ルフィの傍に行くとルフィは皆に手を出すなと、殺されるぞなんて言う。だから私はそれに頷く。
「そうね、手は出してないわ。逃げ回ってただけだもの」
「ん?逃げ回ってた?」
「庇いきれなくてごめんね。ルフィを抱いて逃げてたんだけど、名前呼ばれて動揺したのよ。初対面の筈だけど!?って」
その瞬間ルフィが視線を反らした。どうやらガープさんには、ルフィが私の事を話していたらしい。
「む……ルフィは面食いか。それとも巨乳好きか?」
「最初に会った頃はナミまだ胸無かったぞ」
「そうか。なら面食いか」
「麺も好きだけどよ、俺は肉のが好きだ」
「そうかそうか!儂は煎餅が好きじゃな!」
え?何今の会話。
最初明らかに私の話だったよね?
何故かいつの間にか食べ物の話にシフトチェンジしてるのを聞きながら、首を傾げてからそっとルフィのコブに触れる。熱を持ってるから、本当にコブなのね。
「ルフィ、目眩とか無い?」
「おぅ、大丈夫だ!ナミは下がっててくれ、じいちゃんには、俺……何度も殺されかけたんだ」
「おいおい、人聞きの悪い事を言うな」
そう言って過去にルフィにした事を口にするガープさんのそれに、私は思わずルフィを抱き締めた。それと同時にサンジ君は、ルフィの底知れない生命力の根源を見てしまったらしく顔色が悪くなっている。
「儂は、お前を強い海兵にする為に鍛えてやったんじゃぞ!!」
「俺は海賊になりてェって、ずっと言ってたじゃねェかよ!!」
「〝赤髪〟に毒されおってくだらん!!」
「シャ……シャンクスは俺の命の恩人だ!!悪く言うな!!」
ルフィが吃るなんてと少し驚いたけど、コレは私も黙っては居られない。シャンクスを悪く言わないで欲しいわ。
「シャンクスの事を悪く言うのは、例え貴方でも……見過ごせない。ルフィやエース、サボの件があるからと思ってましたが、シャンクスに関してはとやかく言われる筋合いは無いわ!」
「ナミちゃん、それは……」
「シャンクスは私にとっても大切な人。悪く言わないで」
私の言葉にガープさんはスっとその瞳を細めると、肩を落とした。それから妙な言葉を口にする。
「孫の嫁じゃからな……。少しは話を聞いてやらん事も……あるかァー!ルフィが居ると言うに、赤髪を大切とはなんなんじゃ!」
「シャンクスは私の師匠だもの!大切に決まってるじゃない!それにあの日、私がもし何も出来なかったとしても、シャンクスはルフィを助けたわ。ルフィはシャンクスにとって、大切な友人だから。そんな海賊とは思えないような善人に何言ってんのよ!?」
「ナミ〝嫁〟には反応しねェの?」
ルフィの言葉により先程の言葉を反芻して……言われてたわと思う。でも、ガープさん思い込みとか激しそうだしと流そうとしたら、ルフィが明るく笑って言葉を続けた。
「でも、そうなったらナミは、モンキー・D・ナミになるんだな!」
「ルフィ……」
嬉しそうに笑うルフィの肩に顔を埋めるようにすると、ルフィがそっと頭を撫でてくれて……その手の感触に少し泣きたくなる。そんな私とルフィを見て、ガープさんがボソリと呟く。
「……いつもこうか?」
「ルフィとナミか?うん。いつもこんな感じだぞ」
チョッパーがそれに答えるとガープさんが曾孫にも会えそうじゃななんぞと呟いたけど、私結婚とか考えてないし……ルフィは冒険と結婚してるのに何を言ってるのか。ルフィは……全てに愛され、慕われている。
決して誰かのものにはならないような存在なのに、そんな変な縛り与えたくない。特にこの世界で結婚がどんな効果や価値があるのかは、私には分からないもの。
「ナミ、どうした?何か、怖いか?」
ルフィが心配そうに問い掛けてくれて、それに私は首を横に振る事で答える。何も、怖くは無いから。
