船は順調に進み、3日前に船の食料を食べ尽くした馬鹿達に釣りが命じられている他には、特に変わった事は無かった。そして……奇しくも今夜の見張りはビビな訳で……動揺を隠せない私は、きっと意識しすぎなのだろう。
チョッパーにも、もう普通に生活して大丈夫だと言われて居るし、ウソップと私の書いた手紙をクーちゃんに運んでもらった。海上では使えないけど、定期的に収入もありアラバスタで何かを購入する時に困る事は無いだろう。
倉庫に入れてあった網を取り出して簡単に調整した後、私は昼間も海に設置しておくようにした。夜のそれだけでは足りそうもない。
何せルフィだけで1食100キロの消費をするのだから。それでも、弱るの覚悟でも生きていられる量としては、常人の3倍程度の食事を与えておけば良いので、それを踏まえてサンジ君との話し合いの3日間だった。
釣りをしているのとは逆側で網が海を漂う。移動してる間に上の方を泳いでるのがいれば、勝手に捕まるだろう的な奴だ。
食材が必要なタイミングでゾロがそれを持ち上げて確認し、何かが捕まっていればサンジ君が呼ばれる。その中で食べられる物と無理な物で分けられ、無理な物は海へと帰されている。
サンジ君とゾロと私で魚の捕獲量に一喜一憂しながら抱き合って喜んでいると、ビビが何故か私に呆れたような視線を向けて来た。勿論たまにはルフィ達も釣りを成功させるけど、ほぼ坊主なのだからこうなるのも仕方無いと思う。
「ナミさんって、この船のお母さんみたいね」
「……お婆ちゃんじゃ無かっただけ、良かったと思う事にするわ」
思わず返した私の言葉にチョッパーは首を傾げると、ナミはお姉ちゃんって感じだろとか言ってくれる。なんて愛しいのか。
思わずチョッパーを抱き締めていたら、この3日間の間に私が宝玉だと知ったチョッパーに医学について、腕の中で熱く語られた事に関する所は割愛しておく。けれどもその流れで、ビビにも知られたのは不味かった。
「お兄様の憧れていた宝玉先生がナミさんだなんて……!これは運命よ、そうに違いないわ!だからお姉様、お兄様と結婚しましょう!」
その騒ぎでサンジ君が壊れて、ゾロが殺気立ち、ルフィが暗く微笑んだのは当然と言えば当然で、私とウソップとチョッパーとカルーはその渦中から離れたくて怯えて縮こまっていたとここに証言する。勿論、ウソップとチョッパーは兎も角、私とビビの相方たるカルーは逃れられずに巻き込まれ、昨夜は苦労した。
昨夜の事を思い出しながらふぅと溜息を落として、今朝あげた網の中にも数匹捕まっていた事に感謝しつつ思いを馳せる。こうして考えて見ると、これまでの漁はそれなりに成功を収めていると言っていいだろう。
それのお陰でこの3日間は、盗み食いした馬鹿以外は普通に、馬鹿達にはその半分の量が提供されている。それもあり何とか食べる事に成功していたものの、既に肉も魚も無い事に変わりはなくて、残っていた野菜も既に無い。
根菜を袋栽培しているけど、まだ育ってないしその事は実験段階なのでまだ誰にも話してないから、役に立たない。成功すれば数個ずつではあるけど馬鈴薯と玉葱、人参と大根は定期的に入手可能になる。
薩摩芋は袋栽培には向かなくて出来ないけど、大根には期待してるのよね。1本あると随分違うから。
倉庫の1角でこっそり育ててるけど、成功するかは未知数。成功したらサンジ君と話し合おうと思ってる。
これも幼い頃に写本させて貰った知識にあった物で、今朝それが本になって手元に届いた。おかげで宝玉は小説を書く事に飽きて、実用性の高い物にシフトチェンジしたらしいとの話が飛び交ってるらしいけど、正直ネタ切れなだけである。
取り敢えず食料として仕方無しに、毎日私は蜜柑を幾つか採ってはカゴに入れてを繰り返して、サンジ君の元へと届けている。皮は料理に使わないと言われたので、回収して洗剤類を作るのに使ってる。
食器用洗剤が出来るとサンジ君に渡してるけど、異様に喜ばれるから相当油汚れで苦労してきたらしいとわかる。でも、肉料理がどうしても多いからその苦労はわかる気もするなんて思いながら、今日収穫した分の蜜柑を運ぶ。
「これでなんとか今日も凌いでくれる?」
「ありがとうナミさん。本当にどうしようかと思ってたんだ」
それはそうだろうと思う。今の所朝網に魚がゼロという事は無かったけれど、食料不足は深刻な問題だ。
蜜柑と魚だけで上手く料理しているサンジ君は、やはり天才だと思う。私は気にしないでと笑って、調理場から出る。
その足で自室に帰り、海図を描く為の物を手にキッチンへ戻ればチョッパーが何やら本を読んでいたので、その前に座った。そして視線を題名に向ければ数日前に渡した医学書で……そうか、まだ読み終わってなかったか、もしくは今読み込んでるのかと気付く。
