サンジ君が肉が焼けたよと呼んでくれたタイミングで、私はそれに返事をしてからプールサイドへと向かう。プールとかお風呂は水やお湯に入ってるから、汗をかいた自覚無く脱水症状を引き起こす事があるので要注意なのだ。
なので私は水を拭き取りつつ、用意して貰っていた飲み物に先に手を伸ばした。そんな私に、サンジ君が優しく笑う。
「……本当に、俺の用意した物は疑わないで飲み食いしてくれるから嬉しいです」
「サンジ君は、例え相手が倒すべき敵でも毒を入れたりしない。それを分かってるだけよ」
「……最高の賛辞です。ありがとう、ナミさん」
そんな会話の中で、そっと串に手を伸ばしてサマーベッドに体を預ける。その状態で串に口を付けるのは、はしたないかも知れないけど、なんか……疲れた気がしてつい怠惰な事をしてしまう。
そうして肉を口に入れた瞬間、焼いただけの筈のそれが異様に美味しくてどういう事!?と体を起こしてサンジ君に視線を向けてしまう。それに対してサンジ君は嬉しそうに微笑むだけだ。
そうしている間にもルフィとチョッパー、そしてそげキングが肉を食べて頬を落としそうになっていた。ゾロも食べているけど冷静にそげキングに突っ込んでいる。
サンジ君はロビンに美味しいかと聞いて、ロビンはそれに笑顔で応えている。なんとも優しく暖かな空間に、何故だか泣きたくなり、遠い空を見上げた。
その時フランキー1家がルフィが目覚めたと聞いて駆け付けてくれて、そんな彼等にルフィは食べて行けと言う。それを彼等が断る筈も無く、1気に増えた人数にサンジ君が慌てて増えた彼らに肉の追加を手伝わせる。
そうしていると次はGCの面々と、巨人族が現れてその中にいたパウリーが私を見て〝破廉恥娘〟と呼んだ。名前で呼ばれるかと少し警戒してたから、それにふと笑みが浮かぶ。
良かった、彼は私を諦めてくれたらしいと思ったけど、その後に続いた言葉は頂けない。この男どうしてくれようか。
因みにロープの跡が見えないように、バスタオルでそこは隠してある。ルフィとサンジ君、チョッパーには知られると不味いもの。
「変態か!」
「おにーさん、ここ、プールよ」
「ンマー、いい匂いがするな」
そう言ってアイスバーグさんが顔を出せば、フランキー1家の棟梁たるフランキーもまた妹達を引き連れて姿を見せた。そうして人が集まれば当然の事として、ルフィは笑い宣言する。
「よーし!宴だァ!!」
そげキングが歌い出して、その場は1気に盛り上がりどんちゃん騒ぎとなる。ルフィは楽しそうに笑い、チョッパーと戯れ始めた。
そんな中でロビンだけがそっと喧騒を抜けて行くのを見て、これから青雉と会話をするのだなと妙に冷静に思えた。上着を羽織り飲み物にそっと口を付けた時、ゾロが私の腕を掴み突然移動を開始する。
だからそれに何だろうと思いながらも、飲み物をダメにしない為にテーブルに戻してそれに着いていくしかない。皆がいたら不味い話があるのかな?
喧騒から少し離れた所で、掴んだ腕を離す事なく壁に体を押さえつけられるともう本当に意味が分からない。そんな状態でゾロは真剣な顔を私に向けて来る。
「ナミ、何があった」
「え?」
「……また、妙な事考えてるだろ」
「妙な事って……」
ゾロは何を言いたいのか。そう思っていたら呆れたような顔をしてから、突然私の唇に自らの唇を重ねて来て、そのまま口内を奪い尽くさんと言わんばかりに蹂躙される。
「ゃ……んんっ!ぞ、ろ……!やぁ……だ!ん、ぅっ……!」
角度を変える為なのか1瞬離れた隙に抵抗の言葉を口にしたけど、ゾロは辞めてくれない。どうしてと思ったけど、それを聞く事さえできずにいればその内に唇が離れてゾロが低く言葉を発して来た。
「ナミは、考えが結構顔に出てる。隠せると思うな。何しようとしてる。自己犠牲系だろ」
動揺していた私は、咄嗟に誤魔化す事が出来なくて、それどころか体は素直に反応して何か隠してますと伝えてしまう。そんな私にゾロは瞳を細めると、耳元に唇を寄せて来た。
「素直に言わねェと、この場で犯すぞ」
「ゾロ!?」
「戦いの後で、気は昂ってるからな。……優しくは出来ねェだろうが……答えないと言うなら、俺はナミを抱く」
「やだ!どうして!?」
思わず泣きそうになれば、ゾロは困ったような顔で私を見て、嫌なら教えろと言ってくる。でも、そんな事したらゾロは着いてきて、そして恐らくは戦おうとするのはわかり切ってる。
そうなればゾロが殺されてしまう。そんなのは、嫌なのよ……!
