ゾロは自然と宴の中へと戻り、近くにいたパウリーと酒を酌み交わし始める。そんな時に、少し顔色を悪くしたロビンにルフィが肉食ってるかと問い掛けるのが聞こえた。
その直後にロビンに向けてルフィが割り箸芸を見せて、チョッパーやそげキングが笑うと、ロビンが妙な言葉を口にした。
「私も、やってみようかしら」
「「止めて(くれ)!!ロビン(ちゃん)!!」」
私とサンジ君の言葉が重なれば、ロビンはクスクスと笑いながら私を手招いた。どうやら揶揄われたらしい。
そんなロビンの言葉にルフィとチョッパーは〝やれ〟とか言うけど、やらせません!全く、折角綺麗なロビンに、何をさせようと言うのか!
プリプリと怒る私に、ロビンがそっと囁きかけてくる。そんなロビンに私の怒りは霧散した。
「ねェナミ、私歌いたい気分なんだけど、演奏してくれる?」
「えぇ、歌いたい物を教えてくれるなら」
私に演奏できる物だと良いけれどと思いながらも、楽譜を取りに行くと言うロビンに、私も楽器を取りに行くからとついて行こうとしたらアイスバーグさんに止められた。見ればピアノが用意されていて、アレで良いかと問われれば否と言える筈も無い。
「少し待っててね。すぐに戻るわ」
何を歌いたいのかなと思いながらそれを見送ると、アイスバーグさんは串を咥えながら私を興味深そうに見て来る。それに首を傾げると、苦笑された。
「海賊娘、演奏も出来るのか」
「あら、私が〝宝玉〟なのはご存知でしょう?」
クスクスと笑えば、アイスバーグさんはこれは確かに手放せねェなと笑う。どういう事かと思い視線を向ければ、万能過ぎると言われてしまうけど、アイスバーグさんにだけは言われたくないし、ハイスペックなのはこの肉体であって私じゃないわ。
そう思って自嘲した時、ロビンが帰って来て楽譜を差し出してきた。受け取ればそれは随分前に書いた筈の物で、良く見つけたなと思うけど……なんで、この曲?
「ナミに、歌いたいの。……ダメ?」
「喜んで!」
あ、駄目だわ。ロビンに対しては、ノリがサンジ君と同じになってるわ。
そう思いながらも私は、ロビンが小首を傾げた瞬間に陥落した。美しいって罪だわ。
ピアノの前に座れば気持ちはスっと落ち着いて、音を確かめる為に何音か出してから、1音目の音を何度か鳴らせばロビンは小さく頷いてくれた。なのでロビンの言葉を待ち伴奏から入る事にする。
ピンク・レディーのSOSである。いくつになっても年齢を感じさせないこの2人も、最早人間とは思えない。
指が鍵盤の上を滑るように走り、跳ねる。音楽と触れ合うのは本当に楽しい。
ペンと楽器に触れると、ナミちゃんとしてでは無く私として呼吸出来るようなそんな気がするのよね。そして、ロビンが歌い出した。
「ーーー」
慎んでるつもりなんだけど、なんか上手く行かないのよね。この肉体が可愛いからかな。
そんな事をロビンの歌に対して思うのは、ある意味言い訳なのか。ロビンの歌声は少し色気もあるからか、宴の席は盛り上がりを見せる。
「ーーー」
そうよね、ルフィも普段は羊だもんね。なのに……いや、今思い出しちゃダメよ私!
