※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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別れと感謝

 何処か幼い声で、優しく紡がれるそれは……あの時、迎えに来たと言ったのと同じ声で。紡がれる言葉は、酷く優しい。

 

 『ごめんね。もっと皆を遠くまで運んであげたかった』

 

 声が聞こえると動揺する人達。その中でチョッパーがメリーなのかと泣きながら問い掛ける。

 

 『ごめんね。ずっと1緒に、冒険したかった……』

 

 それに対する答えはないけれど、言葉は紡がれ続ける。そして、皆分かってる。

 これはメリーの声、メリーの言葉。メリーの想い。

 

 『だけどぼくは……』

 

 そんなメリーの声を遮るように、ルフィは叫ぶ。涙を流す事を、見せる事を厭わない素直なルフィは滝のような涙を流しながらメリーに応える。

 

 「ごめんっつーなら!!俺達の方だぞメリー!!俺、舵下手だからよ!お前を氷山にぶつけたりよ!帆も折った事あるしよ!ゾロもサンジもアホだから、色んなモン壊すしよ!!」

 

 必死にルフィは言う。そんな中で、別れなんて本当に少しも考えていなかったであろう皆より、知っていた私が泣くのは卑怯かも知れない。

 そんな事は分かってる。それでも、涙が溢れて止まらない。

 

 「そのたんびウソップが直すんだけど、下手くそでよォ!!ごめんっつーなら……」

 

 ルフィの言葉に、メリーの声に、私は立っている事が難しい程に体が震えているのを感じる。情けない、私が1番分かっててダメージ少ない筈なのに。

 

 『だけどぼくは、幸せだった』

 

 ルフィの声を遮るように答えるメリーは、炎の中で語りかけ続けてくれる。そう……仲間1人1人の名をあげて。

 

 『ルフィはいつも前を向いて、楽しそうにしてた。ぼくはそれを見てるだけで嬉しくなって、楽しくなって、冒険する事が大好きになったんだ』

 

 それにルフィは号泣する。私はもう、立って居る事も出来なくなって崩れ落ちる。

 

 『ゾロはいつも寝てて、起きてると修行してて、でも皆の事をちゃんと見てた。警戒心が強いゾロがいたから、無邪気で素直なメンバーだらけの中で皆が無事にここまで来られたんだと思ってる』

 

 ゾロはそれに表情を変える事なく黙って聞いている。ビビがゾロをブシドーと呼んでいたのがこんな時に正しく思える程に、揺るぎなくメリーを見詰めている。

 

 『ナミはいつも先へ導いてくれたね、ありがとう。それと……ごめんね、助けられなくて。助けたかったけど、何もできなかったんだ。強がりな君が泣いてたのに、ぼくは見てるしかできなかった。ナミは、ぼくが壊されないように守ってくれたのにって思って、ずっと謝りたかった』

 「メリー……は、なにも、悪くなっ……!」

 

 思わず声に出して居たけど、誰もそれを責めないで居てくれる。メリーは続ける。

 

 『優しすぎるナミだから、心配だけど……心は1緒に行くから、だからちゃんと泣いて、笑って、皆を頼って……もう、独りじゃないよ』

 「……!っ……!」

 

 言葉が、もうなにも出ない。声を出せない。

 

 『ナミが歌ってくれた想いは届いていたよ。撫でながら声を掛けてくれた言葉、嬉しかった。……ナミは、皆の為なら何でも犠牲にしてしまうけど、それだと先に進めなくなるよ。真面目で優しいナミの幸せを願ってる』

 

 ウォーターセブンにつく直前に歌った事についてだと分かる。伝わって、たんだ……。

 

 『サンジはいつも皆の体調考えて、少ない材料から美味しいご飯作ってた。だから皆が飢えなくなったんだ。ありがとう』

 

 サンジ君の煙草を持つ手が震えている。でも、その表情は伺いしれない。

 

 『チョッパーが来て、皆が元気になった。ケガも病気も治してくれる。ぼくの事も何度も直してくれた。チョッパーは最高のお医者様だよ』

 「メリー!俺、メリーの事はちゃんとわかんなくて!だから!ごめん、メリー!」

 

 チョッパーが泣きながら震えた声を発する。でも、それ以上メリーはチョッパーに言葉を向ける事は無く次の言葉を口にした。

 

 『ロビンはいつまでも少し皆に距離があって、でも、皆の事が大好きだって分かってた。ぼくもロビンの事が大好きだから、迎えに来たんだよ』

 

 ロビンが静かに涙を落とした。そして、最後にメリーは愛しそうに……優しくその名を呼んだ。

 

