※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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シャワー

 その行為はその後も暫く続き、私が意識を飛ばすまで続けられた。そうして私が意識を取り戻すと、体のロープは無くなっていたけど、他はそのままで……中に放たれたモノが動くと流れ出るのを感じて不快感に襲われる。

 

 「起きたか」

 「……パウリー、なんで?」

 

 私の問い掛けにパウリーは視線を反らすと、そこが風呂場だと言ってドアを示す。お風呂はとりあえず使うけど、そうじゃない!

 

 「パウリー!どうして、こんな事……!」

 「……話した所で、信じねェだろうが!」

 

 突然襲われた上に怒鳴られては、私としても黙っては居られない。どうしてこの世界の男共は、すぐに人を襲うのか……!

 いくらこの体が魅力的でも、中身は私なのよ!?

 他にいくらでもいるし、そういう事を仕事にしてる人もいるんだから、そっちに行きなさいよ。どうして……何も伝える前に、襲いかかって来るの?

 

 「何も言われなきゃ、信じる事も何もできないでしょ!?」

 「お前に惚れてんだよ!麦藁の女だと思うから、麦藁しか見えてねェからと、諦めようとした。万が一想いが通じても、海賊であるナミを……ここに留める事は出来ねェ事も理解してるんだよ!」

 「パウリー?」

 

 あまりにも予想外過ぎるそれに、私は言葉を失う。その場で咄嗟に嘘だと言いたくなって、でも……最初に信じねェだろと言われた事を思えばそんな言葉は口に出来ない。

 パウリーは確かに親切だったとは思う。でもそれは、私が動けない2人を庇ったからとか、その恩を返す為とか女だからとか、そんな理由だと思ってたのよ。

 

 「パウリー、が、私を……?」

 「どうでもいい女を、自分のプライベートスペースに入れるか。……体だけでも欲しいと、1度でも触れたいと、そう思っちまったんだ」

 

 苦しそうに言われて、私は何も答えられずにお風呂を借りる事を名目に逃げ出す。どちらにしても、このままでは……居られないから。

 シャワーで流して、全て無かった事にして……水と1緒にこの現実も流れて消えてしまえばいいのにと、心から思う。体の中に入った全てを掻き出したいと言わんばかりに、肌にまだ残るような気がする感触を消し去りたいと言うように、私は狂ったように自らを磨き上げる。

 有難い事に、ロープの跡は服で隠せる範囲に止められているから、皆に気付かれたりはしないだろう。……ルフィに、会いたい。

 シャワーは私の上から降り注ぎ、流れて落ちて行く。感情も1緒に、流れてしまえばいいのにと切に思い、直後に頭を振ってシャワーを終える。

 早く、帰らないと。皆が心配するわ。

 

 「シャワーありがとう。私、帰るわ」

 「ナミ」

 「……私は、パウリーのした事を許すつもりは無いわ。でも、アクアラグナから私や仲間達を守ってくれたり、駅まで案内してくれた。共にエニエスロビーに乗り込み、背後を守ってくれた恩があるから……全て、今のシャワーで流して来たつもりよ」

 「……それは」

 

 だから、伝えられた事に私は何も反応しない。多分、それでパウリーに多少なりとも反省を促せると思うから。

 後悔しているのだとしても、反省しているのだとしても、私がここで許すのは間違ってると分かる。感謝してるからとか、恩があるからって理由だけで許していい内容じゃない。

 だからこそ、私はこの決断をした。震えるな、私……!

 

 「私は、パウリーの事を心配して顔を見に来ただけ。ついでにご飯用意してあげたら匂いが気になってシャワー借りたの。それ以上でも、それ以下でもないわ」

 

 そうして私は身支度を整えると、まだ何か言おうとしているパウリーを残して部屋を飛び出した。どうしてかしらね、泣きたいような気持ちになってしまうのは。

 早く、ルフィの所に帰りたい。ルフィに、逢いたい。

 足早に帰ったけど時間は随分遅くなってしまったようで、案の定皆は心配して右往左往し始めていた。それに笑ってただいまと言えば、皆の視線が集まるのを感じる。

 

 「ただいま!遅くなってごめんね。夜ご飯は食べたから気にしないで」

 「……ナミさん、お風呂入りました?」

 「うん。借りたの」

 「詳しく、聞かせてくれる?ついでにこっちに来て、拭いてあげるから」

 