赤くなりそうになるそれを押さえて、首を横に振りつつ演奏を続ける。ルフィの視線が、妙に気になる。
「ーーー」
この人だけはなんて思わないけど、基本的にいつも突然襲われるわね。信じてるんだろうか、私は、彼らの事を。
私は、甘いのかな。どうしたら、良いのかな。
「ーーー」
はい、ごめんなさい。今後はもっと気を付けます。
つい心の中で謝罪して、私はふぅと溜息を落としながら演奏を続ける。ロビンの視線は基本、私に向けられているのも気になるところ。
「ーーー」
呼んでも無駄だと分かっても、助けを求めてしまうのは甘えなのかな。強くならなきゃ、ルフィに迷惑かけたくないもの。
そのまま間奏に入ると皆の視線が何故か、ロビンではなく私に向けられていると気付く。でも、歌ってるのロビンなのにどうしてー?
「ーーー」
……そ、そんな気になるのはルフィにだけだもん。そう思ってついロビンを見たらウインクされてしまい、ぅーと小さく唸りながら演奏を続ける。
「ーーー」
ヒールはいてるから、だから私の方が今は背が高いから背伸びはしないけど……。心もルフィと居る時は寧ろ背伸びをしなくていいから楽なんだけど……。
内心で言い訳する。多分私今もこれ踊れるわとか、どうでもいい事を考えながら。
「ーーー」
うう……っ!ロビンが歌いながらチラチラと私に視線を投げ掛けて来て笑うのが気になる。
でも、だって、そんな言葉ばかりが脳内で繰り返されて、私は真っ赤になってる自覚がある。これが終わったら私もロビンに歌を返してやると心に誓いながら、演奏を続けて行く。
「ーーー」
ハイハイ、分かりました。気をつけますー!
そう思った私のそれが本当に活かされたかは、この先わかると思われるが、とりあえず今は鍵盤を叩く事が私の役目。
「ーーー」
それにしてもなんでロビンって、男に多い名前つけられたのかしら。お母さんと瓜二つなのに。
そんな事を思ったのは、ロビンにも助けを求めてしまう事が多いからかも知れない。最後まで演奏を終えると拍手が聞こえて、私はロビンと並んでお辞儀をして見せた。
「それでは続きまして、私からも1曲。お聞き下さい〝アイノカタチ〟」
言ってからロビンの傍を離れた私は、MISIAさんのそれを歌う為に再びピアノの前に座る。ロビンが私に歌ったのならば、私もロビンに歌って何がおかしいと言うのか。
音が鳴ればもう、私の時間。ロビン、私の大切な親友。
「ーーー」
歌い始めると宴なのに、何故か静まり返るそれに違和感しかない。今回は気分を下げるような曲じゃないのに、不思議だわ。
でもね、本当に気付いたのよ。貴女が私の中に住んでいるんだって……形を持って嵌っていたんだって事に。
「ーーー」
ロビンの形、ルフィの形、それぞれの形が私の中にあって、他の誰にもそれの代わりにはなれないんだって事。それを今回私は思い知らされたの。
他の人で埋めようとしてもきっと、形が合わないから隙間が出来る。その冷たさを補う為に……私はきっと泣き暮らすんだわ。
「ーーー」
心から、言葉にそのまま想いを乗せる。歌に想いを込めるように、大好きと紡ぐ。
「ーーー」
それぞれ想う形は違うけれど、私は仲間達全員を愛してる。誰を想っても、自然と涙が溢れるくらい……愛してるの。
「ーーー」
本当は恋愛の歌なのかも知れないけど、私にとっては皆への想いの歌。泣いても笑っても構わないと言ってくれる、愛しい温もりに私の全てが包まれているの。
「ーーー」
これが絶対間違いないなんて答えはなくて、だからこそ皆ぶつかり合うだろう。楽しいだけのごっこ遊びじゃ無いから、命をかけて進んでいるから。
その代わり皆不満とかは、あれば素直に直接言い合える。影で言うなんてそんな事はしないから、だから安心出来るのよ。
「ーーー」
そばにいて。それだけを願うの。
