正直私は今混乱してる。たった1晩で起きるには、可笑しすぎる流れだったと思う。
寧ろ誰かの作為でも有るんじゃないかと疑いたくなる程に、忙しくも苦しい1晩だった。まぁ、そんな事は有り得ないんだけど、それにしてもどうやってここから帰ろうかしら……?
今着ているバスローブは恐らくこのホテルの備品で、そうなると私着られる物がないんじゃ……?
そう思って部屋を見ていたら、武器が纏めて置かれている横に紙袋が見えた。なんだろうとそれに手を伸ばしたらそれの中には、洋服が下着も含めて1式全て入っているのが確認出来る。
マルコさんの気遣いに感謝しつつそれに着替えれば、何故かピッタリで怖くなる程。いや、医者だもん、職業病みたいなものよね?
それから身支度を整えた私が新聞を買い読みながら皆の所へ帰ると、マルコさんから本当に連絡を入れていてくれたらしくチョッパーに飛び付かれた。連絡は入ってても、心配掛けちゃったか……。
「酒飲んで血流良くなったら傷が開いて倒れたって聞いたけど、もう大丈夫なのか!?」
「……えぇ、マルコさんが治療してくれて、麻酔も使ったのかな?気付いたらこの時間だったのよ」
「それで服が変わってるのね」
ロビンの言葉にビクリとしたけど、マルコさんは体に付けられた跡が見えない服を用意してくれていたので、髪を上げなければ誰にもわかりようはない。相手がエースだってのが問題なのよね。
「流石に血みどろの服で街中歩けないから、気を使って適当に用意してくれたみたい。今度その分返さないとね」
笑って答えた後、チョッパーにマルコさんから預かった増血剤とその説明書を手渡せば、チョッパーは大喜びで離れて行った。そんな様子を少し不愉快そうにルフィは見ているから、どうしたものかしらと考えつつ新聞を机に広げる。
「見て、今日の新聞よ。エニエス・ロビーの事が書かれているんだけど……フランキー1家の事は何も書かれてないのよ」
「どういう事です?フランキー1家は、あんなに暴れたのに」
サンジ君はそう言いながら私に座るよう促すと、全員分の飲み物とドーナツを用意してくれながら新聞を手に煙草の煙を吐き出した。真剣な顔で煙草吸ってる時は、本当にカッコよく見えるのに、なんて残念な人なんだろう。
「……ナミさん、顔に残念な人って書いてあるんでその顔止めてください。流石にヘコミマス」
「あ、ごめんね。つい。メロリンしてなきゃサンジ君モテるだろうなって考えてたのよ」
「……ナミさん以外からモテても、意味は有りませんよ」
そんな事を言ってるサンジ君は、視線だけは新聞の文字に釘付けだ。そして、ルフィは私の分として用意されたドーナツに手を伸ばして、視線で喰っていいか?と聞いてくるから頷く。
幸せそうに食べているルフィの姿を見て、このままだと食べ尽くされると気付く。なのでその内の1つを甘い物が大好きなチョッパーのお皿に移動させておけば、チョッパーも嬉しそうにそれを食べ始めた。
……可愛いわ、この2人。苺味だと思われるドーナツをチョッパーが食べていて、他はルフィが食べている。
「ナミ、貴女何も食べてないけど大丈夫?」
「食欲無くて」
「……駄目よ。何か食べなさい。サンジ、ナミにパン粥作ってあげて」
「はい!喜んでー!!」
ロビンは私に対して過保護だと思うのよ。そんな事を考えていたら、サンジ君が新聞をゾロに投げ渡しつつ調理を始めた。
無駄のない動きで作りつつ、サンジ君はルフィに問い掛ける。あ……いい匂い。
「……お前のじーさんが〝巻き込まれた1般人〟とでも情報弄ってくれたんじゃねェか?」
「いやー……そう言う細けェ事は……」
ルフィの言葉につい続くように私が口を開くと、それはチョッパーと重なった。
