待てど暮らせど、ルフィが来ない。どうしたのかと思ったら、ルフィはもう動けないと言う。
考えてみればあれだけの激戦だったのだから、動けなくなるのが当然の事かも知れない。けれどもロビンもこの距離では海に落としてしまうと言うし、私は今空を飛べるだけの体力が無い。
マルコさんにこれ以上頼りきれない。となればここを抜ける道はただ1つ。
私は皆の方を向いて叫ぶように声を出す。それに皆も即座に反応してくれる。
「皆!!ルフィのいる支柱へ船を回しましょう!全員急いで船へ!!」
けれどもその瞬間に脱出船として用意していた護送船が砲撃に合い、燃え上がった。それぞれが絶望の声を出す中、私の頭は1瞬真っ白になった。
チョッパー達がまだ船にいるのに!!助けなきゃ、ココロさんもチムニーもゴンベも戦う力なんて無いし、チョッパーは身動き取れないんだから、早く助けなきゃ!
慌てて駆け出そうとした私を、マルコさんが腕に閉じ込めるようにして阻害する。直後に膝から力が抜けて崩れ落ちそうになったのを支えられた。
そして、呆れたような様子を見せつつ軽く頭をぽふぽふと撫でられる。その手は、妙に優しい。
「エースが大量にいるような気がしてきたよぃ」
落とされた呟きは、本当に心外である。その時、燃え盛る船から人影が出て来て、サンジ君だと認識出来るのと同時にチョッパー達を抱えてくれてるのが見えた。
良かった、全員無事で……。そう思って居たらサンジ君がマルコさんに驚いて、加勢してくれた事を知ると素直に喜びを示した。
ゆっくりと会話を楽しむ余裕は無いけれど、必要最低限の情報交換を行い、ロビンと私がいるから無いと思っていた砲撃が向けられ始める。それに伴い海軍の将校達はその姿を1時避難させる。
そうして第二支柱へと追い詰められる形で移動する皆について行こうとしたら、何故かマルコさんに横抱きにされて運ばれてしまった。無駄に動くなよぃなんて言われるけど、ここで戦わなくていつ戦うって言うのよ!?
残っている邪魔な海兵はマルコさんが足だけで倒して行き、サンジ君もだけど蹴り技って普通そんなに威力無い筈なのに凄いと素直に思う。それにしても、蹴り技使う人達って足長いわなんて、少し霞む視界の中で思う。
ふと気付けば砲撃の標準は、ルフィに定められていて私は息を吐いてマルコさんから離してもらうと、ルフィに視線を固定する。……させるものですか。
飛べないなんて言ってられない。飛ぶのよ、私!
そう思って地を蹴ろうとしたのに、力が入らなくてガクンと膝から崩れ落ちればロビンが慌てたような声を出して、チョッパーが私を見て悲鳴を上げた。マルコさんは私を支えながらそっとその場に座らせてくれて……そして、静かな声で問い掛けてくる。
「エースの弟を、ここに連れて来てどうなる?」
それにゾロが応える。それと同時に、電伝虫からはフランキー1家や船大工達の声援が飛ぶ。
「ここなら砲弾は来ねェ!俺達が揃ってて負けるなんて有り得ねェ!動け無ェ奴は動ける奴が守れば良い!」
「……分かったよぃ。どこ迄やれるか、見せてもらう為にも、連れて来るよぃ」
マルコさんは呆れたような困ったような顔で、言葉を放つのと同時にその姿を鳥に変じる。熱さのない、優しい青き火の鳥が、その場に姿を見せた。
その時、ウソップが誰なんだと頭を抱えた。それにフランキーは子分達だと言うけど……違う、この声は……。
可愛らしい声が、脳裏に響く。誰の声かも、何処から聴こえるかも分からない声が響く。
『下を見て……皆、迎えに来たよ』
その声に、麦藁の1味は揃って反応するけど、他の人には何も聞こえていない。ウソップは、声の主を求めて言われるままに下を見る。
1度避難していた海兵将校達も戻って来て、動けない私を見てこれ幸いと襲いかかって来る。それを、動けないチョッパーと共に、皆が守るように戦ってくれている。
そんな中で声は言葉を続ける。優しくも愛らしい声で。
『下を見て、皆、帰ろう』
その時突然理解した。そうだ、私達にはまだ〝仲間〟がいる。大切な、仲間が……!