 『ウソップ……愛してくれて、ありがとう。いつも、直してくれて、ありがとう。素直になるのは大変かもしれないけど、なくす前にちゃんと向き合って。ぼくはウソップの事、大好きだから……素直になってほしい』

 

 ウソップの顔はお面で見えないけど、唇を噛み締めて声を出さないように必死で耐えながら、涙を滝よりも凄い勢いで流し続ける。苦しそうに、泣き続ける。

 

 『ウソップが苦しむのは嫌だから、悲しむのは嫌だから、もしぼくの為って思うなら仲直りして欲しい。ウソップが楽しそうに何かを作る姿が大好きだよ』

 

 ウソップの足元には涙で水溜まりが出来ている。そんな事を知らないルフィが叫ぶように言う。

 

 「ウソップにはっ……俺がちゃんと、伝えるから!メリーの言葉をちゃんと伝えるからっ!」

 『皆……今まで大切にしてくれて、どうもありがとう。ぼくは、本当に、幸せだった』

 

 メリーはそう言って、それを最期にもう二度と言葉を伝えてくる事無く、燃えながら海へと沈んで行く。それにルフィが絶叫する。

 

 「メリーー!!!!」

 

 ルフィの声が、谺響するように海に響いた。それから暫くの間、誰1人その場を動けず、誰1人言葉を音にする事は無かった。

 フランキーはずっと泣き続けている。最後に迎えに来た時だけしかフランキーの事を知らないからだと思うけど、メリーから直接名を呼ばれての言葉は無かった。

 それなのに、泣き続ける。ほぼ無関係の船の為に涙が枯れるんじゃないかって勢いで、泣いてくれる。

 こんな別れ、私は知らない。メリーは何も出来なかったと言うけど、何も出来なかったのは……私の方。

 私は初めからずっと乗せてもらってて、1番メリーに乗ってた時間が長いのは私なのに……何も、出来なかった……!

 後悔なんて言葉では言い表せないようなそれに、声も出せずに身動きも取れずに私は泣くしか出来なかった。それぞれ思う所はあると思うけど、誰も、その場を動く事が出来なかった。

 それからいったいどれ程の時が過ぎたのか。私達は船大工達の乗ってきた船に移動し、アイスバーグさんに連れられてウォーターセブンへと帰還する事となった。

 その後はとりあえず仮設の建物を用意するからそれ迄はと言う事で、全員揃ってアイスバーグさんの家にお邪魔する事で話が纏まった。なので仮設の建物が出来たら、其方に移動させて貰う事になる。

 本当に有難くて、素直にお礼を言って頭を下げるしか私に選択肢は無い。あの時の言葉通り、全力でフォローしてくれている。

 仮設住宅に移動するその時には、そげキングやフランキーは各自離れるような事を言っている。なので、それを引き止める事は出来ないと判断して私は黙ったまま頷いた。

 そうしてウォーターセブンへと戻った私達は、ガレーラカンパニーの奥にある何とか原型を止めている市長の家に案内される。もしくは先にここだけ、直されたのかも知れないけれど。

 皆が暴れて、破壊され、最後には燃やされた建物だから本当に雨風防げる程度の状態。だけど、比較的問題のない部屋を提供して貰えるらしい。

 通りすがりに見た町は無残な状態で、今回のアクアラグナの威力がどれ程酷いものだったのかを目の当たりにする。それでも私達に会話らしい会話はない。

 全員体力も限界で、メリーとの別れもあって精神的にもいっぱいいっぱいだった。だから、私とロビンに1室用意され、男達が纏めて同じ部屋に入ったのを確認した後、意識が薄れて行くのを感じて、踏ん張りの効かない自分に少し苛立つ位が精一杯だった。

 

 「ナミ」

 

 ロビンに声をかけられて視線を向けると、優しく抱き締められてベッド迄移動させられてしまった。アイスバーグさんがその様子を見ながら、治療はさせて貰って構わねェかとロビンに問いかける。

 それにロビンはYESの回答をして、私の頭を優しく撫でてくる。何をと思って視線を向けると、ロビンが優しく笑っているのが見えた。

 

 「ナミ……私がいるから大丈夫よ。眠って、誰にも貴女を傷付けさせたりしないから」

 「ロビ、ン……」

 

 それを最後に私の意識は暗転した。優しく撫でてくれるロビンの手の温もりを感じながら、夢さえ見る事無く、寧ろ意識を失ったんじゃないかって感じで。

 私の意識が浮上した時、寝ているのはルフィと私だけになっていて、いつの間にか男女で分けられていた筈が私とルフィは並んで寝かされていた。チョッパーが私とルフィの間を往復しているから、治療の為に移動させられたのだろうか。

