雑貨屋さんで写真立てを選び購入した後で、宝石店に入った私達は正体不明の白い石に思わず首を傾げた。真珠、オニキス、クリスタルのどれでもない白く丸いそれはなんだろうかと。
白い物なんてそんなに多くは無いから、不思議に思って見詰めてしまう。それはロビンも同じようで、何かしらなんて言っている。
「あァ、それか。ゼオライトって呼ばれる石で、浄化の効果を持ち、回復力を高め、持ち主の陰鬱とした思考をプラスに持って行くとか言われてるんだよ」
あまりにもしげしげと見ていたからか、店員にそんな事を言われてしまう。そして、友達同士でお揃いってのもいいと思うよなんて言われて私とロビンは、思わず顔を見合わせた。
「……そうね、ナミに似合いそう」
「ロビンこそ、マイナス思考を治せるならいいかも知れないわよ?」
そう言って笑い合って、ピアスホールなんて開いてもいないのに、ぶら下げるタイプではなく直接肌に触れるタイプのピアスを購入した。帰ったらチョッパーに開けてもらいましょうなんて笑いながら。
きっとロビンには似合う。黒髪である事を考えたら、物凄く似合うと思うわ。
「今度は下着も買いに来たいわね」
「そうね、私下着ってあまり持ってないから、少し買わないと」
「……ナミ、下着は必要よ?」
「でも、サイズすぐに変わるし……海に飛び込む事も多いからビキニの方が便利なのよ」
私の言葉にロビンは確かにそうよねと頷いてくれた。そうして帰りながら雑誌のギャラとして貰ったお金で、ロビンにショールを買ってプレゼントするとロビンが自分に使いなさいなんて言う。
でも、私は撮影で使った衣装貰ったし、後で使わなかった写真もアイスバーグさんに届けて貰える事になっているので、充分すぎると思うのよ。そんな会話をしつつ帰れば、料理の仕込みを終えた所だったらしいサンジ君がお帰りなさいと笑って出迎えてくれた。
チョッパーにピアスホールの事を頼めば快く引受けてくれて、お風呂上がったら開けてやると言われてロビンと2人でそれにお礼を言うと、ルフィが不思議そうな顔をする。そう言えばルフィの体って綺麗よね……自分でつけた目の下の傷の他は、特に大きな傷跡とか無いし。
「なんで自分から体に傷付けんだ?」
「……ピアスとは古来それを付ける事そのものが魔除の意味を持ち、更には大人であると認識されるようになる儀式だったのよ。今でも国によっては子供が産まれたその日のうちにピアスホール開けて、誕生石のピアスを付けさせるなんて所もあるの」
「……悪かった。もう余計な事言わねェから、それ以上語るな」
長くなると察したのか、ルフィにその先の説明を拒絶されてしまった。話したい事の1/10も話せてないのにと思ったら、ロビンが瞳を輝かせてもっと聞かせてなんて言うから、頷いて暫くピアスの歴史について語っていた。
そんな私とロビンをゾロは呆れたように、ルフィはつまらなさそうに、サンジ君は楽しそうに眺めていて、チョッパーはピアッサーの消毒等を行ってくれている。……ウソップがいたら、どんな反応をしたんだろうと、そんな事を少し思う。
食事の前に軽くティータイムなんて話になった私達は、サンジ君が出してくれた飲み物を飲みつつ、そういやァなんて言ってからサンジ君が口にした言葉に反応する。だって、ウソップが帰ってくるって言ったのだから。
良かったと思ったら体から力が抜けそうになったけど、大喜びではしゃぐルフィと、泣きながら喜ぶチョッパーを見ていたら2人だけで迎えに行かせられないかと私も立ち上がる。はしゃぐ2人の保護者の気分で、私はそれを微笑みながら見詰める。
予行練習してたとか、ウソップも可愛いじゃない。でも本当に良かった。
「「やったー!ウソップが帰って来るー!!」」
ルフィとチョッパーの声が重なるのを聞きながらドアに手を伸ばした時、背後からゾロが鋭い声を響かせた。それに動きを止めると、迎えに行く事は許さないと言う。
それにチョッパーが抗議すると、ゾロは低く唸るような声でルフィに言う。ここでチョッパーを叱らないのは優しさなのかな。
「間違ってもお前が下手に出るんじゃねェ。ルフィ。俺ァあいつから頭下げて来るまで認めねェぞ!!」
「ゾロー!!」
「ちょっと待ってゾロ、その決定権は「黙れ!」」
チョッパーが怒って騒ぎ、私はゾロに決定権を持つのはルフィだと言おうとしたけど、ゾロの1言でどちらも口を閉ざす事になる。男の決闘と言われれば、確かにその通りなんだと思う。
どちらが正しいとか正しくないとか、そんな話では既に無い。どちらも正しかったし、どちらも間違ってた。
そして、どちらも引き下がれない理由と想いがあった。だから、戦ったのだ。
分かってる。分かってるけど……!