座ってなんて居られない。戦わなきゃ、もう少し……耐えて、私の体。
背中から血が流れるのを感じつつ、無理に足を動かして震える足に叱咤しつつ立ち上がる。そして、海を見て……私は自分の頬が緩むのを感じた。
「海へ飛べーー!!!!」
ウソップの声が響く。クリマタクトで敵を殴りながら、私はマルコさんに視線を向ける。
「1緒に、来て下さい。助かりますから!」
「海へー!!」
泣きながらウソップが叫ぶ。そして、ウソップがロビンにルフィを海に落とせと言うのを聞いて、マルコさんは姿を人に戻すと小さく笑った。
「ここ迄付き合ったんだ。最後まで、付き合うよい」
「ありがとうございます!……チョッパー、下見た?」
「見たァ!」
チョッパーが泣きながらそう答える。声は、言葉を伝え続ける。
『帰ろう、皆……また……冒険の海へ!!』
皆が叫ぶ。海へ、海へと。
その言葉と同時に、揃って海へと飛び込めばその様子を見ていたマルコさんが鳥へと変じて私を咥えると、目的地迄移動を開始した。海へ飛び込もうとしていた私が驚いてそれに視線を向ければ、その視線でマルコさんは答えてくれる。
その傷で海に入れば死ぬぞと。……確かに、それは否定出来なくて私は素直に運んでもらう事にした。
その間も声は続く。皆の声も続く。
「「「「メリー号に!乗り込めーー!!」」」」
「メリーーー!!」
『迎えに来たよ!!』
メリーの甲板に降ろされた私は、下にロープや梯子をとマルコさんに頼んで即座にメリーを動かせるように調整に入る。1刻も早くこの場を抜けなければ!
ありがとう、メリー。必ず生きて、全員でここを抜けるわね。
もう少し、航海士として……メリーに乗った今、倒れるなんて許されない。ここからが、私の戦場!
「ナミがいるからか、この船は今砲撃されねェなぃ」
「急げ!!」
マルコさんとゾロの声が聞こえる。調整を済ませて甲板に戻ると非能力者達が甲板に戻って来ていて、能力者達がココロさんに甲板へと投げ飛ばされて来る所だった。
落ちてくる3人のうちロビンだけをフランキーは抱き留めて、そっと甲板に降ろしてからメリーを信じられないと言いいつつ見渡す。それぞれが喜び騒ぐ中で、ゾロだけが冷静に指示を出せと私に言う。
「出航の準備は出来てるわ!配置につい……海が、おかしい」
波がうねり始めてる。なに、これ。
……まさか、ここに来た最初の時のように渦を巻くの?
なら、読まなきゃ。波のそれを読めるのは、今ここにいる中では私だけの筈。
「ぶはー!危なかった。軍艦に殺されるかと思ったー!おい!ロビン!!助かったありが……ムグ!!」
背後からルフィの声が聞こえる。その直後にロビンが動く気配を感じて視線を向けると、微笑みを浮かべたロビンが立ち上がり言った。
「皆!!ありがとう」
「気にすんな!!ししし!!」
ルフィと共に皆が笑い出す。その中でゾロだけがくだらないなんて言ってサンジ君と喧嘩を始めるけど、私はそれを止めてる場合じゃない。
じっと海を見てるけど、流石にチョッパーまで加わっての喧嘩となると五月蝿い。なので、とりあえずそれを止めさせる為に指示を出す。
「サンジ君、舵とって!!」
「アーイ!ナミさーん」
その時、スパンダが私とロビンを逃がすくらいなら殺せと青雉に言われたとして、砲撃を向けさせて来る。……大丈夫、慌てる必要は無いわ。
だって、皆が揃ってるんだもの。私は私の仕事をすればいい。
「右舷から風を受けて東へ!!」
「ダメだ!八方塞がれてる!!」
騒ぎ出す面々にマルコさんが楽しそうに笑う。そう、まるで少年のように。
「楽しい1味だねぃ!大丈夫だ、砲弾程度なら、ある程度弾き返してやるよぃ」
その時、海軍は自滅を始めた。渦に飲まれ始めたのだ。
……まさか、海軍がこれだけ居て渦に誰も気付いてないとは思わなかったけれど。そんな中で、サンジ君が想像以上の効果だと笑い、マルコさんが近くの船を少し沈めて来るよぃと言って飛び立つ。
喜んでばかりも居られないと騒ぐ声の中で、もう少しだから黙ってて欲しいと切に思う。後少しで読めそうなのよ!
「お黙りっ!あんた達!!私達が乗ったメリー号に、越えられなかった海はないっ!!」
「うおー!そうだ!!頼むぞ航海士!!」
「海の軌道が読めるまで耐えて!!」
「「「任せろ!!」」」
……きっと彼等は知らない。こうして無償の信頼を貰える事が、泣きそうになるくらい嬉しいって事を。
こうして少しでも役立てる時があるから、共に居ていいのだと思える。けど、基本的に私は強気に発言してみせてても、本当は自信なんて何も無いのだという事を。
皆がいるから、私は笑えるのだという事を。生きていたいと、思えるのだと言う事を。
だから私は、皆のその言葉を信じて素直に任せる。砲弾も、何もかもを心配するのは今、私の仕事じゃない。
動けないルフィを使ってゾロとサンジ君が砲弾を跳ね返したりしてる間も、海を睨むように見つめ続ける。その時、見付けた……勝者の道!
