私はルフィと唇が離れた瞬間に、羞恥のあまりルフィを突き飛ばして逃げ出した。それによりその場は笑い声に包まれた。
その時、突き飛ばされたルフィも表面的には楽しそうに笑ってた。けど、その瞳が覚えとけよと言っていて……。
真っ赤に茹だってる私は、ルフィに向けて馬鹿ぁー!と叫んで逃走した。そんな私を追いかけて来たのは笑い声だけで、このまま姿を消すには丁度いいと気付かされる。
部屋に戻り身支度を整えた私は足に短剣を足に差すより先に、1度鞘ごと強く抱き締める。怖い……なんて、言えないわよね。
窓から顔を出して、1瞬ゾロに視線を向けるとそれだけでゾロはさり気なく席を立ち、私から少し距離を置いて歩き出した。この今見えている幸せな空間を守らなきゃと、決意を持って歩き出せば目的地はそれ程離れてはいないのですぐにつくだろう。
島の人達が多く宴に集まって居るからか、他の場所は怖い程に人のいる気配が無い。指定されたホテルの近くで足を止めると、ゾロがその目の前にある酒場に私の横を通過して入って行く。
すれ違うほんの僅かな瞬間に、ゾロが私の頭を軽く撫でて行ったので、それに肩が揺れる。……大丈夫、話をするだけよ。
実力の違い過ぎる相手が怖くないと言えば嘘になる。でも、話をするだけで皆が助かるなら逃げる事は許されない。
ホテルに入り、奥へと進めば書かれている部屋に到着してしまう。腰からクリマタクトを引き抜いて、いつでも使えるようにしてから部屋のドアを叩く。
「……どーぞ?」
間延びした、気の抜けた声に促されてドアを開けるとアイマスクをズラしただけで、ベッドに転がった状態の青雉が私を楽しそうに眺めて来る。こんな状態でも、私が勝てる可能性は無い。
シャンクス達の名前がどれ程の効果を見せてくれるか。その名前にさえ縋ってしまう程に、私はシャンクスに甘えている。
「……思ったより早かったし、本当に来るとは思わなかった」
「あら、来ない方が良かった?」
「いや?この島が消滅するのは俺も少しばかり良心が咎めそうだから、来てくれてよかったよ」
余裕の顔で、ここのラーメン美味しいよ的なノリでそんな言葉を紡がれても、私には反論さえも出来はしない。細く息を吐き出して、余裕のあるフリで笑ってみせるのが精一杯。
「それで、どんなお話?」
「……ドア閉めて、そこにでも座んなさいな。なんもしねェから」
「異性の部屋に入る時、ドアを閉めるなんてそんな事は許されてないの」
「……何処のお貴族様だよ。まァ、とりあえず座りなさいな。そんなに殺気立たれちゃ、話もできねェ」
私は仕方なく窓の景色を楽しむ為に用意されている向かい合わせの椅子の、ベッドから1歩でも遠い方を選んで座る。勿論ドアは開けてあるので、妙な事は〝海兵〟である彼には出来ないだろう。
そんな事を考えている私に、毛を逆立てた猫のようだと青雉は笑うけど……目的が分からないんだから、仕方ないじゃない。話が終わったら帰るのよ、そして、待っててくれるゾロに何も無かったわと笑って、安心させるの。
「……まずは、ニコ・ロビンの件だが、悪かった」
「え?」
「ロビンの事を何も分かってない。ロビンは被害者。そんな事をお姉ちゃんは言っていただろう。それなのに俺は、ニコ・ロビンはもう死にたいんだろうと判断した」
「……それで?」
「認めるよ。ニコ・ロビンに漸く接触できて、これで……殺してやれると思ったんだ」
ここで本来ならば、身勝手だと言って責める事も出来るかも知れない。でも、私はそんな気になれなかった。
ロビンを逃がした後、手配書が出されると決まった時の会話の席で、どれ程つらそうにしていたのかを知っているから。何度も、それを夢でも見ていたから。
読んでいた頃の記憶としては、もう流石に覚えてなかった。けど、実際ロビンの過去を頭痛と共に、または夢の中で見た時、同時に見て来たの。
ともすればこの人は、ロビンに……平穏に何もかも忘れて、1人のただの民間人として生きて欲しいと1番強く願っていたのかも知れない。いつか、母になったロビンを見たいとでも願ってでも居たのかもしれないと分かってしまっていた。