「「うん、しないと思う」」
言葉を口にはしなかったけど、ロビンも含めて4人で手を振りつつムリムリとやれば、サンジ君はそれもそうかなんて頷く。でもだとしたら、途中にはなったけど1応〝約束〟を青雉が果たしてくれたと考えるべきなんだろうか。
エースの事で存在を忘れそうになるけど、青雉とも、私は……。無意識でルフィに視線を向けると、ルフィは首を傾げた。
「ドーナツはもう、食い尽くしたぞ」
「あー、うん。良いわよ。美味しかったかなって思っただけだから」
「ナミは馬っ鹿だなァ。サンジの作ったもんが不味い訳ねェだろ!」
そう言ってルフィは笑うから、それもそうよねと言って頷くとサンジ君は私の前にパン粥を差し出して来た。飲み物はいつの間にか焙じ茶に入れ替えられている。
「何にしても良かった……」
そう言ってサンジ君は胸を撫で下ろし、フランキー1家を気遣うけどゾロは新聞を読みつつその分私達が酷く書かれていると言う。実際あのスパンダがやった事まで、私達の責任にされているのは如何なものかと思う。
いや、正確にはアンタ達海軍が自分で破壊したんじゃないかと言いたいところだけれど。世界政府に宣戦布告した私達には、既に人権なんて無いのだろう。
ゾロは懸賞金が上がりそうだと喜び、チョッパーは期待に全身を煌めかせ、サンジ君は煙を吐き出しながらその手配書に夢を馳せる。……私の手配書が出たら、ベルメールさんやノジコに、村の皆に迷惑かけちゃったりしないかな。
やっぱりもう二度と……帰れない、かなぁ。そんな事を考えつつ口にしたパン粥が異様に美味しい。
その流れでフランキーが船を作ってくれる事をルフィに話して、大喜びするルフィを眺める。そうして食事を終えた私は、足りなくなるであろう物の買い出し等をする為にお金を確認する。
「サンジ君、ご馳走様。……所で、お金が足りないんだけど」
「ん?あァ!宴の時によ、肉やら酒やら買うのにやった!」
ルフィは明るく言うけど……ね。金銭管理してる私に事前に1言言えって、いつも……言ってるでしょ!?
ドカッ!バキッ!ゴスッ!……暫くお待ちください……。チッチッチッ……ポーン!
「んま!船は得したんだから、良いじゃねェかっ!!」
震える声でルフィが言っても、誰もルフィを心配せずに、ルフィをボコボコにした私を気遣ってくれた。皆優しい。
それなのにルフィは欠片も空気を読まない。いや、読めたらルフィじゃないんだけどさ。
「あ!ナミ、遊んで来るから小遣いくれ」
「ルフィは無しよ!!」
「痛てェ!こぶの上から殴んなよな!」
「ルフィ……私がルフィのやりたい事を無意味に却下した事は、皆の命に関わる時だけだったと思うのよ」
「そ、そう……だな?」
ルフィは私からジリジリと、後ずさる。私はそんなルフィにゆっくりと歩み寄りつつ言葉を続ける。
「この1味の金銭管理は私が全て担ってるわ。必要とあらば私が稼いでるし」
「おぅ!感謝してる!」
「その、私に、1言の相談もなく、報告すら無く、億単位のお金を勝手に使われたらどうやって航海して行けばいいのよ!何をするにもお金は必要なのよ!?お金が無かったら肉も野菜も買えないのよ!稼ぐには紙とかインクだって必要だけど、それも買えない。汚れた時に着替えたりする洋服だって必要だし、海に居るんだから食器だって布だって皆消耗品なの!」
「……ご、ごめんなさい」
「ルフィは船長でしょ。皆の命はルフィが握ってるの。そのルフィが、皆を苦しめるような事をしちゃダメ。お金は大切なのよ」
「……今度から、ちゃんとナミに話す。そうしたら、使っていいんだよな?」
うるっとした顔で見上げられては、これ以上私にルフィを叱る事は出来ない。何この仔犬みたいなの……!