早く次の分も編纂して出版しないとと思わされるのは、こうして喜んでくれる相手がいるからなのかもしれない。譜面もそうだけど、近くで喜びを素直に伝えてくれる人がいるから、だから続けられる。
お金の事は勿論あるけど、それだけならきっとこんなにも長くは続かられなかったし、何かを書く事を楽しむ事は出来なかった気がする。望んでくれる人がいるから、書き続けたいと思えるのだから。
でも取り敢えず今は、海図を描く為の時間を少しでも有効活用しなくてはと、ペンを手にする。その瞬間外が騒がしくなるけど、無視して海図を描いていく。
今回の海図は部屋の机では描けないサイズだからここで描いたけど、普段は部屋で描いているからなんだか新鮮な気持ちになる。とりあえず区切りかなとそれを丸めて表に出ると、やはりビビがルフィ達を叱り飛ばしていて、平和だなと思う。
部屋に戻り、医学書の編纂を始めればそのまま暗くなるまでそれに没頭していた。肩を叩かれて顔を上げれば、疲れたような顔をしたビビがいて、ルフィ達とのやり取りに疲れたのかと考えて苦笑したら、ビビがゆっくりと唇を動かした。
「なんで本当に全然気付かないんですか!?もう、ずっと声掛け続けてたのに!夜ご飯ですよ!」
「……あー、私今日はいいわ。もう少しで区切りだからそこまで「ダメです。行きますよ!」」
問答無用で引き摺られるようにして連れて行かれた私を見て、皆がビビに良く連れてこられたなと褒めたり労わったりしているのを聞く。そして当然の事として食事が提供されれば、残す事は許されない。
何とか食事を終えた私の目の前に、サンジ君がお茶を出して来る。香りを嗅げば焙じ茶にレモングラスを配合してるようで、その気遣いに感謝する。
レモングラスは消化促進効果があるので、食べ過ぎた時とかに助かるハーブの1種だけど、それだけだと味が特に無いので飲みにくいのだ。それを焙じ茶と合わせる事で、胃腸に負担をかけずに、その効果を得られるようになる。
レモンの香りがする焙じ茶だと、思って貰えたらわかりやすいかも知れない。風邪などで弱ってる時はこれに牛乳や蜂蜜を入れると、お粥とかも受け付けない時には良い栄養補給になり、回復の手助けにもなる事がある。
……民間療法だけどね。
お茶を飲み終えてから、サンジ君に声を掛ければ当然のように笑顔で振り向いてくれる。サンジ君の脳内は今、深刻な食料不足で参ってるだろうに……。
「これから、少し食料補給についての実験を確認しようと思うの。付き合ってくれる?」
「ナミさん、何やったんですか?」
「ココヤシ村を出る前に、準備してた根菜実験。ここで結果を見てみようと思うの。成功していれば、大根、人参、馬鈴薯、玉葱が入手できるわ。……少量だけど」
「貴女はやはり女神だった……!」
「違うし。失敗の可能性高いから辞めて」
カップは後で片付けると言うサンジ君の言葉に甘えて、そのままにして倉庫に向かえば袋栽培の土を見せる。大根と人参は葉っぱだけは見えてるので、最悪葉は手に入る。
肝心の身と言うか根が育ってるかはこれからだ。……緊張の瞬間。
2人でそっと袋と葉にそれぞれが手を伸ばして、ゆっくりとまずは人参を引き抜く。そうして出て来たのは異様に細長い物体。
それに肩を落とした私とは違い、サンジ君は喜んでいる。……サンジ君の手にかかれば、これでもどうにかできるんですか?
結果成功とは言い難い物がいくつか収穫出来て、とりあえずは袋栽培も可能だとわかった所で1つの成果と思う事にした。サンジ君は野菜と言えないようなその野菜を手に軽い足取りで去って行き、私はそれを静かに見送った。
それから土で汚れたのもあり、のんびりとお風呂に入り、気分良く眠ろうと部屋に帰った所で声を掛けられた。お帰りと。
その声にビクリと体が反応して、視線を向ければルフィで……すっかり忘れていた私は引き攣る笑みを浮かべて、どうしようかと視線を彷徨わせた。どうする事も、出来る筈は無いと言うのに。
散々お預けされていた飢えたルフィであるのと同時に、ドラム王国からずっと話があると言い続けていたのを無視して来た私は、今そのツケと向き合う事になりそうだった。助けを求めるように今入ってきたドアに手を伸ばしたら、簡単にそれを封じられてルフィに抱き込まれる。
「皆に見て欲しいとか、聞かせたいって言うなら……止めねェけど、ナミそんな趣味あったのか?」
耳元で囁くように言われては、今夜は諦めてくれる事は無いのだと痛感させられる。震えそうになる体を抑えて、ルフィに視線を向ける。
だって……ルフィが怒ってるのは伝わって来るし、その、そう言うの苦手だし。どうしようと思いながら確認の為に、唇を動かす。
「……まずは、話だっけ?」
何か、怒られるような事したかなと不安に思ってルフィを見れば、ルフィが1瞬硬直して、深く息を吐き出した。
「計算してやってねェところが厄介だ」
なんの事ですか?
ルフィの言葉に首を傾げた私は、何もおかしくは無い筈である。