ルフィが生きて居てくれてる事が、自由に生きてくれてる事が、私には充分すぎる幸福なのよ。でも、何か言わないと心配かけてしまうからと少し考える。
「ルフィに抱き着いたら、なんか安心しちゃっただけ」
「今はじいちゃんいるから、安心してると危ねェぞ」
「そんな事ないと思う」
「ん?」
「ルフィが、守ってくれるでしょ?」
ルフィがガープさんに怯えてるのも闘争心が折られてるのも分かってて、私は妖艶に笑ってみせる。その瞬間ルフィが私を見て息を飲み、力強く頷いた。
……あ、この顔好きだわ。なんて少しルフィに見惚れる。
「そうだな。ナミの事は守る」
「ルフィ、ありがとう」
その時背後では途方に暮れた様子のガープさんが居たらしいけど、私とルフィには互いの事しか見えてなかった。だって、久々にルフィと会話してるんだもの。
そんな私の頬にルフィの手が触れる。愛しそうにその瞳を細めて、優しく笑いながら……。
「そろそろじいちゃんの事、思い出してくれると嬉しいんじゃがな」
「あー……ナミさんとルフィ数日ぶりに会話してるから、暫く無理だ。諦めろよ」
サンジ君慰めてるのか落としているのか分からない事を言って、でも私は寝癖のついてるルフィの髪を整えながら笑いかけていてそれどころでは無い。……相変わらず艶々の髪に、どうなってんのかしらと本気で思いながら笑う。
「ルフィ……」
「ん?」
「おはよう」
「あァ、そういや言ってなかったな。ナミ、おはよう。庇ってくれて、ありがとな」
「ううん、庇いきれなかったもの……」
私が落ち込んで顔を俯けると、ルフィの指が私の顎に触れてそのまま上向かされる。それによって顔を上げると、自然とルフィと視線が絡まった。
熱い眼差しに、目眩がしそうになる。それくらい、無言でも分かるくらいに、ルフィが私を求めてるのが伝わって来て、それが嬉しい。
「ナミ……」
「ルフィ……」
そして瞳を伏せる私に、ルフィの顔が近付くのが分かる。けれども自然と唇が重なる直前に、怒号がその場を支配した。
「いい加減に儂の話を聞かんかァー!」
「あ、じいちゃんいたんだった」
「忘れとったんか!?」
「うん、忘れてた。ごめん!」
素直に謝るルフィにガープさんは崩れ落ちて、なんか……ごめんと内心で謝る。私結構ガープさん好きだし、いじめるつもりは無かったのよ?
ただ、その、ルフィしか見えなくなってただけで。ほら、ルフィは船長だし、私、クルーだもの!……ね?
「久々に会ったじいちゃんだろうが!」
「うん、そうなんだけどよ。ナミと話したのも久しぶりだったし、ナミが可愛くて他は見えなかった」
怒りながら立ち上がったガープさんに、サラリとそう言ったルフィ。それを受けて皆は1瞬視線をルフィに向けて、それから私に視線を向けて来た。
それから生暖かい眼差しで微笑むから、私は再びルフィに顔を埋めてしまう。私何も言ってないのにー!
「な?可愛いだろ!」
「……お前に会わせたい男達がいてな」
ルフィの言葉を無視してガープさんは言葉を口にする。それを聞き流すルフィと、それに甘える私。
ある意味カオスである。あ、ルフィに甘えてる自覚はあるわよ?
「そもそも〝赤髪〟って男がどれ程の海賊なのか、分かっとるのか!?お前は!!」
「……!?シャンクス!?シャンクス達は元気なのか!?何処にいるんだ!?」
即座に反応したルフィを解放すると、ルフィはその場に座りガープさんの話を聞く。ガープさんは四皇と呼ばれる存在と、七武海、そして海軍本部で世界はバランスを保っているのだと言い始める。
その説明を受けながらも、ルフィは頭の上にハテナを浮かべていて、それが妙に可愛い。麦藁帽子を弄るルフィを見て、ロビンが声を出した。
「……あの〝赤髪〟と繋がりが!?」
ロビンが動揺するけど、あれ?話してなかった?
