※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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プールにて

 壁の修理と、食卓テーブルや床の修理を終えた海兵達は引き上げの準備に入る。その中でルフィだけが見送りに出て、ガープさんに殴られながらも何処か楽しそうに会話しているのを眺めていた。

 ……落ち着いて情報精査する為にも、プールに行こうかしらね。ここにいては、チョッパーの目もあるし、ゾロやサンジ君は真っ直ぐな性格だから嫌がるかも知れない。

 その時ふとお金の大半を蜜柑の木の間に隠す様にしまうと、1つだけそれ迄の位置に残しておく。……なんかね、それが必要な気がしたのよ。

 それから水着を着ようとして、太股にロープの跡が残っている事に気付いてしまう。服で隠れる範囲だから今まで気にしてなかったし、ガレーラのワンピース借りてたからスリットも入ってない事で気にしてなかったわ。

 ビキニとセットで着いてきてた筈の腰布を探して、それを巻いて何とかそれを隠してからプールへと向かう。それに合わせるようにココロさん達もプールへ行くと言うので、共に向かえば即座に泳ぎ始める2人と1匹。

 私はサマーチェアに座り音を聞く。耳に地球でいう所のイヤホンを付けた時聞こえてきたのは、ガープさんの声。

 

 「〝お前は儂の孫なので、この島で捕らえるのはやめた!!……と、軍には上手く言い訳しておくので、安心して滞在しろ〟」

 「〝言い訳になってないので『逃げられた』事にしましょう〟」

 

 そんな声に本気で脱力しそうになる。孫に愛されたいと、少しは惜しめと騒ぐガープさんと、殴られただけだと珍しく正論を言うルフィは相変わらず楽しそうだ。

 そのまま素直に別れるのかと思っていたのに、会話は途切れる事無く続く。それに少し驚きながら会話を聞いて行く。

 

 「〝ナミちゃんとはいつも1緒におるのに、あんなにベタベタしとったじゃないか!〟」

 「〝ナミには最近漸く逢えて、やっとの思いで仲間にしたんだ!仲間にするのに1番苦労したんだぞ!……って、ベタベタ?普通だろ?〟」

 「〝何じゃ、それ迄嫌われておったのか?って、普通な訳があるか!〟」

 

 怒るガープさんの声に私は首を傾げる。え、普通じゃないの?

 だって、ルフィと会話したの久しぶりだったし、ルフィっていつも距離ゼロでしょ?

 

 「〝爺ちゃんはナミの事、調べたんじゃねェのか?海賊にナミの島酷い目に合わされてて、それを海軍のネズミってのがインぺーしてたんだ。ナミは、家族とか村の奴等守るのに1人で戦っててよ〟」

 「〝それでアーロン1味をルフィが殲滅したのか。……ん?ネズミ?〟」

 「〝知ってんのか?〟」

 「〝お前の最初の手配書を出させたのがそいつじゃな〟」

 

 ……逆恨みか。と言うかまだ海軍に居たんだ?

 ネズミめ……。息の根止めとくべきだったかしら。

 今思い出しても許せない。よくもベルメールさんの蜜柑畑を……!

 

 「〝ナミはさ、優しいってか、甘いんだ。だから、俺が守ってやらないと……心が壊されちまう。臆病な癖に強がりで、あんなに可愛いのに自覚無くて、無意識で男引っ掛けて歩くから大変なんだ〟」

 「〝それでも仲間に欲しかったのか。足手纏いなんじゃないか?〟」

 「〝ナミは俺の指針だからよ。俺が迷わねェように導いてくれるし、頭イーんだ!ウチの船は女が二人共頭良いからよ、俺はムツカシー事考えなくても良いんだ!〟」

 「〝ルフィ、お前船長としてそれは不味かろう〟」

 

 呆れたようなガープさんの言葉に、私はシンクロして肩を落とす。でも、それがルフィだから。

 それにしても、私の事、ルフィはそんな風に思ってたんだ。知らなかった。

 でも、可愛いのは自覚してるわよ。何せナミちゃんの肉体だもの。

 ……勿論、今は私の肉体だし、今更返す気もないけど。時間はかかると思うけど〝私〟がルフィをラフテルまで導くと、そう決めてるの。

 それに、ラフテルに着いたら終わりじゃない。まだまだこの前半の海だって、行った事のない島が沢山あるわ。

 自分の目で見た世界地図を描く為には、まだまだ足りない。1周じゃ無理なのよ。

 ルフィもきっとラフテルについて終わりじゃない。だから……私はずっと、ルフィと共にこの海を進むの。

 ルフィが連れてってくれるかなって考えた事もある。でも、今はルフィは私を手放さないって確信を持てるの。

 波間の向こうをルフィと共に進むと、私はそう決めているのよ。でも、だからこそ、ルフィに何かあればきっと……私はもう生きる気力も無くしてしまうんだろうなって、そんな事を考える。

 その時ガープさんが去り、残された2人の海兵とルフィが楽しそうに会話を始めた。その直後にサンジ君が飲み物を用意したらしく、三人に配ってくれたのが分かる。

 でも、ゾロの声が聞こえて来ないからゾロは居ないのかななんて思う。その間にもに入ってくるのは、ベガパンクが軍艦に施している対応策等の有意義な情報。

 あの象剣を生み出した技術者の名前を聞いてふと、ペンの動きが止まる。ミスターでは無く、ドクター?