ロビンの幸福を、今生きている人達の中では、誰よりも強く願っていたのが、この人なのではないかと……私にはそう思えてならない。だから、私には責められない。
「……ロビンは、美人でしょ。その上賢い。だから、苦労も多かったと思うわ」
「あァ……」
それでも黙っていられなくて言葉を口にすれば、青雉はそれに頷く。だから私はそれに言葉を重ねる。
「孤独と絶望の中で、ロビンはただ探していたのよ。サウロさんが遺した言葉だけを信じて、そうしてやっと……それが偽りでは無かったと知ったの」
「サウロを……どうしてお姉ちゃんが……」
「……聞いたのよ」
私の言葉にそうかと呟くように言った青雉は、ベッドから降りると部屋に備え付けてある珈琲を入れ始め、その流れのままドアを閉めた。どうやら珈琲を2つ入れてるその様子に、慌てて静止する。
「私のは、いらないから!」
「毒なんざ、仕込む気ねェけど?」
「……飲めない、のよ。珈琲」
「…………そういう事にしておいてやるか」
「ロビンは、珈琲好きよ。私は紅茶派だけど」
私の言葉にふぅんと言いながら入れたその場で珈琲を片方飲み、その瞳を細めた。それは、なんとも言い難い気分にさせられる空間で、私はクリマタクトを強く握るとゆっくりと呼吸を繰り返してから青雉に視線を向ける。
「話は、それだけ?それなら、帰るわ」
「ニコ・ロビンに悪いか?男と浮気したってんじゃ」
「……さぁ?どうかしら」
そう言えば青雉には、そういう事にしてあったわねと思いながら笑えば、空になったカップを置いて青雉がゆっくりと歩み寄ってくる。それに嫌なものを感じて私は立ち上がった。
ジリジリと逃げるように移動するけど、珈琲を入れていたのが入口付近なので、逃げる事も難しい。窓からと思って視線を窓に1瞬向けた直後、腕を掴まれてしまう。
何をと思って見上げたら、遠心力を使ってポイッとベッドに落とされてしまう。それをスプリングのバウンドを利用して起き上がり、クリマタクトに電撃を纏わせて対抗しようと振り回した時……小さく笑われたと思った瞬間にクリマタクトが弾き飛ばされる。
慌てて伸ばしたその手を掴まれてベッドに縫い付けられれば、私も黙っては居られない。だって、そもそも話だけって……!
「話だけって、言わなかった?」
「まァ、言ったには言ったが、とりあえずってつけた筈だが?」
「……何もしないって、言ったわよね」
「……信じるか、普通?」
「う、五月蝿いわね!私に手を出したら、シャンクス達が許さないんだから!」
えぇ、えぇ、信じましたよ!話だけしたらシャンクス達の事もあるから、解放してくれるって信じちゃってましたよ!
それにミホークの件だって、あのままにしてたら本気で戦いになってたから必死で止めたのよ!?無闇に私に手を出さないで欲しいわ。
「……誰にも話せないような事、してやっても良いんだが?」
「私が死なない限り、シャンクスに隠し事なんて出来ないわよ。私はシャンクスに育てられたようなものだもの。寧ろ何も言わなくても全てバレるわ」
「……赤髪の女神ちゃん、か」
そう言って1瞬腕の力が緩んだので、股間を蹴り上げて呻いた隙をついて逃げようとした。なのに二の腕を掴まれて、そのままベッドに押し戻されてしまう。
そして、当然のように剥ぎ取られる服は、抵抗するだけ無駄であるかのようにも思える程。でも、嫌なもんは嫌なのよ!
そう思って短剣を引き抜き、その首に押し当てるとピタリと青雉の動きが止まった。既にビキニ姿になってはいても、何もされずに帰れるならばそれにこした事は無いもの。
「海楼石の短剣とは、嫌なもん持ってるじゃないの」
「ベックが、くれたのよ。……私に扱いやすい様に、特注してくれたの」
「……愛されてるね」
「当然でしょ。私、可愛いもの」
嫌そうな顔で言われた直後笑って言葉を返せば、小さく痛っと青雉が言った為に刃を首に触れさせてしまったかと思う。傷付けるつもりは無かったから、咄嗟に短剣を少し離してその首筋を確認しようとした。
けれどもその時、その短剣をも弾かれてしまう。そして首筋を見たけど、傷は見当たらない。
……騙された!
