無情とも言えるそれが、ゆっくりと私達の耳に届く。事務的にただ報告として紡がれるそれは、目の前に広がる光景も相俟って何とも言えない気持ちにさせられる事となる。
「〝エニエス・ロビーの海兵・役人達の収容完了。次いで本島より逃走中の巨人を含む海賊達約50名を『正門』に確認〟」
それを聞いて私意外の全員が表情を和らげた。だって、確認して放置なんて海軍がする訳ないと分かるから、私にはその先が少しではなく怖い。
フランキーは嬉しそうに、心配なんかしてなかったと笑いながら言葉を口にした。だからこそ私は言葉を何も口に出来なくなる。
フランキーが思い出話に花を咲かせようと、楽しそうに言葉を音にしたその瞬間、海軍の放送は本題に入った。それにより私は息を飲み拳を握る事になる。
「〝1斉砲火による、完全抹消完了。全員死亡。現状本島での生存は不可能と思われ、エニエス・ロビー本島における生存者『0』〟」
その先も破壊を完了したとの報告が次々と上がり、フランキーは顔色を無くして立ち尽くす。残るはここ、躊躇い橋のみとのそれに、ウソップがフランキーを気遣うように名を呼んだ。
悔しそうにサンジ君が声を発して、けれどもフランキーは黙ったまま微動だにしない。私もロビンも声をかける事が出来ない。
「……ガレーラの船大工達もか……」
珍しくゾロが呟く。それに続くように、ウソップが巨人の名を呼ぶ。
「オイモ……カーシー……」
更にそれに続くように、ココロさん達とチョッパーが会えなくなった人達の名を紡ぐ。……人は、簡単に死ぬ。
〝お前らが前に進まなくて、誰が報われるんだ!〟
パウリーがそう言って、ロープを伸ばしてきた事を思い出す。風が、頬を撫でるように吹き抜け髪を揺らす。
「……彼等が、何をしたと言うのかしらね。騙されて、奪われて、傷付けられて……それでも大切な存在をその手に奪い返そうと、必死に足掻いていただけなのに」
声が、震える。私は、こんな未来知らなかった。
皆……私以外は全員生きて帰れるのだと、漠然と信じていたのよ。こうなると分かっていたら、共に来る事を私はどうあってもルフィに言って辞めさせていたわ。
多くの事を変えてきた私は、死ぬ可能性だってあると自覚してここ迄来た。けど、私の知る限りでは、メリー以外との別れは無くて……。
「地図の上から……人は見えない。彼等はただ、感情も無く世界地図から小さな島を1つ消すだけよ。それが〝バスターコール〟!!」
ロビンのその言葉が引き金になったのか、フランキーはゆっくりと前に進み出て、ルフィに向かって叫ぶ。その声がルフィに届いているのかは分からないけれど、きっとその想いは届いている。
けれどもそれにより海軍にルフィの生存が知られて、ルフィへと続く道が破壊された。そして、軍艦が護送船と躊躇い橋を取り囲む。
手配書の出回っているロビンとゾロの名を上げて、メンバーの主力が揃っていると海軍の放送が流れる。男達はルフィの姿を確認すると、声の限りに叫ぶ。
「全員無事、橋へ着いたぞー!!」
「こっちは心配いらないぞルフィ君!!」
「ロビンちゃんも助けたァ!!」
「「「「後はお前!!〝そいつ〟に勝て!!生きて皆で、ここを出るんだ!!」」」」
ルフィの笑って頷いた姿が、見えた気がした。だから、私は気を引き締める。
ここでルフィ達と共に帰る為の足を失う訳には行かないし、ルフィが勝った後誰か1人でも欠けてるなんて許されない。そこに海軍からの放送が続く。
「〝少佐以下出陣不要。『大佐』及び『中佐』のみ。精鋭500名により、速やかに始末せよ〟」
その放送を聞いて、ウソップは本部の大佐は煙野郎と同じだと言うけど、実は違うのよね。本部に行くとケムリンは1つ下がるから中佐が同じレベルって事になる。
そんな事を言ったら怯えそうだから言わないけど、それが500人となると少しばかり厄介ね。でも、負ける気は無いのよっ!