「……使えるように計算するわ。好きなだけ使っていいなんて言えないもの」
溜息と共に言葉を口にすると、ルフィはその表情をパッと明るくするから傷の手当はしないからねと言い捨てて、私はロビンの元へとかけて行く。そんな私をロビンは笑って受け止めてくれるから、それに少し甘える。
チョッパーがルフィを連れて外に出て行き、サンジ君は食料の買い出しに向かう。ゾロは刀を求めて出て行って、私はロビンに付き合ってもらいながら計算して……そっと立ち上がった。
「ロビン、古くなってたりサイズの合わない衣類を仕分けしたら、買い物に行きましょ。家具とかを古道具系で良さそうなもの見つけて来ないと」
「でも、船の形とか分からないと家具は危ないわ。消耗品とかを買うようにしましょう」
「それもそうね。……糸と針も少し買い足したいわ」
「穴の開いた服で雑巾を作るのにも必要だものね。駄目になってる布って、雑巾以外に使い道無いかしら?」
「収納用の小袋とか、パッチワークにしてクッションカバーとか敷物にするとかなら、出来るかもしれないわね」
私の言葉にそれなら糸を選んできましょうとロビンが笑うから、野菜の苗も少し選んできましょうと笑いかける。元々パッチワークとは、使えない部分の布を処分して、使える布を貼り合わせて使えるように直していたのが始まり。
今のように普通に布として使える物を、無意味に切り刻んで使える範囲を狭めるようなものでは無かったのよ。……植物関連だと、私としては春菊の種は外せないのよね。
そうしてロビンと共に洋服や歯ブラシ等の消耗品を買いながら、他に足りないものはと話しながら歩き野菜や薬草の苗や種を選んで行く。例えばラベンダーはお茶やケーキに使える他に、育てていると蝿避けになるから何か欲しいのよね。
その他、ミントはお茶にも出来るしサラダやお菓子の添え物に使えるから、味違いで幾つか欲しいとか言いながら選んで行く。大地で育てるのなら、芋が良いんだけど……プランターとかだと手間に反して育つ量が足りなさ過ぎるのよね。
ロビンも事植物に関しては楽しそうに選んでいて、今までこんなゆっくりと陸で2人で過ごした事は無かったななんて思う。途中で眼鏡屋さんを見付けて立ち止まれば、サングラスや眼鏡をお揃いで買う事になった。
絶対使わないだろう奇抜な形のそれを、お互いに掛けてみたりして遊ぶ。星とかハートのサングラスさえロビンは似合うんだから、美しさは全てを凌駕する事が証明されたと思う。
途中で通りすがりに、私とロビンはお互いに海賊と思われる人達から財布を貰いつつ歩いていたら、突然雑誌の表紙に私とロビンを使いたいなんて言われた。けど……ロビンは困った顔をしているから、断ろう。
「ごめんなさい。他を当たって下さい」
「ギャラも勿論出しますし、撮影で使う衣装は差し上げます!」
「ギャラって、いくら?」
私が瞳をキラリと光らせるとロビンは困った子ねと笑い、でも見てるだけにするわと言って私を着替えさせるのとか、髪をセットするのを進んでやってくれた。その途中でロビンは楽しそうに笑う。
「ナミって、いじりがいがあるわ。何着せても可愛い」
「ロビンだって、何着ても綺麗じゃない。きっと和服とかも似合うわよ」
「ナミはドレスが似合うわね。ルフィの為にウエディングドレス着る時は、1緒に選んであげるわ」
「ロビン、多分そんな日来ないから……!」
「あら、ルフィが頼りないから捨てる?……なら、私にしとく?守ってあげるわよ」
「もうっ!そうやってすぐに揶揄うんだから!」
そんな事を言いながら私だけが撮影されて、でも隠し撮りのようにロビンと2人でジャレてる所を撮影した物を別れ際に渡してくれた。それを見てロビンは小さく笑うと、貰っても良い?なんて聞くからどうぞと返事を返す。
「私ね〝友達〟と写真に写るなんて初めてなのよ」
「……っ!しゃ、写真立て、買って帰りましょ!ね?」
「そうね、海の色の写真立てが欲しいわ」
ロビンがそう言って笑うから、私も自然と笑う。幸せは、こうして伝染する。
小物類を扱う雑貨店で、ピアッサーを見付けて動きを止めると、ロビンが隣にある宝石店を少し覗きたいわなんて言い出すから、少し嬉しくなって笑う。今まで〝欲しい物〟なんて何も無いと言っていたロビンが、写真を欲しがり、写真立てを求めて、宝石を見たいと言ってくれた。
なんでもないようなそれが、私には本当に幸福に思えて……まずは写真立て決めなきゃねなんて言って笑った。ロビンには、私も伝えなきゃね……私も友達とこんな風に過ごしたのは初めてよって。
なんか、書いてて物凄く楽しかったんですよ。
女の子達の楽しそうな姿って癒されません?