「私はゾロに抱かれるつもりは無いし、何も話す事も無いわ」
「……俺だと勝てない相手に何か言われたか」
ビクリと体が震える。それに対してゾロは暗く笑うと、私の腕からその手を離した。
膿んだ傷口に刃物を突き立てられているような顔で、ゾロは私を見てから小さく言葉を落とす。その両手は拳を作っていて、微かに震えている。
「弱くて、悪ィな……」
「ゾロは!……ゾロは、弱くなんて無い。いつも皆を守ってくれてるわ。でも、今回は相手が悪過ぎるのよ」
その瞬間ゾロの瞳が怒りに燃えて、私は両肩を掴まれると壁に押さえつけられる。肩と、背中が地味に痛い。
「だからナミが1人犠牲になろうって!?それは、ロビンが今回した事と何が違う!?」
「全然違うわよ!ロビンは苦しめられて、絶望の中で殺されるしか道は無かった。でも……!私は違う!」
「……!……同じだろうが!ナミは、ルフィ以外に触れられる事を望んでねェ!それくらい分かる。俺はナミ1人を犠牲にするつもりはねェぞ」
「ゾロ」
「ルフィ達に話して来る」
そう言って離れようとするゾロの腕を掴んで、私は必死で首を横に振る。まだ、束になっても皆には勝てない!
「止めて!話すから、ちゃんと話すから……お願い、止めて……」
「ナミ」
体が小刻みではなく震える。特に、ロビンには知られる訳にはいかないのよ……!
皆を喪いたくない。これ以上、誰にも、傷ついて欲しくないの。
「青雉がこの島に来ているわ。そして、青雉に言われたの。フランキー1家やガレーラカンパニーの人達、下手をしたら私達を庇おうとするこの島の人達全員の手配書をって……」
「おい……!」
「だけど……!私かロビンが1人で行けば、彼らの事は揉み消してもらえるの。でも、それを知ればロビンが行こうとするわ。だからって戦ったとしても、青雉が相手じゃ、まだ束になっても私達には勝てない!」
私の言葉にゾロが苦しそうに顔を歪めて、それから小さく笑った。痛みを耐えて、私にこれ以上負担をかけない為とでも言うように。
「なら、ナミだけが耐えれば済むって、考えてんのか」
「……私なら、話をするだけで助かる可能性もあるのよ」
「なんで……?」
「私は、シャンクスに可愛がって貰ってたし、ミホークも何かあれば言えと言ってくれてるのよ。エースは私を姉として大切にしてくれてるから、助けてくれようとすると思うし、その関係でマルコさんも……その事を青雉は知ってるわ」
私が何かすごい訳じゃない。凄いのは、その名前だけで大将でさえ下手に動けなくしてしまう彼等の存在。
私はただ、庇護されてる。でも、ロビンにはそれさえも無いのよ。
私が行かなきゃ……ここにいる人達が皆……。ロビンをもう、これ以上苦しめたくないのよ……!
「……いつだ」
「え?」
「いつ、青雉の所へ行くんだ?」
「今夜、宴が落ち着いたら……抜け出してと思ってるけど?」
私の言葉にゾロは分かったと言って、私を強く抱き締めてきた。そして、微かに声を震わせながら哀願するように、言葉を紡ぐ。
「ナミ、中には入らねェから、せめて傍に居させろ。帰り、背負ってやるくらいの事は俺にもできる。させてくれ……」
「ゾロ……」
「1人でここに残されたら、口が滑りそうだ。……酒も入るからな」
「わ……かった、わよ。指定されたホテルの目の前に居酒屋があるから、そこで待ってて」
私の言葉にゾロは頷くから、ありがとうと言って私も笑顔を作る。……ごめんね、上手く隠せなくて。
ごめんね、傷付けてしまって。それでも私は誰も喪いたくないと、そう願ってしまうの。
ゾロは私の考えなんて知らない筈なのに、抱きしめる腕の力を1度だけ強めるとそのまま小さく体を震わせた。今にも泣きそうなその気配に、もう1度心でごめんなさいと呟いてその胸に頭を預ける。
「……ナミ、俺は……もっと強くなる。お前にもう、望まない選択をさせねェで済むように、強くなる」
ゾロは仲間思いで、優しい。普段の修羅の道を独走してる様子からは分かりにくいけど、本当に、悲しくなる程に優しい。
「こんな状態だからこそ、知っててくれ」
「ゾロ?」
「ずっと秘めているつもりだった。だけど、俺はナミにもう、何も隠さねェ。だから……お前も俺には嘘をつかないでくれ。頼む」
「ゾロ……?」
「俺はナミを、1人の女として愛してる。ルフィを想ってるのも、想われてるのも知っているから、何かしようとは考えてねェ……だが、ナミが苦しむのは見たくねェんだよ」
嘘や冗談、からかい等ではないのだと伝わるからこそ、私は戸惑い何も言えなくなる。ゾロは、いつから……?
その時ふと思い出したのは空島での会話で、まさかアレも告白だったのかなと思えた。でも、流石にそれは無いかと思い直して、内心で自意識過剰過ぎるわねと自嘲する。
「ナミが笑ってるなら、幸せならそれでいい。だが、忘れないでくれ。俺もナミを、愛してるんだって事だけは」
「私、は……」
「ルフィしかいらないし、見えないんだろ。分かってる。見返りなんて求めてねェよ。ただ、俺はナミにルフィの傍で笑っていて欲しいだけだ」
ウソップやルフィが私をからかってるか勘違いしてるんだと思って流して来たけど、本当にゾロからその想いが伝われば、何も言葉には出来ない。……私には内心で謝りながらも、表面では笑う他の選択肢を持たなかった。
宴はまだ、始まったばかり。まだ今は、空も明るいと言うのに、私の心だけは暗く沈みそうになっていた。