「かかれー!!ニコ・ロビンを奪還し、宝玉を拿捕せよ!!」
海兵達の声が、直接聞こえた。私はそれにふっと笑い、クリマタクトを握る手に力を込める。
「捕まる気は無いわよ!」
「私も、もう二度と、捕まったりしないわ!」
私とロビンはそう言って背中合わせに戦う。近付く敵には雷を纏わせたクリマタクトで殴り、少し離れたそれらには雷雲から雷を落とす。
皆がルフィを待ちながら戦う。ルフィを信じて、戦う。
「気ィつけろ!〝能力者〟も混ざってるぞ!!」
「それは……お互い様よ!!」
フランキーの言葉にロビンが答える。けれども此方はルフィが傍にいなくて、チョッパーが倒れてるから〝能力者〟はロビンだけなんだけどね。
「ルフィが来るまで堪えろ!」
ゾロの声が響く。誰にも余裕は無い。
敵の数が尋常じゃ無いし、倒しても倒してもキリがない。それでも、諦める訳にはいかないからとクリマタクトを振り回し続ける。
「多勢に無勢ってのは、好きな構図じゃ無いねぃ」
突然聞こえてきたその声に、まさかとゾロ、ウソップ、私が即座に反応する。居る筈のない男が、空から橋へと降り立った。
青い炎を纏い、余裕を持って降り立つその姿は見た者の動きを止めさせる。新世界の王の片腕である彼が、何故ここにと誰もがその言動に注目している。
「エース探してたら、エースの弟が無茶してるって聞いてねぃ。……加勢するよぃ!」
「「「ありがとう!!」」」
フランキーとロビンは1瞬呆けたような様子を見せてから、再び動き出す。聞き捨てならない単語が確かに混ざってたけど、今はそれどころじゃない。
後でそこはきっちり話を聞くとしても、今はマルコさんの加勢が本当にありがたい。突然の加勢に、中佐と大佐では怯える人もいてくれて、それにより倒しやすくなる。
マルコさんは私達から離れると、奥から順に此方へ向かう形で海兵を倒して回ってくれる。その戦い方は、見事に無駄が無い。
シャンクスがマルコさんを欲しがってたのも、わかる気がするわと少し思う。エースの弟、つまりはルフィだから起こりえた奇跡に、生存確率が上がったわねと小さく笑いつつ私は夢中で雷を落とし続ける。
そんな中でウソップの声が谺する。大乱闘の中で、ウソップの声が響き渡る。
そんなウソップを庇いながらゾロは戦い、ウソップの言葉でルフィの状況が分かる。血を吐くようにウソップは叫ぶ。
心配しているのだと素直に言う事の出来ないウソップに、男の子ねと少し思う。今この場には、そげキングではなく、ウソップがいる。
そんな中で私はウソップを庇う戦いに参戦する事も出来ず、ロビンと2人背中合わせに戦い少しでも敵を減らす事しか出来ない。私がこの場を離れればロビンへの負荷が跳ね上がる。
もしも私に少しでも余裕があれば、ルフィに雷は効かないのだから手助けする為に雷雲を用意したい。けど……目の前に次々と現れる敵を沈めて行く事が、今出来る最大限だという悲しい現実がここにはある。
何が、恋人なのか。駆け寄り守ることも出来ない。
こんな時こそ役立てなくて、何が仲間なのか。私は……なんて、腑甲斐無い。
自分への怒りをそのまま、目の前に現れる海兵達に向けて行く。終わりの見えない戦いの中で、けれどもいつか必ず終わりは来る。
見えている敵も、少しずつだけど確実に減っている。倒しても倒しても湧いてくる辺りは、1匹見たらで有名な虫と似てる気がする程。
奴等の生命力は恐ろしいものがあるのだから、もしかしたら同種なのかも知れないとそんな事を思いながら雷を落とし続ける。そんな中でふと、私に直接挑んでくる敵が居なくなってると気付く。
どういう事かと思ったら、ロビンと私の傍にマルコさんが来ていて接近戦を請け負ってくれていた。ロビンは中距離戦を得意とするし、私は遠距離戦を得意とするから正直有り難い。
少し集中して雷雲を生み出して行けば、それに気付いたマルコさんとロビンが私を守るように立つ。本当に、賢い人はこういう時頼りになる。
仲間達は戦闘において、馬鹿な人は1人も居ない。寧ろ戦闘面では私が1番足手纏いかも知れないと自覚してるから……これで1気に減らして少しでも貢献してみせるわ……!