「ナミ、もう少しゾロの話を聞きましょう。ね?」
「ロビン……」
「大丈夫よ。ナミが1人で悲しむ事は無いわ。それに……ナミは〝分かってる〟でしょう」
そう言われてしまえば否定は出来ない。だってロビンの言う通り、私は〝分かってる〟から。
「いいかお前ら、こんな馬鹿でも肩書きは〝船長〟だ」
言いながら刀でルフィの頭をゴスゴスと殴るゾロに、心底馬鹿だと思ってるんだなって伝わって来る。まぁ、色々あったもんね。
ルフィも珍しく何も抗議する事無く、ゾロの話を聞いている。私が馬鹿だとか言うとシッケーだな!と言うのに今は言わない所を見ると、ちゃんとゾロの話を聞く必要があるのだと分かってるのだろう。
ゾロは無抵抗なルフィの頬を掴むと、グイグイと引っ張る。痛そうに見えるけど、打撃も効かないけど、これは痛いのかな?
「うぎぎぎぎ……」
「いざって時にコイツを立てられねェ様な奴は、1味にゃいねェ方が良い……!!船長が〝威厳〟を失った1味は必ず崩壊する!」
ゾロの言い分は、確かに〝正しい〟けど、まだウソップは17歳の少年で……だから……。だから……。
そんな事を思ってる間にゾロはルフィを叱り、ケジメをウソップが付けないならこの島に置いて行くと言う。でもそんなのって……!
「待ってよゾロ!確かにウソップも悪かったわ。でも、だからこそちゃんと会って話を「1味を抜けるってのは、そんなに簡単な事なのか!!!?」」
「っ!!いい、え。でも……「ナミさん、残念ながら今回ばかりは、コイツの言う事が正しい」」
珍しく二人共私の言葉を遮り言葉を向けて来る。2人の言い分は正しい。
「分かってる。ゾロとサンジ君の言ってる事が正しいのも、私が……我儘言ってるんだって事も!でも……ウソップはまだ17歳の少年で、間違える事だって「ナミ!!」」
これ迄に聞いた事のないような、怒号としか言えないような声で、ゾロが私の名を呼んだ。体が震えて、声を失う。
怒りにも、憎しみにも、殺気にも、覇気にさえも慣れてるのに、どうして震えるんだろう。どうして、激しい苛立ちの中でゾロが〝悲しんで〟居るんだろう。
「ナミ……年齢理由にすりゃァ、殺されねェのか?助けてもらえるのか?」
静かな声だと思った。ゾロのその瞳は、表情とは違って悲しみを強く宿している。
「ナミはよく分かってるだろ。だから、1人でガキの頃に海賊になった。……違うか?」
「そう、だけど……」
「……お前は〝子供〟だから、間違えても許してやろうなんて、そんな教育されたのか。そんな環境で生き抜いたのか。……どっちも違うよな。ナミは自分から戦い生き抜く決断をして、間違いは死に直結する事を知っていた。それだからこそ間違えれば、お前は筋を通して来たんじゃねェのか?」
確かに、そうして来た。シャンクス達にはそんなに気にしなくても良いなんて言われて、でも、気にしないなんて出来る筈もなくて……。
ベックはそんな私が筋を通すのを見て、だからこそ小さくても仲間だと……そう、言ってくれていた。アーロンには、筋を通す以前に手酷い折檻が待ってたし……。
「私は、背負ってたから……多くの命を。でも、ウソップは違うわ。だから「だからこそ、筋を通さなけりゃ駄目なんだろうが。自分の事だけなんだ。他に何かある訳じゃねェ。間違いを認め、筋を通す程度の事が出来ねェようじゃ今後も似たような事が無いとは言えねェだろうが!ガキの遊びじゃねェ事は、ナミが1番よく分かってんじゃねェのかよ!!」」
「ゾロ……」