 そんなチョッパーの様子に慌てて体を起こそうとしたらチョッパーが慌てた様子で駆け寄ってきて、まだ寝てろという。その表情は怒りとも悲しみともつかないものに満ちている。

 

 「ナミ、1時危なかったんだぞ!まだ起きちゃダメだ!」

 「危なかったって……?」

 「失血死するとこだったんだよ!船でも治療したのに、背中の他にもあんなに沢山怪我してるなんて……。背中の大怪我も含めて傷が何でか塞がりかけてたから助かったようなもんで、もしそれが無かったら多分死んでたぞ」

 

 泣きそうな顔で言われてしまえば、無理に起きる事は出来そうにない。傷が塞がりかけてたのは、多分マルコさんの炎のおかげよね。

 あの青い炎はマルコさん本人の傷が回復するだけじゃないのかと少し驚き、そう言えば完全に治せる訳じゃないとか言ってたなって思い出す。じゃぁあの時海に落ちてたら、私ホントに死んでたのかな。

 

 「ナミ……無事に目覚めてくれて、良かった……」

 「ごめんね、弱くて」

 「違ェだろ!?ナミのばァかァ!」

 

 そのまま本気で泣かれてしまえば、どうしたらいいのか分からない。ここで起き上がって抱きしめたら、烈火の如く怒られるのは確実だもの。

 

 「チョッパー、助けてくれてありがとう」

 「……ナミ、まさか、俺がやったのか?」

 「え?」

 「俺、意識なくなって、その後まさか、ナミの事を攻撃したのか!?」

 

 嗚呼、本当に何も覚えてないんだ。不安そうに必死な顔で聞いてくるチョッパーを手招いて、私はそっとその頭に触れる。

 

 「チョッパーは、私の事だけは攻撃しなかったのよ。意識がなくても、守ってくれようとしてたわ……ありがとう」

 「俺の、せいじゃないのか?」

 「チョッパーは私を、助けてく」

 

 言葉が続かなくなる程度の痛みが走ると、それに気付いたチョッパーがまだ寝てろと言ってアイマスクを乗せてきた。それに小さく笑いながら、アレからどれくらい寝てたのかと聞けば、2日経過して仮設の建物が出来たからと皆が起こされたんだと言う。

 ルフィと私だけ寝てる間に運ぼうって話だったのに、私が起きてしまったらしい。その話を聞いて、仮設とは言え建てるの早いわねと呟く私に、本当になとチョッパーも笑った。

 そうして仮設住宅と呼ぶには立派過ぎる建物へと、私はチョッパーに、ルフィはロビンに運ばれようとしたところで、ルフィはサンジ君が運ぶ事になり、揃って移動した。サンジ君としては、ロビンにそんな事をさせられないというのがあったらしい。

 建物には仮設本社特別海賊ルームと名付けられており、バス&キッチン&トイレ付きだった。そこでアイスバーグさんに話を聞いてみれば、暫くの間はここでかかる衣食住を保証してくれると言う。

 

 「でも、私達はそんな事をして貰う理由が何も……」

 「俺の命救って、あんな奇跡見せられて、何もしねェなんて選択肢があってたまるか。ンマー、大人しく受けてくれ」

 

 アイスバーグさんのその言葉に私はお礼を言って頭を下げようとしたけど、アイスバーグさんにまで大人しく寝てろと言われてしまう。皆、私に対して過保護が過ぎるわ。

 それから私だけベッドから出る事を許されず、食事も運ばれると言う謎の事態。その中でも、話し合いにだけは参加させてもらった。

 とりあえずルフィが起きる迄は、もう少しゆっくりしようとの話になる。荷物も何もない今、それしか確かに方法は無いと判断した。

 

 「ナミは絶対安静だからな!」

 

 チョッパーのそんな言葉を聞きながら、アイスバーグさんから受け取ったお金でサンジ君とチョッパーが買い物に向かうのを見送る。その後ゾロに教えて貰って、どうやらウソップは巨人族の元へ行ったらしいと知った。

 

 「ロビンは、買い物に行かなくて良かったの?」

 「ナミを1人にしたら、眠れないでしょ。私はもう、何処にも行かないわ」

 「ロビン……」

 「ナミ、貴女を喪うかと思った私の気持ちも考えて。傍にいるから、大人しく寝ててちょうだい」

 

 ロビンのその言葉に逆らえる筈もなく、私は再び眠りに入る。それから私は丸1日追加で寝ていたらしい。

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