 ……科学者でありながら、医者なの?厄介ね。

 医者というのは、人体の仕組みに詳しいから、ただ本能で戦う人よりも強い傾向がある。きっとその為に、この世界の船医は皆恐ろしく強いのだと私は思っている。

 その内にルフィ達が思い出話に花を咲かせ始めたのを聞いて、私はそっとイヤホンを耳から外す。盗聴用の電伝虫からルフィ達の楽しげな声が普通に聞こえて来るけど、ルフィ達が会話を楽しんでいる事を確認する他には、もう聞く意味も無い。

 プールに入って少し泳いでいたら、ふと思い出した事があってプールを出る。タオルで水気を取りつつ、腰布を身に纏い上着を1枚羽織ると、私は自然と原作の中でロビンと青雉が会話をしていた場所に足を向けていた。

 あの時だけ居たのか、それともこの場所でロビンを待っていたのか。どちらなのかしらと思いながら壁に触れた瞬間、声が聞こえてきた。

 

 「あらら……ボインねーちゃんじゃないの」

 「……青雉さん。ロビンなら、中よ。もう少ししたら、出てくると思うから、待ってたら?」

 

 壁の横から顔を覗かせて姿を確認しつつ言えば、青雉は困ったように私を見た。それに気付いていながら、私はそこにある階段に腰を降ろす。

 

 「俺の名前は〝青雉〟じゃねェって教えたでしょーよ」

 「はいはい、それでクザンさんはロビンに用事って事で良いのかしら?」

 「それもあるが……ナミちゃんを虐めてみようかと思ってな」

 「へ?」

 

 何言ってんのと思って視線を向ければ、ニンマリと笑った青雉に冷たいものが背筋を駆け抜ける。何を、するつもり?

 プールだからと武器を持って来てなくて、私は己の窮地に気付く。……私に倒せるような相手じゃないのは、分かってるけど抵抗しないで殺されるつもりは無いわよ……!

 

 「この島の住民は、ほぼ全員を〝犯罪者〟として手配出来る状況にある。特に、お前さん達と共に暴れたゴロツキや船大工「条件は?」」

 

 もう、良い。もう、語らなくていいわ。

 そう思って青雉を睨めば、お手本のようにニッコリと笑った青雉がそっと指を私に向けた。それに対して私の体がビクリと揺れる。

 

 「お前さんを今夜、借受けたいって言ったら……どうするよ?」

 

 この場合の〝借受ける〟の意味が宝玉としてのそれならば有難いんだけど……違うわよね。きっと。

 

 「……あー、こう言わねェと解らねェか?1発ヤラせろ」

 「なっ!?」

 「逃げ道塞いでやったんだから、優しいでしょーよ。で、どうする?」

 「……それに頷いた場合、どんな利点が私にあるの?」

 

 なんで、私なのよ。まぁ、ロビンにそんな事しようとしたらそれこそ許さないけど。

 

 「麦藁の1味以外は全員、見逃してやるってのだけじゃ足りないか?」

 「当然でしょ。私は安くないのよ」

 「ヘェ?……なんか考えてやるから、今夜ここに来なさいな」

 

 差し出された紙を私は払い除ける事が出来ずに、受け取る。私には、フランキー1家や船大工達を見捨てる事も、売り飛ばす事も出来ない。

 だからって、ロビンを差し出す事もできないなら……私が自力でどうにかする他にどんな選択肢があるのか。ルフィ……ごめんね。

 

 「……考えておくわ」

 「ニコ・ロビンでも、構わねェと「ロビンと話をしたいんでしょ。妙な事言ったら、承知しないわよ」」

 「……俺に何か出来る対策があるって?」

 「…………シャンクスに、助けを求める事も出来るし、ミホークも、私には協力すると言ってくれたわよ。嗚呼、マルコさんも多分助けてくれるし、エースも大暴れしてくれると思うわよ?」

 

 情けないなと自分で思う。虎の威を借る狐も良いところじゃない。

 頼りたくないと、甘える権利なんかないと分かってて、強い人達の名前で威嚇してる。そして、イザとなれば必ず助けてくれるだろうって……信じてるのよ。

 シャンクスは師匠として、ミホークは……まぁ、その後同じ事になるのなら意味ないから基本的に頼りたくないけど。マルコさんはエースの姉だからって事で、エースは私を姉として慕ってくれてるから……多分何も言わずに守ってくれる。

 

 「……その他にドフラミンゴも居る事を考えたら……確かにバックは怖いな。それなら、まぁ、とりあえず話だけでもしに来なさいな」

 「分かったわ。夜、抜け出せたら行くようにするわね」

 「……3日、待っててやるから、焦らなくて良い。それと、ニコ・ロビンはここに本当に来るのか?」

 

 その1瞬、青雉の瞳が揺れた。親友が命を掛けて守った命。

 その小さな種はどんな花を咲かせるのかと、彼もまた本気で考えているのは分かるから、私は立ち上がって頷く。青雉からの〝話だけ〟で本当に終わるなら助かるし、お金で解決出来るならソレに越した事はない。

 

 「えぇ、ロビンはここに来るわ。私がいるのだから、当然でしょ」

 「情報感謝する」

 

 そう言って片手を上げた青雉から私は視線を外して、皆の元へ戻る。その時また会おうと話している声が聞こえて、ルフィ達も此方に来るだろうと分かればメモノートに青雉から渡された紙を挟んでから、プールの水に入る。

 少しでも離れていないと、賢い人達だったり勘のいい奴だったりするから、何かを気付かれる。そう思って水の中に潜れば心が落ち着くのが分かる。

 さて、この後どうしよう。本気で困ってしまった私は、プールの底で水面を見上げながら息が続く限りボーっとしていた。




この後ガープさんはきっとネズミをどうにかしてくれたと信じてます。
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