「……お前のその甘さは美点だ。お前のその感覚は大切にするべきだろうと思うぜ。だがな……甘やかしていいモンと、悪いモンがある。ここで甘やかせば、ウソップだけじゃすまねェ事も、分かってんだろ」
私はそれに言葉無く頷く。そのやり取りの中で、誰も何も言わなかった。
「何も俺はウソップが帰ってくる事を反対してる訳じゃねェ。あのアホが帰って来る気になってんのは、結構な事だ。ただな……こんな事を気紛れでやる様な男を俺達がこの先信頼出来る筈もねェ……!!」
私はその言葉に息を呑む。そうだ、私は子供扱いして居て、でも皆はウソップを1人前として扱っているんだ。
間違える事、対立する事が悪いんじゃない。帰って来る事を拒んでいる訳でも無い。
「簡単な話だ……。ウソップの第1声が深い謝罪であれば良し……それ以外なら、もう奴に帰る場所は無い。俺達がやってんのは、ガキの海賊ごっこじゃねェんだぞ!!」
ゾロのその言葉を受けて、ルフィが表情を引き締めて言った。その場にドスンと座って、何かに耐えるようにしながら。
ルフィはあの時の決闘の事を、思い出しているのだろう。あの時と良く似た空気がルフィから感じられる。
「そうだな!1度は完全に別れたんだ!!船の完成と出航までまだ何日もある。黙って、あいつを待とう!!」
ルフィは飛び出して迎えに行きたい自分のそれを、抑え込むように膝を掴み小さく震える。だから、私はそんなルフィの手に自分の手を添えるようにして、近くに座りながら頷いた。
「そうね。ごめんなさい。海に出た以上、年齢を言い訳になんて……しちゃいけなかったわ」
私の言葉を聞いたルフィは、微かに笑うと私が触れてない方の手で頭を撫でてから皆を見て言った。それは、ルフィとしてでは無くて、多分船長としての言葉。
「誰1人ウソップを迎えには行くな。その代わり、必ず1人はここに残る事を徹底してくれ。あいつの声を、無にしたくねェ」
それに全員が頷いた時、ルフィのお腹が盛大に鳴って空腹を訴えたから空気が1気に弛緩する。仕方ねェなと言いながらサンジ君は食事の支度を始めてくれて、私はその場でゾロに視線を向けて、もう1度ごめんなさいと繰り返した。
「馬鹿ナミ。お前は多分、それでいいんだ。全員が修羅になる必要はねェ」
「確かにな。ナミは、そのままで良い。変わるなら変わってもいい。でも、その優しさを押し殺す必要はねェよ。ナミのその甘い所を分かってて、俺達は仲間だと認めて、頼ってんだからさ」
「……ありがとう」
先にゾロが、次にルフィが言葉を口にする。2人は結局、私に甘い。
私はそんな2人にだから、せめて謝罪ではなく感謝をと思って言葉を向けた。その時クーちゃんがチラシを持って来たので窓辺に駆け寄りそれを受け取ると、私の脳内はソロバンが踊り出した。
『巨大カジノ船がウォーターセブンへ!
復興作業の気晴らしに、少し遊んで見ませんか。勝てば楽しい夢のひと時を過ごせますよ』
そんな売り言葉に私は1人で頷くと、皆にそれが見えるようにして宣言する。お金が私に微笑み掛けてるわ!
「明日、ここに行ってくるわ!私稼いでくるから、暫くは帰らないけど、宜しくね!」
「ナミさん!?」
「私、カジノで負けた事ないの」
ニッコリと笑えばルフィは嫌そうな顔をして私を見るけど、使ったのはルフィなのよ?
「ルフィが消費したお金、取り戻してくるわ。それとも……肉食べなくて良いの?」
「……わかった。我慢する」
「宜しい」
そうして私は明日の朝一で、カジノ船へと乗り込む事が決まった。よしっ稼いでくるぞー!