 サンジ君の問い掛けに答えたら、ロビンにそう言われたので素直に近付く。ロビンは髪を丁寧に拭いてくれて、それに笑いながら別れてから何があったのかを、1部を隠して伝える。

 パウリーに話したのと同じ事を説明すれば、ロビンは静かに微笑んだ。ナミらしいわねと言って。

 心配かけた事をもう1度謝れば、皆はアイスバーグさんの所に話を聞きに行っていたらしい。そこで随分話し込んでいたのもあり、それも含めて説明してくれていたらしいと知る。

 それが無ければ、今頃船大工達も巻き込んで大騒ぎで探してるなんて言われると、ロビンなら分かるけどなんで私まで?と不思議に思う。皆が妙に心配そうにしてるのが気になるけど、気付かないフリをしておく。

 なにか言えば薮蛇になりそうで、静かにしていればロビンに早めに休むのよなんて言われてしまう。そんな話の流れで今日の事を皆も話してくれる。

 ロビン達は本当に必要最低限の物だけを購入して、チョッパーがフランキー1家の治療をしているのを眺めて来たらしい。ロビンが言うには、まだエニエスロビーに関する情報は世間に知れ渡っていないらしい。

 サンジ君は持てるだけの食材を買い込んで来たから、明日のルフィの食事にも困りませんよなんて言っている。それでも明後日には買い出しが必要ですなんて疲れたように言うから、ルフィってと少し呆れてしまう。

 ゾロは刀が海水でやられてしまっていたり、店その物が消滅していたりで収穫無しだった様子で、明日また探しに行くと言う。刀は海水に弱いものね……。

 私はそれらを聞いてそっかと頷いてから、寝る前にとルフィの元に向かえば、寝ている筈のルフィが私の腕を掴んだ。それにより私も皆も起きたのかと思ってしまう程。

 

 「んー……ナミー……」

 「ルフィ?」

 「すー……すー……ぐごぉー……」

 「「「寝てやがる」」」

 

 ゾロ、サンジ君、チョッパーの声が綺麗にハモった。でも私は、ルフィに掴まれて、ルフィに名を呼ばれただけで……なんかもう……幸せで泣きそうになった自分を自覚する。

 寝てても、ルフィはルフィなんだわと思ったけど……手が、離れない!と言うか指が全く動かないんだけど!?

 

 「ちょっ……誰か助けて!ルフィの手が離れないのよ!!」

 「……そのままルフィの寝てていいぞ。2人まとめて治療するから」

 「良くないわよ!そんな事したら、私トイレにも行けないじゃない!」

 

 その時ルフィがんー!とか言って何よと視線を向けたら私を掴んでない方の腕が伸ばされて、ベッドに引きずり込まれた。ガッシリと抑え込まれて、冗談抜きで外れない。

 寝てる癖になんだってこんなに力があるのよ!?ルフィは蛸なの!?

 

 「ルフィは大王烏賊か鼈なの!?離せー!」

 「ナミ、静かにしろよォ……」

 「誰のせいよ!?」

 

 寝ている相手に思わず怒鳴った私に、皆が笑い出してそのまま放置された。ロビンだけが近付いてくれたから、助けてくれるのかと思ったら、お休みなさいと私の頭を撫でて、毛布を上からかけられて終わった。

 ……え、本当にこのまま寝るの?

 明かりが消えてしまえば直後に皆の寝息が聞こえてくる。私はそうなって初めて、体から力が抜けて行くのを感じて、緊張していたのだと思いらされる。

 

 「ルフィ……」

 

 抱き締められて、離してもらえないから……それを言い訳にして、私は眠っているルフィに甘えるように擦り寄る。心も体も緊張していて、ガチガチだったのだと知り、そんな私の心と体の強張りを簡単に解放してしまえるルフィに、私からも腕を回して縋るようにして眠った。

 朝日が昇る頃、サンジ君が料理を始めた音で目覚めて、でもルフィはまだ離してくれない。動けないからとその首にキスして跡を残して、起きてから焦れば良いのよと少し思う。

 それにしても、私シャワー浴びたいんだけどと思いながらルフィのほっぺたをムニムニと弄っていたら、サンジ君が膨大な量の食事を用意してルフィを呼んだ。それによりルフィがピクリと反応する。

 

 「ルフィ、1食目だぞ。食えー」

 

 その瞬間ルフィは漸く私を解放して、寝たまま食事を開始した。……え、私食べ物に負けた?