生きて、そばにいてくれるなら、泣いていたら共に解決に向かうようにする事も出来るでしょ。だからどうか、離れて行かないでと大好きな皆に願うの。
「ーーー」
離れている時に、いつもならここに居るのにと思う事で、貴方の形が見える気がするの。ねぇ、ウソップ、だから早く帰って来て。
「ーーー」
全てが変わらないなんて言えないけど、これだけは変わらない。私が皆の事を、大好きなんだって真実だけは。
「ーーー」
だからね、伝えるの。鬱陶しいって言われても伝え続けると決めているのよ。
伝えておけば良かったなんて、そんな後悔だけはしない。私の中に宿るこの想いだけは、ナミちゃんじゃなくて〝私〟の想いだから。
「ーーー」
どこにいても、離れていても想いは変わらない。大好きだよ。
想いは変わらないけど、私は我儘で寂しがり屋だから、願ってしまう。贅沢な事だって分かってるのに、求めてしまうの。
「ーーー」
その笑顔を思い出しただけで、涙が溢れる程に大切だから、そばにいて欲しいの。どこにも行かないで、離れて行かないで、帰って来て……。
「ーーー」
脳裏に浮かぶ大切な人達の笑顔に、私はいつも救われている。残して来た家族や、離れたビビとカルーは勿論、帰ってきてくれないウソップや、愛しいルフィ。
そして、漸く帰ってきてくれた美しい親友と、いつも優しく癒してくれるチョッパー。応えられもしない私を想ってくれる2人と、大切な歳上の弟達。
赤髪の皆は勿論、特に可愛がってくれたベックと、師匠であるシャンクス。今回助けてくれたマルコさんや、想っていると言ってくれたミホークが順番に脳裏に描かれて……素直に想いを伝えたいと思わされるの。
「ーーー」
出逢ってくれて、愛をくれて、そばに居てくれてありがとう。どんな時も私は皆の事、大好きだよ。
歌い終えて演奏も終われば静まった会場が直後に大歓声に包まれた。それに良かったと息を吐き出して、私は皆の元へと戻って行く。
ねぇ、少しは届いたかな。皆に私の想いが。
大切な人達が揃って笑ってる。そんな当たり前のようで当たり前じゃない尊い幸福の中で、私は生きている。
「ナミ……私も、大好きよ」
「ロビン……」
そうだ、私はロビンに伝えたい事があって乗り込んだのよ。なのにまだ伝えてなかった。
「ロビン、愛してるわ」
「ナミ?」
「ロビンにこれを伝える為に、私は迎えに行ったの。ロビン、お帰りなさい。私はロビンを〝愛している〟わ」
「ナミッ!」
肩を震わせるロビンを見て、思わず飛び付くようにして抱きつけば、ロビンははにかんだように笑ってくれて、私の髪を持つとそっとそれにキスをしてくる。それに私が動揺すると、ロビンは可笑しそうに笑って私の背を押した。
押された先ではルフィが両手を広げていて、ぼふっと飛び込む事になったけど……それを見て皆笑うばかり。そんな私にルフィがそっと囁くように言う。
「ナミ、キスしろ」
「へ!?」
「さっき、ゾロにされてたろ。この場で抱かれたくなかったら、ナミから……な?」
少し黒いルフィに逆らえず、と言うか逆らえばこれは本気でこの場でヤラれると理解して、私はルフィの首に腕を回すと自分に言い聞かせる。女は度胸!
いや、うん、愛嬌なのは分かってるけど、そう思わないとできないわよ。でも、ルフィが見詰めてくるから私はそこで動きを止めてしまう。
「ナミ?」
「ルフィ、お願い、眼を……閉じて」
私の言葉にルフィは小さく笑うとその瞳を閉じてくれたから、私は度胸と根性を振り絞り、そっと唇を重ねた。それにより会場は恐ろしい程に盛り上がり、私はそのまま身動きが取れなくなった。
もう、今すぐプールに飛び込んでしまいたい。そう思って逃げようとする私の頭をしっかり押さえ込んで、ルフィが暫く私の唇を堪能したのは言う迄もない。