝北西『正門』前より報告〟」
でんでん虫から聞こえてきたそれに、私達は聞き耳を立てる。これで安否確認が出来ると。
それが私達にどんな衝撃を与えるかも知らずに、祈るような気持ちでそれを聞いていた。現実は、恐ろしく残酷だと言う事を私達は忘れていたのかも知れない。