 解放されて嬉しい筈なのに、何故か少し複雑な気持ちになる。それと同時に、何故か心が落ち着いてるのを感じて、妙に悔しくなった。

 

 「シャワー浴びて来るわ」

 「出たら皆で朝食にしましょうか。今日の行動についても少し話しておきたいですからね」

 「そうね、ササッと浴びて来るわ」

 「ゆっくりでも大丈夫ですよ」

 

 そんな会話を終えて私はお風呂場に向かう。当たり前の変わらない日常というものを、私は過ごした経験がないのではないかと、シャワーを浴びながら少し考える。

 さて、今日も頑張らなきゃ!

 お風呂から出るとルフィ以外は全員起きていて、それぞれ出掛ける準備をしたり刀研いだり治療したりと様々な事をしている。私はその光景の中にウソップがいない事に少しでは無い違和感を抱きつつ、その輪に入る。

 

 「お待たせ。皆起きてたのね」

 「食事も出来たところですよ。本日は折角陸にいるので、肉と野菜を大量に用いて見ました。どうしても船の上だと不足しますからね」

 「それよね。……船で、鶏でも飼う?」

 「卵は良いのが手に入りますが、肉にはちょっと……」

 

 サンジ君はそう言ってチラリとチョッパーを見る。その様子にそれよねと互いに視線で会話をして、それでも魚が手に入りやすくなってますから普通の海賊よりは優雅だと思いますよ、なんて言われれば納得するしかない。

 メニューはルフィがいるからと言うのもあるけど、寝てるから文句を絶対言わないのもあって野菜を使った物が多い。トマトとアボカドのサラダに、小松菜の豚肉巻き、鶏のロール照焼きには人参やアスパラが入っている。

 水水肉のコーンシチューや水水肉の味噌炒めがある。この味噌炒めにはピーマン、にんにくの芽、ネギ、人参が入っているのだから、ルフィにいかにして野菜をとらせようかと考えているサンジ君の努力が見えようというもの。

 

 「これは、何?初めて見たかも」

 「チャプチェですよ。肉と野菜と春雨を蒸し煮した物です」

 「サンジ君は優しいわね……全て野菜使ってるわ。……ミートボールだけ使われてないかしら?」

 「あァ、それは中にブロッコリーが仕込まれてます。鶉の卵が入ってる肉団子の、ブロッコリーバージョンです」

 

 何だろう、泣けてきた。ごめんね、苦労かけて……。

 

 「……私が、ルフィを甘やかして育てたから……!」

 「違います!ルフィが肉食なのは生まれつきです。ここがコックの腕の見せ所ですから、ナミさんは気にしないで大丈夫ですよ」

 「良いから早く飯にしようぜ!早くしねェと、全部ルフィに食い尽くされるぞ」

 

 ゾロの言葉で会話を止めた私とサンジ君は、漸くテーブルにつく。そのご飯が雑穀米なのを見たら、箸を手に私は暫く震える事になったけどそこはまぁ、不可抗力だと思う。

 並んでいたソーセージを食べて、その違和感に首を傾げると、ロビンも同じようにしていて、サンジ君が楽しそうに笑った。

 

 「ソーセージですか?」

 「うん、なんか……違う」

 「手抜きしました」

 「「手抜き?」」

 

 私とロビンの声が重なるとサンジ君は挽肉と野菜、調味料を加えて混ぜたものをラップで細長くなるように巻いて作ったから、皮がないのだと言う。その両端は飴の包のように捻るだけで、コツとしては空気を中に残さない事が綺麗に作るには必要だと言う。

 これはなんと、電子レンジ調理である。どの料理も今日のは1つ10分以内で作れるのだと言われれば、それはサンジ君だからでしょうと本気で思うけど、どうやら1般人でも15分で作れるらしい。

 そんなお食事タイムを終えて、私達は今日これからどうするのかを話しながらサンジ君の入れてくれた飲み物を口に運んでいた。また、新しい1日が始まる。

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