「サンダーボルトテンポ!!」
「今のだけでざっと50人ってとこかねぃ」
「海に落とすのは任せて!」
マルコさんとロビンの言葉に少し息を吐き出して、私はまた雷を落として行く。残っている海兵は当初から見て半数程になっていて、それが理由で随分のそれぞれが戦いやすいスペースを得たと思う。
でもそれは同時に、相手も動きやすくなったと言う事。同士討ちを気にして攻撃がおざなりだった人達も、そろそろ本気で挑んで来る。
それでもルフィが戻るまで戦い続けるしか、道は無い。その時突然響いた爆音で誰1人例外無く動きを止める。
ロブ・ルッチが勝ったのか、それとも、モンキー・D・ルフィが勝ったのか、はたまた相打ちか……。固唾を呑んで見守る面々に、声が届く。
響き渡ったのは、私達〝海賊側〟が待ち望んでいたルフィの声。それを人はその立場により異なった受け止め方をするだろうけれど、私達にはこれ以上ない程の喜び。
「1緒に帰るぞォ!!ロビーン!!」
ロビンはその声を、言葉を受けて涙を浮かべる。……やっぱりルフィは、凄いなと思わされる。
微笑みながら涙を流すロビンを見て、やっとロビンの心にあった枷が壊れたのだと分かるから。後少し、気を抜くな私!
ルフィが勝った事が海兵達の間で騒ぎになるのを聴く。そうしながら、ウソップが泣きながらルフィが勝った事を喜ぶ声に笑う。
私はチョッパー達の待つ船へ行く事を皆に言う。船を出したら、そこからは私の仕事になる。
「全員すぐに脱出船へ!!船を出すわよ!!」
「やったー!!ルフィー!!」
チョッパーの声が響いた直後、電伝虫から有り得る筈の無かった声が響いて来た。それは、こちら側は何も失わずに済んだと言う何よりの証。
「〝やったぜ麦藁さーん!!うおー!!〟」
フランキーが動きを止めた。明らかに弔い合戦だったそれが、変わる瞬間だ。
良かった……誰も、死んでない。皆が、生きてる。
痛みは薬で誤魔化せても、出血量はどうにもならないのか、それとも安堵感からか膝から力が抜けそうになる。……ダメよ、まだもう少し……。
私は航海士。私の役目は、ここからなんだから……!
フランキー1家の声に海兵達が動揺する。その間にふらつく私に気付いたマルコさんがそっと支えてくれて、同時に状態を理解したのかその顔が驚愕に彩られた。
「ナミ……!」
「もう少し、皆には黙っててください。大丈夫ですから」
「こんな状態で、戦ってたのかよぃ……」
言いながら手に炎を纏い、そっと背に触れてくるマルコさんに視線を向けると、完全には治せねェよぃと苦しそうに言われた。けど……もう少しだけ持てば、それでいいからと言って私は心から笑う。
だって、皆生きてる。後はルフィがここへ来たら1緒に帰れば良い。それだけだもの。
マルコ氏を登場させる関係で、海軍の人数が単純に倍に増やされております。
彼の力と麦わらの一味の力を考えると、その位は増やさないと話が成り立たなくなる為の対処です。