空島に行く辺りで話したと思ってたけど……まぁ、色々あったし、記憶から飛んだのかも知れないわね。ロビンはそれこそ文字通り命懸けだったもの。
「私が〝お世話〟になって修行つけてもらった話、しなかった?その頃私とルフィ、その2人の兄は出逢ったのよ」
「……そう、なの」
「ルフィの家はまぁ……ルフィが沢山いる家系なのよ。だから、驚く事も多いと思うけど、落ち着いてね」
「……不吉な事、言わないで」
ロビンとそんな会話をしていたら、表が急激に騒がしくなる。そして、暴れているのがゾロだと分かるとルフィが慌てて止めようとして、逆に足留めされてしまう。
その海兵の動きにルフィは即座に表情を引き締めると、迷い無く対応する。その姿をルフィまだ怪我してるのにと思いながら眺めていたら、ロビンにクスクスと笑われてしまう。
「ヤンチャな息子が木登りしてるのを心配してるお母さんみたいね」
「気分は近いわ」
溜息を落とせば、ガープさんが言葉を向けて来た。その視線は、絶え間無く動く4人に向けられているけれど。
「ナミちゃんは、ルフィの彼女だから1緒にいるのか?」
「いいえ、クルーとして共にいるつもりです。……戦えませんけどね」
「赤髪の所の女神ちゃんも、謎の天才物書き宝玉も、ナミちゃんだと聞いとるが?」
「例えそうだとしても、戦えない事に変わりはないでしょう?」
私の言葉にガープさんは、子猫に見せ掛けた化け猫の類かなんて失礼な言葉を口にする。それの直後、ルフィとゾロが2人の〝海兵〟を抑え込む形で戦いは終わった。
それを見てガープさんは盛大に笑い、負けた筈の2人もまたどこか嬉しそうにしている。ルフィとゾロは意味が分からないって顔してて、何だか本当に微笑ましい。
「サンジ君、断られちゃうかも知れないけど……後で話とかするだろうから、その時に4人分の飲み物とか用意してあげて」
「かしこまりました、マドモアゼル」
サンジ君がそう言って動き出すと、ガープさんは壁を直し始めた。その中でガープさんはルフィに問い掛ける。
その間も海兵さん達は、掃除したり直したりと忙しく動いてくれているのだから、ガープさんの部下は大変そうよねと思う。そんな時ガープさんが気軽な様子で言う。
「そう言えばルフィ、お前親父に会ったそうじゃな」
「え?父ちゃん?父ちゃんって……あァ!ナミが言ってた、ドラゴンとかって名前で、でも、俺は会ってねェよ」
「なんじゃ、父親だと名乗らんかったんか。ローグタウンで見送ったと言うとったぞ!」
その言葉にゾロは眉を寄せて、サンジ君は素直に驚きを見せる。その中で〝今日は雨でも降りそうだ〟とでも言う程度のノリで、ガープさんは言う。
革命家ドラゴンのフルネームと、それが間違いなく世界最悪の犯罪者と呼ばれる彼であると言う事実を。何も分からないらしいルフィは首を傾げてから、ロビンの名を呼ぶ。
前に1応説明をしたと思うんだけどなぁ……。そんな事を考えながらルフィを眺めていたら、ロビンがどう説明したらいいかと悩みながらそれを説明して行く。
混乱したり焦ったりしてるルフィは可愛いけど……ね。そう思っていたら、ガープさんが余りの騒ぎに不味かったかと認識して全てを無かった事にしようとした。
「じゃ……今のナシ」
……いや、いやいや、無理だから!無かった事にならないから!
こんな時、ガープさんはルフィの血筋なんだわとしみじみ思う。本気ならば、実力だけならば、今の大将達よりも強いと言うのに自由に動く為にと、中将に留まり続けているだけの人だと言うのは知ってる。
ルフィも歳をとったら、こんな感じになるのかしら?
今はまだまだ、可愛い感じなんだけど。そんな事を考えながら荷物の中からでんでん虫を取り出してルフィが好みそうな高い位置にセットして置く。
これで後程ルフィ達の会話を盗聴できるわ。挨拶してとかやるより、ルフィが友達と話すのを邪魔しないで済むようにと言う、私なりの配慮である。
そう考えるとロビンの能力って羨ましいわ。でも、私も充分すぎる特典貰ってるようなものだもの、羨ましいとか考えたら罰が当たるかしら。
皆の過去を知っていて、未来の事も少しだけど知ってる。それは確かに恐ろしい程に有利な事だから。
それが無ければ私は、ベルメールさんを喪っていた。何も知らなければ私は、ナミちゃんとは違うから……きっと心折れて、もう私は命をとうに絶っていただろうなと思う。
そう考えれば随分と私は恵まれているのだなと、感慨深く思いながらルフィに視線を向けつつ椅子に腰掛ける。目の前では、あの日蜜柑畑を破壊して笑っていた海兵達と同じ制服を着た別な海兵達が、掃除や修理の為に動き回っていた。