「お姉ちゃんさ……お人好しって、言われたりしねェ?」
「お黙り!」
「そうだよな。この先は、言葉なんかいらねェよな」
そう言って青雉は私のビキニを容赦無く取り払った。何も身に付けていない私の体を青雉はじっくりと眺めて、小さく笑うと私の足を割開くようにして氷人間とは思えないような熱いモノを、押し付けて来る。
両手は頭上で1纏めにされている為、こうなると身動きが取れない。それでも身を捩って、触れて来ようとするそれから離れようとしてみる。
けど、青雉はそれを許さずに足の付け根や腰という関節部分を指先で撫で回して来る。それに上擦った声が自然ともれる。
「や、だ……!やだ!話だけって言ってたじゃない!」
「……ここまで来てんな事言うか?」
「言うわよ!嫌なんだから!私に気安く触らないで!」
ガルルルルルと唸る勢いで言葉を向ける。すると青雉は小さく吹き出すように笑ってから、聞き取れない程の小声で、何かを呟いた。
けれど何を言われたのか、私には聞き取れなかった。その直後に青雉が指で弱い所を刺激し始めるから、体がそれに勝手に反応する。
「やぁ!や、だァ!」
「体はそうは言ってねェみたいだけど?」
「や、ルフィ!ルフィー!」
指の動きが止まり、何事かと青雉を見れば少し驚いたような顔で私を見てから、成程と1人で納得し始めた。何を納得しているのかは分からないけど、いい事は無さそうな気がする。
「……シャンクス達が、黙ってないわよ。ミホークも、海軍本部で暴れるかも知れないわ」
「そりゃ怖いな。だが……俺はお姉ちゃんが欲しい。戦いの時とは違って、随分可愛い感じなのが余計に唆られる。……戦いの時は、綺麗なのにな?」
そう言って青雉は私の抵抗を無視して体を煽ってくる。嫌だと、辞めてといくら言っても聞いてくれなくて、近くに居てくれてるゾロに助けを求めそうになる。
……だめ、よ。まだ、ゾロが戦っても勝てない。
こんな所で、ゾロが殺されたりする可能性を作れない。自力で、どうにかしなきゃ。
「余所事考えるなんて、余裕だな。まァ、随分遊んでるみたいだから、当然か」
「……遊んでるって?」
「縄の、跡がある。縛り上げられたか?」
ビクリと体が反応する。パウリーにされた跡が、まだ残ってるのはさっき気付いたけど……指摘されるとは思ってなかった。
動揺してる私に、青雉は自らの楔を容赦無く押し込んで来て、私は唇を噛み締めて声を抑える事にする。万が一にも声が届いたら、ゾロはきっと自分を責めてしまう。
「……気に入らねェな。体格差で、苦しいだろうに……呻き声も出さねェつもりか?」
キッと睨めば青雉は愉快そうに笑い、なら遠慮無くと言いつつ腰を深く沈めてくる。その衝撃で声を出さない以前に、呼吸が止まるんじゃないかと思う程。
ルフィ……!
自力でどうにかと思ったばっかりなのに、ルフィに助けを求めようとする自分に思わず泣きそうになった時、聞き覚えのあり過ぎる声が窓から聞こえて来た。それに視線を向けて、その姿を見た時私の瞳からは涙が勝手に零れ落ちた。
「火拳!!」
真っ直ぐに青雉だけを攻撃する炎は、まるで意志を持っているかのように私を避ける。それにより私から己を1気に引き抜き距離を取った青雉は、窓の縁に足をかけているエースを嫌そうに見た。
1気に引き抜かれた私の体は、その衝撃で少し動けなくなってしまっていた。けど、自由になった手で、大切な人達から貰った武器を慌てて回収する。
それらを抱き締めた瞬間、私に布が被せられた。驚いて振り向いたら、エースに抱えられてしまっていて、けれども私が何かを言うよりも早くエースが言葉を落とした。
「ナミは、返してもらう。〝約束〟は果たされただろ」
「まだ、途中だったんだけど?どうしてくれんのよ、男ならキツイの分かるでしょうに」
「知るかよ!それとも……俺と本気でやり合うか?」
「エース……どうして……」
「話は後だ。とりあえず、逃げるぞ」
エースはそう言って私を抱いて部屋を飛び出した。だけどこのままルフィの所に帰るなんて出来ないからとエースを見上げれば、違う部屋へと運び込まれてそれに、ホッとする自分を自覚する。
そこで強く……震える腕で抱き締められてしまう。その為に、私は言葉を失いその温もりに包まれるしか選択肢を持たなかった。