「見付けたわ!勝者の道!チョッパー!取舵いっぱい!方角は9時!」
さっきゾロに噛み付けていたから、きっと動けると思ってチョッパーに指示を出す。それにチョッパーは応えるように動き出してくれた。
それと時を同じくして、海軍船が目の前で五隻程沈むのが見えた直後、マルコさんが帰って来る。炎なのにメリーを燃やさない不思議に、1瞬思考が奪われそうになる。
「こっちはどうだい?」
「順調よ!いいタイミングで帰って来てくれたわ!」
そうしてメリーは私達を乗せて動き出す。渦潮は正解の道を通れば勝手に運んでくれる。
その渦潮が乱れる所の直前でフランキーを見る。その視線に、フランキーは応えるように振り向いた。
「フランキー!お願い!」
「任せろ!」
フランキーはメリーを心配しつつ、メリーを空へと飛ばしてくれる。追い掛けて来ようとしたり、砲弾を打ち込もうとする海軍船だけど途中にある沈み掛けの船と渦がそれを邪魔している。
それでも騒ぐスパンダの声が聞こえたと思ったら、ロビンがそれに技を掛けたのが見えて、私もロビンの手が離れたのを確認してから雷を落とす。……残念ながら百発落とす事は難しそうだけれど。
私とロビンは顔を見合わせて笑い合う。そんな中でまだ追い掛けてこようとする海軍にウソップが煙幕を向けて、動きを阻害してくれた。
その状態で私はとりあえずの危機を脱したと判断してしまい、甲板に倒れる。完全に倒れるより先に受け止めてくれた腕により、1度船内へと運び込まれた私は、マルコさんとチョッパーにより治療を施される事となった。
「治療してる間だけでも、少し寝てろぃ。よく、頑張ったな」
労る様な声に、何故か泣きたくなって……でも、泣く事も出来ないままに私の意識は沈んで行った。それからどれくらいの時が経過したのか、騒がしい声で意識が浮上するとチョッパーの足音が聞こえた。
「ナミ、起きたのか?」
「ん。チョッパー?」
「まだメリーは飛んでるぞ。凄ェよな、メリーは本当に」
「本当に、メリーには助けられてばかりだわ。……皆は?それとマルコさん、まだいる?」
私の問い掛けに、動けるなら甲板に戻ろうとチョッパーが言ってくれたので、体をゆっくりと起こせば痛みがほぼ無くなっている事に気付く。本当に、腕の良い医者達だと思う。
それでも足をつけば呼吸が1瞬止まるような痛みが爪先から脳天まで駆け抜け、体が倒れて行くのを感じる。けど、それをチョッパーが支えてくれて甲板まで抱いて移動してくれた。
中にいてもベッドがある訳でもなんでもないから、皆の傍にと考えてくれてるのが分かり、少し笑ってしまう。本当に、優しい。
「皆、ナミが起きたぞ!」
チョッパーの声に皆が反応してくれて、その中でやはり動けないルフィが笑った。その笑顔を何だか物凄く久しぶりに見たような、そんな気がした。
そんな私達を乗せたメリーは海へと無事着地して、チョッパーが私に衝撃が来ないように支えてくれる。それにありがとうと言えば、チョッパーは力無く笑った。
「ナミは目を離すとすぐに死にかけるから、俺凄く忙しいよ」
「ふふ、チョッパーが優秀だから甘えてみてるのよ」
「甘えられるのは嬉しいけど、怪我されるのは嫌だぞ、俺は。……俺は、ナミに元気でいて欲しい。ゾロとナミの怪我はいつも尋常じゃねェし、ウソップも怪我し過ぎだし……外科ばっかり実践経験増えてる気がするよ」
「まぁ、アイツら病気にならない生き物だから」
私が笑えばチョッパーは何処か呆れたように私を見てから、そっと甲板に降ろしてくれた。その時、ルフィがココロさんに言って船首へと乗せてもらうのを見ていたマルコさんが口を開いた。
「どうやらエースはここにいねェみたいだし、もう大丈夫そうだから俺はまた探しに行くよぃ。皆、元気でな」
「おっさん!ありがとう!」
「……おっさん、だがよぃ……。まァ、エースの弟じゃ仕方ねェか」
「待って!マルコさん、エースはどうなってるんですか!?」
慌てて掴みかかるようにした私を、マルコさんは傷に触れないように支えてくれた。それから困ったような顔で、1度帰ってから数日後に1人で置き手紙を残して飛び出したのだと言う。
それに頭を抱えた私を見て、マルコさんは優しく穏やかな顔で笑う。海賊らしくないのは、マルコさんの方だと思うのよね。
「相変わらず、優しくて甘い姉ちゃんだなぃ。また、機会があれば会おう。エースは見付けたら連れ戻すから、そんなに心配するなよぃ」
そう言ってマルコさんはその姿を鳥に変えると、空へと飛び立った。私はお礼言いそびれたなとか、エースの馬鹿は本当に何してるんだかとか、色々と思いながらその悠然と飛ぶ姿を見送った。